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韓国における学術情報サービスの現況および韓国教育学術情報院(KERIS)の将来計画
Current Status of Research Information Services and Future Plan of KERIS

パーク・ホンソク (PARK Hong-seok, Ph.D.)
韓国教育学術情報院主任研究員

訳 三浦 太郎(東京大学大学院教育学研究科)

1 はじめに
2 韓国における学術情報の生産および管理の現状
 2.1 学位論文
 2.2 逐次刊行物
 2.3 大学図書館蔵書
 2.4 大学図書館における問題点

3 KERISプロジェクト
 3.1 学術情報共有協力体
 3.2 統合的な検索システムの管理
 3.3 KERISメタデータベース
 3.4 KERIS全文情報システム
 3.5 KERIS ILLシステム

4 問題点
 4.1 標準化の遅れ
 4.2 デジタルファイルの収集および書誌情報確認
 4.3 著作権
 4.4 サービスの不安定さ

5 図書館との協力
6 結論

1 はじめに

 韓国教育学術情報院(KERIS)は教育部の管轄する政府機関であり、1999年4月22日の韓国教育学術情報院法(法令第5685号)によって設立された。その使命は、全国規模で教育・研究情報の開発、管理、提供を行うことである。KERISでは、小学校教育に始まり大学教育から学術研究に至る、さまざまな情報が幅広く提供されるほか、教育および情報管理についての国家計画も策定される。このうち学術情報サービスでは、大学図書館と関わっていくつかの事業が行われている。150館の大学図書館を網羅する全国総合目録がKERISで作成されており、この目録を利用して全国規模の図書館間相互貸借(ILL)システムが運営されている。また、韓国学術情報全文データベースの開発もKERISで進められている。

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2 韓国における学術情報の生産および管理の現状

2.1 学位論文
 韓国では毎年、約4万件の学位論文が生み出されている。これらのほとんどが修士論文であり、博士論文がおよそ5、300件である。KERISの行った総合大学調査によれば、学位論文を生産している大学は104に上る。このうち、ファイルをデジタル化して公式に収集している大学は約半数であり、ネットワークを介して情報サービスを行う際に重要な著作権処理を行っている大学は4分の1に満たない。提供フォーマットも、Tiff、PDF、独自ファイルなどさまざまである。1999年のKERISの調査によれば、国内で228、279件の学位論文が生み出されているが、デジタル化されたのは64、071件にすぎない。これらのうち、著作権の問題が解決されてオンラインで提供されているのは、わずか6、761件である。

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2.2 逐次刊行物
 国内1、092の学術団体から1、347タイトルの雑誌が発行され、大学研究機関2、234で約1、000タイトルが発行される。学術雑誌200誌については、商業ヴェンダーが画像ベースでこれを提供している。雑誌記事索引の作成は、国立中央図書館、国会図書館、韓国研究開発情報センター(KORDIC)、KERIS、および2、3の大学図書館で行なわれる。一般に、索引にはMARCが使用されている。また、雑誌記事や学位論文の書誌記述に際して、KERISではダブリン・コア・メタデータが使われる。

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2.3 大学図書館蔵書
 韓国の大学図書館では慢性的に予算および蔵書が不足している。蔵書の年間予算は米国研究図書館協会(ARL)参加館の予算の1割に満たない。また、1997年に購読された外国雑誌は平均してわずか540タイトルである。現在のところ、こうした状況に変化はなく、1998年の経済不況によってウォンの交換レートが下落しているため、むしろ状況は悪化しているとさえいえる。

 ほとんどの図書館ではKORMARCとUSMARCが使われている。たいてい、国内および東洋の文献にはKORMARCが用いられ、西洋文献にはUSMARCが用いられる。

 図書館の蔵書が利用者支援にとって不十分であるにも関わらず、資源共有は機能していない。ILL担当職員は1館平均1.3人である。ひと月のILL利用は76.7件であり、これはARLにおける利用件数43、000件に比べきわめて低い。

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2.4 大学図書館における問題点
 先述したように、第一に予算不足がもっとも深刻な問題である。電算化を行った図書館の割合は全体の2割以下であり、蔵書予算は平均してARL参加館の予算の1割に満たない。

 もうひとつの問題は標準化の遅れである。従来、全国規模の学術情報生産やその提供に対する組織的な管理は十分でなかった。データベース開発は個別の図書館ごとに行われ、データの交換および共有について配慮されてこなかった。資料のデジタル化やそのフォーマット変換も独自である。また、Tiffファイルの画像提供において目次の標準化は行われていない。

 さらに、統合的なサービス提供システムが国内にないことも大きな問題である。従来、韓国に全国総合目録は存在しなかった。現在、KERISにおいて全国規模の総合目録が作成され、全文データベースの開発・運営が行われている。すでに述べたように、全国的なデータベースを開発する際に標準化が深刻な問題となっている。

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3 KERISプロジェクト

 KERISで行われるプロジェクトには主に以下の5つがある。すなわち、(1)学術情報共有協力体の運営、(2)統合的な検索システムの運営、(3)デジタル化された学位論文の収集および提供、(4)学術情報メタデータベースの構築、(5)図書館間相互貸借システムL2Lの運営などである。

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3.1 学術情報共有協力体
 KERISでは、学術情報の共有を図るため、101の大学図書館で構成される図書館協力体を運営している。参加館は3つのプロジェクトに加わる。すなわち、電子的な学位論文の共有、逐次刊行物メタデータベースの構築、ILLサービスであり、これら各プロジェクトに80館から95館ほどが参加している。今後、この連合体に大学図書館と専門図書館50館ずつが加入する予定である。各プロジェクトには3つの委員会と小委員会が設けられている。

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3.2 統合的な検索システムの管理
 KERISでは統合的な情報検索システムを開発中である。こうしたシステム開発の目的は学術情報提供の一本化にある。これによって、あらゆるデータベースを結び、そうしたデータベースに所蔵されるすべての情報を、支障なく探索・検索することが可能となる。システムの構築は2000年5月までに終了する予定である。

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3.3 KERISメタデータベース
 KERISメタデータベースは、逐次刊行物のタイトルおよび所蔵事項、雑誌記事索引、デジタル化された学位論文の目録、を包摂する統一的な構造をしており、これらのデータがILLサービスやオンライン全文情報サービスと結合されている。メタデータベースの構築に際しては、今日、国際的な標準として広く認められているダブリン・コア・メタデータに従っている。

 雑誌記事索引と学位論文目録とは、同じ構造、同じメタデータ・セットである。このメタデータ・セットは13の要素(エレメント)からなる。すなわち、タイトル、著者あるいは作者、主題およびキーワード、内容記述、公開者(出版者)、寄与者(他の関与者)、日付、資源タイプ、フォーマット、資源識別子、情報源、(空間的・時間的な)対象範囲、権利管理、である。KERISの調査によれば、メタデータベースに所蔵される記録の概数は、逐次刊行物タイトルが5万件、雑誌記事索引の記録が150万件、所蔵事項が640万件と推定される。

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3.4 KERIS全文情報システム
 このシステムにおいて、学位論文の全文およびメタデータを収集する方法はいくつかある。(1)著者はKERISに直接、論文とメタデータを提供することができる。(2)著者は論文とメタデータを大学図書館に提出し、図書館がそれらをKERISに送ることができる。(3)大学図書館は、図書館データベースに所蔵した論文の所在情報とメタデータをKERISに送ってもよい。この結果、KERISデータベースを使って学位論文を探索することが可能であり、論文自体はKERISもしくは大学図書館で提供される。2000年前期に、15、000件の修士論文、2、000件の博士論文、および韓国人の書いた外国の博士論文3、200件が提供される予定である。現在、KERISでは、大学における学位論文のデジタルファイルの管理方法を改善し、書誌情報の確認を円滑化することを計画している。

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3.5 KERIS ILLシステム
 現在、KERIS ILLシステムは50の大学図書館で利用されている。利用グループは、2000年前期中に120の大学・専門図書館に拡大し、2000年いっぱいで150の機関へと広がる予定である。現在、集中的な料金管理システムを構築中であり、2000年6月の運用開始が目指されている。システムは料金管理方針に柔軟性をもたせている。地方の利用グループは、ILL参加グループ全体の中にあって独自の料金方針を貫くことができる。利用の数に応じて料金を等級分けすることも可能である。要求が頻繁にあり提供が遅れる文献に関しては、図書館で特別料金を付加することができる。また、システムでは参加各館の料金方針にも配慮がなされている。

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4 問題点

 KERISプロジェクトにはいくつかの問題点、課題が見つけられる。このうち大きなものとして、データおよび図書館システムの標準化がなされていないこと、不正確なもしくは利用不可能なデジタルファイルがあること、著作権処理の関係からファイル提供が大学構内に限られるという問題、分散型システムにおけるサービスの不安定さ、などが挙げられる。

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4.1 標準化の遅れ
 データおよびシステムにおける標準化の遅れはもっとも深刻な問題である。多くの図書館員が標準的な手引書を使いながらも、その使われ方はさまざまであり、作成された目録記述の程度がまちまちとなっている。この問題は特に所蔵事項において顕著である。2、3の図書館では所蔵事項の情報が管理されておらず、製本の際に雑誌の受け入れ記録が廃棄されている。

 統一的な全文情報サービスを実現するに当たり、提供フォーマットの差異がもうひとつの大きな問題である。全文情報サービスには、Tiff、PDF、独自のファイル・フォーマット、DVI、XLSが使われており、こうした多様性によって、全文情報を統一的に結合し提供することが困難となっている。利用者が複数の大学で全文情報を見ようとする場合には、異なるビューアを用いなければならない。これに加え、目次のフォーマットが異なっている結果、利用者は文書のTiff画像を読み込むために、図書館で読み取り用に開発された独自のビューアを使う必要が生じている。1999年に目次文書型定義(TOCDTD)標準が公表されたが、この問題が近いうちに解決される公算は少ない。その理由は、目次情報を標準形式へ転換させるための予算が足りず、また、いくつかの大学ではこれまで用いてきた目次情報を維持していきたい意向のためである。データ交換を行うためのプロトコルが異なっている問題は、メタデータ目録において文書を所在情報と関連させる上での妨げとなる。

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4.2 デジタルファイルの収集および書誌情報確認
 先述したように、学位論文ファイルは体系的に管理されていない。全国的な資源共有やサービス展開のためには、こうしたファイルを完全に収集する必要がある。KERISでは問題解決が図られている。

 不完全なもしくは利用不可能なデジタルファイルがあると、高質の全文データベースを開発する際の支障となる。誤差の割合は10%から30%ほどと推定される。誤差には、(1)表、図、画像の欠落、(2)印刷版の学位論文とのページの相違、(3)旧版の学位論文、(4)旧版のワープロが用いられているために文字の変換が不可能、(5)読み取り不能のもしくは壊れたファイル、(6)ウィルス、などが挙げられる。KERISでは、大学内の手続きの中でデジタルファイルの収集および書誌情報の確認を行うことができないかなどの調整を行っている。

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4.3 著作権
 学位論文をオンラインで提供するために、著作権処理はきわめて重要な問題である。すでに述べたように、ほとんどの機関では学位論文を受領する際に著作権処理を行っていない。著作権処理がなされている場合でも、受領した機関の中での提供に限られる例がいくつか見られた。また、著作権処理を規定したはずの文言が非常に漠然としていたり、利用できる期間が著作権処理用紙に明示されていないため、法的に効力をもたない場合もあった。さらに、処理用紙に規定する必要がある使用料や有効期限についての記載がない場合もあった。KERISでは標準的な著作権処理用紙を作成し、これを大学に頒布した。

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4.4 サービスの不安定さ
 プロジェクト参加館の3分の2が、学位論文全文データベースを独自に持つ意向を示している。サービス提供に当たり、およそ50台のサーバが稼働する予定である。地方でのトラブルのため、提供サービスが不安定となる恐れがある。

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5 図書館との協力

 プロジェクトを成功させるには、大学図書館との緊密な協力が必要不可欠である。KERISでは、大学図書館とKERISとの間に連携制度の構築を図っている。参加館とKERISとはプロジェクトにおいておのおのの役割を果たす。

 KERISでは、現在、デジタルファイルの生産および管理に関し、標準的な手引書を作成中である。また、これまでKERISシステムに適用された通信プロトコルおよびその他のシステム・ライブラリをシステム開発業者に開放し、個々の大学図書館システムをKERISシステムに接続できるようにした。さらに、全国規模でサービスを展開するのに必要な、メタデータ、デジタルファイル、所在情報を収集し、効率的なサービスを提供するための統合的な情報システムを運営している。
 参加館は、KERISが提示する標準的な書式に則り、書誌データ、所在情報、高質のデジタルファイルをKERISに送る。また、大学図書館は全国的なサービスの実現に必要な著作権処理を行う必要がある。

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6 結論

 韓国の大学図書館は慢性的に予算および蔵書が不足してきた。この問題に対処する唯一の方法が大学図書館の協力である。資源共有によって、情報サービスを全国規模で展開することができる。現在、KERISでは、大学図書館が各館の情報資源を共有できる全国的なシステムを構築している。これは、韓国における電子的な学術研究情報管理システムへと発展していくであろう。

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