学術情報センターにおける事業の国際展開
International Expansion of NACSIS Projects柿本 幸治 (Yukiharu KAKIMOTO)
学術情報センター事業部長1 はじめに
2 国際事業活動
2.1 情報検索サ−ビス(NACSIS-IR)
2.2 目録所在情報サービス(NACSIS-CAT)
2.3 図書館間相互貸借サービス(NACSIS-ILL)
2.4 電子図書館サービス(NACSIS-ELS)
2.5 アジア情報調査活動
2.6 中国との学術情報交流プロジェクト
2.7 WWWによる各種データベースの公開
2.8 国際回線の整備
3 今後の計画等
付表1:海外の情報検索サービス(NACSIS-IR)利用機関一覧
付表2:海外への情報検索サービス(NACSIS-IR)提供データベース一覧
付表3:海外の目録所在情報サービス(NACSIS-CAT)利用機関一覧学術情報センタ−(以下、NACSISとする。NACSIS: National Center for Science Information Systems)が学術情報の国際流通の促進に貢献することを目的の一つとしていることは、設立の趣旨にも謳われているところである。NACSISでは、学術情報の国際的流通を図るため、米国、英国、タイ王国への国際専用回線の設置等により、学術情報ネットワークの国際的な整備・拡充を推進するとともに、目録所在情報サービス及び情報検索サービスを、広く海外の研究者、研究機関等に提供する事業の国際展開を行ってきた。近年の国際的な相互依存関係の深化は、学術研究の分野においても例外ではなく、日本で生産される学術情報に対する海外からの要求がますます高まっている。NACSISが、日本の学術情報を提供する代表的な機関であるということが海外にも周知されるにつれ、NACSISに対する学術情報提供の要望及びサービス拡充の要望も増加してきた。
また、近年学術研究ネットワ−クが非常に進歩している米国や欧州においては、研究者間の情報流通は、インタ−ネットの利用により全世界的規模で広く行われており、日本国内においても、米国・欧州と同様にインタ−ネットの利用が増大しつつある。より広域で高度な学術研究活動の促進、情報資源の有効活用のためには、海外の研究者及び研究機関との情報交換が必須の要件であることが、NACSISの国際事業の拡大の根拠となっている。
2.1 情報検索サ−ビス(NACSIS-IR)
我が国が生産した学術情報の国外提供を促進することにより、国際的規模で学術研究の発展に寄与することを目的として、NACSISの情報検索サービス(以下、NACSIS-IRとする)を海外に提供している(資料1を参照)。海外提供は、米国国立科学財団(NSF)、米国議会図書館(LC)、英国図書館(BL)での代行検索による試行実験から始まった。NSF、LCでは、平成元年1月から平成5年8月まで、BLでは平成2年2月から平成7年3月まで実験が行われ、日本情報の需要の手応えを得た。一方、後述する英国CATプロジェクト参加館でも試行利用され、海外からの接続手順、利用者サービス等について経験を積んだ。
この経験を踏まえて、平成5年8月よりインターネットによる海外の大学及び学術研究機関等に対するNACSIS-IR有償サービスを開始し、平成7年6月からは、全文データベースの海外へのファックス出力を開始した。また、海外からの利用を促進し、より有効な利用を図るため、英文版による「NACSIS-IRの利用の手引」を作成した。この手引きは、Gopher、Anonymous ftp、及び WWW(World Wide Web)からも利用できるようにした。
現在、海外利用者へ提供されているデータベースは46種である。平成12年1月より、新情報検索システムを公開し、ブラウザを利用したWWW検索や、全文検索エンジンによるデータ検索を提供する予定である(資料2を参照)。
2.2 目録所在情報サービス(NACSIS-CAT)
目録所在情報サービス(以下、NACSIS-CATとする。)は、日本国内の大学図書館等で所蔵する資料の目録情報を効率的に作成し、広く国内外に提供することにより、学術情報の国際流通を促進するとともに、海外の日本研究機関で所蔵する日本語資料の組織化に寄与することを目的としている。現在は、英国の日本語資料を扱う研究図書館を中心に利用されている。英国内の参加館の多くは、平成3年3月から平成7年3月まで英国で行われたパイロットプロジェクトを経て、平成7年4月から正式な参加組織となった。
英国のパイロットプロジェクトは、平成元年10月に開催された欧州日本情報専門家協会(EAJRS:European Association of Japanese Resource Specialists)の設立会合に端を発する。同会議において、欧州の日本語情報の総合目録作成にNACSIS-CATを使用することが提案・検討され、その旨がNACSISに伝えられた。NACSISは、英国が欧州における日本情報の収集・研究の中心地であること、英国図書館とは、NACSIS-IR提供のため国際回線で接続されていたこと、さらに、英国図書館を介して英国学術研究ネットワークJANETが利用可能であることを考慮し、まず英国図書館と5大学図書館(ケンブリッジ、オックスフォード、シェフィールド、スターリング、ロンドン)との間で、NACSIS-CATを使ってオンラインによる日本語資料の目録作業を行うパイロットプロジェクトを立ち上げた。英国側の取りまとめは英国図書館が当たった。
パイロットプロジェクトは、NACSIS-CATを使って英国内の日本語出版物総合目録を形成することの実行可能性を検討した第1フェーズ(平成3年3月〜平成4年3月)と、参加館による日本語出版物総合目録の形成を目的とした第2フェーズ(平成4年4月〜平成7年3月)に分かれ、各期とも英国側から報告書が提出されている。なお、日本語出版物総合目録の形成はケンブリッジ大学図書館が中心となり、同大学図書館内に作成された。
接続方法は、当初NACSIS-BL国際専用回線及びJANETを利用したパケット交換方式であったが、インターネットの普及及びIP化に伴いTCP/IPによる接続に移行し、現在はNACSISが設置した欧州ネットワーク(TEN-155等)向けの2Mb/sの専用回線を利用している。また国内で個別版CD-ROMの提供が開始されたことに伴い、英国参加図書館総合目録のCD-ROMの提供も始めた。平成10年4月からは国際交流基金ロンドン日本語センターでも所蔵登録が開始され、平成11年8月末現在、英国内参加館の所蔵登録件数は、127、000件を超えている。
これら英国内のほか、平成8年度から、ストックホルム大学(スウェーデン)及びチューリヒ大学(スイス)におけるプロジェクトが行われており、欧州における日本語資料総合目録の作成に、NACSIS-CATが今後ますます寄与していくことが期待される。さらに、国際交流基金バンコック日本文化センター(タイ)が平成9年度から、北京日本学研究センター(中国)が平成10年度から利用しており、アジアにおいても、日本語資料の組織化が開始されている。
2.3 図書館間相互貸借サービス(NACSIS-ILL)
平成6年4月、NACSIS-ILLと英国図書館原報提供センター(BLDSC)の相互貸借システム(ARTTel)が接続され、国内参加機関からBLDSCへの文献複写及び現物貸借の申込みを開始した。これにより、世界最大の原報提供機関であるBLDSCへも、国内の機関と同様に、NACSIS-ILLを用いて依頼できるようになった。また、日米両国間の学術情報流通を促進するため、米国でILLシステムを提供しているOCLC(Online Computer Library Center)及びRLG(Research Libraries Group)との間で、ILLシステム間の相互接続を実現するよう、日米両国におけるドキュメント・デリバリーサービスの改善に関するプロジェクトをNACSIS内に設置し、検討を開始している。
なお、平成6年4月からケンブリッジ大学及びオックスフォード大学からの文献複写試行利用を開始したほか、平成9年1月からタイの機関からの文献複写試行利用を実施している。
2.4 電子図書館サービス(NACSIS-ELS)
平成9年4月から、学術雑誌を電子化し研究者に学術文献の原文を迅速かつ容易に提供する電子図書館サービスを開始した。学術団体(学協会)から提供を受けた学会誌・論文誌を当面の対象とし、平成11年1月から海外の研究者等への提供を開始している。パーソナルコンピュータ等により、インターネットを介して、掲載記事の標題や著者名等からの検索や、本文ページをイメージデータとして取り込んだ画像データの表示・印刷が可能となっている。2.5 アジア情報調査活動
平成7年度から3年計画で、アジア地域の情報流通促進を図るため、国際交流基金アジアセンター助成研究「アジア・スーパーハイウェイ上のアジア情報」が開始された。その一環として、第1の主要国をタイに限定し、タイにおけるNACSIS-IR及びNACSIS-CATの普及を目的として、平成8年度から「タイ‐オンライン‐プロジェクト」を実施した。バンコックにおける現地研修や、NACSIS-IR及び文献複写の試行利用、その他種々の調査活動を行った結果、平成9年度に実施した外部評価では、アジア地域への情報支援及び調査活動を、さらに継続する必要性が指摘された。平成10年度以降、タイにおけるNACSIS-IR及び文献複写の試行利用を、引き続き実施している。
また、WWWのホームページ上で公開しているタイ関連情報の充実を図っている。(http://thaigate.rd.nacsis.ac.jp/)
2.6 中国との学術情報交流プロジェクト
平成10年度から日本と中国との間の学術情報流通の促進を図ることを目的とした中国との学術情報交流プロジェクトが開始され、3年間の計画で、北京日本学研究センター図書資料館の情報化支援を実施している。平成10年度は、現地での情報化支援ワークショップや図書業務に関連する研修等を実施した。平成11年度は、図書業務システムの導入に伴い、継続して支援を行っており、平成11年8月末現在の所蔵登録件数は13、000件を超えている。2.7 WWWによる各種データベースの公開
総合目録データベースをインターネット上でWWWにより検索可能な総合目録データベースWWW検索サービス(Webcat)は、平成10年4月から本運用を開始し、現在1日当たりの平均検索回数は20、000回以上となっている。また、大学等における研究者の公募情報を網羅的に収集・提供する研究者公募情報提供サービスを、平成9年5月から開始している。
さらに、平成11年6月からは、大学等の研究活動を総覧する情報提供サービス(研究活動資源ディレクトリ)を開始し、大学等の研究機関が有する研究資源(研究機関、研究者、研究施設・設備、研究課題等)に関連する種々の情報を、収集・提供している。
2.8 国際回線の整備
NACSISでは、学術情報基盤である学術情報ネットワークの海外との通信を確保し、学術情報の国際流通促進を図るため、米国、欧州(英国)、タイに、それぞれ国際専用回線を設置している。
平成7年度に、アジア地域における情報流通基盤整備の一環として、タイとの間に2Mb/sの国際専用回線を新設し、タイを始めとするアジア地域との情報交流の促進を図っている。また、平成8年度には、平成元年から設置していた欧州(英国)との間の国際専用回線を2Mb/sのに増強し、欧州(英国)との情報交流の促進及び英国CAT利用機関の通信状況改善を図っている。
さらに平成10年度は、昭和63年から設置していた世界の情報交流の起点となっている米国との間の国際専用回線を150Mb/sに増強した。これにより、国内回線と同等となり、飽和状態となっていた対米国への通信状態の改善を図った。
今後も、国際情報交流の一層の進展にともなう通信量の増加に対応し、増強を図っていく予定である。
以上、センターの国際事業は、サービスの試行利用の初期段階を経て、正式運用の段階に入り、かつその範囲を拡大しつつある。今後は、各サービスの海外への提供を拡大していく他、情報資源の相互利用の可能性を拡大する方向を探る必要がある。
一方解決すべき課題としては、@言語の問題、A利用料金及びその徴収方法、B利用者研修、C利用に係るシステム互換性、等が挙げられる。
英国(127,906件) 英国図書館東洋オリエンタルコレクション
オックスフォード大学ボドリアン図書館附属日本研究図書館
ケンブリッジ大学図書館
シェフィールド大学東アジア図書館
スターリング大学図書館
ロンドン大学東洋・アフリカ研究学部図書館
国際交流基金ロンドン日本語センター図書館
大英博物館日本美術部門タイ王国(7,957件) 国際交流基金バンコック日本文化センター図書館 中国(13,193件) 北京日本学研究センター スイス(383件) チューリヒ大学* スウェーデン(3,474件) ストックホルム大学* ドイツ ハイデルベルク大学日本学研究室*
デュースブルク大学東アジア研究所*ベルギー ルーバンカトリック大学東アジア図書館* 注)( )内は、図書所蔵登録件数(平成11年8月末現在)
*は試行利用機関(ドイツ及びベルギーの各機関は、教育用システムを利用中)Top
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