English

目次へ

国立国会図書館における海外図書館職員に対する研修活動
The NDL Training Programs for Librarians Abroad

枝松 栄 (Sakae EDAMATSU)
国立国会図書館図書館研究所長

1 はじめに
2 NDLにおける海外図書館との職員交流及び研修生の受入れ
 2.1 研修生の受入れについて
 2.2 海外図書館職員に対する主要な研修 − 評価と課題
  2.2.1 職員交換プログラム
  2.2.2 「日本語資料の整理と図書館の機械化」
  2.2.3 日本研究司書研修
  2.2.4 資料保存に関する研修
  2.2.5 国会サービスに関する研修

3 国際子ども図書館の海外向け研修交流活動
4 関西館における研修交流事業
付表 海外から受入れた研修生及び研修内容 ― 1989年以降

1 はじめに

 前回のワークショップ-1では、国立国会図書館(以下NDL)が国を代表して行う国立図書館としての国際協力活動、@国際的な図書館関係団体との協力、A国際交換とILLによる日本情報の発信、B2002年に開館予定の国立国会図書館関西館(仮称)(以下関西館)での国際協力について概要を報告した。

 本日は、国際協力活動の一環としてNDLがこれまで実施してきた海外図書館職員に対する研修、図書館職員の交換及び今後関西館、国際子ども図書館(2000年に一部開館)で想定している研修交流事業について報告する。

TOP

2 NDLにおける海外図書館との職員交流及び研修生の受入れ

2.1 研修生の受入れについて
 研修生の受入れは、「受託研究員及び受託研修生に関する件」(1987)という決定事項に基づき、相手方からの委託の申請を受けて受託研究員または受託研修生として受入れる。研究員の受入れ期間は6ヶ月以内、研修生は3ヶ月以内となっている。

 研修の内容は、概ね次の三つのカテゴリーに分かれる。

@NDLの図書館業務全般にわたるもの、日本語資料の整理と図書館の業務機械化に関するもの(例えばJAPAN/MARCの作成過程について)、NDL所蔵資料等に関するもの
A資料保存にかかわるもの
B国会サービス、調査・立法活動にかかわるもの

 図書館情報学関係の研修は図書館研究所が中心となって研修プログラムを作成し、実施にあたっている。その他資料保存、国会サービスにかかわる研修についてはそれぞれ関係の部局が担当する。

 研修生は世界各国に広がっているが、別添の参考資料「海外から受入れた研修生及び研修内容 −1989年以降」のとおり、アジア地域からの研修生が圧倒的に多い。

 研修は、申請のあった業務を担当する職員が各現場で講義及び実習形式で行う。保存研修は実習が中心である。また関連機関の視察(学術情報センター、国文学研究資料館等)を含む場合もある。期間は、通常1〜2週間程度である。

TOP

2.2 海外図書館職員に対する主要な研修 ― 評価と課題
 これまでNDLが実施した主な研修および職員交換プログラムについて、評価と課題をふくめて以下に紹介する。

2.2.1 職員交換プログラム
(1)1983年、国際交流基金からのフェローシップを得て英国図書館との職員交換計画が実現し、東洋写本刊本部から職員を受入れ、NDLからは職員を派遣した。このプログラムは両館から職員を1名づつ3〜4ヶ月間程度相互に派遣し、研修を通じて両館の業務に対する知識と理解を深め、相互協力を図るというものであった。その後この職員交換は、2回(1988年、1992年受入れ)にわたって継続されたが、現在は実施していない。
(2)1986年には、中国国家図書館とも職員交換が実現したが、これは1回で終わったままである。同館とは1981年以来毎年交互に代表団を派遣して業務交流を行い、共通の課題について意見交換を続けており、研修を目的として一定期間職員を相互に派遣する可能性について、昨年以降再び検討を始めた。

 こうした長期研修を可能とする人物交流プログラムは双方にとって非常に有効にはたらくケースが多い。しかし、@言語の壁(日本で受入れる場合、日本語能力は必須である)A経費、B研修のテーマ等実現に向けての課題は少なくない。

2.2.2 「日本語資料の整理と図書館の機械化」
 先に述べた受託研究員・研修生制度を計画的、継続的なものにするために、1993年にアジア太平洋地域の国立図書館23館に対して、NDLの研修への関心等に関するアンケート調査を行ったところ、17館から強い期待が寄せられた。これに基づき、1994年3月、JAPAN/MARCの作成を中心とする「日本語資料の整理と図書館の機械化」をテーマに、中国、韓国、オーストラリアから受託研修生を各1名10日間受入れ、第1回海外司書短期研修を行った。研修は日本語で実施し、研修生からは有益で収穫が大きかったという評価を得た。しかし、複数国の研修生に対して行う研修プログラム作成にあたっては、各研修生の事情や要望が異なる場合があり、プログラムに柔軟性をもたせる等の工夫も必要であることがわかった。

 第2回は、同年11月にモンゴルから2名の研修生を受入れた。その後この研修は継続されなかったが、次に述べる「日本研究司書研修」に事実上受け継がれている。

2.2.3 日本研究司書研修
 この研修は、国際交流基金の招聘事業の一つとして、1997年2月に国際交流基金、国際文化会館、学術情報センター、NDLの協力で第1回日本上級司書研修と題して実施された。研修は、海外で活躍する日本研究司書11名を招き、約3週間にわたって、日本情報の知識の更新、それにかかわる新技術の習得、人的ネットワークの形成を目的に実施され、所期の目的を十分に達成することができた。

 1998年1〜2月に12名の日本研究司書を招き第2回が実施され、翌年の第3回からは日本研究司書研修と名称が変わった。本年度も研修生の募集がすでに終わり、来年1〜2月に第4回研修が実施予定である。

 海外から日本情報へのアクセスを保障することは、NDLの重要な責務の一つであり、海外の図書館等で日本関係資料、日本情報に携わっている人たちへの研修は、将来関西館で企画する海外向け図書館員に対する研修の最も重要な柱になると考えている。

2.2.4 資料保存に関する研修
 NDLはIFLA/PAC(資料保存プログラム)のアジア地域センターを引き受けており、その活動の一環として研修生を受入れている。研修のニーズに関するアンケート調査でも資料保存に対しては非常に強い関心が示された。

 研修は、資料保存に関する基本的認識と修復技術の向上を目的として、アジア地域を中心に要請に応じて研修生を受入れ、実技を含めた講習を行っている。日本の和紙を使った修復技術への関心は世界的に高く、研修の希望が数多く寄せられており、定期的な研修コースを設置する要望も多い。

 なお、資料保存に関しては研修生を受入れるばかりでなく、招聘によりNDLから専門家を派遣し、現地で人材育成に協力することもある。また、最近は国際協力事業団青年海外協力隊から依頼を受けて、海外に派遣される隊員に対し資料保存に関する研修を行うケースも出てきている。

2.2.5 国会サービスに関する研修
 調査及び立法考査局の調査業務に関連する部分については、同局が独自に受託研究員、研修生を受け入れて研修を行っている。

TOP

3 国際こども図書館の海外向け研修交流活動

 支部上野図書館であった施設が新たに生まれ変わり、2000年5月5日国際子ども図書館として開館する。施設の改修工事の関係で全面開館は2002年の予定である。

 国際子ども図書館は、子どもの読書環境・情報提供の環境整備に資するため、児童書・関連資料を収集保存し、子どもへの出版文化に関する広範な調査・研究を支援するナショナル・センターとして設立される。同時に子供たちに対して各種のサービスを提供する施設ともなる。

 子ども図書館の基本的役割の一つに挙げられている、関係諸機関との連携・協力と国際的役割を果たすために、国際的な研修交流活動をすでに準備しつつある。

 1999年3月、国際子ども図書館準備室と国際協力基金との共催で「アジア子ども図書館関係者グループ招聘事業」を実施した。アジア地域の9か国から児童書及び児童図書館サービスの専門家が10名来日、国内関連機関を視察の後、ワークショップを開催した。本年度も国際協力基金との共催により、中南米7か国から関係者を招聘して11月に前回と同様のプログラムを実施する予定である。

TOP

4 関西館における研修交流事業

 関西館は、関西文化学術研究都市の中心地区に、2002年の完成をめざし昨年秋に着工された。関西館は、@図書館資料の大規模収蔵 A文献情報の提供 Bアジア文献情報の提供 C図書館協力 D図書館・情報関係分野の研究開発及び研修の5つの基本機能を持ち、開館後は、東京本館と相互に補完し、NDLの機能強化を図る予定である。

 新しい図書館協力の拠点となる関西館には、研究開発・研修交流業務系を設置し、国内外の各種図書館職員を対象とした図書館情報学及び図書館業務全般、電子図書館、資料保存等に関する研究開発・研修交流事業を展開する。

 従来の相手機関から依頼・委託を受けて研修を行うという形ばかりでなく、NDLが独自に研修プログラムを企画立案して図書館現職者を対象に各種の研修を行い、同時に館種を超えた交流の場を提供する。

 現在のところ、関西館開館以後に想定している館外向け研修事業のカテゴリーは次のとおりである。

4.1 図書館情報学関係テーマ別研修
 図書館界全体の必要性を受けて、NDLに裏付けとなる資料やノウハウがあり、また
研究開発の成果の還元が可能と考えられる以下の三分野について、各館種の中堅職員を主な対象とする。海外からの図書館職員も対象とするが、研修は日本語で行う予定。

* 電子図書館:基礎技術、コンテンツ作成方法、著作権処理等
* 図書館業務:資料保存、書誌コントロール、標準化、レファレンス等
* 主題情報:法令議会情報、政府情報等主題情報について当館が所蔵する資料・情報だけでなく、館外にある情報(電子情報も含む)へのアクセス、取り扱い方等

4.2 対象者限定研修
* 上級者セミナー:特定テーマ(例、メタデータ)に関する、図書館情報学外の専門家を含めた発表・討論を中心とする。
* 学生・大学院生・社会人(図書館関係者)の受入れ( インターンシップ制):一定期間受け入れて、NDLの資料・業務に基づく調査研究にあたる。
* 外国人向けプログラム:現行例として、日本研究司書研修、資料保存研修

4.3 各図書館で行う研修のバックアップ
* 研修講師等研修情報の提供
* 教材開発
* 研修担当者・研修講師の育成
* 研修機器の開発整備

 ここに挙げた研修プログラムは、関西館開館当初に実施できるものばかりではなく、段階的に実施可能なものが多くあり、それらの切り分け、実現可能性の検証が必要である。スタッフ・施設・予算等関西館における研修交流事業の実現に向けて重要な課題は今後にまだ多く残されているが、図書館情報サービスにかかわる内外の人材育成にNDLとして貢献できるよう鋭意努力を続けて行きたいと考えている。

 最後にこうした事業を行うには、関連機関の連携協力を得なければ実現は困難であり、ワークショップの参加者をはじめ関係機関の皆様方の今後のご協力とご支援を切にお願いする次第である。

TOP

海外から受入れた研修生及び研修内容 ― 1989年以降
(国立国会図書館)
図書館業務全般、日本語資料の整理と図書館の業務機械化等 資料保存 国会サービス
平成元年度(1989) なし
平成2年度 (1990) 台湾行政院国家科学委員会職員3(図書館業務の機械化、科学技術資料・アジア資料)11.6〜11.8
新彊科学技術情報処職員1(資料の収集・整理、科学技術情報サービス)11.12〜11.16 マレーシア国立公文書館職員1 (文化財保存・修復技術)
2.12.15〜3.3.15
オーストラリア国立図書館保存部長(アジア・オセアニア地域の古文書・書籍に関する研究、IFLA/PAC地域センタ-事業計画の協議)3.2.4〜3.28
平成3年度 (1991) タイ・タマサート大学日本研究センター司書1(JAPAN/MARCの作成、日本関係文献調査)9.9〜9.20
英国図書館DSC職員1
(科学技術情報サービス、文献提供) 4.1.6〜3.6
中国国家図書館2(JAPAN /MARCの作成)4.3.9〜3.13
ローマ国立中央図書館職員1(書誌情報のデータ処理)4.3.26〜4.12
平成4年度 (1992) タイ・サイアムソサィエティ図書館長(資料の保存・修復技術)6.1〜7.31 米国ブリガム・ヤング大学日本研究計画所属生1
(国会レファレンスサービス実習)6.1〜6.26
平成5年度 (1993) 大韓民国国会図書館職員3名(図書館業務一般)7.19〜7.23
中国国家図書館職員2
(JAPAN/MARCの作成過程、和図書整理業務)8.23〜8.27
中国国家図書館、韓国国立中央図書館、オーストラリア・マコーリー大学図書館職員各1名(JAPAN/MARCの作成過程、和図書整理業務)6.3.7〜3.18 英国カンバウェル美術大学学生1名(図書館資料の保存・修復)9.1〜9.28

平成6年度(1994) モンゴル中央図書館2名
(JAPAN/MARCの作成過程と和図書整理業務)11.14〜11.18
平成7年度(1995) 中国国家図書館職員2名
(和図書の整理、JAPAN/ MARC 作成工程)4.3〜4.7 インドネシア国立図書館、スリランカ国立図書館職員各1(保存施策、保存技術) 8.2.25〜3.10
平成8年度(1996) 中国国家図書館職員2名
(図書館資料の整理、業務機械化、国際協力)4.16〜4.19
「日本研究上級司書」11
(日本関係資料等の収集・整理、レファレンス、図書館協力)9.2.17〜3.7 台湾省文献委員会職員2名
(文書類の保存・修復・保管・利用体制)9.1.13〜1.31

平成9年度(1997) 「日本研究上級司書」12
10.1.19〜2.6
南フロリダ大学学生1
(図書館業務全般)10.2.9〜2.27
中国国家図書館職員2名
(図書館資料の整理、業務機械化および国際協力)10.3.10〜3.13 タイ国議会図書館職員2名
(立法調査業務および司書業務)6.10〜6.30
スウェーデン議会職員2名
(「日本における女性政治家の労働条件」に関し女性議員に対する聞き取り調査)11.17〜12.12
平成10年度(1998) 韓国国立中央図書館職員1名(収集部の受入業務全般、特に視聴覚資料・電子メディア等非図書資料の収集利用)9.7〜9.17
「日本研究司書」12 11.1.18〜2.5
英国修復家1
(和装修復技術)8.24〜9.16
平成11年度(1999) 中国国家図書館職員2名
(図書館資料の整理、業務機械化、国際協力)6.14〜6.18
「日本研究司書」(12.1.16〜2.4予定) 中国全国人民代表大会常務委員会職員2名(国会サービスについておよび、国会研究に関する動向について)4.5〜4.7

TOP