最終号の発行にあたって

学術情報センター所長

猪瀬 博

 学術情報センターニュースも,昭和61年6月30日に第1号を創刊して以来,今回で第50号となりました。平成12年4月から,学術情報センターの衣替えが予定されておりますので,学術情報センターニュースとしては,これが最終号となります。長い間のご愛読に心からお礼申し上げますとともに,この機会に所感をのべさせて頂きます。

 顧みますと,昭和51年5月に東京大学に情報図書館学研究センターが設置されて以来,学術情報基盤の構築は営々として進められてきました。昭和58年には東京大学文献情報センターに改組され,目録所在情報システムの開発が始まりました。そして昭和61年には,これが学術情報センターに改組され,大学共同利用機関の一つとして,その第一歩を踏み出したのです。開所式には当時の海部文部大臣が来臨され,自ら揮毫された表札を掲げて下さったのが忘れ得ぬ思い出です。

 学術情報センターは,目録所在情報システムの開発運用に加えて,ネットワークとデータベースの開発と構築に着手し,たゆまぬ努力を続けてきましたが,その結果我が国の学術の発展を支える情報基盤として,国の内外から評価されるようになったことは喜ばしい限りです。今日,目録所在情報は図書4000万件,雑誌330万件に達し,英国の8図書館を含む700の図書館がシステム構築に参加して下さっております。この情報はNACSIS-CAT,NACSIS-ILLによって,大学関係者はもとより学会員など広範囲の方々に利用されております。またWWWで検索できるWebcatによって,国内外のインターネット利用者のお役に立っております。次にネットワークにつきましては,全国に35のノードを設置し,この間を最高150Mbpsで接続するとともに,米国,英国,タイ国にもノードを設けておりますが,特に需要増加の著しい対米回線は150Mbpsに増強いたしました。さらにデータベースにつきましては,59種類9500万件のデータをNACSIS-IRによって広く提供しておりますが,これには学術雑誌のページをそのまま電子化し検索できるようにした電子図書館サービスや,大学などの研究者14.9万人の経歴や業績をデータベース化した研究者ディレクトリも含まれています。またWWWで検索できる研究者公募情報提供サービスも,好評をいただいております。

 これらの事業を展開する上で,研究開発活動は不可欠です。今日,4研究系16部門からなる研究開発部は,基礎から応用まで多様な研究課題に取組んでおりますが,事業の現場から研究課題を発見し,その解決を通じて事業の高度化を進めるという,いわば正帰還機能の発揮につとめてきました。超高速高信頼性ネットワーク,マルチメディア電子図書館,フルテキスト検索,分散情報資源の統合的活用システムなどのプロジェクト研究も成果をあげております。教育研修も事業の推進に重要な役割をはたしてきました。目録システム,ネットワーク,データベースなどの担当者を対象として,種々の研修を行っておりますが,受講者数は累計13,000人に達しました。これらの方々が,それぞれの持ち場において活躍されているばかりでなく,学術情報センターにとっての良き支援者でもあるのは,心強いことです。また利用者を対象とする説明会,展示会への出展,刊行物の発行,ホームページの充実などの広報活動を通じて,学術情報センターへの理解が深まってきたのもうれしいことです。

 設立時には28人だった定員も,平成11年には134人になりました。予算も12.4億円から106.3億円となっております。発足以来今日まで,筑波大学の大塚地区と東京大学の小石川植物園内の建物を長期間借用させて頂いておりますが,平成6年には西千葉の東京大学生産技術研究所の敷地内に立派な電子計算機棟を建てて頂き,平成11年末には一ツ橋地区の壮麗な本部建物が完成して,平成12年3月迄に移転を完了する予定です。また私が寄付させて頂いた軽井沢の土地に,平成9年には快適なセミナーハウスを建設して頂き,国内外の方々の共同研究と討論の場とすることができました。文部省をはじめ関係方面の格別のご配慮により,学術情報センターは順調な成長を遂げることができ,心から感謝致しております。

 さて冒頭に触れましたように,このたび学術情報センターを母体として「情報研究の中核的研究機関」が設立される運びとなりましたので,その経緯につき,ご説明いたします。

 平成9年以来,日本学術会議勧告「計算機科学研究の推進について」および学術審議会建議「情報学研究の推進方策について」が相次いで出され,文部省ではこれを踏まえて「情報分野における中核的な学術研究機関の在り方に関する調査協力者会議」を設置しました。平成10年3月にとりまとめられたこの会議の報告書には,学術情報センターを母体とする改組・拡充によって,大学共同利用機関として情報研究の中核的研究機関を設立するという方針が示されています。これをうけて文部省は情報研究の中核的研究機関の準備調査に関する事務を処理するため学術情報センターに,準備調査室を設置するとともに,情報研究の中核的研究機関の組織運営などの重要事項を審議する機関として準備調査委員会を設立しました。

 この委員会は平成10年8月に中間報告を公表して広く意見をもとめるとともに関係研究機関などを訪問して意見を聞き,これらの意見をふまえて更に審議を重ね,平成11年3月に「情報研究の中核的研究機関準備調査委員会報告」を発表しました。この報告書によれば,情報に関する総合的な研究および開発並びに学術情報基盤の開発・整備および学術情報の活用に係わる業務を行い,かつ情報の専門家の育成にも貢献することを目的として,「国立情報学研究所(National Institute of Informatics)」(仮称)を,学術情報センターを母体とした改組・拡充により,大学共同利用機関として設置することとされています。

 この報告書では,「基幹的研究分野」として,情報学とソフトウエアの基礎,アーキテクチャ,ソフトウエアシステム構築,知能と情報の関わり,人間・社会と情報の関わり,学術研究と情報の関わり,情報学の他の学問分野への応用の7研究領域をあげるとともに,学際性・総合性を持った研究分野での横断的な研究課題の設定の必要性を指摘しております。

 また研究体制につきましては,理論から実用化への一体的研究の推進,国際貢献および国際社会への発信,開放性および機動性に配慮した研究者の任用,研究成果の社会における活用,大学院との連携などに配慮すべきことを示しています。

 さらに学術情報ネットワークの構築・運用,学術情報データベースの形成・提供や大学図書館職員などに対する教育・研修の事業の充実に努めることにより,我が国の学術情報基盤の強化に貢献すべきことを指摘しています。また学術情報基盤の整備に関するシステム開発や運用にあたっては,情報研究と開発・事業との相乗効果を重視すべきことを示しています。そしてそのための組織として,研究活動と連携してシステム開発・運用の業務を行う開発・事業部(仮称)や実証研究センター(仮称)などを置くことが適当であるとしています。

 この報告書を踏まえ,平成11年4月からは「情報研究の中核的研究機関の創設準備室」が学術情報センターに設置され,「情報研究の中核的研究機関創設準備委員会」が発足し,7月には「中間まとめ」が作成されまして,これにもとづき,「国立情報学研究所」(仮称)の実現が目下進められております。この間,「準備調査委員会」,「創設準備委員会」はもとより,学術情報センターの「参与会」,「評議員会」,「運営協議員会」,および「外部評価委員会」の諸先生からは,ご懇篤なご指導を頂きました。またLewis Branscomb ハーバード大学名誉教授,Edward David元米国大統領科学顧問,James Flanaganラトガース大学副学長およびLotfi Zadehカリフォルニア大学名誉教授からは「情報研究の中核的研究機関」のあり方につき,国際的視野から貴重なご助言とご激励をいただきました。諸先生の卓越したご叡智と文部省ご当局の格別のご支援に,心からお礼申し上げます。

 新組織発足の暁には,「学術情報センターニュース」も装いも新たに登場することになるでしょう。学術情報センターの発展は,読者の皆様方の暖かいご理解と力強いご声援に支えられて参りました。新組織に対しても,変わらぬご教導の程をお願い申し上げます。


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