平成11年度学術情報センターシンポジウムの開催報告

 学術情報センターでは,平成11年度学術情報センターシンポジウムを国立京都国際会館会議場A(10月15日(金)),および日本教育会館一ツ橋ホール(11月2日(火))において実施しました。

 このシンポジウムは,学術情報センターの研究開発や事業活動および学術情報システム全般に関わる動向などに関連したテーマを設定し発表と討議を行うもので,例年関西と東京で開催しています。

 本年度は「21世紀に向けての学術情報サービス」をテーマとし,図書館の情報化が進む中で最近注目の集まっている電子図書館や電子化された媒体による情報提供について,また図書館の将来像について外部講師3名および本センター教官2名がそれぞれの専門的分野からの講演を行いました。

 関西会場は227名,東京会場は408名の参加があり,大学の図書館職員,情報処理センターの職員のほか,大学教官,一般企業や研究機関など様々な分野の方々が熱心に講演に耳を傾けている姿が両会場で見うけられました。

 シンポジウムは,東京会場は本センターの猪瀬博所長,関西会場は小野欽司研究開発部長による主催者の挨拶で幕を開け,午前・午後にわたり5講演を行いました。全ての講演が終了した後に設けられた質疑応答の時間には,参加者からたくさんの質問が寄せられ,関心の高さが伺われました。

 各講演の講師および講演要旨は次のとおりです。本シンポジウムの講演要旨はWWWでも公開していますので,併せてご覧下さい。

 URL  http://www.nacsis.ac.jp/hrd/welcome.html

 主催者挨拶(猪瀬所長:東京会場)

  主催者挨拶(小野研究開発部長:関西会場)

これからの図書館情報システム

学術情報センター教授

宮澤 彰

 現在,社会の情報化に伴い,図書館の変革が言われている。電子図書館,ディジタルライブラリ,オンラインジャーナルなども,現実になってきた。図書館の「情報化」に20年弱関わってきたものとして,この世界の情報システムの今後について述べる。

 情報システムは,コンピュータの発展とともに,70年代から社会のさまざまな分野で活躍するようになってきたが,実は,図書館というシステムが,コンピュータ以前の情報システムであったといえるのではないだろうか。いずれにせよ,図書館の情報システム導入は60年代おわりのOCLCにはじまるといっていいだろう。

 日本では,学術情報センターシステムが84年に同種のシステムを始めるまで目録の機械化はあまり普及せず,むしろ図書館の事務を主体としたローカルシステムのほうから始まったといえるだろう。最初に成功したものとして貸出しの機械化があげられよう。古典的な貸出しカードに名前を記入する手作業に比べ,大幅な省力化が可能となった。ついで,選書・発注・受入れシステムとなるが,日本の大学図書館では選書機能を図書館側で持つことは少なかったため,主として発注受入れの管理と,予算管理などに使われた。カード目録に代わる利用者用の目録検索システム,いわゆるOPACは,目録作成のシステムがかなり普及してからひろまってきた。これは,OPACアプリケーションがマシンパワーを必要とするせいもあった。

 これらのほかに,2次情報データベースを中心とした情報検索も,図書館で使う情報システムとして,初期から利用されてきた。この方向は全文データベースサービス,そしてオンラインジャーナルへと広がってきて,今では図書館を窓口として契約するオンラインジャーナルという,雑誌の利用形態ができつつある。一方電子図書館,あるいはディジタルライブラリと呼ばれるものは,主として図書館で所蔵している資料を(著作権の関係で古いものが多いが)ディジタル化してサービスする形態のものをさすように分化してきたように見える。

 さて,このような情報システム化が進んでくると,よく口にされる疑問が「図書館は必要か」,「図書館員は必要か」,「目録は必要か」というものである。最後の疑問から言うと,目録は必要である。一度に扱うには大きすぎる量の情報から,部分を取り出してコンパクトに扱え,短時間でのアクセスを可能にする仕掛けを目録と考えれば,情報が増えている今こそ,何らかの意味での目録が必要である。図書館が情報システムそのものだとすれば,情報の洪水の中にあって情報システムの役割は増えているはずであり,その中で自らの必要性を作り出していけば,また図書館も図書館員も必要となるだろう,というのが前の2つの疑問に対する私の答えとなる。

国立国会図書館−将来計画と電子図書館構想−

国立国会図書館 電子図書館推進室長

田屋 裕之

 電子図書館構想が示している電子図書館は,国立国会図書館が全体として実現するものである。とりわけ平成14年度に開館を予定している関西館と,平成12年度に第1期開館を予定している国際子ども図書館の重要な機能として,さらには国会サービス拡充のための手段として,その実現を図る。

 構想では,国立国会図書館にとって電子図書館とは,「図書館が通信ネットワークを介して行う一次情報(資料そのもの)および二次情報(資料に関する情報)の電子的な提供とそのための基盤」と定義し,資料を電子化するとともに,電子化された資料および電子出版物を通信ネットワークを介して提供するものである,とする。電子図書館の効果,蔵書の種類,電子化による資料保存,制度的課題については著作権処理の実例も紹介しながら解説する。

 電子図書館のシステム基盤の整備に関しては,「電子図書館構想」策定と同時期に,「電子図書館基盤システム基本計画」を策定した。国立国会図書館が電子図書館を実現する上で,強固なデータベースとネットワークのシステム的基盤,関西館・国際子ども図書館・東京本館の3館の組織と業務の有機的な相互連携,さらにコンピュータやネットワークの近年の急速な発展への対応が必須であり,その具体的な目的などにも言及する。

 また,関西館(仮称)と国際子ども図書館について,経緯・目的・基本機能などを解説する。さらに,国立国会図書館の個別システム開発の取り組みについて,国会情報,全国公共図書館総合目録ネットワーク事業,国際子ども図書館のシステム,その他の個別システムについて述べる。最後に,電子図書館協力活動として,国際的協力活動や国内各機関との協力活動を紹介する。

電子図書館と図書館の将来

大阪市立大学 学術情報総合センター教授

北 克一

 本講演では,大学図書館に的を絞り,電子図書館と図書館の将来について述べる。

 大学図書館は,大学という設置母体とその設置目的の中の一部として設置され,教育や研究のための学術情報を収集・蓄積・組織化し提供する機関である。学術情報の収集・蓄積・組織化・提供については,現在のユーザーに対するサービスとしてのフローの機能と将来のユーザーに対するストックの機能を併せ持っている。

 電子図書館には様々な定義があるが,ここでは情報のデジタル蓄積とネットワーク・アクセシブルを基本とするシステムとゆるやかに定義しておきたい。大学図書館との関係から見ると,その設置目的遂行のための図書館機能の拡張手段として捉えることができる。具体的には,1.学術情報の収集・蓄積・組織化・提供という古典的な目的の一つの拡張手段,2.外部の情報環境の変化への対応,3.利用者の利便の向上,4.図書館機能そのものの拡張である。このうち,図書館機能そのものの拡張とは,具体的にはここ数年一部の大学などで始まっている図書館機能とコンピュータセンターやネットワークセンターとの統合の動き,また研究者のデータベース構築などの研究支援システムに踏み込んでいこうという機能も模索されているように思われる。これは図書館から見れば機能の拡張であるが,もう少し巨視的に見れば大学組織の融合化・再構築という大きな流れの中のひとつではないかと考えられ,このあたりに図書館の将来を考えていく一つの鍵があるのではないかと思われる。

 本公演では,最初に,電子図書館について,「デジタル」,「ネットワーク」,「マルチメディア・データベースと検索の仕組み」,「経済モデルと知的所有権,情報保護」の視点から解説し,次に図書館システムと電子図書館の関係について言及する。

 また,図書館機械化の段階と電子図書館の段階について,それぞれ「対象」,「ツール/アクセス状態」,「空間」を比較し進展の経緯を具体的に考察する。

 さらに,図書館と社会システム・外部情報源との関係から,図書館における「電子図書館」への対応について問題点・課題などについて述べ,最後に今後の図書館の戦略方向に言及する。

電子化ジャーナルの開く新しい世界−二次元より三次元空間へ−

エルゼビア・サイエンスをケースとして

エルゼビア・サイエンス株式会社 代表取締役

深田 良治

 この5年ぐらい前から電子出版,電子図書館という言葉が市民権を得て日常的に使われるようになった。では電子出版とはいったい何をさすのであろうか,電子出版と電子図書館は同じなのだろうか,また電子化出版において出版社や読者が直面する問題には何があるのであろうか。

 学術情報の世界では,情報の需要と供給のインバランスの問題は毎年深刻になっている。情報の供給が伸びている一方で,情報の需要は伸びる可能性が少ない。増えつづける情報生産をとめることは事実上不可能であり,需要と供給のギャップは今後ますます大きくなっていくのであろう。そのギャップを埋めるには,手と目でブラウジングしながら必要な情報を探すのでは無理がある。唯一残った可能性は電子手段である。必要な情報のみをとりだすデータベース,サーチエンジン,データマイニングなどの手段を使って情報を探すことが普通になってきた。

 一方,研究者の情報資料利用も変化してきている。1950年以降,英語が自然科学の標準語となり,モノグラフから研究成果発表のスピードがはやいジャーナルが利用の中心となった。さらに1990年以降のインターネット時代で,データベースをインターネットで検索して使うことが普通になった。

 本講演では,電子出版や電子図書館について具体的な例を用いて説明した後,エルゼビア・サイエンス社が取り組んできた電子化ジャーナルプロジェクトを例として紹介しながら,電子化ジャーナルの歴史,仕組みなどについて解説する。

 また,電子化ジャーナルの今後の課題としてインフラの整備や技術開発,ユーザインタフェースの問題などを挙げると共に,米国における事例を紹介し,学術研究活動を支える図書館の将来像にも言及する。

 本講演では,紙による情報伝達を二次元空間,インターネットを介した情報伝達を三次元空間ととらえ,講演の最後では,三次元空間における新たな可能性を述べる。

文書館・図書館・博物館−捜し物と見せ物の世界−

学術情報センター名誉教授

井上  如

 昨年6月,文書館・図書館・博物館の3館をまとめて,そこに収蔵される資(史)料のコピーとオリジナルの関係,利用とコミュニケーション,コレクション価値という三つの情報学的な着眼点から比較整理して一表にし,「三つどもえの中の三者三様」と名付けて話しをした。そのときの反省は,三館の捉え方がstaticに過ぎたこと,三館をequivalentに扱ったために,比較結果から導き出される知見が相対的に過ぎたことの二点に要約できる。一方,本シンポジウムでは,筆者以外の論者が,中・長期的に見た学術情報サービスの在り方として,電子図書館の可能性について言及した。そこで拙論では,電子図書館の実用化は既定の方向であるとの前提で,それと対比されるところの従来型の図書館の方向性について探ると同時に,上記二点の反省への解答を心がけようとした。

 電子図書館を役に立つ図書館とすれば従来型の図書館は役に立たない図書館と規定することができ,同じく役に立たないオブジェクツを収蔵している文書館,博物館と従来型の図書館との接点を求めた。また,文書館は用済みの文書を所蔵している博物館であるところから,三者を同等にではなく,博物館を軸としてとらえる視点を選んだ。更に,静的でなく動的なプロセスに焦点を集める必要性を意識して,「コレクティング・プロセスの概念図」を作成した。そこでは,コレクティング・プロセスが,コレクタブルズの条件,仕立て直し(reframing),同異の弁,自家薬籠(closure),展示の五段階に分かれること,コレクティング・プロセスにはコレクタブルズの条件から始まって展示として結実する往路のプロセスと,その逆の復路のプロセスがあること,往・復併せて現世から独立した(リ)サイクル・システムであること,プロセスの前半が捜し物の世界,後半が見せ物の世界として分離する傾向があることなどを示した。

 概念図に示したコレクティング・プロセスを真にダイナミックなものにしているのはコレクターの心理過程であって,そこではコレクター間の競争や合理性追求と非合理的ドライブとのパラドックス,擬態,優越感,私物化志向,達成感など,人間の主として「遊び心」と関わる心理揄゚程が主役となる。また,この図を用いて具体的なコレクションを調べて行く際の応用可能性のテストとして,記念館・文学館・宝物館といった,収蔵物というレベルでも施設というレベルでも,標準化を拒むユニークさがむき出しになった館の事例研究が,今後このモデルを鍛えて行くのに適切と思われることを指摘した。


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