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活動状況・イベント参加報告

土出 郁子(つちで いくこ/大阪大学附属図書館 学術情報整備室 電子コンテンツ担当)


様々な団体・機関からのOA関係グッズ



SPARC、Hetherさんの開会挨拶



Innovation Fair でのポスター展示

2010年11月7~8日に、米国ボルチモアにて「SPARC Digital Repositories Meeting」1 が開催されました。この会議はSPARC、SPARC Japan、SPARC Europeが共同で開催するもので、2008年にも同じ場所で開かれています2 。この会議に参加させていただく機会を得ましたので、ご報告いたします。

会議のメインプログラムは2つのKeynote Speechと4つのセッション、Innovation Fairというポスター発表でした。ここでは印象に残ったプログラムのみご報告いたします。各セッションの内容は、Meetingのプログラムページと合わせて、筆者のDRFメーリングリスト報告内容3 等もご参照いただければ幸いです。なお日本からは、「Global Repository Networks」のセッションで国立情報学研究所(以下、NII)/SPARC Japanの安達淳先生のご発表がありました。また筆者は出席できませんでしたが、前日やメインプログラムの前後には、主要なリポジトリシステムのひとつである「EPrints」の10周年4 記念パーティや、JISCの “Houghton Report”5 に基づいて実際に機関ベースでオープンアクセス出版を行ったときのコストを算出するワークショップ、といった関連イベントが沢山企画されていました。

Opening Keynoteは量子コンピュータの先駆者であるミカエル・ニールセン(Michael Nealsen)6 がOpen Science をテーマにスピーチ。Scienceが一握りの専門集団以外のレイヤーにも広がりつつあること、コミュニティのレイヤーの重なり、学術雑誌を中心としたコミュニティの外側への発展、などを具体的な事例に基づいて紹介し、リポジトリがその一手段となりうる、と図書館コミュニティを励ましていました。

“Repository-Based Publishing Services: Strategies for Success(or Failure)” というセッションは、各大学で発行されている「Journal」をリポジトリで発信するべしという趣旨で、学際領域のジャーナル出版をリポジトリで実現した事例の紹介等がありました。2008年の会議では “Campus Publishing Strategies” というセッションがあり、キャンパスニュースや人文系小規模大学の出版物アーカイブの話をしていましたが、今回は「学内発行のJournal」という、より「従来の出版流通に乗らない、かつテンポラリな」成果発信に焦点が当たり、機関リポジトリが新たなpublisherのプラットフォームとなる可能性が示唆されたように感じました。ただこれは日本では「紀要」に当たるものと思われ、既にリポジトリでの発信がかなり実現されています。

2010年には世界中でオープンアクセス義務化方針を採用した研究機関(大学含む)が急増したそうです。ハーバード大学もそのひとつですが、義務化方針があっても教員が自らアーカイブをしてくれることはまずなく、図書館からのアレンジやストレスのない作業フロー提案などが必要とされていることも発表されました。

今回の会議では事前にFacebookにイベントページが作成され、会議出席者が予め知り合うことができたり、twitterの会議公式ハッシュタグが決められ、会議の参加者からの中継やコメント、参加者以外との議論があったりしました。このtwitter活用とその効果についてはSPARCの会議開催速報記事でも言及されており7 、関心の高さが伺えました。

同記事によると次回は同じく2年後の2012年開催を検討しているとのことです。



参考文献
1. SPARC Digital Repositories Meeting 2010. http://www.arl.org/sparc/meetings/dr10/
2. SPARC Digital Repositories Meeting 2008. http://www.arl.org/sparc/meetings/ir08/
3. [drf:2135] SPARC DR Meeting 2010参加報告. http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drfml/msg02123.html
4. EPrints celebrates its 10th birthday. http://www.ecs.soton.ac.uk/about/news/3445
5. John Houghton et al. “Economic implications of alternative scholarly publishing models: Exploring the costs and benefits”. JISC, 2009.
http://www.jisc.ac.uk/publications/reports/2009/economicpublishingmodelsfinalreport.aspx
6. Michael Nealsen. http://michaelnielsen.org/blog/michael-a-nielsen/
7. SPARC MEETING HIGHLIGHTS POWER OF REPOSITORIES FOR DRIVING OPEN ACCESS (For Immediate release December 9, 2010). http://www.arl.org/sparc/media/10-1209.shtml


古賀 崇(こが たかし/京都大学附属図書館 研究開発室)

ディスカッションの様子

2010年12月10日(金)に開催された標記シンポジウムは、米国、英国、そして日本における「オープンアクセス」の現状と課題が提示され、また各国の状況を比較して考察する機会が与えられた、という点で有意義な催しだったと考える。当日の資料・ビデオや参加者からの感想等のまとめはSPARC Japanのウェブサイトに掲載されているので、ぜひご参照いただきたい。1

個人的に最も刺激的だったのは、東工大・遠藤教授の講演である。日本でオープンアクセスの実践ないし研究に携わる関係者にとっては、今回のシンポジウムでの講演を含め、大学や出版社などの立場での個々の事例報告に接する機会が比較的多かったと思われる。これに対し遠藤教授は「ファウンディング・エージェンシー」としての日本学術振興会に長年勤めていた経験も踏まえ、オープンアクセスに関する米国の政策的状況を論じられた。とりわけ今回の講演では、オープンアクセスをとりまく出版社、研究者、学会、納税者としての市民といったさまざまな「ステークホルダー」の立場や主張を整理しつつ提示していることに大きな意義を有する、と感じた。言い換えれば、個々の事例からのみでは明らかになりにくい、オープンアクセスをめぐる論点や立場の違いをめぐる「見取り図」が示された、ということである。遠藤教授はさらに米国の状況と対比させる形で、日本におけるオープンアクセスへの一般の人々の認識状況や、研究者・学協会・政府などそれぞれの立場で考えられる取り組みを提示されたが、これも日本における今後の方向に大きな示唆を与えるものと考える。

一方、米・英・日の各大学における事例報告も興味深いものであった。シーバー教授(米国ハーバード大学)は「短期的方策」「長期的方策」の二段構えの戦略を意識し、前者においては学部ごとのオープンアクセス方針、後者においてはビジネスモデル変革のための大学・研究機関等を横断した取り組み(COPE)を提示された。アダムズ教授(明治大学、前・英国レディング大学)は「学内で真の権限を持っている者」たる学長や経営上層部などへの働きかけから、リポジトリシステムの採用・運用面に至るまで、大学レベルでオープンアクセス義務化にたどりつくまでの幅広い戦略を紹介された。これに対して日本の状況を鑑みると、図書館が中心となり学内の個々の教員に働きかける「ボトムアップ」の方向が先に立つ印象があり、もうしばらくはこの方向によりオープンアクセスへの理解を学内で広める戦略も有効ではあろう。とは言え、シンポジウム冒頭に東大・尾城氏が紹介された通り、国の「総合科学技術会議」でオープンアクセス推進の方針が打ち出されたこともあり、政府レベルであれ大学・学会レベルであれ、「トップダウン」の政策・方針の形成に向けても力を注いでもいい頃なのでは、との印象を抱く。また最後のパネルディスカッションの司会としてNII・安達教授が言われた「SPARC Japanの取り組みの中で、全国の図書館と接点を構築することはできたが、研究者への接点はまだ不十分である」ということばは、日本の課題を端的に示しているものと考えている。

まとめると、今回のシンポジウムを通じて筆者が実感したのは、オープンアクセスをめぐる「ポリシー」の必要性であるが、ここで言う「ポリシー」は2つの意味がある。ひとつは大学や学部・部局の単位で研究成果を広く公開するための方針(ポリシー)であり、もうひとつは国・地域や国際的なレベルでの研究成果の公開・共有のあり方、またそのための財源や人材の配置を定めるための政策(ポリシー)である。いずれにせよ、方針・政策(ポリシー)の決定権を有する人々―大学上層部や政策担当者など―に向けての効果的なアピールないしロビーイングが、日本でも求められているのではないだろうか。




参考文献
1. シンポジウム「大学からの研究成果オープンアクセス化方針を考える」. http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/20101210.html

● 2010のまとめ

平成22年度は、SPARC Japanセミナー2010として8回のセミナーを開催し、国立大学図書館協会との共催によるシンポジウムと併せて、789名にご参加いただきました。

平成15年度から開催している本セミナーは、従来、学術機関関係者(大学・大学図書館・公的機関)の参加が少ない状況でしたが、今年度の内数は389名で約50%となりました。過去2年間の実績は、平成21年度:479名(内、学術機関関係者:227名で47%)、平成20年度:617名(内、学術機関関係者:161名で26%)となっており、 より広く・より多くの方に参加していただくという目標は、達成できつつあるようです。

内容については、オープンアクセス、著者IDなどの最新の動向に加え、学術誌については、学会・大学図書館・海外・研究評価という多角的な視点から4回のセミナーで取り上げ、様々なステークホルダーの方々が一堂に会して議論出来たことは大きな収穫でした。企画に携わってくださった方、講師や司会をしてくださった方、参加してくださった全ての皆さまにこの場をお借りして感謝いたします。ありがとうございました。

● 2011の企画

平成23年度の企画も始まっています。参加者アンケートを参考にしつつ、学会関係者・大学図書館関係者の合同ML(SPARC Japan運営員会の下のWG、及び学術コンテンツ運営・連携本部 図書館連携作業部会の下の機関リポジトリ関連WGのメンバーが参加)で意見交換を行っています。Twitter(ハッシュタグ:#sparc2011_kikaku)でも意見募集を行っていますので、ぜひ企画にご参加ください。