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ドイツにおける図書館の情報サービスとインターネット
Libraries' Information Services and the Internet in Germany

クリステル・マーンケ (Christel MAHNKE) 1)
東京ドイツ文化センター・ゲーテインスティトゥート図書館長

訳 石井 奈穂子(立命館大学総合情報センター)

1) 107-0052港区赤坂7-5-56 東京ドイツ文化センター図書館情報センター館長、7-5-56, Akasaka, Minato-ku, Tokyo 107-0052. Fax: +81-3-3586-3069; E-mail: 06@tokyo.goethe.org 本稿は1999年8月27日(金)に京都大学附属図書館で、8月31日(火)に東京大学総合図書館において講演されたものである。http://www.goethe.de/os/tok/jpbib.htmにおいて本稿を見ることができる。

抄録
1 図書館で提供される情報サービス
2 新しい挑戦
3 インターネットとウェブサイト
4 サービスの品質
5 ウェブサイトの評価および選択
6 サーチエンジンおよび電子図書館:インターネット上の索引集
7 ドイツの図書館とそのインターネット上の活動
 7.1 大学図書館
  7.1.1 ドゥッセルドルフ・バーチャル・ライブラリー
  7.1.2 HBZ書誌ツールボックス
  7.1.3 IBISおよびGERHARD
 7.2 公共図書館
  7.2.1 シュトゥットガルト
  7.2.2 ベルリン
  7.2.3 BINE, ILEKSネットワークプロジェクト
 7.3 専門図書館
  7.3.1 マックスープランクーインスティトゥート
  7.3.2 ZPID

8 図書館員のための情報サービス
 8.1 DBIクリアリングハウス
 8.2 INETBIBおよびRABE

9 国際文化交流
 9.1 ゲーテ・インスティトゥート
 9.2 DAAD
 9.3 ドイツ国際文化センター

10 インターネット上での情報サービスを成功させるいくつかの要因
11 結論

抄録
 図書館によって提供される情報サービスはインターネットの成長とともに変化している。WWW上のソースは情報サービスの一つに数えられ、情報サービスそのものもインターネットによって変化してきた。新しい評価基準を策定することが早急に望まれている。ドイツの図書館はユーザがさまざまな方法でウェブサイトを有効に活用できるようにし始めた。国際的運動にも参加し、ドイツ情報市場に対するふさわしい解決方法を発展させた。インターネットを利用することにより、図書館員向けのサービスはネットワーク化し、資源共有を容易にしている。国際的な文化交流の場においても、インターネットは非常に重要な役割を果たしている。ウェブサイトを通して外国や交流プログラムに関するさまざまな情報を即時に入手できる。インターネット上の情報サービスから見いだすことができる共通の成功要因について論ずる。

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1 図書館で提供される情報サービス

 すべての図書館は情報サービスを提供している。国立図書館は書誌的情報を、大学図書館は学術的調査に関する情報を提供するだろうし、公共図書館はユーザの業務、日常生活に密接した情報を提供するであろう。また専門図書館には特殊なユーザがおり、彼らのニーズに答えるような情報を提供しなければならない。

 図書やその他印刷媒体の急速な増加、そしてマイクロフィルムや、ビデオ、オーディオ、CD-ROMやオンライン・データベースといったニューメディアの出現により、図書館員は守備範囲を拡げなければならなくなった。彼らは調査能力を高度化し、ニューメディアをも従来のコレクションや書誌学に統合した。コレクションや目録システムやソフトのアプリケーション開発は、図書館員によって定義づけられマスターされてきた。ユーザは、迷路のような図書館で道に迷った時に、図書館員を必要とした。

 保守的な図書館員は、WWWやその情報源をすでに存在し統合されている他メディアの一つと片づけようとした。これは誤りになるであろう。インターネットは情報の見せ方や使い方に影響を与え始めており、その結果、図書館が提供する情報サービスにも多大な影響を与えることになるからである。

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2 新しい挑戦

 ここ数年、図書館は劇的に変化した。その変化はこれからも続くであろう。我々は「情報化社会」に生きており、情報は重要な経済要因となっている。「革新のための原料・素材としての情報」(Information as Raw Material for Innovation)とはドイツ政府プログラムの名称である。英国政府は生涯学習計画(Life Long Learning initiative)を推進し始めた。いずれの場合も、図書館が重要な役割を果たしている。

 図書館が直面している挑戦とは何か。

 情報はビジネスになった。巨額の金額がインターネット、マルチメディアや電子出版の開発に費やされている。図書館はそういった企業と競争し、時には予算のために戦わなければならない。加えてデータベースサービス機関や、電子出版社、広告代理店との新しいビジネスを模索している。アメリカ合衆国とヨーロッパで討議された新著作権法は図書館活動に深刻な結果を与えた。図書館はもはや情報を保管し検索する規則を独占していない。図書館は大きな情報化社会における一分野にすぎないのだ。

 この試みに対処するために、図書館は技術やシステムだけでなく、新しい機構や方策を開発した。

 約10年前まで、図書館は「もしもに備えて」(Just in Case)資料を所蔵していた。誰かがある主題を求めた場合に備え、図書館は注意深く資料を選定した。

 5年前には、図書館は「即応する」(Just in Time)作業を開始していた。ユーザが来たなら、最良かつ最新の情報を収集し、回答した。

 今日、我々は「ユーザその人のために」(Just for You)サービスを開始している。図書館員はユーザその人を理解し、その情報ニーズを常日ごろ理解し、その要求に合わせたサービスを提供するというものである。

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3 インターネットとWWW

 我々がインターネットと呼ぶものが最初に出現したのは、科学者たちのコミュニケーションツールとしてであった。1960年代後半、米軍によって核戦争下での通信手段を確保するプロジェクトとして誕生し、その後、科学者やコンピュータマニアの仕事場や遊び場となった。初期のパソコンはインターネットに参入するにはあまりにも容量が少なかった。1990年代に入り、ドイツであるうわさが流れ始めた―「制限なく情報にアクセスできる」「パソコンとモデムさえあればいい」「地球規模で通信可能だ」―さまざまな雑誌はインターネットに関する記事を掲載し始めた。しかし、archieやgopher、veronica(新しいユーザにとってはすでに死語となっているであろう)といったサービスを利用するためには、未だ幾ばくかのUNIXのコマンド知識が必要とされた。

 誰も想像し得なかった方法で、この図式をぬりかえたのはWWWであった。絵的要素とユーザフレンドリーなインターフェースとの統合により、より多くの人々がインターネットに魅力を感じ、利用できるようになった。企業は営利的成功の可能性を見いだし、WWWのコンテンツやインフラに巨額の投資をした。今日、ほぼ誰もが何でもがウェブ上にあるといえる。電子メールアドレスは仕事をする上で必要不可欠になり、多くの人々が個人的なホームページを作成している。ドイツではすべての重要な公共機関、多くの企業がウェブサイトを持っている。図書館も例外ではない。もはや存在するすべてのウェブサイトをカウントするのは不可能になってきた。IBMとアルタビスタの評価によると、インターネット上には5億ものホームページがあり、ユーザ数は全世界で1億4千5百万人、日本で1千1百万人、ドイツで9百万人に上るという。

 WWWは巨大で絶えず成長する情報へのアクセスを提供している。しかしながら、もともと情報を蓄えるというよりも、通信手段として設計されている。そのため、情報の品質はページ作成者のインプットと受け取る側のニーズが合致しているか否かで善し悪しが決まる。

 インターネットを利用することにより、法人は印刷費や郵送費に多大なコストを費やさずに、その目的や使命を発表することができる。科学者は研究の成果を直接インターネットに発表する。図書館についても同様である。コストをかけずに―少なくとも従来の印刷されたカタログや商用データベースに比して―簡単にカタログやサービスを公開することができる。

 インターネット(電子メール、FTP、Telnet、WWW)は、図書館とユーザ、そして図書館と情報社会とのコミュニケーションの新しい次元を開く。「答えはそこか、他か、どこかにある」マウスをクリックするだけで、どんな主題についても専門的な答えが導き出せるであろう。

 情報サービスはそれでも参考資料―「もしもに備えて」購入された図書やその他メディア―に基づいて提供できるかもしれない。しかし、ウェブから回答を「ただちに」あるいは無料で得るケースが増えてくるであろう。次の論理的なステップはWWWサイトと「ユーザその人のため」のサービスとの統合である。

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4 サービスの品質

 国際標準規格ISO 8402は「品質とは、その製品やサービスが、顧客の満足度やニーズをどれだけ満たしているか、状態や特性をトータルしたものである」と定義している。「美は見る人の目の中にある」ということわざもある。情報サービスの品質はユーザの理解力の品質と等しい。そのためにも図書館員は、ユーザその人を知り、その情報ニーズを探らなければならないのだ。

 より質の高い情報サービスを保持するために、図書館は情報サービス品質基準を設置し、それを公表すべきである。その品質基準には情報の正確さ、信頼度を含めるべきであり、そのいくつかは測定可能なものであるべきで、例えば、ドキュメント・デリバリーに要する時間、同日中にどれだけの回答を得ることができるか等々である。水準基標(ベンチマーキング)は、質を保証するのに重要だからである。インターネットは水準基標に役立つ豊富なデータを提供している。

 サービス品質を評価するキーはユーザからの直接的なフィードバックにある。

 インターネットではユーザとの関係を形成し維持することが容易となる。電子メールを通して調査を行う方が印刷した質問紙よりも簡単である。ウェブサイト上のページ数は、そのウェブサイトの品質を見極める直接的なヒントである。高度なソフトウェアは複雑なウェブサイトをどのように眺めてきたか訪問者の履歴を保持できる―つまり図書館員はユーザの目線にたってドキュメントを見ることができる。

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5 ウェブサイトを評価および選択

 ウェブサイトを評価することは簡単ではない。なぜならば、

 ウェブサイトは、その内容だけでなく、デザイン、技術的な品質や機能的構造によって評価されるべきである。新しい品質評価基準が必要になるであろう。効果的でユーザフレンドリーなウェブサイトを構築するためのガイドラインが多くの雑誌やインターネット上で公開されている。作成者側、ユーザ側からの別々のアプローチは品質評価基準を定義づける。バークレイ・ディジタル・ライブラリーがその一例としてあげられるし2) 、Matthew Ciolek 3)ホームページには高品質のオンラインリソースの構築に関する詳細な情報が掲載されている。

 下記の基準が重要であると考えられる。

以下のウェブサイトは99年8月に確認済み。
2) http://sunsite.berkeley.edu/Web/guidelines.html
3) http://www.ciolek.com/WWWVL-InfoQuality.html M. Ciolekはオーストラリア、キャンベラにあるResearch School of Asian and Pacific Studiesのインターネット出版部長。

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6 サーチエンジンおよび電子図書館:インターネット上の索引集

 サーチエンジンを使ったことのあるものなら誰でもその欠点に気づいている。すなわち、数多くヒットするが、その多くは的外れで時代遅れなのだ。いくつかのサーチエンジンは自家製のWWW用分類体系を作成した。このはっきりしないアプローチは全ネットワークをカバーするサービスからほど遠いものであった。今日でも、新しいウェブサイトが登録されるには9か月以上も要するという。

 図書館員は、あまりに多くのホームページとあまりに貧弱な調査結果とのジレンマへの回答を導き出すための、専門的な知識を有している。インターネット上の情報源をユーザにとって利用しやすいものにするために、彼らは素材を選択し、判断しそしてインデックスを作成する―従来してきたように―。近い将来電子図書館では、まるで電子出版物とWWW上のリンクのように自館の資料とその他で所蔵している資料のどちらへもアクセス可能になるであろう。情報専門家は、少なくともインターネット上の学術情報については、書誌的記述に関するシソーラスとガイドラインを作成した。

 図書館員はインターネット上の情報の自由と多様性に関して政治的問題に関連している。多くの人々は、英語がネットワーク上に氾濫していることに不満を抱いている。北アメリカ以外のウェブユーザが爆発的に増加したことにより、ウェブサイトをあらゆる言語で作成し閲覧したいという要求が高まってきた。図書館員は、英語以外の言語で作成されたホームページのリンク集を作成し公開することで、この多様性を促進することができる。バベルフィッシュのような自動翻訳機は決してまだ完成品であるとは言えないが、ユーザからの支援によって最近改善されてきている。

DESIRE, DublinCore, CoOL:3つのインデックス方法
 DESIRE(ヨーロッパ研究教育における情報サービス開発センター) 4)は、EUによって設立された第4フレームワークプログラム(第4次五か年計画)における研究分野テレマティック推進(Telematics for Research Sector)ににおけるもっとも大きなプロジェクトの一つである。DESIREは下記のような機能を提供しようとしている。

 プロジェクトの目的の一部は学術機関の構成要素となる主題別情報ゲートウェイ(Subject Based Information Gateways (SBIG))の確立であった 5)

 Dublin Core 6)はドイツでさまざまな機関と協力関係を確立した。ドイツ国立図書館(DDB 7))やその他の図書館が参加した。Dublin Coreに関連するプロジェクトはMetalib 8)の名のもとに調整されている。1998年6月に開催されたワークショップの議事録はDBI(ドイツ図書館研究所)から発行されている 9)。次回ワークショップは1999年10月にフランクフルトのドイツ国立図書館で開催される予定である。ワークショップ終了後に開催される予定のドイツDublin Core会議は、専門的な大衆に向けてDublin Coreメタデータアプリケーションに関する最新の情報を公表するであろう。この会議では図書館、文書管理機関、アーカイブ、出版社、美術館そして研究機関やソフトウェア会社といったさまざまな分野の人々による学際的なフォーラムを形成することになろう。

 品質の高い情報サービスには、WWWだけでなく、あらゆる分野の情報源が必要である。それでは印刷媒体と電子出版物、ウェブサイトとをどのように統合していけばいいのか。答えはCoOL(主題リンク別カタログ)10) にある。ブラウンシュヴァイク大学が運営しているCoOLは、さまざまな形式で保存された情報源へのアクセスを提供している。データベース構造はHTMLフォーマットではなく、"allegro"フォーマットとなっている。allegroはヨーロッパの数百の図書館(世界各国のゲーテ・インスティトゥートも含めて)が採用している図書館システムである。

4) http://www.nic.surfnet.nl/surfnet/projects/desire/
5) SBIGに関するAnna Br殞merによるセミナー・レポート http://ix.db.dk/inettema/rapport98/03_ab.htm
6) Dublin Core Metadata Initiative http://purl.org/DC/index.htm
7) Die Deutsche Bibliothek http://www.ddb.de/index_e.htm
8) Metadata Initiatiave of German Libraries http://www.ddb.de/partner/metalib.de
9) META-LIB Workshop 1998 http://www.dbi-berlin.de/projekte/einzproj/meta/meta04.htm
10) http://www.biblio.tu-bs.de/CoOL/CoOL.htm

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7 ドイツの図書館とそのインターネット上の活動

 ドイツの図書館と情報の様相(information landscape)はドイツ連邦制度に依存して、いくつかに分解されている。中央政府の力は弱く、そのため各州が自分たちでプロジェクトを打ち立てている。こういった状況では、興味深い計画がいくつも生まれるというメリットと共に、コーディネートするものがいないというデメリットも合わせもっている。以下にいくつかの例を挙げる。

7.1 大学図書館

7.1.1 ドゥッセルドルフ電子図書館
 ドゥッセルドルフ電子図書館 11)は、ウェブ上の学術情報に関するリンク種としては、もっとも優れており利用しやすいサイトの一つである。1995年にスタートし、ページ総数200頁、6,500以上の学術的、一般的なサイトが集められている。また英語、フランス語、スペイン語バージョンも用意されている。

 このサイトは、ドゥッセルドルフ大学図書館員が、大学当局からの規制を受けることなしに、絶えず更新している。それぞれのページは、その分野の専門家が責任をもって、HTML形式で編集し更新しているのだ。ユーザはマウスを2度3度クリックするだけで、あらゆる所―世界中の電子図書館、俳句の特集ページからイタリア料理のページまで―にアクセスすることができる。サイトの構成は明瞭で理解しやすく、ブラウジングや検索が簡単に行える。検索形式は、アルタビスタとホットボットとが統合されたものである。ヘルプ・ボタンがあらゆるページで用意されており、情報は多岐にわたっている。しかしページの前後に移動することはできない。デザインは複雑ではなく、フレームや画像を使用していないため、ロードや更新が短時間で行える。多くのリンクは注釈がつけられている。すべてのページに作成者の電子メールアドレスと更新日時が記されている。新しいリンクが加わると、ニュースレターで更新情報を広報している。ドゥッセルドルフ電子図書館はドイツ国内でいくつかの賞を獲得している。

11) http://www.uni-duesseldorf.de/WWW/ulb/virtbi_e.html

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7.1.2 HBZ書誌ツールボックス
 北ライン・ウェストファーレンにある学術図書館オンライン・ユーティリティーサービスセンター 12)は、ドイツにおける図書館ネットワークの紹介、WWWですべての図書館のリンクを公開している。トップページには、アニメーション画像(22Kバイト)があるが、灰色と赤とで少々重たく感じられる。アルファベット順のインデックスはやや秩序だっていないようだ。トップページ以下にもアニメーション画像、背景画像があるが、内容は読む価値があるものがある。例えば、350以上のリンクを持つ書誌データベース。国際図書流通に関するページでは70の国々の書店リンクがある。カイマン諸島のページには書店リンクは1つしかないが、回帰線、2つの大きな旗と走る亀の画像(すべてあわせて37Kバイト)を提供している。日本に関するページには、70もの書店リンクがある。これは画像(揺れる旗、漢字そして指さす手などあわせて43Kバイト)よりも合理的であるように見える。たった一人で運営しているウェブサイトで、ヘルプ機能はなく、ほとんど注釈もない。ドイツ語以外のバージョンも用意されていない。

 上記2サイト(その他たくさんの大学図書館で作成されるサイトも)は、どちらもはっきりした長所と短所がある。すべてが品質的な基準に合致するという訳ではないかもしれないが、ドイツ語、あるいはいくばくかの英語の知識があれば、ユーザは上記サイトをゲートウェイとして利用することができる。しかしドイツの学界との連携はとれていないことを明らかにしている。

12) http://www.hbz-nrw.de/hbz/toolbox/

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7.1.3 IBISおよびGERHARD
 IBIS(インターネットベースの図書館情報システム)13) は、集団の力に参加する方法である。しかしプロジェクトの歴史はドイツ図書館界におけるさまざまな問題を映し出す鏡でもある。IBISがスタートする前、どの分類を、どの主題インデックスを採用するかで大きな議論が行われた。各参加図書館からプロジェクトに対して十分な人手が割かれたとは言えず、入力も低調であった。現在、IBISは地域情報や大学等の電子出版物のインデックス作成に重点を置いている。すなわち学術情報源に関する一般的なインデックスを作成する事業は、手動で作成するには手に余るように思われるのだ。もちろん自動的に作成しようという試みもあった。それがGERHARD(ドイツハーベスト自動検索ディレクトリ)14) である。大学や学術研究機関のインデックスを自動的に取り込もうとした。この方法の弱点は、前にも述べた通り、多くの見当違いのページも登録されることである。これらの解決策は手動と自動とをうまく組み合わせるところにあるのかもしれない。

13) http://www.ub.uni-bielefeld.de/ibispro.htm
14) http://www.gerhard.de

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7.2 公共図書館
 ドイツのほとんどすべての街には公共図書館がある。ここ数年で多くの公共図書館はインターネットを通してアクセス可能にし、自分たちのホームページも公開している 。

7.2.1 シュトゥットガルト
 シュトゥットガルト市立図書館は、きわめて高度なインターネットサービスを提供している 16)。デザインは専門家が担当し、サイトには興味深い内容が豊富である。

 このサイトはドイツ内外の賞を獲得した。エレガントで使いやすい。検索やブラウジングが簡単にできて、8つのローカルサーチ画面から通常のサーチエンジンにアクセスできる。ピーク時にロードに時間がかかるのが難点である。ヘルプ画面は用意されていないが、各ページには作成者の名前が明記されている。

 シュトゥットガルト公共図書館には、小さなチーム(スタッフ3名)があり、例えば「経済」といった1つの分野に責任をもっている。彼らはその分野に関して、情報の入手からウェブサイト上での資料の見せ方についてそれぞれが責任をもっている。柔軟な予算枠と、ユーザビジネス情報を提供するためのスペースも持っている。図書館の中にある専門図書館といった位置づけである。

16) 公共図書館のURLリストは次を参照 http://www.hbz-nrw.de/hbz/germlst/
17) http://www.s.shuttle.de/buecherei/
18) http://www.stuttgart.de/chilias/
19) http://verity.sunderland.ac.uk/
20) http://www.echo.lu/libraries/en/libraries.html

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7.2.2 ベルリン
 東西ドイツの統合により、ベルリンの図書館群も統合された。東ベルリン州立図書館(ベルリン市立図書館)と、西ベルリンアメリカ記念図書館(アメリカ政府から寄贈されたアメリカ記念図書館)とをあわせて、ZLB(ベルリン地方中央図書館)20) となった。合同で下記のインターネットサービスを行っている。

 ウェブデザインは最先端のもので機能的である。重い画像は一切使用されていない。ヘルプ画面は用意されていないが、すべてのページに作成者の名前が記されている。検索やブラウジングが簡単に行え、サーチエンジンやサーチツールをほぼ網羅していると考えられるリンク集(100をこえるサイトを掲載)がある。英語バージョンも用意されている。リンクは、電話番号や電子メールアドレス集から金融・株市場、政府情報、美術や美術館、劇場、音楽そして映画と幅広い分野をカバーし、注意深く更新されている。

20) http://www.zlb.de/index-e.htm

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7.2.3 BINE, ILEKSネットワークプロジェクト
 BINE(図書館+インターネット=ナビゲーション+インデックス)は1996年に開始した。ブレーメン公共図書館 21)はWWW上のリソースのインデックス付けの可能性を調査し始めた。ベルリン、ハンブルグ、パーダーボルンの公共図書館も加わった。図書館員はコンピュータ、環境保護および語学学習に関するリンクから集めることにした。

 第1試行期間は18か月後に終了したが、結果は惨憺たるものであった。多くの公共図書館はこの間、自館のリンク集作成に力を注ぎ、それらはBINEプロジェクトよりも優れたものになっていた。従来の分類システムや主題付与システムはWWW上のリソースにはおそらくふさわしくないのであろう。続いてILEK 22)と呼ばれるプロジェクトが立ち上がった。公共図書館も大学図書館が取り組んだIBIS以上の成果を上げることはできなかったようである。

21) http://www.stabi.uni-bremen.de/
22) http://infosoc.informatik.uni-bremen.de/birte/ileks_muster/index.html

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7.3 専門図書館
 ドイツの専門図書館は多様である。そのほとんどは学術機関や企業の一部で、主に組織に属する人々に情報サービスを行っている。学界向けの情報サービスも行っているところもある。

7.3.1 マックス・プランク・インスティトゥート
 マックス・プランク・ソサエティ 23)は、大学から独立した機関であり、自然科学、社会科学、芸術および人文学の領域の学術研究を促進している。80もの傘下の研究機関がドイツ内外にあり、その1つが人類開発機関 24)である。1995年に設置された図書館は、機関のプロジェクトを支えるようにプロジェクト志向の情報を蓄積するクリアリングハウス 25)である。インターネット上のリソースは機関の研究者のニーズにあわせて選択される。
 ウェブサイトはマックス・プランク・インスティトゥート共通のデザインが使用されている。わかりやすい構造で、リンク集は簡単なHTMLで記述されている(短時間でロードでき、簡単に更新するため)。内容は豊富で絶えず更新されている。包括的なサービスを提供しようとはしていないが、進行中のプロジェクトに最新のもっとも役立つリンクを選択しようとしている。ソースのインデックス付けにはDublin Coreメタデータ、検索はallegro OPACを使用している。キーワード検索およびブラウジングが可能となっている 26)。検索についてはヘルプ画面が用意されている。

23) http://www.mpg.de/
24) http://www.mpib-berlin.mpg.de/home-e.htm
25) http://www.mpib-berlin.mpg.de/DOK/ech.htm

26) http://www.biblio.tu-bs.de/allegro/

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7.3.2 ZPID
 ZPIDはドイツ心理学文献情報センター 27)であり、トリーア大学内に位置している。次のようなインターネットサービスを提供している 28)

 リストは包括的とは言えないが、研究者や心理学者のために優れた品質のリンクが選択されている。サイトはわかりやすい構成になっており、内容も豊富で国内外の情報が集められている。選択されたサイトには注釈が付けられ、最終更新日はなんと訪問する前の日であった。サイト内の検索機能、ヘルプ画面は用意されていない。

 専門図書館で提供されるサービスについてわずか2例を紹介したが、インターネット上の情報センターの可能性を示すよい例であるといえる。どちらもその分野の専門家によって作成され、実用性に富む。簡単な分類法で機能的なデザインを追求している。ドイツの科学者のために作成されてはいるが、海外のサイトのリンク、ホームページの英語バージョンも作成している。

27) http://www.uni-trier.de/zpid/xindex.htm
28) http://www.uni-trier.de/zpid/links/intro.htm

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8 図書館員のための情報サービス

 図書館員は通信手段、資源共有、基準策定(ベンチマーキング)のためにインターネットを利用する。図書館に関連したウェブページには適切な情報が記載されている。しかし、いくつかの特別なサービスもある。

8.1 DBIクリアリングハウス
 DBI 29)は中央機構である。その目的はすべての種類の図書館を調整しサポートすることにある。サービスの1つが、図書館関係のメタデータ 30)を所蔵するクリアリング機能である。ホームページ上には図書館、出版社、書店、書誌、データベースの電子ディレクトリー、イベントや暦等々へのアクセスを提供している。このウェブサイトがユニークなのは、ページに内容を追加できることである。そのため、誰もがこの情報センターに貢献できる。ほとんどの場合、更新はウェブマスターや作成者ではなくユーザが行っている。しかし、この長所は短所にもなり得る。1999年5月現在、最新の19サイトは1998年11月から1999年1月にアップされたもので、それ以降は更新されていない。このページはHTML形式ではないが、データベースの一部である。ブラウジングの可能性は低く、検索は所与のカテゴリーに従って行わなければならない。

29) http://www.dbi-berlin.de
30) http://www.dbi-berlin.de/service/bibres/cleareng.htm

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8.2 INETBIBおよびRABE
 「図書館におけるインターネット」がINETBIBメーリングリスト 31)のメインテーマである。INETBIBは1994年にスタートし、現在、会員は1,800人に上る。議論は時に活発に行われている。1日平均5通が投稿されている。ドイツの新しいウェブサイトやプロジェクトといったインターネットトレンドに関するたくさんの情報を提供している。年に1度の会合 32)は顔をつきあわせて議論をし、プロジェクトの成果を報告する場となっている。1999年のメインテーマは「図書、情報単位と図書館:インターネット上の情報サービスのあり方」(Books, Bytes and Libraries: Integrated information services on the Internet)である。

 RABE 33)(Recherche und Auskunft in Bibliothekarischen Einrichtungen)はStumpers-Lのドイツ版で、レファレンスライブラリアンのためのメーリングリストである。1998年に開始され、会員は600人となっている。これは大学図書館と公共図書館との協力がうまくいっためずらしい例である。

31) http://www.hbi-stuttgart.de/wwwalt/foren/for-deut/inetbi-d.htm
32) http://lx1.ub.uni-dortmund.de/Ibkon/Welcome.html
33) http://www.hbz-nrw.de/hbz/fortbildung/rabe/

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9 国際文化交流

 さまざまなドイツの機関が文化交流の分野で活動している。

9.1 ゲーテ・インスティトゥート
 ゲーテ・インスティトゥート 34)とは、ドイツ語とドイツ文化を促進する非営利の独立した組織である。ドイツ外務省が主に出資している。

 世界76カ国に141のゲーテ・インスティトゥートがあり、そのどれもが

 今日ほぼすべてのセンターは電子メールアドレスを持っており、そのうち94はホームページを作成している。ミュンヘンにあるメインサーバに格納されているが、編集や更新は各々の図書館員、スタッフに一任されている。すべてのページはドイツ語と現地語の少なくとも2バージョンで作成されている。日本にあるゲーテ・インスティトゥートのホームページはドイツ語と日本語の2バージョンとなっている 35)

 ゲーテ図書館における情報サービスはインターネットを利用することによって格段に改善された。

 インターネットは世界規模の組織に非常に役に立つ。センターの図書館員は、電子メールを通してコミュニケーションをとり、フォーラムやメーリングリストを通して討論する。ハンドブックやガイドライン、情報検索ツールはメインサーバに格納されている。図書館同士の協力はインターネットを利用してさらに簡単になった。会議や展示会の準備や専門的なページの更新は、しばしば共同で行っている。

 ゲーテ・インスティトゥート図書館の業務スタイルは、ここ数年で根本的に変化した。WWWはこの変化の大きな要因の1つである。

34) http://www.goethe.de/eindex.htm
35) 東京: http://www.goethe.de/os/tok/jpindex.htm 関西 http://www.goethe.de/os/kan/jpindex.htm
36) http://www.goethe.de/r/eservlis.htm

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9.2 DAAD
 ドイツ学術交流サービス(DAAD)37)は、大学レベルにおけるドイツと諸外国との国際的文化交流を促進しサポートしている。海外の学生や学者をドイツに、ドイツの学生や学者を海外に留学させるインターンシップを進めている。ホームページ上には、交換プログラムやドイツ内外の研究・教育についての情報が、英語、スペイン語、ドイツ語で掲載されている。加えて世界中に広がる支社やプログラムの参加者(卒業生もあわせると134,000人を超える)へのアクセスを提供している。DAADは図書館ではない、しかしホームページは主題別ゲートウェイや世界的な学術ネットワークの具体例となっている。

37) http://www2.daad.de/

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9.3 ドイツ国際文化センター
 ドイツへの別の入り口は、Deutsche Kultur international(ドイツ国際文化センター)38) である。ホームページは国際交流に参加している多くの公共機関の共同プロジェクトである。ページ上には交流プログラム、プロジェクト、美術展、演劇と音楽に関する交流プロジェクトに関する情報を提供している。加えてドイツ文化と国際文化交流にふさわしい図書館、マルチメディアサービス、資料センターの概観も提示している。

 このホームページの目的はドイツとの文化交流に興味のある人にとっての情報センターとなることである。この分野に関するユーザの要求とセンターの情報政策とのギャップが出発点であった。すべての所属機関は自身のプロジェクトやサービスに関する情報は提供するものの、他機関が行うサービスに関してはなかなか提供しようとしていない。このホームページはユーザを手助けするだけでなく、組織自身のネットワーク化の手助けにもなるであろう。

38) http://www.deutsche-kultur-international.de/eindex.htm

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10 インターネット上での情報サービスを成功させるいくつかの要因

 図書館における情報サービスにインターネットを役立てる方法は数多くある。

 マルチメディアプロジェクトになるか学術情報のクリアリングハウスになるかは、図書館やユーザによって決定づけられる。しかし、インターネット上での情報サービスで成功している事例には下記のようないくつかの共通事項が見受けられる。

 よい情報製品(ページ)は、技術的な点の担当者は1人にして、それほど多くないパートナーが協力しあって作成するのがもっとも良いと思われる。それぞれが担当するページの内容については責任を持つ。うかつな運営者よりは、注意深く選んだ投稿者の力量を信じる方が良い。

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11 結論

 インターネットの可能性を考察するにあたり、人々は当初、図書館や図書館員はもはや必要ないのではないかと期待したり心配したりした。今日すでに明らかなように、この予言は当たらなかった。図書館は情報の大海におけるナビゲータとしての役割を果たさなければならない。多くの調査が物語るように、ユーザは図書館を信頼し、必要な情報を見つけだす手助けををしてほしいと願っている。彼らの多くはインターネットへの第1歩を公共図書館あるいは大学図書館から踏み出すのだから。

 インターネットは図書館員にとって単なるツールではなく、図書館を根本的に変化させており、ネットワーク社会への新しい展望を開いた。図書館員が探求すべき魅力あふれる可能性を潜めている。この講演をエリック・ケストナー(訳注:ドイツの小説家)の言葉を引用してしめくくりたい。「君が理解しなけりゃ意味がないんだよ」。

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謝辞

学術情報センターの国際的な講演会ならびに「日本情報の国際共有に関する研究」に参加できることを誇りに思い、国際文化交流および図書館情報サービスの振興に努められる猪瀬博博士に心からの感謝と尊敬の意を表す。

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