Sep. 2016No.73

CPS実社会×ITがもたらす未来

Article

人はなぜ設計をするのか その答えは人工知能にあり NIIの人々 vol.2

武田 英明

TAKEDA Hideaki

情報学プリンシプル研究系 教授
1963年生まれ。工学博士(東京大学)。専門は設計学、人工知能、web情報学。webの草創期からwebを対象にした研究に取り組み、現在ソーシャルネットワークからオープンサイエンスまで幅広いテーマで研究を行っている。

池澤 あやか

聞き手IKEZAWA Ayaka

タレント/エンジニア。「Rubyの女神」と呼ばれ、特にIT分野で活躍。著書に『アイディアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)。第6回「東宝シンデレラ」審査員特別賞。

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猫耳と「科学者コスプレ」の白衣で"陽気でおしゃべりな科学者"に変身した武田教授。
その姿に、池澤さんは「可愛い!」。

─うわっ、どうして猫耳なんですか?(池澤)

武田 「この猫耳は脳波をキャッチして、今の気分を耳の動きで表現してくれるんです。普段の私は人前で話すのが苦手なタイプですが、猫耳を付けると『陽気でおしゃべりな科学者』に変身できます。オープンハウスの『研究100連発』では、2年連続、この姿で司会をしました」

─それで昨年12月の「ニコニコ学会β」の司会でご一緒した時もそのスタイルだったんですね。では、白衣の理由は? 白衣って情報学の研究者は着ないですよね。

「白衣は『科学者コスプレ』のようなものなので(笑)、普段の研究ではもちろん着ていません。ただ、昔から白衣への憧れはありました。高校時代、SF 小説が好きだったんです。そこに出てくる恰好いい科学者って、みんな白衣を着ているでしょう? だから、科学者になりたくて、大学は理系に進みました」

─それで、人工知能の研究を始めたんですか? 確かにSFっぽい!

 「それが違うんです。SFといってもメカが好きだったので、初めは精密機械工学を学びました。でも、大学3年の時、設計学の権威である吉川弘之先生(東京大学第25代総長)に出会い、『人はなぜ設計をするのか』という問いに強く惹き付けられて、設計学の道に進みました」

─なんだか哲学的ですね。でも、どうしてそこから、人工知能の研究につながるんですか?

 「設計学の研究ではコンピューターを使って設計対象のあるべき姿をシミュレーションします。私は『人間が設計する行為をシミュレーションする』研究を始めました。人間の行動を観察し、モデル化し、シミュレーションする。これはまさに人間の知能のプログラムです。それが自然と人工知能の研究につながっていきました」

─今はどんな研究をされているんですか?

「Wikipedia 日本語版から情報を抽出して構造化し、誰でも利用できるデータとしてwebで公開する『DBpedia Japanese』の構築に取り組んでいます。ばらばらの情報でも、100万個の情報が相互に結び付くと、巨大なデータベースになります」

─つまり、人間の知識部分を人工知能が担うということですか?

「そうですね。人工知能の進化によって、人間が知識を詰め込む『記憶』に力を使わなくてもよくなる分、人間がより人間らしく、その創造力を存分に生かせる社会になると考えています。人工知能の研究を続けていくうちに、『人はなぜ設計するのか』という、私の研究の原点となった問いへの答えを見つけられるかもしれないと思っています」

(構成=高橋美都 写真=長尾亜紀)

NIIの人々に会って

「データを眺めるのが好き」という武田先生。データを分析して、美しいネットワーク構造が現れた瞬間が一番の「萌えポイント」だそうです。情報学の研究者ならではの感覚ですね。猫耳に白衣のちょっと可愛い姿ですが、人工知能について語る表情は真剣そのもの。最近は人工知能について、「人間の仕事が取って代わられる」といった報道もありますが、武田先生の話を聞いて、人工知能の力を借りることで、人間がもっと賢く、もっと人間らしく生きることのできる未来が待ち遠しくなりました。

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