高度分散情報資源活用のためのユービキタス情報システムに関する研究

学術情報センター教授

安達 淳

1.はじめに

 当センターの研究開発部では,平成8年度から日本学術振興会(以下,学振と略す)の始めた新しい研究助成プログラム「未来開拓学術研究推進事業」の中の「マルチメディア高度情報通信システム」研究推進委員会のもとで,「高度分散情報資源活用のためのユービキタス情報システムに関する研究」というテーマで研究を進めている。

 研究を開始して早3年が過ぎ,後残すところ2年となり,昨年度には中間評価を受け,これからは研究全体のまとめに入ろうとしているところである。

 本稿では,この研究プロジェクトの現況と今後の方向について概説したい。

2.研究の目指すもの

 「ユービキタス(Ubiquitous,遍在)」という言葉は,ubiquitous computingという表現でもっともよく使われる。これは我々の生活で使ういろいろな道具や機械の中にコンピュータが組み込まれ,高度で便利な環境が実現されることを狙っている。我々の研究の「ユービキタス情報システム」で意味するのは「いつでも,どこでも」という意味合いで,ネットワ潤[クを介してどこからでも情報活用ができるような環境を念頭においている。

 この情報活用のサイクルを図示すると,図1のようになる。情報の蓄積や交換を担うものとして,電子図書館がありここでメディア統合が適切に行われる必要がある。蓄積された情報は的確に分析され,それが新たな情報の獲得に活用されることになる。このように,情報をめぐる各種の処理技術とシステムをサイクルとしてとらえ,高度なレベルに持っていくような情報環境を研究するのが,本研究プロジェクトのねらいである。

 インターネットは無秩序に情報が広がる空間である。この中で,情報発見,情報の組織化を行う手法が研究対象の一つになる。得られた知識を整理し再利用する手法も重要である。このような研究全体にいえるのは,いろいろな意味での「異種性」の克服ないし調停である。たとえば,ディジタル文書情報に限ってもメディアの異種性が問題になるし,多言語も異種性の問題とみることができる。ユービキタス情報システムでは,いろいろな意味の異種性を扱うことになり,それを解消し適切な形で可視化することが重要な技法であると考えている。

3.これまでの研究成果

 プロジェクト前半での研究成果の第一のものは,電子図書館での膨大な遡及情報のディジタル化を念頭においた文書画像によるディジタルコンテンツ作成システムの諸問題に技術的解を与えたことである。OCRを使い,文書画像の構造解析を行う技法を開発してきた。また,認識誤りを含むテキストの検索,分散して蓄積される情報オブジェクトへの位置透明な検索のメカニズムなどについて,実証的な研究を進めてきた。

 一方,情報活用に際しての利用者インターフェースの向上のために,情報や概念構造の可視化,新しい検索言語などの研究が行われてきた。

 テキストの検索と多言語情報処理も主要な研究対象であり,その成果の一つとして,情報検索システム評価用の大規模テストコレクションの構築も行われている。これは学術情報センターの作ってきた学会発表データベースをもとに整備したもので,日英の対訳も含んでいる。そのため言語横断的検索の研究にも利用できる。本年8月末には,このテストコレクションによる情報検索のコンペティション型ワークショップを開催する計画である。

4.研究のまとめかた

 これまで,電子図書館,情報検索,利用者インターフェース,多言語情報処理,コーパス,メディア統合など,広いけれども相互に関連を持つ分野で17人あまりのスタッフが研究を進めてきた。今後は,高速・高品質の通信インフラの存在を前提として,その上で効果的に機能する分散情報システムアーキテクチャの中で,今までに提案された各種の技術を位置づけ統合システムとして提案していくことを予定している。

 具体的なシステムイメージは次のようになる。ディジタルコンテンツは,HTML,XMLやPDFなど異なる形式で自律的に運用されるサーバに蓄積される。この上では,様々な粒度の情報が利用される。例えば,電子文書全体,一枚の写真,テキストの断片などが情報獲得の対象となる。このような環境で,メディア統合や変換機能が柔軟に機能するとともに,位置透明なメタ情報活用機能が提供される必要がある。このためには今まで研究開発されてきた高度な情報検索技法を適用できる。

 一方では,今後,情報の利用には著作権処理や料金の支払いなどのメカニズムを抜きに考えられなくなる。そこで,電子文書などの情報オブジェクトの利用に際しこのような処理が入り込めるようなアクセス環境を用意する必要がある。

 当プロジェクトでは,後半ではこのような機能を具備した分散情報システムアーキテクチャを実現すべく,実証的な開発とシステム統合を進めていこうと考えている。

5.むすび

 当プロジェクトの概要はhttp://www.rd.nacsis.ac.jp/projects/ubiqui/index_j.htmlでみることができる。また,8月末に予定しているテストコレクションのワークショップのほか,来年3月に他のプロジェクトとの共催で国際シンポジウムを計画している。


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