新たな学術情報ネットワークの運用

学術情報センター教授

淺野正一郎

1.概要 

 平成7年度の補正予算を主に活用して,学術情報ネットワークに新たに導入したATM交換機と,約50の大学などに同じく導入したATM−LANを使用して,学術情報ネットワークの運用が開始されている。本稿では,導入に至る経緯を先ずまとめ,現在の運用の概要を紹介したのちに,今後の計画について説明している。

2.ATM導入の経緯

 学術情報センターでは,平成5年度の補正予算を使用してATM伝送装置を導入し,学術情報ネットワークが運用するパケット交換とTCP/IPによるインターネット(SINET)の伝送に使用してきた。この装置は,正式には「マルチメディア多重化装置」と呼んでいるが,目的とするところは,複数の通信方式の転送に必要となる通信帯域を,需要のバランスに応じて柔軟に配分し,かつ,ここの通信方式によるサービスのために適切な通信品質を実現し,さらに,超高速回線の利用を可能とすることでSINETの高速化を図ることであった。

 この導入の結果は成功であった。すなわち,過去2年間に最も高速な幹線を6Mb/sから150Mb/s へ増速しており,また,SINETへの利用の移行に即応して通信帯域を適正に変更することを可能とし,さらに,高エネルギー物理学などの先端研究分野に対して,限定的ではあるが,通信帯域の一部の提供を可能としてきた。しかし,初期のATM製品を利用した「マルチメディア多重化装置」は,学術情報ネットワークの内部で使用するのに留まり,多様な製造者が製造するATM装置との直接接続が困難であるために,大学などに導入するATM−LANとの通信に使用することができない。

 平成7年度の補正予算により,学術情報センターのATMの他に,大学等53機関にATM−LANが導入された。導入手続きを開始する前に,学術情報センターが中心となり,ATMの導入のための「共通仕様」をとりまとめているが,これは,学術情報ネットワークの広域制御を行うATMと,大学ATMとが共通の機能を備えることで,大学間のATM通信を直接可能とすることを目的としている。このような,仕様に従って,12の異なる供給者からの製品が導入されている。

3.ATM通信の運用の概要

 ATM通信には,大別して,固定通信パス( Permanent Virtual Connection : PVC )と交換型通信パス(Switched Virtual Connection : SVC )とがある。前者は,文字どおり手動操作で設定する固定パスを利用するもので,パスの数が限定される。後者は,相手のATMアドレスを指定する接続信号を与えることで動的にパスを設定するもので,比較的多くのパスが実現できる。これとは独立に,パスの通信帯域と通信属性を規定する。通信帯域は,学術情報ネットワーク全体の利用のバランスを考慮して設定するものであり,通信属性には,固定ビットレートのもの(CBR),最大ビットレートを規定しベストエフォートで帯域を共用するもの(UBR),最大ビットレートと平均ビットレートを規定し通信品質を保持しながら帯域を共用するもの(VBR)などがある。この中で,現在導入されている通信機器の能力で運用できるものはCBRとUBRである。これらの関係を,表にまとめている。

学術情報ネットワークによるATM通信の運用

通信パスの特徴 通信属性の特徴 想定する通信帯域 (*1) 実現時期

固定パス

(PVC)

UBR

SINET 接続 (*2)

 1Mb/s 〜 25Mb/s

SINET 接続 (*3)

 契約速度

大学間接続 (*4)

 0.5Mb/s〜 1Mb/s

平成8年度

(実施済)

CBR

大学間接続 (*5)

 0.5Mb/s 〜 1Mb/s

平成8年度

交換型パス

(SVC)

UBR 大学間接続 (*6)

0.1Mb/s 〜 0.5Mb/s

平成9年度

CBR

(*1)原則であり,個別に変更がありうる。

(*2)学術情報ネットワークの通信設備を設置した大学など(ノード機関)が,構内回線により接続する場合に該当。学術情報ネットワークの幹線が,150/50/6Mの3種類あるために,幹線の容量に応じて設定が変わる。  

(*3)ノード機関から離れた大学が,専用回線を契約し接続する場合に該当。通信帯域の中には,地域に閉じる通信が含まれている。

(*4)異なる大学のATM−LANの配下のATM端末同士が,学術情報ネットワークのATM−WANを介して直接通信する場合。大学または地域で,通信の優先順位などの協議がなされることを条件。

(*5)(*4)と同様の場合。また,講義など映像の伝送の場合には,個別に帯域の調整がありうる。

(*6)異なる大学のATM−LANの配下のATM端末同士が,学術情報ネットワークのATM−WANを介して直接交換型パスの設定を行う場合。「共通仕様」に既述されているATM端末のアドレス方式が採用されていることが前提。

 平成8年度には,ATM−LANの供給者と学術情報センターが調達したATM交換機間で相互通信性の確認試験を実施し,現在21のATM−LANとの接続が完了している状況にある。今後も,すべてのATM−LANの接続を段階的に実施する。現在提供する通信属性では,概ね10E-6以下の伝送損失(ビット伝送損失)を達成しており,SINETを始めとする学術情報ネットワークの高品質を実現している。

4.今後の計画

 PVCによる接続が見通しを得たことから,現在SVCを運用するための最終的な仕様と,相互通信性の確認手順を作成している。

 SVCによる接続は,接続相手端末の選択信号を交換する機能が追加される。国際的に見ても先端的な運用であり,また,最新の国際標準で規定される機能をインプリメントするために,供給者各社の協力が重要となる。特に,大学などのATM−LANの運用と端末アドレスの付与方法が異なる事例があるために,共通なアドレス識別方式を先述の「共通仕様」に定めているが,この部分の確認試験が大きな課題となっている。

 現在,本年夏に相互接続性確認を実施し,その経験を加えて,早ければ下期からの運用を想定している。当面のSVC運用のために,幹線帯域の2割〜3割を活用できると見込んでいる。

 SVCの運用は,個々の研究の目的に,従来のインターネットに見られる他の通信の干渉を減らした通信を必要とするとき,有効な手段となる。しかし,これを定着するためには,研究者が所有・管理するワークステーションの設定を行うことが必要となる。個々の負担の軽減のために必要となる運用方式の高度化を含めて,広い範囲の協力を得ることが必要と痛感している。

 とはいえ,平成7年度から導入が始められたATMに基づく新たな学術研究ネットワークが,初期の導入を経て,広域的な運用の段階に入った。これを発展し,世界を先導する学術研究ネットワークにつなげていくことを念願している。

 なお,本稿の詳細に関しては,学術情報センター事業部ネットワーク課にお問い合わせ願えれば幸いである。


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