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学術情報センターにおける国際協力
International Cooperation at NACSIS

小野 欽司(Kinji ONO)
学術情報センター研究開発部長

1 はじめに
2 学術情報センターの役割
3 学術情報システム
 3.1 学術情報ネットワーク
 3.2 学術情報コンピュータシステム

4 学術情報サービス
 4.1 目録所在情報サービス
 4.2 情報検索サービス
 4.3 電子図書館サービス

5 国際事業の展開
 5.1 ネットワーク
 5.2 目録所在情報サービス関連
 5.3 情報検索サービス
 5.4 アジア情報調査活動
 5.5 中国との学術情報交流プロジェクト

6 研究開発活動
7 教育研修活動
8 むすび

1 はじめに

 学術情報センターは、研究者が必要とする学術情報を収集し、電子的に蓄積し、学術情報ネットワークを通じて迅速、的確に提供するための学術情報システムを構築・運用している。

 学術情報システムは、全国の大学等に対して学術研究のための情報基盤を提供し、わが国の学術の発展を支えている。本稿では、学術情報センターにおける国際事業展開と国際共同研究の実態と将来の展望について述べる。

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2 学術情報センターの役割

 学術情報センターは、1986年に文部省の大学共同利用機関として設置され、全国的かつ総合的な学術情報システムの整備を推進する中枢的な機関の役割を担っている。

 すなわち、学術情報を収集、蓄積、提供するための学術情報システムの構築、運用およびこれに係わる研究開発と教育研修活動を行っている。

 学術情報センターでは、全国の大学等の学内LANや大型電子計算センター、情報処理センター、図書館を結ぶ学術情報ネットワークの提供、目録所在情報サービス、情報検索サービス、電子図書館サービス、種々のWWW(資源提供)サービスなどの事業を行っている。

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3 学術情報システム

3.1 学術情報ネットワーク
 1986年度から全国的な学術情報ネットワークの整備に着手し、現在では高速のATM(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)によるバックボーンネットワークの上でインターネットのサービスを提供している。

 このインターネットバックボーン(SINET)は、主として全国の大学等を接続する我が国最大の学術情報ネットワークであり、ATMの設置されるノード機関は1999年3月現在32ノードとなっている。また、国内の他のインターネットと相互接続して全国規模の学術研究ネットワークを形成している。1999年3月現在764の大学等の機関が学術情報センターの学術情報ネットワークに加入している。

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3.2 学術情報コンピュータシステム
 学術情報センターのコンピュータシステムはこれまでメインフレームのシステムとして個々のサービスに対応した運用がされてきた。

 しかし、最近の情報技術の進歩に対応して、センターシステムのオープン化を推進している。オープンシステムではUnixを OSとするサーバシステムで構成され、既存のサービスに加えて、電子図書館サービスやマルチメディアサービスなどにも容易に対応できる構成としている。主要な設備は、千葉の東京大学生産技術研究所構内の学術情報センター千葉分館に設置されている。

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4 学術情報サービス

4.1 目録所在情報サービス
 目録システム(NACSIS-CAT)については、1999年3月現在で目録システムにオンライン接続されている大学等は670機関、図書所蔵の登録件数も3,864万件となった。

 インターネットからの目録所在情報へのアクセスを容易とするWEBCATを1997年から開始している。現在1日平均30,000件以上のアクセスがある。

 一方、ILLシステムはNACSIS‐CATによって構築された総合目録データベースを活用して図書館相互貸借業務を支援するものである。1998年度の1日平均の依頼件数はおよそ3,800件に達している。

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4.2 情報検索サービス
 情報検索サービス(NACSIS−IR)は、1999年3月現在59種、レコード件数9,000万件のデータベースの検索サービスを行っている。NACSIS−IRの利用者は大学等の研究者のみならず、日本学術会議に登録された学協会の会員に対し、その所属先を問わずに広く開放している。

 さらに、日本科学技術情報センターとのゲートウエイ機能によって相互のデータベース利用が可能になり一層利用価値が高くなった。

 なお、情報検索システムと目録情報システムのインターネットからのアクセスを可能としている。

 さらに、学会誌を対象としたオンラインジャーナル編集・出版システムの開発を進めている。

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4.3 電子図書館サービス
 電子図書館サービスは学術雑誌のページをそのまま電子化し、書誌情報とともに検索できるもので、インターネット上で利用できる。1997年4月より電子図書館サービスの試行を開始し、1999年3月現在現在74学会の刊行する226誌を収録対象としている。

 1999年1月から各学会が定めた学会誌のページ毎の「著作権使用料」の課金を開始した。
他に、「研究者公募情報サービス」や学協会の情報発信を支援する「WWW資源提供サービス」を行っている。

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5 国際事業の展開

5.1 ネットワーク
 日米間の回線は150Mbpsで、また、ヨーロッパへは米国経由で2Mbit/sec、タイのバンコックとの間にも2Mbit/secでインターネットの直接接続がなされ海外との学術情報交換に貢献している。

 これらの回線の中で、米国かいせんいついては、膨大な需要に対処するため1999年10月から京都からの直通ルーとを整備することとしている。同時に、欧州回線も15Mbpsへ増速することにしている。

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5.2 目録所在情報サービス関連

5.2.1 目録所在情報サービス
 インターネットからの目録所在情報へのアクセスを容易とするWEBCATの開始にともない、海外からのアクセスも急速に増えている。
 海外からのアクセスは日本情報の海外発信の意味からも意義深いことである。

 英国内の日本語資料の総合目録の作成については、1999年3月現在の所蔵登録件数は約12万件となった。英国図書館(BL)他6図書館(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、シェフィールド大学、スターリング大学、ロンドン大学、国際交流基金ロンドン日本語センター)で行っている目録所在情報サービスを継続して実施している。

 一方、ILLシステムは1994年度から英国図書館原報提供センター(BLDSC)、1996年度から国立国会図書館との協力体制を整備し、ゲートウエイ機能によって相互貸借業務を実施している。

5.2.2 目録所在情報サービス試行プロジェクト
 ストックホルム大学、チューリッヒ大学での目録所在情報サービス試行プロジェクトを継続し、新たにハイデルベルグ大学、デュースブルグ大学及びルーバンカトリック大学の3機関を加えた欧州の日本語研究図書館等における目録所在情報サービスの利用促進を図ることにしている。

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5.3 情報検索サービス
 1993年8月から、海外の大学及び学術研究機関に対して学術情報センターが企画、作成したデータベースや他の機関・研究者等が作成したデータベースの中から、海外機関へ提供可能なもの(海外からの導入データベース等を除く)の有償サービスを行っている。WEBCATに比べて利用登録が必要なことから、海外からの利用者は少ないのが現状である。

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5.4 アジア情報調査活動
 タイにおける情報検索サービス及び目録所在情報サービスの普及を目的として、1996年度から「タイ・オンライン・プロジェクト」を実施している。タイのチュラロンコーン大学、タマサート大学及びカセサート大学において情報検索サービスの試行利用をしており、また、WWWのホームページ上で公開しているタイ関連情報の充実を図っている。

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5.5 中国との学術情報交流プロジェクト
 1998年度から、日本と中国との学術情報流通の促進を図ることを目的とした「中国との学術情報交流プロジェクト」を開始し、3年間の計画で、北京日本学研究センター図書資料館の情報化支援を実施している。

 1999年度は、センター職員が現地へ赴き「図書業務システムの導入」及び「利用説明会の開催」を実施し、北京日本学研究センター図書資料館の情報化充実を目的とした具体的支援を行うことにしている。

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6 研究開発活動

 研究開発活動も強力に推進されている。超高速通信網や電子図書館サービスのさらなる高度化を目指した研究開発を進め、その成果を学術情報ネットワークや学術情報サービスの次期整備に活かしている。

 現在の研究課題の主なものは


などである。

 国際共同研究についても、様々な取り組みが行われており、日米教育文化交流会議(カルコン)の情報アクセスWGの主査を務め、米国からの日本情報アクセスの改善に貢献した。日本タイ間の「NACSIS-Thai Project」、日、仏、米などの間のグローバルなバーチャル研究ネット(MLAB-net)を利用したハイパーメディア配送(AHYDS)プロジェクトなどがある。NACSIS-Thai Projectでは日・タイ研究者のためのタイ語・タイ情報研究資源サーバhttp://thaigate.nacsis.ac.jpを提供している。

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7 教育研修活動

 教育研修活動では、センターとの接続機関数の増大や利用者のニーズに応えるため年々充実を図ってきたが、1995年4月に教育研修部が新設され、教育研修事業を推進するための基盤が整えられた。教育研修においては、当センターが提供する各種のサービスに係わる研修・講習会を充実させるだけでなく、各大学・研究機関等から要望の高い学術情報システムの構築・運用を担う人材養成のプログラムも開始している。また今日的課題をテーマに毎年学術情報センターシンポジウムを関西と東京で開催している。また国際交流基金などと協力しえ海外の日本関係司書研修なども行っている。

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8 むすび

 我が国の学術情報基盤を支えるため、学術情報センターは創設時の理念に照らして学術情報の組織化とシステムの構築・運営、研究開発を行っているが、2000年4月には情報学の中核的研究機関として改組・転換される予定である。この研究では情報に係わる研究を基礎から応用まで総合的に研究すると共に、学術基盤の整備・運用、国際的に開かれた研究体制を目指している。情報依存性が益々高まる学術研究環境において、この新研究所の果たす役割は大きく、新しい門出に備えている。

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