出典: Willinsky, J. The Access Principle: the case for open access to research and scholarship. MIT Press, 2006, p.212-213.
以下では、本ニュースレターの位置づけから、学術雑誌に焦点を絞り、大学図書館のオープンアクセスに対する立場について述べる。
● 大学図書館とオープンアクセス
それでは、大学図書館はオープンアクセスに対してどのような立場をとるのか。大学図書館がこれまで果たしてきた役割を考えれば、学術情報基盤を支える組織として大学図書館がオープンアクセスを支持し推進することは原則として望ましいはずである。しかし、問題は実際に何をどうすれば、大学図書館がオープンアクセスに寄与できるかだろう。従来、大学図書館は、学術雑誌に関しては収集・提供・保存する役割を担ってきたが、電子ジャーナルの時代においては、直接の提供・保存は出版者が行い、近い将来、大学図書館は主に収集(契約)の役割を果たすことになるだろう。学術雑誌の予約購読費の高騰に対する将来像が不透明なままの中で、大学図書館が果たす役割は縮小するほかないのだろうか。
大学図書館のオープンアクセスに対する一つの新しい取組みとして、「機関リポジトリ」がある(表の2:Eプリントアーカイブに該当する)。
現在、機関リポジトリは世界で1400以上、日本でも120弱が設置され、2009年8月現在、合計2000万件以上のレコードが登録されるまでに至った。日本では、紀要論文、学位論文、研究報告書など、電子化が遅れていた資料やそもそも入手が容易でない資料約70万件弱を、この数年で機関リポジトリを通して誰もが無料で利用可能にした。これ自体は各大学図書館・研究機関の大きな成果である。しかし、機関リポジトリが学術情報流通の要である学術雑誌(論文)のアクセスに対して、総体としてどれほど寄与しているのか正確な実態は、大学図書館自体も把握しているとは言えない。
機関リポジトリが収集・提供・保存している対象は、各大学で生産された様々な学術情報である。これまでの学術雑誌や図書を扱っていた時代とは、収集対象も、交渉相手も、提供相手も、保存方法も異なる。従って、機関リポジトリは、これまでの大学図書館の役割の自然な延長線上にあると考えるよりは、全く新しい領域に足を踏み入れたとみなすべきだろう。ここに大学図書館が機関リポジトリを構築運営する難しさがある。
オープンアクセス、特に機関リポジトリが大学図書館につきつけた課題は決して容易なものではない。この困難な課題に大学図書館はどう対処するのか。従来の大学図書館にはない新しい役割を獲得する・新しい学術コミュニケーションのサービスを考案し提供する絶好の機会として考えるのか。それとも、横並びのサービスと考えるのか。その判断は、各大学図書館に委ねられるべきものだろうが、もし前者の道を選ぶのであれば、もはや大学図書館だけで対処できる問題ではないだろう。それは、
機関リポジトリは大学図書館だけを考えていれば良いものではもはやないからである。
現在の学術雑誌の出版流通体制は様々な問題が指摘されているものの、今後数年で大きく変容するとは考えられない。学術雑誌の提供方法は、オープンアクセスと有料アクセスの両極端しかないわけでもなければ、どちらかを選択しなければならない理由もない。現状を基本として様々な新しい取組みが試みられる状態がしばらく続くだろう。利用者にとっての学術情報の価値を追求することは、全ての利害関係者の共通の関心であるはずである。機関リポジトリを通してオープンアクセスを実現しようとしている大学図書館が、図書館間はもとより、研究者、学協会、出版社、大学などに対して絶えず丁寧な説明を行い、連携・協力関係を築くことができるかが、今後の成否を分けるだろう。
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