space     
ヘッダー
コンテンツ特集記事トピックス活動報告
line
spacer
spacer特集1spacer
spacermenuspacermenuspacerトピック3spacerトピック4spacer spacer
space
image

大西 賢人(おおにし まさと/京都大学附属図書館)

space
広島大学

2006年10月に公開した京都大学学術情報リポジトリKURENAI(紅)はこの10月で5年目をむかえます。KURENAIでは、京都大学の研究活動の視認性を高め、その成果を広く社会に還元することを目的として、学術雑誌掲載論文、博士論文、紀要論文など学内の研究成果物の収集、公開に努めてきました。機関リポジトリでどのようなコンテンツを収集するかは、各機関の特色やリポジトリの設置目的などによってさまざまですが、本学の事例を紹介したいと思います。

学術雑誌掲載論文は2通りの方法で収集しています。1つ目は著者に個別にメールを送り許諾を得る方法です。文献データベースから本学所属の著者が含まれている論文を抽出し、出版社の著作権ポリシーを調査後、個別にメールで問合せをおこなう方法です(登録率は約3割程度)。また、昨年度から新聞各紙で報道されたインパクトの高い研究成果のうち許諾が得られたものを「プレスリリース論文」と名付けて登録しています。最先端の研究成果をできるだけ鮮度が高いうちに公開するために大学の広報部署と連携して情報を収集するほか、KURENAIへの認知度を高めてもらうために大学のWebサイトからリンクをはってもらっています。著者に個別にメールを送るこれらの方法は手間もかかりますがKURENAIの学内広報的な意味合いもあります。

2つ目は研究科・研究室単位で連携して許諾を得る方法です。工学研究科では英文論文データベースという業績データベースを構築しており、毎年研究室単位で前年度の業績調査がおこなわれます。その調査の際にKURENAIへの登録可否についてもあわせて確認をお願いし、その結果と論文リストを研究科から提供いただきます。その後、図書館からメールで問合せをおこなうのは最初の方法と同じですが、研究室単位でやりとりをおこなうため、個別の場合よりも回答率が高く、網羅的・効率的な処理が可能です。このような業績データベースとの連携はまだ工学研究科だけですが、現在、経営管理大学院とも同様の連携を模索しています。

博士論文については、過去に学位を取得された方に対して著作権調査をおこない許諾が得られた論文を電子化して公開するほか、今後学位を取得する方の論文を電子的に収集するための制度づくりをすすめています。工学研究科では、平成19年度より博士論文の学位論文審査願の提出と同時に、登録書と論文の電子ファイルを提出していただく制度が整備されました。この制度化により工学研究科の学位取得者の約6割の論文について許諾が得られるようになっています。最近では公開されている論文数が増加するにつれ、既取得者や他の研究科の学位取得者からも個別に登録申請がくるようにもなりました。博士論文については国立国会図書館への電子媒体での納本の可能性も想定して、学内での電子的な収集に向けて、引き続き他の研究科とも制度化について検討してきたいと考えています。

KURENAIのコンテンツのうち最も大きな割合をしめているのは紀要論文です。ひとくくりに「紀要」といっても研究科単位、研究室単位、ゼミ単位など発行主体や規模はさまざまですが、現在90誌以上の紀要を公開しています。特に人文社会科学系の研究分野において紀要は各研究科や研究室に所属する教員・大学院生の研究成果やゼミでおこなわれる共同研究の発表の場となっています。医療分野でも原著論文が英語で国際的な学術雑誌に出版されるなか臨床症例報告を日本語で発表する場として紀要が重要な役割を果たしている例もあります。

紀要は冊子体のみで刊行され限定された学内外の関係者にのみ配布されることが多いですが、一方で電子化してインターネット上で公開することで可視性を向上させたいという潜在的なニーズをもつ紀要もあります。図書館では、このような紀要についてバックナンバーを含めた電子化や著作権処理に必要な予算・ノウハウに関して全面的にサポートすることでKURENAIへの登録を促進させてきました。その結果、KURENAIを通じて公開することで検索エンジンなどから発見される機会が高まる、CiNiiから紀要論文が検索可能になるというメリットをもつことから、ある研究者の方から「私どものゼミ論文のような中間的な学術情報を対外的に発信するには、理想的なメディア」という声もいただきました。このように紀要には学術雑誌とは異なる目的のために発行されている場合もあり、学内の研究・教育活動を示す重要な成果物ともいえるのではないでしょうか。

また学内の研究者や研究室等が中心となって組織された学会・研究会が発行する刊行物についても収集しています。団体の規模にもよりますが、このような機関の枠をこえた研究者コミュニティで生産される研究成果の発信について機関リポジトリがどのように関わっていくか今後検討する必要があると思われます。

KURENAIでは学術情報の生産者や利用者の潜在的なニーズを探りながら、今後も引き続き積極的にコンテンツ収集に努めていく所存です。

京都大学リポジトリ