2015

611日(木)&12日(金)

2015年6月11日に行われた国立情報学研究所 学術情報基盤オープンフォーラム2015の講演録です。

ご挨拶

喜連川 優(NII 所長)

  本日は大変お忙しい中、国立情報学研究所学術情報基盤オープンフォーラムにご参加いただきありがとうございます。私どもNIIは、平成28年度から新しいSINETに移行できることになりました。この過程では非常に多くのご支援を頂戴しました。国立大学協会・国公私立大学団体からの非常に強いエンドースメントや、日本学術会議からは「SINETは学術の根幹であるので頑張って欲しい」というメッセージをいただきました。またSINETのフレームワークをマスタープランの中で取り上げていただき、大型プロジェクトの一環として位置づけていただくなど、非常に多方面でのご支援をいただきました。

 NIIに来てから2年が経ちますが、SINETの新しい形へのシフトというものにほぼすべてのエネルギーを投入してきたといってもいいかもしれません。平成28年4月1日からの移行のため、現在鋭意調達をかけています。このネットワークは、沖縄除き日本国内100ギガ、日米回線100ギガ、欧州回線10ギガ2本を実現します。ヨーロッパを中心に存在する大型研究施設で研究をされている方々からは大きな賞賛をいただいていると聞いています。今回のバージョンアップにより、日本が欧米や中国のネットワークに対し引けをとならい状況になったと考えています。

 一方で今年のダボス会議でGoogleのシュミット氏が「ネットワークがなくなる」というショッキングな表現をしました。ネットワークが完璧にインビジブルになる、つまりIoTの時代になり、プロセッサそしてネットワークも見えなくなると。わが国で超高速ネットワークを運用しているのは我々NIIしかいません。ビッグサイエンスを支えるネットワークの重要性は、インビジブルになればなるほど大きく主張していかなければ関係各位のご理解がなかなか得られません。ぜひSINETを使っていただき、SINETがイネーブラーになっていることを一緒に発信していただけると大変ありがたいと思います。2~3年後、SINETに対する更なるニーズが出た場合は、積極的にご相談いただければと思います。

 NIIのメッセージは、「共に考え、共に創ろう」という考えだと申し上げました。ネットワークは運用していますが、使っているのはクライアントの皆様です。NIIが単独でやるのではなく、皆様と共に手を組んで新しい世界に挑戦してくという心構えでありますので、よろしくおねがいします。

 

オープンサイエンスに向けた学術情報基盤

漆谷 重雄(NII学術基盤推進部 部長)

 オープンサイエンスとは、研究成果(論文や生成された研究データ)について、幅広くアクセス・利用可能にし、知の創出・イノベーションの創出につなげることを目指した新しいサイエンスの進め方である。この概念が世界的に急速な広がりを見せている。日本の大学等のための学術情報基盤に当てはめたとき、どういった形で発展させていくのかが今回のフォーラムの趣旨であり、皆様と議論していきたい点である。まずは本講演では、オープンサイエンスに向けたシステムをとりまく学術情報基盤について説明したい。

 学術情報基盤をめぐる利用状況は、加入機関数を含めて順調に伸びている。ネットワークとしては、817の大学・研究機関が加入し200万人以上が利用している。全県をカバーし、バックボーンは40G。この中で一番伸びているのが、クラウドサービスであり、SINETでは直結している高性能・セキュアなクラウドサービスを利用することができる。学術情報流通基盤としては、大学図書館等と連携し、様々な学術情報や学術コンテンツの円滑な流通を進めている。学術認証フェデレーションでは、シングルサインオン技術の活用により、機関の中で閉じていた認証システムを組織外の多様なサービスと連携させ、利便性向上と管理コスト削減を図っている。

■ネットワーク基盤の活用状況:

  • 地震研究:全国にある地震観測センサーからデータが各地の大学に蓄積される。同時に他の収集システムにマルチキャストされ、地震のメカニズムを研究。SINETは、そのためのクローズドなネットワークを実現するVPLSを提供している。
  • 高エネルギー研究:Belle IIが2015年運用開始される。KEKから出されるBelle測定器から出されるデータを連携大学にセキュアに転送し、並行解析を支援。スイスの測定器からの膨大なデータを国際回線で転送している。
  • 核融合研究:非常に巨大なLHDという装置からのデータをVPNでセキュアに転送。フランスに構築されるITER、ならびに日本に設置される欧州ファンドのスパコンの国際利用をサポートしている。
  • このほかHPCI、天文研究、遠隔講義、医療情報バックアップ、測地研究、ALMA、8K Ultra HDTV伝送等に利活用されている。

■学術情報流通基盤の活用状況:

  • 目録所在情報サービス:参加機関が1,263機関。
  • CiNii:論文検索回数年間6千万回以上で多くの方に使われている。CiNii Dについては今日から公開。
  • 機関リポジトリの構築支援:機関リポジトリは各大学で構築しており、NIIでは横断的に検索できるサービスを提供。
  • JAIRO Cloud:システム運用負荷を軽減し、効率化。構築数も順調に伸びている。

 

 次期学術情報基盤に向けてSINET5で大きく変わる点は、帯域が大幅に増強され、ネットワークだけでなく、クラウドの利活用促進、サイバーセキュリティの強化、学術情報の公開と共有の拡充などを展開する予定である。こういった計画に対し、学術コミュニティからは暖かいご支援をいただき実現するに至った。

 SINET5のネットワークは、国内を100Gに増強するほか、ノード間をメッシュ状に接続し、最短経路とディスジョイントな経路でも接続する。国際回線においても米国回線を100G、欧州回線を10G×2本で提供する。また、各大学がSINETに接続するためのアクセス回線の共同調達を実施する。価格低減を推進すべく、現時点で73機関88回線で共同調達を実施予定である。ネットワークサービス機能の拡充としては、VPNの利用が伸びてきている中、大学の接続形態としてマルチキャンパスやクラウド接続などさまざまな形があるが、VLANの数に制限がなく自動認識して接続するというサービスを提供する予定である。今後一緒にサービスを作っていきたい。クラウド支援サービスでは、クラウドを導入・利用するための支援サービスを提供する。クラウド支援サービスのチェックリストによる評価結果を公開し、仕様策定コストの削減、導入利用費用の削減を目指す。このほかインタークラウド、バックボーンの運用安定化、トラフィック分析機能を強化予定であり、今後SINETをどのように強化していくかを議論しながら考えていきたい。学術情報流通についても、JAIRO Cloudの拡充による多様なコンテンツ収集、CiNiiよる多様な情報への統一的アクセス手段の提供など、基盤整備による公開・共有の拡充を図っていきたい。

 皆様と今後どの部分を強化していけばいいのか議論しながら進めていければと考える。共に考え、共に創る学術情報基盤ということで、皆様と議論をしながら、しっかりしたものに創り上げていきたい。

 

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