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国際的な図書館協力とゲーテ・インスティトゥート
International Library Co-operation and the Goethe-Institut

クリステル・マーンケ (Christel MAHNKE)
東京ドイツ文化センター・ゲーテインスティトゥート図書館長

訳 石井 奈穂子(立命館大学総合情報センター)

抄録
1 ゲーテ・インスティトゥートの目的とその活動
2 情報サービス

3 図書館間協力
 3.1 会議
 3.2 スタディツアー
 3.3 WWW上の情報サービスと図書展示会
 3.4 各国図書館におけるドイツ情報センター
4 図書館プロジェクトにおける基礎的なルール

5 世界規模のネットワーク
6 結論

抄録
 国際的な図書館間協力や情報サービスは将来に向けて必要不可欠なものである。ゲーテ・インスティトゥートはこの協力を支援し、この分野においてさまざまなプロジェクトを実施している。本稿では現在実施していることと将来の展望について記述する。

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1 ゲーテ・インスティトゥートの目的とその活動

 ゲーテ・インスティトゥートとはドイツ語とドイツ文化を促進する非営利の独立した組織である。ドイツ外務省が主に出資している。

 世界76か国に141のゲーテ・インスティトゥートがあり、それらは以下の活動を行っている。

 協力と対話は我々にとって基本的なルールである。すべてのプロジェクトは、地域やドイツの協力機関と共同で計画し、資金を調達し、実行している。ここ数年、多くのプロジェクトはヨーロッパ各国と共同で開発されている。例えばブリティッシュ・カウンシル、フランス学院、EBLIDA(ヨーロッパ図書館情報および文献管理センター)等においてである。このことはネットワークを結ぶことの重要性を示しているといえる。相互に協力することによって人々の横のつながりをつくりだし、専門家は他の分野の専門家が何を考え、行い、実行しているのかを知ることができる。ゲーテ・インスティトゥートは、35年以上ものあいだ、多くの国々で情報を公開し人々を結びつける役割を果たしてきた。

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2 情報サービス

 ゲーテ・インスティトゥート図書館の目的は地域の人々にドイツに関する情報を提供することにある。これを効果的に行うためには、その国の情報システムやニーズを知る必要がある。こういった知識を得、改善するためには他図書館や地域ネットワークと協力していくことが必要になってくる。ゲーテ・インスティトゥート図書館は、自らの情報サービスを評価し改善するために調査を行い、利用者の情報ニーズを把握している。ゲーテ・インスティトゥート図書館は小規模である(スタッフは1名から最大5名、蔵書資料は12. 500冊から最大25.000冊)。そのため、先進国においては地域図書館と競争することは不可能なのだ。しかし、ゲーテ・インスティトゥート図書館は一定の目的をもつ人々に下記情報サービスを提供することに成功している。

 コレクションには文化、経済、政治分野に関する百科事典やディレクトリといった参考資料も含まれている。雑誌は最新の情勢をカバーするのに重要だ。ビデオ、特に美術や地理に関する映画やドキュメンタリーはとても要求が高い。CD-ROMもコレクションに加わった。新聞や辞書類はレファレンスコレクションの一部とされるのに対して、歴史や文化、地理に関するCD-ROMは貸出可能となっている。ほとんどのゲーテ・インスティトゥート図書館は他機関への貸出サービスを行っている。

 多くの国々で、ドイツに関する資料のリクエストはゲーテ・インスティトゥート図書館の能力を超えている。そのため、地域図書館がゲーテ・インスティトゥートからの推薦や協議によってふさわしい資料を購入している。中央および南東ヨーロッパ、旧ソ連では、ドイツ情報センターは地域図書館の中に組み込まれている。

 レファレンスサービスはゲーテ・インスティトゥート図書館の主な活動の1つである。ドイツに関するあらゆる質問が手紙、電話、ファックス、電子メールや直接訪問を通してやってくる。回答することが出来なかった場合、質問はその国あるいはドイツの図書館や情報センターに送付される。WWW上のリストサーブを利用して図書館員に問い合わせをしたり、回答を得ることもできる。小規模図書館で高度なレファレンスサービスを提供するためには相互協力は必須である。

 特別な機会や主題のために、ゲーテ・インスティトゥート図書館は、図書資料、その他資料(ポスターやビデオ、CD-ROM)を組み合わせて展示を企画することもある。インスティチュート内あるいはその他の図書館において展示される。テーマや内容は図書館員とその他の興味のあるグループで協議される。

 言葉の壁はよりよい情報サービスを提供する上で深刻な障害となり得る。ゲーテ・インスティトゥート図書館では、編集者や翻訳者と協力し、ドイツ文学の翻訳活動を促進している。主だった資料に関する注釈や抄録を作成し、出版社と相談して翻訳された資料の書誌を作成している。この作業は、国際的な出版物にアクセスすることのできない国々、例えば旧ソ連、中央アジアや中国にとって非常に重要となった。

 ドイツ内外を問わず、インターネット上の情報サービスはもっとも重要なツールの1つになってきている。対象は絞り込まれるように設計されており、アクセスしやすく最新の情報が入手できる。他の情報サービス同様、専門家同士が協力しあって、正しい時に正しい情報をウェブ上から入手できるようにしなければならない。例えばアメリカでは、ゲーテ・インスティトゥート図書館員はWWW上のドイツ関連リストサーブとグループに参加している。参加することを通して、彼らはドイツに関する研究に貢献し、ユーザやこの分野の専門家からの直接的なフィードバックを得ることができる。その経験を生かしてゲーテ・インスティトゥートのウェブサイトやリンク集を、学会、一般社会問わずドイツへの有効な入り口としていくのだ。

 ジョブローテーション、生涯学習および実習訓練は、ゲーテ・インスティトゥート図書館の業務の中でも重要な役割を果たしている。図書館長は、他のインスティチュート職員と同様、5年毎に別の国に移動する。情報関連の会議やセミナーは、ゲーテ・インスティトゥート本部が定期的に開催している。後回しになったが、ゲーテ・インスティトゥート図書館はドイツ国内や地域の図書館学校、大学や図書館から実習生を受け入れている。ものの見方を交流することや日常的な相互協力は双方にメリットがある。

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3 図書館間協力

すでにみてきた通り、ゲーテ・インスティトゥートの情報サービスを行っていくためには、情報専門家との相互協力が絶対的に必要不可欠である。加えて図書館間相互協力はここ10年来特に重要視されてきている。その目的は、業務に関連した情報にアクセスし、情報専門家同士の交流を促進することにある。パートナーはドイツ内外の図書館員、各種団体、教育機関である。まずふれておきたいのが、ドイツ図書館協会が共同で設立したDBI(ドイツ図書館インスティチュート) 、BA(国際交流オフィス)である。ゲーテ・インスティトゥート図書館の役割はドイツ国内の図書館と海外との橋渡しをすることである。ブリティッシュカウンシル、フランス学院やヨーロッパ各国の文化機関は共同で会議やセミナーを組織している。 Bertelsmann やSoros もこの交流に参加している。

 ヨーロッパにおける図書館情報学分野の大学は国際的な交流を促進し、学生達がプロジェクトで実地体験できる機会を得られるように協力しあっている。BOBCATSS ―参加大学の頭文字を並べたものだが―は地域のゲーテ・インスティトゥートと協力して年次大会を組織している。1999年度は「学習する社会、学習する組織、生涯学習」と題した会議をスロバキアのブラスティスラバで開催した 。

 昨今のEUにおける図書館プログラムは新しい可能性を提供している 。EU内における2〜3か国で図書館情報関連のプロジェクトをサポートしており、そのうちのいくつかにはアジア諸国も参加することが許されている。参加申し込みが若干複雑なため、DBI(ドイツ図書館インスティトゥート)は独自に国内の図書館向けに相談事務所を開設することにした。EBLIDA(ヨーロッパ図書館情報および文献管理センター)はヨーロッパ図書館協会下の独立機関である 。それらは著作権、文化、テレマティック、情報社会関連の事項や情報工学を情報専門家に結びつけ、EU内における意志決定機関に対するロビー活動を行っている。

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 次の章では、ゲーテ・インスティトゥートにおけるいくつかのプロジェクトを紹介する。

3.1 会議
 会議は異なる国々の情報専門家達との討議を促進するために開催される。南アフリカや旧ソ連のような、情報専門家同士の交流があまり活発でない国にとって、国際会議は国内での交流を高める良い機会となり得る。図書館法や資料の電子化といった問題に対して、会議は世論を形成し、新しい解決方策を見つけることもできる。

 「図書館のためのテレマティック」 は、1998年9月に南アフリカヨハネスブルグで開催された会議とワークショップの共通タイトルである。プログラムと発表された論文はほとんどゲーテ・インスティトゥートのウェブサイト に掲載されている。南アフリカとヨーロッパとの交流の可能性に関する発表と討論が行われた。発表者はドイツの図書館、ルクセンブルグのヨーロッパ委員会、ブリティッシュカウンシル、そして南アフリカの図書館から参加していた。すべての参加者(南アフリカの全種類の図書館から60名)の住所と電子メールアドレス:交流するための価値あるツールはウェブサイト上に掲載されている。最近になって会議の質疑応答集がアップされた。テレマティック以外のトピックに関しても図書館や情報学に関するかぎり、ドイツ南アフリカ両国ともに議論することが歓迎されている。さまざまな種類の図書館(例えば学術、専門、公共図書館)が出席していた。コミュニケーションの手段は英語である。ヨハネスブルグのゲーテ・インスティトゥートはBA(国際交流オフィス)と協力して、図書館員の交流プログラム、インターンに関する情報やドイツ情報専門家のイベントを提供していた。図書館員のためのドイツ語講座は現在準備中である。月に一度ゲーテ・インスティトゥート主催で、図書館員のための公開討論会が開催される。そこでは、図書館情報学関連のトピックに加えてインターネット上やドイツデータベース上の新サービスの紹介もされる。希望に応じて機関誌も配布される。この会議は1999年4月のセミナー「公共図書館と情報社会」に引き継がれている。

 こういった事例は、会議が、ここ数年社会情勢が劇的に変化してきた国々の情報専門家同士のコミュニケーション、交流ネットワークの形成を手助けしていることを示している。図書館や情報センターは、この劇的な変化の重要な役割を果たしている。

 「図書館の管理とマーケティング」は、中央および東ヨーロッパ、旧ソ連から独立した国々の国際会議やセミナーの主要なテーマとなっている。1992年にモスクワ会議からスタートし、これまでにロシア、ベラルーシ、ウクライナからの参加者を迎えてキエフとサンクトペテルスブルグで開催されている。これらの国々にあるゲーテ・インスティトゥートは、図書館、図書館協会、政府機関やソロス財団と共に会議開催に協力している。発表者はイギリス、フランス、ドイツそして東欧諸国からとなっている。西洋諸国からの発表者は会議開催前にロシアの図書館を訪問する機会を与えられる。そうすることでロシアの現状を少しでも理解することができるからである。時には両国の交流がきっかけで図書や資料の交換、インターンの実施につながることもある。会議ではさまざまな国々、あらゆる種類の図書館、さまざまな職位の参加者にフォーラムを提供している。毎回会場収容人数(200名から400名、会場の大きさにもよるが)を超える参加申込者がある。誰に参加してもらうかを決定するのは時に難しい。ゲーテ・インスティトゥートが異なるグループ同士の争いにも中立であるという評判は、この衝突を解決するのに役立っている。この会議の社会的影響力や報道力は高く、その結果、東ヨーロッパの図書館の急速な変化に反映される。

 最近、ブダペスト とプラハ で開催された会議「公共図書館と新しいヨーロッパ」は、フランスとドイツとの共催によるものだ。発表者と参加者はフランス、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニアとチェチェンの公共図書館長や図書館学校の学長を含んでいる。プログラムと論文はドイツ語、フランス語、ハンガリー語で用意されてウェブ上にも公開されている。

 東ヨーロッパで始めて開催された会議では、西側諸国の発展に関する東ヨーロッパの図書館員の大きな情報の遅れを埋めることを最大目標としていた。年を追う毎に専門的な議論が中心になってきている。今日ロシアと西洋諸国とのコミュニケーションや交流にはたくさんの方法がある。ロシアの図書館はその社会を反映するごとく、新しい価値観を模索している。民主主義の構造は未だに脆弱である。西側諸国にとって公共図書館をサポートしていくことはさらに重要になるであろう。なぜならば公共図書館とはすべての市民に民主主義に参加する機会を提供するものだからである。

 「地域<-->世界」 とはミュンヘンのゲーテ・インスティトゥート本部で最近開催された会議のタイトルである。ヨーロッパ20か国から参加した情報専門家とEUとが、地域と連邦体系における図書館法について議論した。議論は、ヨーロッパ委員会の作成した「ヨーロッパにおける図書館法(案)」 と電子化時代における図書館の可能性について行われた。ドイツでは、昨今のマルチメディア技術の進歩に伴い、過去にないほど図書館法の設定が要求されている。イタリア、スペイン、イギリスでも同様地域レベルで適応出来うる規制の骨組みづくりが急がれている。この会議の目的は、ヨーロッパ委員会の勧告を可能にするための、連邦国家、地方分権国家を問わず、ヨーロッパ共通のガイドラインを作成することにあった。最も主要な発表者は、ドイツ文化メディア省代表のミカエル・ナウマンだった。図書館員は彼がこの図書館法に関する論争を盛り上げてくれることを期待している。

 情報政策はEU内で重要なトピックになりつつある。図書館はその法的地位を改善するために協力しなければならない。図書館の目的は全市民に情報へのアクセスを保証することにある。昨今の技術革新によって、手段を持つ人にはアクセスはより簡単になったが、手段をもたない人にとっては極めて困難になってきている。コンピュータリテラシーを促進することは図書館の新しい役割になってきた。資料の電子化は世界中で著作権法の変化をもたらした。新しく厳格な法律は図書館にとって新たな問題となり得る。

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3.2 スタディ・ツア−
 スタディ・ツア−は異なる国同士の直接的な交流という刺激的な可能性を持っている。実施に当たっては多大な時間と費用を要する。特に準備は注意深く行わなければならない。成功例として、ブリティッシュカウンシル、DBI(ドイツ図書館研究所)、ゲーテ・インスティトゥートとが共同で実施した、イギリスの図書館員と建築家のスタディ・ツア−がある。「学術図書館とニューメディア」が1998年に実施されたこのツアーの主要なテーマであった。イギリスの専門家達は、最近、図書館を改築あるいは新築した9大学を訪問した 。彼らの関心はニューメディアと昨今の情報工学と図書館の設計との相関関係であった。どちらの国の大学図書館も少ない予算と増え続ける学生数という似たような問題に直面している。どのようにして冊子体資料を有効に学生に提供していけるのか?資料の電子化はこの問題を解決してくれるのか?どうすれば電子的資料を有効に蓄積し検索できるのか?この訪問では、図書館長による正式のレセプションだけでなく、建築家、デザイナーや図書館で働く人々と話をする機会もあった。イギリスの専門家は彼らの「学習リソースセンター」のコンセプトとドイツのそれについて議論した。一度知り合いになれば、後の交流や相互の相談は個人ベースで継続されるであろう。

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3.3 WWW上の情報サービスと図書展示会
 今日、ゲーテ・インスティトゥートのほぼすべての活動はウェブ上で行われている。会議の議事録や質疑応答集は情報専門家向けに公開されている。その他の活動、例えば情報に関する注釈付きリストについても情報専門家を視野に入れて作成され維持されている。

 「東南アジアとドイツーその文化的対話」 はバンドン、バンコク、ジャカルタ、マニラそしてシンガポールのゲーテ・インスティトゥートのホームページのトップに掲げられている。そこには、例えばインドネシアの文学、ダンス、音楽に関するトピックス、東南アジアと文化的に連携しているドイツ国内の機関、東南アジアの地域および国家の組織に関する記載がある。このサイトはドイツや東南アジアの出版社、図書館員やその他文化間交流を企画する人たちを支援するために作成されている。

 「様式の問題」 とは、ドイツデザイン界で起こっている新たな進化や議論についてのWWW上の情報サービスである。香港のゲーテ・インスティトゥートではドイツデザイン界に関心のある人々のためにページを作成している。英語、ドイツ語、中国語で用意されており、中国語圏のユーザもその対象にしている。このページはドイツと中国のデザイナー、情報専門家や出版社に歓迎されており、新しい発展に触れたいと望んでいる。毎月、このトピックに関するエッセイが発表され(例えばドイツのマンガや新しい豪華列車のデザイン等)、主要なデザイナーの顔写真、その分野に関心ある出版社のリストが掲載されている。

 「ドイツの新刊書」 は冊子体での出版からスタートした。これは特に英語に翻訳することを勧める新刊書の書評である。選書はイギリス文学の専門家と図書流通の専門家とで構成されている独立した委員会によってなされる。WWWバージョンは1999年7月にロンドンのゲーテ・インスティトゥートで開始された。現在、すべての書評、ドイツ作家に関するカバーエッセイ、イギリス国内でのドイツ語資料に関するニュースやイベントが利用可能となっている。このプロジェクトは2年前に、やや異なる機関:イギリス作家協会、イギリス文学翻訳センター、ゲーテ・インスティトゥート、ドイツ、オーストリアそしてスイス大使館、イギリスの出版社およびドイツ図書普及協会、で共同で開始した。また、運営編集委員会を形成し、イギリスの出版社に推薦する図書を決定し、その出版に融資する。今日3,000部が、出版社はもとより、世界中の図書館、大学、書店や翻訳者に配布されている。アメリカの出版社向けの特別版は現在作成中である。

 さまざまな主題に関する類似のホームページが別のゲーテ・インスティトゥートで開発中である。ゲーテ・インスティトゥートのホームページにその概要が記載されている 。異なる国の専門家同士の交流を促進し、情報を利用可能にするのに、簡単で有効な方策であると言える。

 公共および大学図書館はコミュニティーで計画されたイベントに参加したり、あるいは彼ら自身で文化プログラムを実行したりしている。もしそのイベントがドイツに関連するものであれば、ゲーテ・インスティトゥート図書館はしばしばそのイベントを支援する。そのため、ゲーテ・インスティトゥートはドイツ文学、現代史、伝記や特別のテーマに関する展示会、まるでロックコンサートやフットボールゲームのようなものをも編集した。

 「Was bleibt」(何が残るのか) は1945年以降のドイツ(東西ともに)散文に関する文献展示会のテーマである。訪問者は英語、ドイツ語、ロシア語のオンライン版をみることもできる。図書館や他機関はこの展示内容を無料で借りることができる。そこでは、パネル、図書そしてカタログが展示されていた。フランス語およびロシア語版も利用可能である。

 展示やウェブサイトは地方図書館のホームページにリンクさせることも可能である。そのため情報専門家は、ドイツに関する専門家を駐在させていなくても、ドイツに関する情報を提供することが出来るようになった。すべてのトピックスや内容は既存の要求を満たしている。

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3.4 各国図書館におけるドイツ情報センター
 今まで述べてきたように、ドイツに関する資料のリクエストは、ゲーテ・インスティトゥートの可能性を超えている。中央および南東ヨーロッパ、旧ソ連では、1990年以降特に重要になってきた。75年ものあいだ、上記の国々は国際的議論からは切り離されていた。ドイツ語を理解し話す層は今でも多く、そのためドイツ語資料を欲する声は切実である。1〜2年かけて、特に大学図書館や学術機関に対して図書の寄贈が行われた。1992年に、ドイツ政府は、中央および南東ヨーロッパ、旧ソ連における地域図書館の中にドイツ情報センターを設置するため、資金を調達した。まずアルバニア、ブルガリア、スロバキア、ロシアそしてポーランドにドイツ情報センターが設立された。今日21か国に44のセンターが存在している。ロシアの3センターについては、フランスとドイツの共同プロジェクトで2か国語の資料が所蔵されている。

 コンセプトは下記の通りである:市がその地域の中心でありゲーテ・インスティトゥートが存在していないこと、および主催機関は公共図書館であること。ドイツから2,200冊の基礎的資料(百科事典、辞書、ドイツ文学、芸術、歴史、政治、経済、法律およびドイツ語に関する資料)、25種類の雑誌、ビデオテープ 150本、300本のカセットあるいはCD、加えて、これらのオーディオ資料を利用するために必要な機材、パソコンが寄付された。資料は、各館の利用状況に応じて、ゲーテ・インスティトゥートが定期的にリフレッシュしている。これらのセンターにおいて資料は開架に配置され、貸出されなけければならない。主催機関である公共図書館は、場所を提供しドイツ語を話す職員を配置させている。

 共同作業は最初からうまくいった訳ではない。ロシアの図書館は資料を開架に配置したり、貸し出すことには慣れていなかった。職員についても研修をする必要があった。セミナーを通して職員の語学能力、業務遂行能力を高めた。不運にも、ロシアにおいて図書館員の賃金は低く、1か月間給与が支払われないこともしばしばあった。そのため力量のある職員はよりよい企業に就職し、図書館をやめる結果となっていた。

 しかし、全体的には上記の試みは成功したと言えよう。ドイツ情報センターを通して、ウラジオストック(ロシア)やイェレバン(アルメニア)といったゲーテ・インスティトゥートが設立される可能性が非常に少ない都市においても、ドイツに関する情報を提供できるようになったからである。いくつかのセンターでは、近隣のゲーテ・インスティトゥートと共同で、文化的イベントを組織したりしている。インターネット、まだそれほど普及しているとはいえないが、効率的にネットワークを形成する手助けをしている。どちらにとっても日常的な交流をすることはプラスになるからであろう。次のドイツ情報センターは上海市図書館の中に設立される予定である。

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4 図書館プロジェクトにおける基礎的なルール

基礎的なルールはゲーテ・インスティトゥートのすべてのプロジェクトにとって同じである。

 すべてのプロジェクトは地域のパートナーからの要求や提案に基づいて進められる。プロジェクトは地域やドイツの教育機関と共同で計画され、予算がつけられ実行される。アイデアは、ゲーテ・インスティトゥートの図書館員とドイツ内外の情報専門家との日常的な対話の中で引き出されてくる。企画案はまず地理的に近いゲーテ・インスティトゥート図書館員の間で議論される。その後ミュンヘンにあるゲーテ・インスティトゥート本部が予算や技術的サポートについて決定する。

 多言語対応は、すべてのプロジェクトにとっても特別関心が高い。出版やプロジェクトはドイツ語と、参加国の言語で実行される。英語については、作業を進める上で必要であれば使用するが、対話のための唯一の言語とはなるべきではない。しかし、南アフリカのような公用語が11、非公用語が30もあるような国では、英語を使わなければコミュニケーションを取ることもできない。ゲーテ・インスティトゥート図書館では、その地域の人とドイツ人とが共に働いている。4〜5年ごとに異動するとはいえ、ドイツ人スタッフは語学力を身につけることをつよく勧められている。

 協力関係を持つことは重要な原則である。たとえどんなに貧しい国でも、パートナーはプロジェクトに寄与しなければならない。そしてすべてのパートナーの意見に耳を傾け、尊重しなければならない。ドイツ情報センターの主催機関である公共図書館は、場所を提供しドイツ語を話す職員を配置させている。資料のリフレッシュを行う際には彼らの意見も尊重している。

 副次的であるということは次のような原則のことである。すなわち、中央執行部は各支部に諸問題や決定をコントロールすることを許可するということである。その方が地域レベルにふさわしいと考えるからである。ゲーテ・インスティトゥートにおいて、このことは個々のインスティトゥートが、その地域の状況を把握して、優先順位やガイドラインを決定することを意味している。ゲーテ・インスティトゥート本部の専門家が、資金の提供や世界規模での優先順位を決定する。彼らはさまざまな国で勤務した経験があるため、その国の状況や障害そして妥協点についても熟知している。副次的であるということは、ゲーテ・インスティトゥートは地域組織が自分たちだけで実行できることには口を挟まないということである。ゲーテ・インスティトゥートはしばしば「きっかけ」の役割を演じる。その地域とドイツとの直接的な交流がうまれたならば後ろに引くからである。

 継続的であることはある一定のレベルを維持する能力を意味している。ゲーテ・インスティトゥートは新しい展開を主導権を握って開始する。もしその新しい展開が本当にその国のニーズに合致したものならば、地方団体がその続きをすすめるであろう。したがって、すべてのプロジェクトは地方組織に引き継がれ、活動が継続されなければならない。

 ゲーテ・インスティトゥートは特定の政府、政府機関の政策を強要されることのない独立機関である。しかしインスティトゥートは、民主主義の価値、多元主義、言論と情報の自由に関しては人権と同様尊重している。インスティトゥート内部では、時には意志決定を遅らせているように見えるかもしれないが、コンスタントに議論し評価している。この議論の利点は、参加率が高いためゲーテ・インスティトゥートに勤務するすべての職員がモチベーションを高め、地域のパートナーへの高い責任感を持つことができることである。

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5 世界規模のネットワーク

 ゲーテ・インスティトゥート図書館員にとってネットワークを利用することは必要不可欠である。まず組織内部で開始された。すなわち、コレクションの設立、更新に関するガイドラインや情報サービスに関する議論、プロジェクトの計画や優先順位についてもまた討議されている。地域のパートナーは、自分たちの意見が尊重されないかぎり、そのプロジェクトに寄与しようとはしない。ゲーテ・インスティトゥートの予算があまり多くないため、ドイツのパートナーもそのプロジェクトの目的と結果が非常に明確でないかぎり、参加しようとはしない。インターネットを通して地球規模のネットワークは実質的な展望を与えている。つまり、図書館が何を所蔵しているかは、ウェブ上のOPACを通してどこからでも確認することができるし、メーリングリストやフォーラムは情報サービスの改善を支援しているのである。資源や経験は共有され、プロジェクトや出版物は、世界中のゲーテ・インスティトゥート図書館員に公開されている。

 前章で引用したすべてのプロジェクトには2つ以上のパートナーが存在している。IFLA(国際図書館連盟)やALA(アメリカ図書館協会)の年次大会やフランクフルトで開催されたブックフェアへの参加は、ミュンヘンの本部と地域のゲーテ・インスティトゥートとが共同で組織している。参加の目的はゲーテ・インスティトゥートの活動を世界の情報専門家に知らしめ、新しいプロジェクトを開始することにある。しかしそこにとどまっているわけではない。ゲーテ・インスティトゥート図書館員はドイツや外国の作家、出版社、書店、翻訳者やその他図書流通代表者と接触を試みている。最近、ドキュメント・デリバリーやデータの交換は新天地になりつつあるように思える。

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6 結論

 ここ10年以上、ゲーテ・インスティトゥート図書館は図書館や情報部門のさまざまなプロジェクトを主導し、参加してきた。プロジェクトに参加したすべてのパートナーは経験や知識を得、自分たちが貢献できるものを共有することを学んだ。現代の技術革命がコミュニケーションや資源共有をの改善を後押しした。グローバル化は単なる言葉ではない。すべての国の情報専門家は、似たような問題に直面している。すべての国に適応できるような解決策を見つけだす必要があるのだ。

 日本とドイツの図書館の協力には、魅力的な展望がある。この道をきりひらくことで、すべてうまくいくであろう。

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謝辞

学術情報センターの国際的な講演会ならびに「日本情報の国際共有に関する研究」に参加できることを誇りに思い、国際文化交流および図書館情報サービスの振興に努められる猪瀬博博士に心からの感謝と尊敬の意を表す。