大学の研究者をとりまく研究環境に関する調査

――アンケート調査報告書――

学術情報センター教授

太田和 良幸

 文部省学術調査官を併任している研究者および政策科学の専門家などにより構成される研究グループを組織し,科学研究費補助金による援助を受け,平成8年度を中心として,大学の研究者をとりまく研究環境などについて実態調査(アンケート調査)を実施した。研究グループでは,同アンケート調査を中心とした調査研究データを総合的に分析することによって,研究施設の老朽・狭隘化や研究設備の陳腐化をはじめとする学術研究環境(基盤)整備の基本的考え方を明らかにすることを目指している。

 同グループでは,本年6月,このアンケート調査の集計結果を今後の分析・研究の基礎資料とするとともに,学術施策に資する資料とするため,「大学の研究者をとりまく研究環境に関する調査−アンケート調査報告書(総括編)」として取りまとめた。また,同報告書と同じ内容は,World Wide Web(インターネット)上にも掲載する(学術情報センター研究開発部のホームページ(http://www.rd.nacsis.ac.jp/index-j.html)からアクセスできる)予定である。ご多用中にもかかわらず本調査の回答にご協力いただいた多くの方々にこの場を借りて重ねてお礼申し上げたい。

表1 アンケート調査事項
研究費関係 @文部省科学研究費補助金の役割(依存度),A大学研究費に対する政府支出の在り方,B研究費の配分方法,C民間資金の導入についての考え方,D研究費充実のための有効な手段,E財源の多様化による研究環境の差の拡大についての考え方,F平成7年度の個人研究費額,G研究費の使用経費別支出内訳
研究設備関係 @必須の研究設備の有無,A必須の研究設備がない場合の対応状況,B研究設備の外部研究者との共同利用状況,C他学部,他大学,大学共同利用機関などの研究設備の共同利用状況,D研究設備の陳腐化状況,E新規研究設備の有効年数,F新たな研究設備の設置スペースの有無 
研究施設関係 @研究施設における当面の課題,A研究室などの面積,B研究室などの面積が少ない理由,C不足しているスペースの状況
研究支援関係 @研究支援職員数の現状,A研究支援職員の不足人数,B研究支援職員への要望,C機関外委託業務の現状
国際交流関係 @国際研究交流・協力経験の有無,A実現しなかった国際研究交流・協力の有無,B実現しなかった国際研究交流・協力の理由,C外国人研究者受入れのための改善策
その他 @本来実施すべき教育研究業務の現状,A研究者の流動化についての考え方,B政府の重点施策の考え方,C所属研究単位の構成人員状況

 同アンケートの調査事項は,表1のとおりであるが,以下では,調査結果の中から,興味深いものをいくつかご紹介したい。

1)平成7年度における調査対象者個人(一人分)の資金源別研究費については表2のとおりの結果となった。研究費支出の合計は,全回答者の平均値が290万円となった。ただし,研究費支出の合計を10万円ごとに区分して集計すると,中央値は,全体では100万円超〜110万円以下,国立大学160万円超〜170万円以下,公立大学130万円超〜140万円以下,私立大学70万円超〜80万円以下となり,平均値よりもかなり低い結果となっている。なお,最頻値では,全体で40万円超〜50万円以下となるが,この値のほうが平均的研究者にとっては,実感的な数字に近いとも思われる。これらの経費のうち,大学当局から配分された研究費と文部省科学研究費補助金については,概ね半数の回答者が拡充を希望している。

表2 大学の研究者の資金源別研究費

資金源

研究費額(平均値)

拡充希望割合(複数回答)

大学当局

99万円

49.3%

文部省科学研究費補助金

81万円

45.0%

特殊法人など出資金事業

18万円

5.3%

文部省以外の省庁,特殊法人

17万円

8.9%

地方公共団体

3万円

7.2%

民間企業

43万円

14.6%

研究助成財団

13万円

17.7%

外国

 0万円

0.6%

その他

16万円

0.5%

290万円

(注)研究費は,個人が研究のため(教育などの経費は除く)に使用したものであり,設備の維持費・運転経費,光熱水料など所属機関(大学,学部など)が管理した場合は除外している。また,一人当たりの研究費額を算出するため,複数の人で共同して使用している研究費は適宜案分して回答いただくよう依頼した。

2)研究費の使用経費別支出内訳の一環として,「不足した研究費」を尋ねた結果では,設備・備品費(全回答者の35.8%)が不足すると答えた人が最も多く,この他,国内旅費(26.4%),消耗品費(24.1%),図書費(17.2%),外国旅費(16.2%)の順になった。

3)使用している研究室などの研究施設において,当面している最大の課題は何か尋ねた結果では,最大の課題として,「研究室などの面積」を選択した人の割合が最も多く,67.8%に達した。この次に多かったのは,「情報化への対応」で,36.7%である。また,「研究施設の老朽化」を選択した人の割合も23.0%あった。このように,大学などの研究施設の直面している課題は,施設の狭隘および老朽化と情報化などの高度化への対応ということになった。

4)研究環境の背後にある勤務環境全般の問題として,「自らの勤務状況に関して,本来の教育研究の業務が十分実施できていると思いますか」と尋ねた結果では,本来実施すべき教育研究業務が「十分行われている」と答えた人は13.3%であり,74.8%の人は何らかの理由で十分行われていないと回答している。十分実施できない理由として最も回答の多かった項目は,「教授会など管理的業務が多いので十分行うことができない」であり,29.9%だった。この他,「経理書類の作成など事務的業務が多く,必ずしも十分できていない」および「技官の不足など技術支援機能が不十分なので,十分行うことができない」もそれぞれ23.2%,21.6%あり,大学教員の多忙な勤務環境が浮き彫りになっている。


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