目次へ

国立国会図書館における国際協力
International Cooperation of the National Diet Library

門 彬 (Akira KADO)
国立国会図書館図書館総務部国際協力課長

1 はじめに
2 国際的な図書館関係団体との協力
 2.1 国際図書館連盟(IFLA)
 2.2 国立図書館長会議(CDNL)
 2.3 アジア・オセアニア地域国立図書館長会議(CDNLAO)
 2.4 アジア太平洋地域議会図書館長協会会議(APLAP)
 2.5 ISDS日本センター

3 国際交換とILLによる日本情報の発信
 3.1 国際交換
 3.2 国際ILL

4 国立国会図書館関西館(仮称)での国際協力
 4.1 文献情報の提供
 4.2 アジア文献情報センター(仮称)の設立
 4.3 研究開発及び研修・交流

ABSTRACT
The National Diet Library (NDL), which celebrated its fiftieth anniversary last year, is in the middle of unprecedented transformation on the threshold of the century, when documents, information and the surrounding environment are undergoing dramatic changes. It will open the International Library of Childrenユs Literature next year (2000) and the Kansai-kan (tentative name) in 2002. The NDL is now reviewing its activities and organization so that the three libraries, including the present Tokyo main library, will be in tandem with one another.
The NDL has been cooperating with the International Federation of Library Associations and Institutions (IFLA), the closely-connected Conference of Directors of National Libraries (CDNL) and other international library organizations. Based on the international standards set by those, we are developing cooperation with both domestic and foreign libraries. In particular, the Library acts as the IFLA PAC (Preservation and Conservation, one of IFLA's Core Programmes) Regional Centre for Asia. It also puts emphasis on cooperation among national and parliamentary libraries in the Asian region such as the Conference of Directors of National Libraries of Asia and Oceania (CDNLAO) and the Association of Parliamentary Librarians of Asia and the Pacific (APLAP).
The NDL has been promoting global dissemination of documentary information of Japan by JAPAN/MARC and its newly developed UNIMARC version. It is also in charge of issuing ISSN as the Japanese National Centre for ISDS.
International exchange of library materials is another of our important activities, which contributes to the delivery of information on Japan and the acquisition of information on foreign countries. We have 887 organizations in 150 countries and 6 regions and 49 international organizations as exchange partners. The recent revolution in information and telecommunications will enormously alter the exchange of traditional paper materials. NDL also carries out international ILL, based on the IFLA guidelines, such as loans and photoduplication of materials and reference services.
We will enhance our library cooperation activities in the Kansai-kan, which will be built upon our achievements to date. First, it will provide advanced documentary information services, including those of the digital library. Second, it will establish an Asian Information Resource Center (tentative name) and collect and organize documentary information on the Asian region and make them available widely both inside and outside Japan. Third, it will cooperate with domestic and foreign organizations for research and development in the field of library information science, and plan and carry out national and international training programs to support various kinds of libraries and librarians. A research development /training center will be set up for the purpose.

Top

1 はじめに

 国立国会図書館(以下NDL)は1948年に国立国会図書館法によって設立され、昨年創立50周年を祝いました。50年の間に培ってきた国の内外に対するさまざまな協力活動には、十分とは言えないまでも、いささか自負するものもないわけではありません。しかしながら、世紀の変り目にある今日、文献および情報の多種多様化、情報処理、通信の分野における技術革新など図書館を取り巻く劇的な変化の中にあって、国立図書館としてNDLに課せられた役割も大きな変容を迫られております。来年、2000年5月には現在の支部上野図書館に「国際子ども図書館」を開館することになっており、2002年には関西文化学術研究都市に「国立国会図書館関西館」(仮称)を開館する予定です。現在、東京本館を含め、3館が一体となって円滑に機能するよう、館内のあらゆる業務、機構の見直しが行われているところです。

 そもそも国立図書館とは国際的には大要次のように定義されております。すなわち「納本図書館としてその国の出版物を網羅的に収集・保存し、全国書誌を作成し、大規模な外国文献コレクションを所蔵し、国内書誌情報センターの機能を持ち、総合目録の編纂、遡及的全国書誌を刊行する図書館」(注)であります。これが後述する国立図書館長会議(CDNL)の参加要件ともなっております。NDLはこのような国立図書館としての基本的な役割を担い、それを背景にして諸活動を遂行しております。国際協力活動もその例外ではありません。
(注)「図書館統計の国際標準化に関する勧告」(UNESCO 1970)より

Top

2 国際的な図書館関係団体との協力

2.1 国際図書館連盟(IFLA)
 NDLは1976年にIFLAの正式機関会員となりました。ときあたかも日本が世界の中で驚異的な経済成長を遂げ、さまざまな分野で国際化が叫ばれ始めていた頃のことです。10年後の1986年にはIFLA東京大会が開催されることになります。会員となって以来、当館は現在までIFLAのいくつかの常任委員会に委員を出し、さまざまな協力活動を行ってきました。以下にこれらの活動の一端を紹介します。

 IFLAの5つのコア・プログラムのうちの1つ「保存プログラム」(PAC)において、NDLは1989年に世界5地域のうちの1つ、アジア地域のセンターに指定されました。1990年以降ほぼ毎年のように国際シンポジウムを開催してきたほか、アジアの発展途上国から研修生を受入れ、また相手国(機関)からの要請に応じて専門職員を派遣し、指導・助言を行ってきております。1999年の11月には10年目を記念して国際シンポジウムの開催を予定しております。
 PAC以外にも、NDLは例えば世界書誌調整・国際MARCプログラム(UBCIM)に深く関与し、その結果JAPAN/MARCを開発し、内外に対する日本の書誌情報の流通に寄与してきました。1990年にはUNIMARC常設委員会が設立されましたが、NDLはほぼ毎年この委員会に職員を派遣してきております。最近JAPAN/MARCのUNIMARC版の開発を終えましたが、これによって近い将来、日本の書誌情報が国際的により利用しやすくなるものと思われます。

 このほか今年度からIFLAの児童・ヤングアダルト図書館分科会に常任委員を出しております。これは、はじめに述べました当館の「国際子ども図書館」が、将来、内外の児童書を広範に集め、かつ電子図書館機能を駆使して、国内のみならず、世界に向けた子ども図書館として、この分野で国際的な役割を担うことを目指しているからにほかなりません。

Top

2.2 国立図書館長会議(CDNL)
 NDLが国際協力を政策的に推し進めていく上で、IFLAとともに重要視しているものに、各国の国立図書館長が一堂に会する国立図書館長会議(CDNL)があります。この会議は、UNESCOの図書館振興政策およびIFLAの国立図書館分科会と密接に連動し、会議も毎年IFLA年次大会に合わせてその開催地で開かれます。テーマも電子出版物の納本制度、デジタル時代における著作権の問題、武力紛争・災害から図書館等の文化財を守る対策など、その時々に世界の国立図書館が抱える重要課題が取り上げられるほか、途上国の国立図書館支援などが議題として討議に付され、一定の方針が出されます。

Top

2.3 アジア・オセアニア地域国立図書館長会議(CDNLAO)
 CDNLと連動し、その地域版とも言えるアジア・オセアニア地域国立図書館長会議(CDNLAO)という会議があります。これはこの地域の国立図書館の相互協力、図書館振興を目指して1979年に発足し、3年に1度開催されます。当館は1982年の第2回東京会議を主催し、以来、域内の相互理解を深めることを目的とするこの会議のニュースレターの編集・刊行を引き受けております。

Top

2.4 アジア太平洋地域議会図書館長協会会議(APLAP)
 1988年のIFLAシドニー大会において、議会図書館分科会が地域別の会議を開きましたが、それが機縁となってアジア太平洋地域の議会図書館が結集し、地域内の相互連携を目指すアジア太平洋地域議会図書館長協会会議(APLAP)が設立されました。1990年以来2年に1度開催されていますが、来年の第6回会議は「議会図書館―新時代における調査・情報サービス」というテーマで当館が主催し、東京で開催することとなっております。

Top

2.5 ISDS日本センター
 ISDS(国際逐次刊行物データシステム)は世界中で刊行される逐次刊行物を国際逐次刊行物番号(ISSN)で識別可能とするためのもので、出版国ごとにISSNを付与した書誌データをパリの国際センターに登録するシステムです。国際センターは1972年にUNESCOとフランス政府の共同で発足しましたが、当館は、翌年UNESCOの依頼を受け、ISDS日本センターを引き受け、この文献情報の国際的流通事業に毎年財政的支援を行う一方、我が国で刊行される逐次刊行物に日本センターとしてISSNを付与しています。パリのセンターに登録しているタイトル数は1999年3月末現在28,053件にのぼります。

Top

3 国際交換とILLによる日本情報の発信

3.1 国際交換
 NDLにおける国際協力の最も古典的な形である資料の国際交換は、1948年の創立以来、戦前の帝国図書館の業務を引き継いで行ってきております。現在は1958年UNESCOで採択され、我が国では1984年に批准された「国家間における公の出版物及び政府の文書の交換に関する条約」(1984年条約第7号)に依拠して実施しております。これは、NDLに納本される複数の官庁資料(政府機関、地方自治体、国公立大学等の出版物)を使って行う資料の国際交換活動です。出版物の国際交換は諸外国の資料収集という側面と自国の出版物を世界に流布する、すなわち日本情報を世界に向けて発信するという2つの側面を持っております。NDLは、1998年度末現在、世界の150カ国6地域、887機関、さらに49の国際機関と資料の交換を行っております。

 高度情報社会と言われる今日、知識や思想の交流は、紙媒体の資料交換から電子媒体による情報流通に移行しつつあるかに見えます。とりわけ先進諸国では行政資料や議会資料などいわゆる官庁資料の電子化が急速に進展しており、インターネットによる情報発信、情報収集が日毎に拡大してきております。国際的な情報流通のあり方も来世紀には大きく変わっていくことになると思われます。当館も今年度から国会会議録をWEB上で公開し始めましたが、今年度中に1948年の第1国会まで一挙に溯って電子化し、来年度中にはこれらをすべてWEB上で利用できるようにする予定です。

Top

3.2 国際ILL
 IFLAの5つのコア・プログラムの1つに「資料の国際的利用」(UAP)があります。加盟国が国内で入手できない資料を迅速かつ経済的に外国から取り寄せることを目的として、IFLAは資料の国際的な貸出と複写について制度の整備を訴え、数次にわたって勧告を出してきました。これは強制力をもつものではありませんが、ILLについて国際的なガイドラインとなっております。NDLではIFLAに加盟する以前の1953年から国際複写サービスを、1960年から国際貸出を行ってきておりますが、現在では両サービスともIFLAのガイドラインに準じた当館独自の規則に則って実施しております。また貸出・複写とは別に、NDLは海外からのレファレンスにも積極的に応じております。

@国際貸出サービス
 NDLでは資料の貸出は図書館および研究機関に対してのみ行っております。貸出は原則として戦後刊行された図書のみを対象とし、期間は発送・返却期間を除く1ヵ月、発送費用(航空書留)はNDL側が、返却費用(同)は利用機関が負担することとしております。資料の借受けそのものは無料です。年間の貸出冊数については、80年代は平均150冊程度でしたが、ここ数年増加の一途を辿っており、昨年度は473冊貸出しました。

A国際複写サービス
 海外に向けた複写サービスは大学図書館や研究機関は言うまでもありませんが、個人からの要求にも応じております。日本の著作権法に則り、当館所蔵資料から、個人の研究調査に必要とする資料のコピーを有料で提供しております。料金は後払いで、利用者が国際郵便為替、銀行振込み、銀行小切手のいずれかで支払うこととなっております。
 この料金決済方法が国際複写サービスを進める上で最大の障害となっております。外国に対して複写サービスの代価を請求する場合、他国の通貨を自国通貨に換金する銀行手数料を複写料金に加算せざるをえず、これが複写製品の代価よりはるかに高くつくからです。IFLAはこの問題を回避するため、バウチャー制度という独自の制度を提唱し、1995年から実施しております。これは、各国(各図書館)の会計処理を簡便に済ませるために、国を越えた図書館間で何度でも再利用できる国際貸出・複写専用のプラスチック製の金券、すなわちバウチャーをIFLAが発行し、世界中の図書館間で流通せしめようというものです。NDLはこの制度を発足させるにあたり、IFLAにファンドの一部を拠出しましたが、国の財政法、会計法など法律上の問題でこの制度を導入するにいたっておりません。海外との料金決済の問題は、日本ではNDLだけでなく国立大学図書館など国の機関に共通の課題であります。日本情報を外国に向けて積極的に発信していくために、NDLは国立大学図書館などと連携して、一刻も早くこの問題の打開策を見出したいと考えております。

 いずれにせよ、NDLは、ここ数年、年間約2000件の複写サービスを海外に対して行っております。これは海外からのリクエストの80%以上を充たしておりますが、残りの多くが当館で未所蔵ないし欠号であったり、また資料が製本の工程に入っていて即座に使えない、というケースにあたります。こうした場合にも大学図書館などと共同して、国内で相互にバックアップする体制を制度として確立できればと考えております。

B国際レファレンス
 NDLの国際サービスで国際貸出、複写サービスと並んで重視しているものにレファレンス・サービスがあります。ここ数年、年間約130件の海外からのレファレンスに回答しております。内容は90%以上が日本に関するもので、古典文学、歴史から現代の政治、経済、社会、人文、芸術まで多岐にわたっております。所蔵資料の問い合せや初歩的な質問には即座に回答できますが、博士論文作成等のための高度な質問も少なくなく、こうしたレファレンスは各専門の部署に回付して、綿密な文献調査を行った上で回答を作成し、英文に翻訳して答えております。このサービスは難易度に関わらず無料で行っております。

Top

4 国立国会図書館関西館(仮称)での国際協力

 はじめに述べましたように、NDLは2002年の開館を目指して、目下関西館の建設を進めております。関西館は、出版物の増大、メディアの多様化、情報処理技術、通信技術の発展に対処し、国会をはじめ、行政・司法部門、さらには一般国民と広く世界の人々に対して新たな図書館サービスを提供していく拠点となる施設です。以下にNDLが関西館で計画している主な事業のうち、国際協力に関係するものを簡単に紹介しておきます。

Top

4.1 文献情報の提供
 関西館においては、図書館サービスの重要な柱である文献及び文献に関する情報について、電子図書館サービスを含め、迅速に内外に提供できるよう、より高度なサービスを展開していくことを目指しております。グローバル化、ボーダレス化が言われている今日、NDLは、先に述べた文献提供サービスを国内、国際を区別することなく一本化し、内外ともに同じレベルのサービスを提供していきたいと考えております。このために、現在、法規上の理由で無償公開が実現できないでいる和図書のデータベース(JAPAN/MARC)、逐次刊行物目録データベース、雑誌記事索引データベースなど、NDLの作成になる書誌情報を世界のどこからでも利用できる体制を作らなければなりません。これが関西館開館までにNDLに課せられた最重要課題の1つです。

Top

4.2 アジア文献情報センター(仮称)の設立
 21世紀には、アジア諸国・地域の政治、経済、社会、文化等に関する情報ニーズはこれまで以上に多様化し、増大することが予想されます。アジア文献情報センターはこうしたニーズに応えるため、最新のアジア情報を収集・整備して、広く内外に提供・発進する拠点となることを目指しております。

Top

4.3 研究開発及び研修・交流
 関西館では、図書館業務の発展を図るため、図書館情報学、資料保存および修復技術等々に関する調査・研究開発を実施していくことを計画しております。また各種の図書館員の資質向上と知識・技術の取得に資するため、NDLの豊富な人材と膨大な資料を活用して、全国的、国際的な研修プログラムを企画・実施し、さらに海外の図書館関係機関に対して必要な専門家を派遣するなど、人的・知的交流センターとなることを目指しております。とりわけ、海外の日本研究機関とそこで働く図書館員に対する支援、またアジア近隣諸国の図書館(員)との協力・交流をこれまで以上に深めていきたいと考えております。

 上記@、A、Bのいずれの事業においても、NDLのみで推進していくことはできません。本日のワークショップを主催された学術情報センターをはじめ、参加された各機関の協力がなければ成就できない事業ばかりです。新しい時代の国際交流は堅固な国内協力の上に立ってはじめて成立するものと考えております。皆様方のご支援、ご協力をお願いいたします。

Top