日本学術振興会の助成による次世代電子図書館システムの

研究プロジェクト

学術情報センター教授

安達 淳

 日本学術振興会(以下,学振と略します)は,1996年度から新しく「未来開拓学術研究推進事業」という名称の研究助成を始めました。採択した研究プロジェクトに対し5年間に渡って潤沢な研究費を出そうという新しい制度で,「わが国の社会・経済の発展や豊かな社会の実現の基盤としての知的資産の形成につながるような先見性のある研究」に対して助成する事業と位置付けられています。理工学にわたる幅の広い分野を研究助成対象としており,この研究事業のなかの「マルチメディア高度情報通信システム」研究推進委員会の元で,学術情報センター研究開発部の研究企画を学振のプロジェクトのひとつとして採用していただけることになりました。当センターの提案するプロジェクトは「高度分散情報資源活用のためのユービキタス情報システムに関する研究」という題目で,電子図書館システムの次の世代の姿に接近しようという試みです。

 学術情報センターでは,この4月から電子図書館サービスを正式に運用開始していますが,このサービスをより一層発展させていくためにはまだまだ多くの研究開発課題が残されています。この学振のプロジェクトには,学術情報センター研究開発部のデータベース・情報検索関係のスタッフが参画しており,研究成果をセンターシステムの上でも提供可能なものとして実現していくことを考慮しつつ研究に取り組んでいます。

 「ユービキタス(Ubiquitous)」という言葉で意味するのは「いつでも,どこでも」というイメージで,ネットワークを介してどこからでも情報活用ができるような環境を念頭においたものです。情報の「収集」,「蓄積」,「提供」,「活用」の四つのフェーズを連携させ,その間のフィードバックを行うような仕組みを考案することにより,高度な情報提供が可能なシステムを実現するという成果を目指しているわけです。

 既に,要素的な研究課題としては,電子図書館,文書画像処理,情報検索機能などについて研究を進めてきました。現在焦点を当てている課題は,出版ベースで得られる情報のディジタル化とその検索機能に関する種々の技法の統合であり,文書画像とOCR処理を総合することがその核となります。また,利用者インターフェースの高度化を目指した情報の可視化や視覚的インターフェースの提案なども行っていく計画です。

 一方,データベースを高度利用するために必要な辞書やコーパスに関する研究も進めます。システム技術としては,分散電子図書館の具体化を重要課題のひとつに設定しています。今後,自律して運用される電子図書館には,様々な粒度のディジタル情報が蓄積されることになりますが,位置透明性を確保しつつ多数の分散したサーバ群を運用していくような分散システムの構成方法が重要になって来るわけです。

 学振のプロジェクトでは,2年目に中間評価,5年目に最終評価が予定されています。当センターのプロジェクトでは,研究成果のなかで実用に耐え得るものを積極的にセンターサービスに盛り込んでいくことを検討します。その一環として,今後,運用している電子図書館システムの上でも,試作的な検索インターフェースなどを提供し,利用者からの評価をお願いすることもあると思いますので,是非ご期待ください。


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