平成10年度科学研究費補助金の実績報告

・研究代表者:柿沼 澄男(助教授)

・研究種目 :基盤研究(A)(1)

・研究課題 :学術研究基盤整備のための基礎的・実証的研究

・研究実績の概要

 本研究では,学術研究基盤整備のための基本的考え方やその量的整備水準を提案するため,実証的調査研究を行った。平成8年度〜9年度には,研究環境に関するアンケート調査を実施するとともに,その調査結果の総合的な分析を中心に行った。平成10年度は,各専門分野ごとの研究基盤整備方策を検討するため,専門分野ごとの分析を行った。

1.調査の実施

 研究者を取り巻く最新の研究環境の現状および課題を把握するため,研究者個人にアンケート調査を実施した。(調査票発送数約8,500,回収調査票数約5,000,回収率約6割)

 調査項目:調査対象(研究者)の属性,研究費・研究設備・研究施設(研究室など)の現状と課題,その他

2.アンケート調査データの整理およびその分析

 アンケート調査結果のデータを点検整理するとともに,調査結果を総括的に分析し調査報告書(総括編)を作成した。調査報告書はインターネットのWeb上でも公開した。

3.各分野別,観点別の研究環境分析

 各研究分野により研究環境がどのように異なっているのかを研究するため,各分野別の分析を行った。また,研究費の配分状況が大学の種類によってどのように異なるかも分析した。

4.報告書の作成

 上記の研究成果をまとめるため報告書を作成した。

・研究代表者:枝川 明敬(助教授)

・研究種目 :基盤研究(B)(1)

・研究課題 :「ポストドクター等一万人支援計画」達成後の若手研究者の養成・確保に関する調査研究

・研究実績の概要

 学術研究の総合的推進のための重要な柱の1つである若手研究者の養成に関しては平成8年7月の科学技術基本計画における「ポストドクター等一万人支援計画」の閣議決定以降,着実に各省庁で施策の充実が図られており,平成12年度には一万人に達する見込みである。

 このため,この計画による若手研究者の養成の実績やその後の活動状況を検証し,大学院の拡充計画をも視野に入れた今後の長期的展望に立った量的・質的側面の両面を考慮した新たな若手研究者の育成・確保の在り方について研究を行った。

 本年度においては,以下の項目について調査・分析を行った。

 1)日本学術振興会特別研究員制度などの実態と効果に関する調査・分析

 2)将来の研究者需要に関する調査・分析

 より具体的には,1)については対象者数5,500名の特別研究員(91年度から96年度に学術振興会特別研究員であった者)に対し,現在の研究環境を始め当該人の処遇や勤務先・職階・キャリアパスについてアンケート調査を行った。

 その結果,約2/3から回答があり,現在の研究者としてのキャリアパスに少なからず特別研究員の経歴が役立っていることが知れた.一方,2)については,博士課程修了者などを雇用することが予想される企業2,500余社に対しアンケート調査を行った。その結果,以前行った調査(「大学院の量的整備に関する調査研究」1998)において予想された研究者需給見込みを大幅に変更する必要はなく,その後の経済状況を勘案しても一部に需給バランスが崩れることがあるもののおおよそ釣り合っていることが知れた。

・研究代表者:丸山 勝巳(教授)

・研究種目 :基盤研究(B)(2)

・研究課題 :人文科学系の研究と情報流通を支援するための電子資料館システムの研究

・研究実績の概要

 資料の収集や整理に多大の労力を要する人文系研究の支援と情報流通のために,データベース構築法および検索閲覧サービスシステムを検討し,サービスシステムを構築した。本システムは国文学研究資料館の『電子資料館実験』として実験公開しており(http://manyo.nijl.ac.jp/infocenter.html),使いやすさと高速検索で国文学研究者には好評を得ている。

 (1)データベース内容の構築環境

   全文テキスト型のデータベースに関しては,SGMLによる構造化を採用し,国文学者がパソコン入力した簡明なテキストファイルを,計算機でSGMLテキストファイルに自動変換している。巨大でデータ間に複雑なハイパーリンクを有するデータベースの構築に関しては,オブジェクト指向データベースシステムを開発し,簡明なGraphical User Interfaceでデータベース構築を行えるようにした。

 (2)電子資料館システム

   インターネットWWW環境を利用して,以下を特徴とするシステムを開発し,二十一代集,源氏物語,国書基本データベース,その他を電子資料館実験として公開した。

  ○SGMLテキストファイルを全文検索エンジンで検索することによる高速で簡単・自在な検索

  ○本文テキストとその原本画面との頁対応リンク

  ○ハイパーリンクにより関連情報間を自在にトラバース可能

・研究代表者:丸山 勝巳(教授)

・研究種目 :基盤研究(B)(2)

・研究課題 :人文科学系研究向けマルチメディアデータ統合システムの研究

・研究実績の概要

 国文学や歴史の研究においては,著者・作品・書誌・所在の各情報が任意語から自由に検索でき,かつ関連情報に自在にトラバースができる古典籍の統合目録データベースの構築が強く望まれている。そこで,(1)内容を構築するためのDB構築システムと(2)多数ユーザにDBの検索閲覧サービスを提供する電子資料館システムを検討開発した。両システムは,今後引き続き,実際の業務に使われる予定である。

 (1)DB構築システム

   本統合DBは,巨大でデータ間に複雑なリンク関係を持つので,オブジェクト指向DBを使ったDB構築システムを開発した。また,Javaを用いた使い易いGraphical User Interfaceを実現し,データ入力と修正の容易化を実現した。

   このDB内容をハイパーリンク付のSGMLテキストに変換する機能も実現した。

 (2)検索閲覧サービスシステムとサービス実験

   インターネットWWW環境を利用し,以下の特色を持つ検索閲覧サービスシステムを実現した。

  ○SGMLテキストファイルと全文検索エンジンの活用による高速な検索。

  ○全文検索なので,誰もが簡単に自在な検索を行える。

  ○ハイパーリンクにより関連する情報を自在にたどれる。

   本検索閲覧サービスは,インターネット上(http://manyo.nijl.ac.jp/infocenter.html)で実験公開している。

・研究代表者:相澤 彰子(助教授)

・研究種目 :基盤研究(C)(2)

・研究課題 :高度ネットワーク情報フィルタリングのための情報処理技術に関する研究

・研究実績の概要

 ネットワークの相互接続点において,両者の違いを吸収して円滑に通信を行うために,高度な情報の中継/変換技術が必要になっている。本研究では,このような機能を「高度ネットワーク情報フィルタリング」と呼び,平成9年度から本年度にかけての2年間を用いて,その高度化に必要な要素技術を検討した。

 本年度では特に,HTTPのプロキシーサーバに焦点をあてて,そのアクセス統計を利用して中継サーバの最適配置や類似クライアントの自動抽出を行うための分析手法を検討した。ここで,大規模サイトにおいては短期間であってもログファイルの量は膨大なものになることから,あらかじめ定めた数学的な情報基準にしたがってログデータを要約することを試み,さらに,要約したデータに対して文献検索の分野で近年注目されている自動索引づけ手法LSI(Latent Semantic Indexing)を適用することで,クライアント間の類似度を求める手法を提案した。また,提案手法を用いて,実際に大規模プロキシーサイトで観察されたログデータを分析し,単純な頻度に基づく方法よりも,クライアント間の類似関係を有効に抽出できることを示した。

 本研究で提案した手法は,大量のデータから有用な情報を抽出するデータ発掘の前処理として用いることもできる。そこで,大量の単語を含む全文テキスト(論文)の類似度計算問題に対しても同様のデータ集約を適用して,有効性を調べた。

・研究代表者:佐藤 真一(助教授)

・研究種目 :奨励研究(A)

・研究課題 :マルチメディア応用システムのための映像情報中の人物の検出・識別および情報抽出

・研究実績の概要

 映像中の顔の識別方法として,「見え(appearance)」に基づく方法を中心に検討した。映像中の顔を検出・追跡することにより,顔シーケンスが得られる。任意の2つの顔のシーケンスの照合方法として,

 (1)顔シーケンス中の最も正面向きの顔を選択して照合する方法,

 (2)顔シーケンス間の「最近接対」を選択して照合する方法,

という2つの方法を提案し,ニュース映像とドラマ映像,合計10時間弱に適用した結果,最近接対を利用する照合方法がより精度の良い照合を実現していることが分った。ついで,この照合方法を応用して,ドラマ映像に対する顔による自動索引付け手法について検討を行った。連続ドラマの第一話から,システムが選び出した数十程度の顔シーケン塔Xに対して人手で名前を付与してやることにより,続く第二話以降の顔シーケンスに対し,70%以上の正解率で自動名前づけが実現できている。これによりドラマの自動内容理解,ドラマデータベースのための自動索引付け,ドラマのハイパーテキスト化などの応用が可能になると期待できる。

・研究代表者:片山 紀生(助手)

・研究種目 :奨励研究(A)

・研究課題 :マルチメディア電子図書館のための視覚的検索システムの実現とその評価

・研究実績の概要:

 本年度は,マルチメディアデータを対象とする検索システムの実現を目標とし,実験用データベースの作成と,検索システムの実装を行った。まず,実験用データベースは,アメリカ航空宇宙局(NASA)がインターネット上で公開しているスペースシャトルの静止画像と動画像を用いて構築した。動画像についてはシーンチェンジを検出し,代表的なフレームを静止画像として抜き出して使用した。このようにして,およそ4万枚の画像を得ることができた。そして,これらの画像について,各々,色の出現頻度情報(カラーヒストグラム)を求め,その類似性に基づいて画像を検索するシステムを実装した。システムの実装に当たっては,類似検索に適したインデックス構造であるSR-tree(Sphere/ Rectangle-tree)を採用し,静的構築法に拡張した上で実装した。静的構築法とは与えられたデータの集合に対して最適なインデックスを構築する手法のことであり,データが逐次追加される動的構築法と対になる構築法である。SR-treeはこれまで動的に構築されるインデックス構造として提案されており,静的構築法については検討が行われていなかった。また,動的構築法についても,直観的な考察に基づいて設計されており,その理論的根拠が明らかではなかった。そこで本研究では,まず,動的構築法の理論的根拠を解析し,次に,その結果を応用することで静的構築法を実現した。そして,その妥当性を実験用データベースで評価した結果,静的構築法を用いることで検索時の処理コストが,動的構築法に比べて70〜80%に減少することが明らかになった。

 来年度は,本年度構築したデータベースと検索システムを,既存のテキスト情報を対象とする視覚的検索システムに統合し,視覚的検索システムのマルチメディア情報に対する有効性を評価していく計画である。

・研究代表者:後藤田 洋伸(助手)

・研究種目 :奨励研究(A)

・研究課題 :部分的三次元化による多眼動画像の圧縮に関する研究

・研究実績の概要

 本年度は,多眼ステレオ画像から三次元形状を復元する方法を主に研究した。多眼ステレオ画像とは,多数の視点において撮像された画像を指し,撮像条件のキャリブレーションを施せば,三次元情報を復元することが原理的に可能なものである。多眼ステレオ画像に対する復元法は,動画像の場合にも拡張して適用できる。

 三次元情報を復元するには,画像対におけるピクセルの対応関係を定めることが本質的に必要である。このための手法として様々なステレオマッチング法が知られているが,計算量が莫大になるという難点があった。本研究では,処理をハードウエア化することによって,この問題に対処した。すなわち,三次元レンダリング処理のための専用ハードウエアを用いて,マッチング処理を高速化する方法を提案し,評価した。

 本研究では,多眼画像から三次元形状を復元することを目指している。一方,近年注目を集めているImage-based Renderingでは,画像を貼り合わせるなどして,形状の復元を経ずに,任意の視点における画像を生成する。同一視点に対する画像が複数存在し,かつ互いに重なり合っている場合,それらを張り合わせることによって,より高い解像度の画像を得ることが期待される。本研究の副産物として,こうした解像度向上のための手法を考案し,実現可能であることを確かめた。

 本年度の段階では,三次元情報として点集合を復元するまでにとどまっている。今後の予定としては,この点集合からより高度な幾何プリミティブ(ポリゴンなど)を導出し,それに基づいて画像を圧縮する。さらに,時系列における相関関係を利用した多眼動画像の圧縮方法へと拡張し,実映像を対象とした実験・評価を行う予定である。

・研究代表者:北本 朝展(助手)

・研究種目 :奨励研究(A)

・研究課題 :画像内容素の階層モデルに基づく衛星画像データベースの内容検索手法

・研究実績の概要

 当初計画における平成10年度のテーマは,大きく分けて以下の2点であった。

 すなわち,(1)画像データベースの基礎的なモデルとなる「画像内容素の階層モデル」に組み込むための種々の画像処理手法について,これを新規に作り出すか,または既存手法を問題領域に合わせて改良していくこと,(2)衛星観測データを日本とタイの両方の観測拠点から収集し蓄積しながら,試験的な画像検索システムを構築すること,の2点である。これらのテーマに対する本年度の成果をまとめると以下のようになる。

(1)まず画像分類の問題については,衛星画像の特徴として「ミクセル」と呼ばれる画素の特徴に着目し,この種の画素を扱う統計的パターン認識手法として全く新しいアイデアとなる,画像分類法を提案した。次に画像内容に基づく画像検索の問題に関して,進化的計算論(遺伝的アルゴリズム)を活用した新しい画像検索法として,「画像散策法」と呼ばれる手法を新たに提案し,これがユーザの検索目的に柔軟に適応する画像検索の方法論として大きな可能性を秘めていることを示した。さらに画像表現モデルの基礎となるグラフ構造に関しても,その設計論や竚v算速度向上などの問題に関して,新たなアイデアを具体的に詰めている段階である。

(2)画像データベースの対象として衛星画像を想定している以上,この衛星画像の収集は重要な問題である。まずタイで受信された衛星画像の収集に関しては,まだ試験的な段階で運用レベルには達していない。しかし衛星画像収集のためのネットワーク資源や,衛星画像を蓄積する驍スめのサーバ計算機資源については,平成10年度までにかなり整えることができた。従って平成11年度は,衛星画像の収集を積極的に推進していきたいと考えている。また試験的な画像検索システムについても,平成11年度にはWWW上で広く公開できるよう,公開を最終目標として研究を進めていく予定である。

・研究代表者:神門 典子(助教授)

・研究種目 :奨励研究(A)

・研究課題 :テキストの内容構造記述用テンプレートの自動生成

・研究実績の概要

 テキストには,その種類(ジャンル)に応じて,特徴的な構成要素があることが知られている。たとえば,学術論文では,「背景」,「目的」,「方法」,「結果」,「考察」,「結論」などであり,さらに詳細な要素を認定できる。これは,その種のテキストの利用者にとって自然な内容構成であり,テキストの主要な内容を概念間の関係を維持したまま抽出するための枠組み,すなわち「テンプレート」となり,情報検索システムの高度化,情報抽出,自動抄録などへ応用可能である。その種のテキストに特徴的なテンプレートが決まれば,それに該当する内容をテキストから自動抽出する研究はなされているが,テンプレート自体の作成は,人手で行なわれており,これが多様なテキストへのテキスト構造アプローチの適用をはばむ要因となっている。そこで,本研究では,テンプレート生成の自動化を試みる。初年度の平成10年度は基本手法の確立を目的として,以下の研究を行なった。

 (1)特徴的な構成要素の認定

   日英の学術論文を対象として,特徴的構成要素の手がかり語句を自動的に認定,抽出を行ない,それを通じて,特徴的構成要素のセットの自動認定を試みた。コーパス言語学的手法を採用し,仕事量基準値によって不定長文字列を抽出し,文字列出現頻度とテキスト内の文体の差異の比較を行なった。手がかり語句は,(a)品詞情報なし,(b)品詞情報付き,(c)品詞情報のみについて検討した。

 (2)特徴的な構成要素の情報検索での有用性の検討

   情報検索への応用を試みたところ,特徴的な構成要素を用いた検索は,用いないものに比べて,検索性能が32.8%向上した。手がかり語句のグループ化と構成要素間の関連性の自動分析を試みたところ,テキストにおける特徴的な手がかり語句の出現回数が少ないため,十分な成果を得ることができなかった。手がかり語句間の関係付け,他種テキストへの適用が来年度の課題である。

・研究代表者:杉本 雅則(助手)

・研究種目 :奨励研究(A)

・研究課題 :グループ活動を支援するための情報検索および情報共有システムに関する研究

・研究実績の概要

 今年度は,COSPEXと呼ばれるシステムの機能強化を中心に研究を進めた。COSPEXは,分散情報資源からの情報収集を支援するためのシステムであるが,ユーザによる情報の活用を支援するためには,情報収集機能の高度化を始めとして,さまざまな機能拡張が求められる。そこで,本研究では,まずユーザモデリングに関する基礎的な検討を行った。その上で,機械学習技術を応用した機能を実装することにより,ユーザとのインタラクションを通して,ユーザの検索意図を推定することを可能にした。次に,システムの情報可視化モジュールを新たに実装し,情報資源の意味的構造を可視化する機能を実現することにより,検索過程においてユーザが容易に情報発見を行えるようにした。このような機能拡張を行った上で,システムの実用性を評価するため,現在十数万件程度の大規模文書データを対象としたデータベースの構築を進めている。グループにおける情報共有のための機能の実現に関しては,いかにして過去のグループの有用な経験や知識(組織メモリ)を蓄積し,それらを後のグループや新たにグループに参加したメンバーが効率よく利用,学習(組織学習)できるかが問題となる。現在は,心理学的,認知科学的な知見を基に,システムに対しどのような機能として反映させることが可能かについての基礎的な考察を進めている。来年度は,これらの考察を基にさらなるシステムの機能拡張を進める予定である。

・研究代表者:根岸 正光(教授)

・研究種目 :国際学術研究(学術調査)

・研究課題 :電子図書館の国際的拡大と学術情報の利用形態の国際的動向に関する調査研究

・研究実績の概要

 電子図書館は,近年に至って多数の実用的システムが構築され,国際的に普及しつつある。こうした電子図書館の広がりは,学術情報一般の電子化をより一層促進し,これが学術情報の流通や利用形態など,全般にわたって大きな影響を及ぼしつつある。

 本調査研究では,電子図書館の拡大を背景とした学術情報の国際的動向に着目し,各国における電子図書館システムなどの実態調査を始め,学術情報関連の研究開発や標準化に関する動向調査を実施し,また,学術情報の利用形態に関する比較調査,研究動向・研究評価にかかわる調査などを実施する。本研究は,これらの問題関心を念頭に,主として訪問調査の手法により調査研究を展開し,わが国の学術情報システムの国際的な位置づけと将来的な方向性を見出すこと,またその高度化と国際化に資することを目的とするものである。

 本調査研究の課題は多岐にわたるが,電子図書館については,その技術的側面のみならず運営面や社会的側面も含めて,大学,出版者などに対する調査を行った。電子図書館に関連して,全文データベース,マルチメディア・データベースに関連する調査が必要で,ここではSGML/XMLやDublin Coreといった標準化の動向もあわせて調査分析した。学術情報センターの電子図書館サービスNACSIS-ELSの海外展開に関連して,海外における日本情報への需要動向把握のための調査を行った。

 また,学術情報の電子化に呼応するべき学術情報一般の需要動向分析,さらに学術研究自体の動向分析のために,その手法であるビブリオメトリックス的研究や科学政策の動向調査も合わせて行っている。また,情報学研究所の設立準備が進展する中,欧米での情報学研究の実態分析のための調査を実施した。本調査研究は,これらの複合的課題に対して効率的に実地調査を遂行し,その結果を調査報告書にとりまとめた。

・研究代表者:猪瀬  博(所長)

・研究種目 :国際学術研究(学術調査)

・研究課題 :超高速国際研究ネットワークの相互接続と相互調整に関する学術調査

・研究実績の概要

 米国NSFがvBNS(very highspeed Backbone Network Service)の運用を開始して以来,世界の研究ネットワークは超高速化している。1998年には,新たにInternet2プロジェクトがAbileneと称する超高速ネットワークの稼働を開始し,学術情報センター並びに学術情報ネットワークに参加する大学などの研究機関がInternet2プロジェクトに参加できるように,相互の協力を締結する準備を進めている。同時にG7サミットにて承認された「超高速研究ネットワークの相互接続と将来の相互調整のための国際共同研究」(通称GIBN:Global Interoperability of Broadband Networks)の活動が定着し,国際的に超高速研究ネットワークの相互連携が加速している。本年度は,学術情報ネットワークと北米の研究ネットワークの相互接続が実施の段階に入り,また従来にない高速で学術情報ネットワークと欧州の接続が検討された。本件については,実施に向けた最終調整を残す段階に至っている。

 これら一連の共同研究を実施し,また進行するために,研究分担者は以下の国際学術研究を行った。

1.共同研究者など(計,趙)は,アジアにおける国際共同研究を進めるために,中国科学院との研究打ち合わせを行い,相互に,ネットワークを用いた学術研究の実態を把握した。

2.共同研究者(浅野)は,国際研究ネットワークの相互調整会議であるCCIRNに日本を代表して出席し,調整を実施した。

3.共同研究者(浅野)は,先進諸国間の情報通信政策を協議するOECD/ICCP(情報コンピュータ通信政策委員会)に日本代表並びに副議長として出席し,情報通信政策の取りまとめを実施した。

4.共同研究者など(松方,阿部,浅野)は,Internet2プロジェクトの会合に出席し,相互の協力を締結する準備を行った。

5.共同研究者(趙)は,米国にて超高速ネットワークの研究成果発表と,研究交流を実施した。

6.共同研究者(魚瀬)は,英国にて学術情報ネットワークと欧州研究ネットワークの相互接続の協議を実施した。

7.共同研究者(松方)は,仏国にて高エネルギー物理学研究ネットワークの将来構想を協議した。

 以上の研究をもって,当初の計画を達成した。

・研究代表者:小野 欽司(教授)

・研究種目 :国際学術研究(共同研究)

・研究課題 :学術情報の国際的流通共有システムに関する実証研究

・研究実績の概要

 学術情報の国際的な流通と共有を促進するため,平成10年度もタイとの間の国際リンクを有効活用するための情報流通方策,共有方式について共同研究した。その一貫としてAITにおいて本研究に関する国際ワークショップ(WAINS-5)を開催した。ワークショップでは,日・タイ両国の研究者で共同研究されているテーマについて討論した。

 以上を要約すると,次のようになる。

1)NACSISタイプロジェクトのもとに国際共同研究を推進した。ワークショップ(WAINS-5)を実施し,研究状況について報告した。

2)上記に係る研究成果発表をProceedingsとしてまとめて発行した。

3)国際インターネット接続によるアプリケーションの実証研究,特にインターネットビデオ会議により共同研究の促進に役立てた。

4)タイからのNACSIS資源の利用促進をはかるため,ネットワークの遠隔教育をした。

5)日米文化教育会議カルコンにおいて,情報アクセスの主査として日米情報アクセスに関する調査,提言をした。

6)アジア地域における将来の学術情報交換システムの形成に関して,タイ以外の国々との学術研究交流の方策を検討した。

7)日仏間におけるハイパメディア文化資産の共有のためのデータベース研究を行った。

・研究代表者:井上  如(副所長)

・研究種目 :国際学術研究(共同研究)

・研究課題 :日本情報の国際共有に関する研究

・研究実績の概要

 日本情報の国際共有として,海外で収集・整理・蓄積・利用されている日本に関する学術情報を,現実の,および仮想的なデータベースとして構築し,共有化するについて,情報技術的課題,国際的な規模における社会システムとしての運営上の課題を探求する。海外の専門家による髟ェ析評価,意見・情報交換,現地における事情聴取,東アジアにおける情報技術国際化課題に関する探求などを含む。

 本研究の目的は「日本情報の国際共有として,海外で収集・整理・蓄積・利用されている日本に関する学術情報を,現実および仮想的なデータベースとして構築し,共有化する」ところにある。この課題をめぐって,平成10(1998)年度には3組7名の招へいと13件延べ13名の派遣を実施した。

 欧州,米国,中国などの学術図書館が収集する日本語コレクションについて,その所蔵情報を学術情報センターが維持する総合目録データベースに登録するための技術課題,運営課題について実地調査し,部分的には接続試験,利用実験などを進めた。また既存の接続館に対する運営効率の向上について協議した。

 この作業を基盤として,学術情報の国際的共有をとりまく学術政策,学術情報政策,学術情報の利用行動などについての討議を訪問先において,また,研究者・専門家を日本に招へいして討議し,本研究に参加するものの知見を深めた。

 初年度の経験・知見から,欧州(特にドイツ)における日本情報アクセスの可能性の実地調査(もしくは日本のデータベース・プロバイダによるデモンストレーション)の必要性,中国における日本語コレクション情報の収集体制整備の可能性,米国学術情報コンソーシアムとの連携の可能性および課題などが明らかとなった。

・研究代表者:上野 晴樹(教授)

・研究種目 :国際学術研究(共同研究)

・研究課題 :高次サービスロボットの実現技術に関する共同研究

・研究実績の概要

 本年度の研究は,同一テーマで96−97年度に共同研究を行ってきたので,実質的には3年間に渡る国際共同研究の最終年度の研究であった。我々の目標は,日米の両グループがそれぞれ役割を分担しかつ協力して,次世代型の自律型知的サービスロボットの概念と実現技術を研究し,この分野にブレークスルーをもたらす提案を行い,かつデモシステムを通して研究成果を社会に示すことであった。

 日本側は,8自由度の多関節アームと,178個の触覚センサをもつ17自由度の5指ハンドからなる人型ロボットアームHARISを開発し,ワールドモデルと呼ばれる知識ベースを中核として,モデルベース3Dビジョン,知的スケジューラ,知的アーム・ハンドコントローラ,自然言語インタフェースなどのソフトウエア技術を開発し,この研究のために開発したプラットフォームであるフレーム型汎用知識工学環境ZERO++によって統合化した。

 米国側では,空気制御によるゴム製のデュアルソフトアームと4自由度の二眼カメラをもつ知的サービスロボットISACを開発し,ファジー制御,ビジュアルサーボ技術,顔面トラッキング技術,2アーム協調制御システムなどのソフトウエア技術を開発し,この研究のために開発した分散エージェント指向プラットフォームIMAによって統合化した。

 それぞれのロボットシステムが実験システムとして成功したが,日本側が認知科学的アプローチであるのに対して,米国側はセンサーベー型アプローチを採用するというように,対照的なコンセプトであった。共同研究の最終作業として,相互のプラットフォームを交換・結合し,両者の長所を生かす実験,つまり知識処理による計画型制御とセンサーベースによる行動型制御を統合する試みを行なった。

 成果の大部分は既に国際会議やジャーナルで公表している。

 以上,目的は十分に達成することが出来,かつこれからの国際共同研究のあり方に関して貴重な経験となった。

・研究代表者:小野 欽司(教授)

・研究種目 :特別研究員奨励費

・研究課題 :ATMネットワークに基づく活性的ハイパーメディア処理システムの研究

・研究実績の概要

 本研究の目的は新しい概念のハイパーメディア情報の国際的な流通・共有システムの研究を推進するため,ATMやインタネット上でのアクティブ・ハイパーメディア情報の効率的な処理と蓄積アーキテクチャのモデリングと評価を行うことである。

 そのためにVOD(ビデオオンデマンド)などマルチメディア情報蓄積サーバと検索システム実現の要素技術となるデータベースの性能評価,3次記憶管理システムの評価,データベース管理システムのコスト推定に関する研究を実施した。

 本研究ではテキスト,音声,ビデオなどのマルチメディアの蓄積サーバと処理に関する研究を3つのサブテーマについて行った。

1.ニューラルネットワークの適用によるデータベースシステムの性能評価。この研究は1996年の10月から1997年の3月まで行われた。この期間中に人工衛星画像の分散データベース配送とその記憶サブシステムに関連する研究も進めた。

 この成果は,国際会議で発表するとともに,情報処理学会の論文誌に掲載された。

2.ビデオ・オン・デマンドサーバー(VOD)における第3次記憶システム上の連続データの記憶管理。この研究は1997年4月から1998年3月まで行われ,具体的な蓄積アーキテキチャモデル提案と性能評価をし,IEICEの論文誌に発表した。

3.オブジェクト指向におけるユーザー定義方式とデータベース管理システムのコスト推定。この活動は,1998年4月より同年7月まで行われた。最終的な結果を得るまでに至らなかったが,国際会議などで中間成果を発表した。

・研究代表者:上岡 英史(助手)

・研究種目 :特別研究員奨励費

・研究課題 :日露共同気球実験による銀河宇宙線の加速・伝播機構の研究

・研究実績の概要

 本年度の研究実績として,(1) 日露共同気球実験(RUNJOB Experiment: RUssia-Nippon JOint Balloon Experiment),(2) 長時間気球実験のための技術開発,(3) 新しい宇宙線検出器の開発,に分けて報告する。

 (1)日露共同気球実験

 昨年度までに既に6機の気球実験を終え,また,解析にかかわる技術的な問題がほぼ解決できたので,念願の組成別宇宙線エネルギースペクトルを求めることに成功した。これらの結果を今年度春に開催された国際会議ISTSで発表し,また,夏に開催された国際会議COSPARにおいても発表した。近々“Advances in Space Research”に掲載される予定である。さらに,秋に日露共同気球実験シンポジウムをモスクワで開催し,原子核乾板の顕微鏡画像解析による宇宙線電荷決定法に関する発表を行なった。現在日露共同でこのプロジェクトに関する初めての学術論文を作成中であり,両国で研究会を開き情報交換,議論を頻繁に行っている。来年度はこのシリーズの気球実験は最後の年で4機の気球観測を行うことになっており,現在その準備にとりかかっている。これによって,総計10機の気球観測を行ったことになり,統計量的には信頼できる高エネルギー領域の宇宙線エネルギースペクトルを算出することができると思われる。

 (2)長時間気球実験のための技術開発

 長時間気球実験を行うために昨年度から始めたオーバー・プレッシャー気球の開発を引き続き行い,今年度も5月に宇宙科学研究所三陸大気球観測所にてテスト実験を行った。多少の問題はあるが,長時間飛行を行うに当たっての技術開発としては成功を収めた。この結果についても今年度夏に開催されたCOSPARにて発表を行なった。

 もう一つの気球工学的技術として,オートバラスト・コントローラーの開発を行っている。これは気球高度変化を最小に押さえるためのバラスト投下機構であり,ハードウェアの制作に関してはほぼ終了している。現在,実際に気球に搭載するための準備およびシミュレーション梼タ験を行っている。

 (3)新しい宇宙線検出器の開発

 100日間程度の長時間気球実験,さらには,数年間にわたる人工衛星やスペース・ステーションでの実験に耐えうるカウンター系宇宙線観測システムの開発についてであるが,発注していたシリコン検出器のサンプルが出来上がったので,それを用いたデータ収集システムを制作している。特に,ハードウェアの設計を中心に行い,来年度早々にはプロトタイプが完成する予定である。また,シリコン検出器の一様性をテストするため,7月に放射線医学総合研究所,理化学研究所で加速器による放射線照射テストを行った。現在,そのデータをもとに初めの観測ターゲットである高エネルギー宇宙線超重核成分用検出器の開発を検討しているところである。

(研究開発部)


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