English

目次へ

法定納本図書館における電子出版物の収集と取り扱い
Collection and Handling of Electronic Publications by a Legal Deposit Library

ウテ・シュベーンス (Ute SCHWENS) 1)
ドイツ国立図書館(DDB)副館長

訳 石井 菜穂子(立命館大学総合情報センター)

1) Ute SCHWENS , Permanent Deputy Director, DDB: Die Deutsche Bibliothek, Deutsche Bibliothek Frankfurt am Main, Adickesallee 1, 60 322 Frasnkfurt/M. Germany. Fax: +49 69 15 25 10 10; E-Mail: schwens@dbf.ddb.de 本稿は1999年10月20日(水)に軽井沢セミナーハウスにおいて講演されたものである。

はじめに
法的要件
ドイツ国立図書館の「電子図書館」
オンライン出版物
原理、目的および機構

はじめに

 私の講演のタイトルは、「法定納本図書館における電子出版物の収集と取り扱い」である。ドイツ国立図書館(Die Deutsche Bibliothek)は、ドイツ国内および海外で発行されたドイツ語の出版物をすべての収集するということが法律で定められている。しかしながら、現在の法律は電子出版物をカバーしていないため、1997年3月に出版協会は電子出版物を保存するためのシステム要求書を提出した。これがドイツ国立図書館における「電子図書館」の始まりであったと言えよう。

 ドイツで出版された資料の収集に関しては一般的なことを、電子出版物の保存については詳細にそれぞれ法律に定められている要件を説明する。

Top

法的要件

 1969年3月に制定され、1990年に修正されたドイツ国立図書館法は、ドイツ国立図書館の機能と役割を特定し、ドイツの中央資料保存図書館として定義づけた。楽譜やレコードの収集は、フランクフルトのドイツ国立図書館の分館であるベルリン音楽図書館の役割となっている。オフライン出版物は、法定納本制度に含まれていると定義されている。しかし1990年の法律修正時でさえ、オンライン出版物は対象からはずれた。これほどまでにオンライン出版物が発展するとは、誰もが想像だにしなかったのだ。最初に申し上げたように、出版協会はドイツ国立図書館の法的納本体制を電子出版物にまで拡張しようと立ち上がっている。

 しかし、現段階ではドイツ国立図書館は法律の修正は考えていない。その代わり、将来の立法に反映させるために、技術面、法的要求面における経験上のデータを収集するために、出版社と協議を重ねている。

Top

ドイツ国立図書館の「電子図書館」

 まずドイツ国立図書館の「電子図書館」から説明していこう。最初の電子出版物は、CD-ROMやディスクといったメディア資料であった。このような資料をどのように取り扱えばいいのか?どうやって目録を完成させ、保存していくのか?盗難に遭わずにアクセスを提供する方法はあるのだろうか?

 左記実現のために、ドイツ国立図書館とCSC Ploenzkeというドイツの会社とが共同でマルチメディアアクセスシステムを構築した。

 このシステムは目録作成、管理、研究、電子出版物の保存および資料の電子化をサポートした。システム上、格納されている出版物の媒体の違い(CD、ディスク等)、フォーマットの違いは区別しないのだ。

 ユーザインターフェイスはウェブブラウザで設計されている。

 マイクロソフト社のウェブブラウザであるインターネットエクスプローラー(修正版)を利用して、利用者はまず、ドイツ国立図書館で所蔵しているすべての出版物の目録が入力されているオンライン蔵書目録(OPAC)にアクセスする。もし電子出版物がこのシステムに格納されていれば(現在は500タイトル)、利用者はOPACからシームレスに電子出版物にたどり着くことができるのだ。接続作業は自動的に行われ、しかも裏側で動いている。

 まだ格納されていない電子出版物に関してはリクエストをすることができる。図書館員が承認したタイトルについては、システムに格納される。利用者は、システム力量がなくてもネットワークを介してワークステーションからそのような出版物を格納することができる。
 このようなOPACと電子出版物に限定したアクセス以外にも、このマルチメディアアクセスシステムは、インターネットへのアクセス、検索結果のプリントアウトおよびフロッピーへのダウンロード、電子出版物の媒体変換といったサービスも提供している。その目的は電子的資料の長期保存にある。

 次にオンライン出版物について述べる。

Top

オンライン出版物

 国立図書館や法定納本図書館は、電子出版物の収集、アクセス、長期保存、あるいは書誌調整に関する解決方法を見出そうとしている。その意味においては、資料が元々電子的に出版されたのかそれとも媒体変換されたのかというのはさほど問題にはならない。

 将来的には、ドイツ国立図書館は法定納本制度による電子資料の収集だけでなく、自館で電子出版を開始するであろう。資料の電子化は、特に伝統的な出版物-年代が経っているのでもろくなっている-に対する、長期的視野に立った保存手段として緊急に評価しなければならない。資料を電子化し、目録を完成しインターネット上で公開することによって、資料を保存し、一般の人々がそれらの資料にアクセスすることを容易にするのだ。

 ドイツ国立図書館は、他図書館や出版社と共に、4つの主要な電子化プロジェクトに参加もしくは計画している。

 ドイツ国立図書館が現在取り組んでいるドイツ亡命者記録保管所(1933年から1945年)とは、"1933年から1945年にかけて亡命ドイツ人の執筆している雑誌や新聞を選定し、電子化する"プロジェクトである。

 プロジェクトは1997年に開始され、選定された30タイトルの雑誌や新聞を電子化するには4年程度かかるであろうと思われた。これらは1次資料であり、学際的な研究に非常に意味のある文献である。それにもかかわらず所蔵しているのは1館ないし数館であった。

 資料を電子化し、目録を完成しネットワーク上で公開することによって、劇的に資料へのアクセスが容易になった。そのため、スキャナで読み込んだデータには、雑誌や新聞の巻号情報が付与された。著者、タイトル、副題、翻訳者等々の情報は、データベースに入力され、索引づけられる。ハーベスティングシステムによって、関連する雑誌記ことをも検索することが可能である。上記電子データへは、ドイツ国立図書館のホームページからアクセスすることができる(http://www.ddb.de/online/exil)。OPACの所蔵情報とのリンクについては現在検討中である。
 特殊な出版形態の1つに電子的研究報告がある。昨年の始め頃からほとんどの大学で受理されるようになってきた。それにともない1998年7月からこういった資料の収集を開始した。

 大学図書館はこういったネット出版物をe-mail-その際データは共通のメタデータ・フォーマット(Dublin Core)形式でなければならない-で受理し登録する。ドイツ国立図書館は大学のサーバからデータを吸い上げ、ドイツ国立図書館ドキュメントサーバ(deposit.ddb.de)に格納する。

 電子的研究報告の著者自身が報告にメタデータを付与し、ドイツ国立図書館サーバにアップすることには重大な意味がある。メタデータはインターネット上で構造検索を行う場合だけでなく、索引付けを行う際にも極めて重要である。図書館にとって、著者がメタデータを付与したオンライン出版物を作成することは、この意味で非常に有用なのだ。

 電子的研究報告用メタデータの必要条件を規定するために、図書館界や個々の大学図書館だけでなくユーザグループとも丁寧な議論を積み重ねた。その結果、共通要素とデータ構造の標準化については同意を得ることができた。これらの決定事項は、計画の信頼性を保証するために確実に維持されなければならない。ドイツ国立図書館へのデータ送信を簡素化できるウェブテンプレートをご紹介する。もちろんDublin Coreフォーマットで送信してもらうことには問題がない。

 先程申し上げたが、すべてのOPAC利用者は、ドイツ国立図書館ドキュメントサーバ(deposit.ddb.de)内に保存されている電子的研究報告にアクセスすることができる。OPACとリンクしているオンライン資料の一例をご紹介する。第3者によるデータ改竄の危険性は、他の媒体よりも高いことは想像に難くない。たとえ著者のオリジナル版を安全な環境に格納し、読みとり専用のアクセスのみにしたとしても、データのコピーやコンテンツの書き換えは容易に行える。セキュリティーシステムの構築なしには、不正操作を予防し発見するのは困難である。不正操作を排除するという目的のために、ドイツ国立図書館サーバに格納しようとする資料からは、MD5(メッセージ・ダイジェスト・アルゴリズム5)という特別なプログラムを介して認証コードが発生している。

 ドイツ国立図書館ドキュメントサーバ(deposit.ddb.de)内には、電子出版物だけでなく、電子出版を取り込む際生成された様々な情報、技術的なニュース等が格納されている。

Top

原理、目的および機構

 さて、ドイツ国立図書館電子図書館に関する最も重要な部分に来たようだ。というのも今から述べる点は、法律の修正、書店との関係に影響を及ぼすからである。

 この同意に基づいて、技術的、法的問題について議論するために、ドイツ国立図書館と5つの出版社とでタスクグループが形成された。

 今年の始め、グループによる最初の検討結果が公表された。

 出版社との協議の第2段階は、次の通りであると考えるべきである。

→ DDBに関する新しい法律

 以上、法定納本図書館における電子出版物の収集と取り扱いについて簡単に述べてきた。

 枝葉にとらわれることなく-図書館員はしばしば陥りがちだが-、全体像をお伝えすることができただろうか。

 終わりに当たって、ドイツ国立図書館のウェブサイトにご招待したい。そこにはプロジェクトや現在進行中の活動に関する最新情報が満載である。定期的に訪問していただくことをお奨めする(http://www.ddb.de)。

Top