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トピック3


前田 信治(まえだ しんじ/大阪大学附属図書館 学術情報整備室学術情報組織化班 電子コンテンツ主担当専門職員)



 リポジトリに関わりオープンアクセスを考えるようになってから教員に対する感覚が私の中で変わった。別に彼らを心底から好きになった訳ではないが、今回参加したのは偏に教員を知りたいと願った事以外に動機は無い。教員というものは学会に参加し他の分野の研究者やそもそも研究者ではない人間の言うことには全然関心のない人達だと想像していた。この見方は全く外れている訳ではないのだが、大事な点は教員とはどういう人種なのかではなくそういう研究者達と自分との関係である。

 長神先生はこの人種についての私の感覚を正してくれた。公開されている配布資料のスライドにある(「科学技術創造立国の凋落」)が、研究者ではなく一般の人々の声即ちコミュニケーションがあってはじめて無軌道な科学技術の進展に歯止めがかかり、科学の進展が人を幸せにするという。「科学の情報は、研究機関で研究によって生まれる、という前提を疑う」・・・何という平易で直裁で且つ理解し易く当の研究者自身が口にするに勇気が必要な言葉であろうか。研究者がここまで熱く社会とその中の「人」との接点を求めているというのに、大学図書館が教員のことを知らずに居てよい筈がない。大学図書館が提供しているサービスは「無軌道で」図書館だけで自己満足しているものではないか?それを防ぐのに研究者とのコミュニケーションが必要ではないだろうか?

 轟先生のセルフアーカイブを契機として自らの活動領域が拡大した話も重要なテーマだ。機関リポジトリはセルフアーカイブを実現する役割をもち多くの大学等研究機関で活用されている。しかしその個々のコンテンツがこれだけの可能性を投稿者に対してもっている訳で、それを活かすべく投稿者たる教員との対話が必要なのではないか。コンテンツを機関リポジトリに搭載しアクセスが来る、そこから教員との対話が開始されのが本当の姿なのではあるまいか。

 図書館といってもその中で働くについては様々なポジションがある。サービスならまだしも管理業務で目録や電子ジャーナル・データベースの契約そしてネットワーク管理などという任務は、勿論教員を含め図書館の利用者、大学全体のためのものである事は皆知っているが、黙ってひたすら働いているだけでは教員の顔は見えないのである。これは強ちその職員が「大学全体を見渡す広い視野をもっていないから」と当の職員の責に帰されるべき問題点だとは言えない。人は減らされ、逆らうことのできない(はまだよいとして、時には相談する事すら許されない)業務命令として途轍もない作業量が任されるのであるから。しかし同時に、図書館で働いていて教員を知らないのは不自然なことなのだ。本来大学とは研究者である教員とそれを日常的に(=しばしば直に顔をあわせて言葉を交わして!)支える図書館員がいるのが本当なのだ。研究者とのコミュニケーションをとるなと言っても無理なのが図書館員である。それが今実現していないというのなら即ち課題があるという事になる。

 確かに今、世の情報化技術についていくだけでも大変な事である。またLearning Commonsなど新しい発想のもとに提唱されるサービスを比較評価し自らの組織の求められている状況に応じて順序づけて適用し展開していくのは難事と謂わなければならない。しかし自分を取り巻く既存の環境を打破するところには、打破しようとする者にだけ空から降ってくる力がある。恐らく図書館員であろうが研究者であろうが、生きている人間である以上そこに違いはあるまい。そんな力に動かされて変革は成るものであると信じる。今回その活きた実例を示してくれた長神、轟両先生に感謝する。図書館員は禁欲的であってはならず寧ろやり過ぎて失敗する位の奴が必要なのだと励まして欲しい。どこか会場の隅っこでお二人の講演を聴いていた図書館員が、眼光のみ徒に炯々として 「そうか、やっぱりそうだったのか」といわんばかりの表情で目覚める。すぐに暴走し始める。それをひきとめようとする周囲の者までもがやがて感染して皆で御し難い行進をはじめる。止めに入ってきた偉い人はぶん殴られた上膝で小突き回され放り出されて、「貴様らっ、覚えとけよーーっっ!」という怒声も皆目きこえずに静謐であるべき大学図書館に思い切って相応しくないその馬鹿気た行軍をもう誰も止められない、そんな光景が素敵だ。



イベント開催報告

2009年
6月 25日 SPARC Japanセミナー2009 第1回
「研究者は発信する−多様な情報手段を用い、社会への拡がりを求めて」 開催
8月 4日 SPARC Japanセミナー2009 第2回「非営利出版のサステイナビリティとは−OUPに学ぶ」 開催
9月 8日〜 9日 SPARC Japanセミナー2009 第3回
「数学におけるデジタルライブラリー構築へ向けて−研究分野間の協調のもとに」 開催
9月 17日 日本動物学会第80回大会
SPARC Japanセミナー2008 第4回「ZSプロジェクトについて」 開催





参加者数/参加者数:68 名 
アンケート結果/回答数:38
※ご意見は、公開の同意をいただいたものです。


今回の内容について
■ 参加目的 業務に関連するため:32
  研究に関連するため:1
  教養:5
■ 目的達成度  役に立つ:26
  普通:11
  期待と異なる:0



「第2回 SPARC Japan セミナー2009」の様子

■ ご意見 (所属/職種)

OUPの先進的な取り組みの細部まで聞くことが出来、非常に参考になりました。ただ、規模が大きいからできるのではという部分も多々ありました。これだけの内容を日本の学協会が個別にやるのは、あまりにもハードルが高いです。(学協会/学術誌編集関係)
OUPのような大学出版会のサステイナビリティの方向性は明らかになったが、日本の小規模な大学出版会や学協会が参考にできる部分は非常に限られているのだろうか?大学出版局が個々のブランドを維持しながら、シンジケートのような組織を構成して、コスト軽減などをはかれる道はあるのだろうか(なさそうだけど・・・)?(学協会/研究・教育関係)
Open Accessオプションの選択率が下がっているというのは非常に興味深かった。機関リポジトリやPubMed Centralへの登録状況とあわせて見ると面白いかも?またPamさんのお話でアウトソーシング(戦略的な)をかなり積極的に活用されているという部分も大変興味深かった。(大学/大学院生・学生)

今後、聞いてみたい内容・テーマ・講演者について
欧米の小さくて苦労している学協会の話(学協会/学術誌編集関係)
著作権、PubMed Central のポリシー、二重投稿への対策(企業/学術誌編集関係)
機関リポジトリ、電子ジャーナル(オンライン)無料提供などの方針や、それにともなう検討課題(学協会/学術誌編集関係)

その他、当企画に関する意見、感想
行けない時もネットで資料を拝見しています。非常にいい内容だと毎回思っています。(学協会/学術誌編集関係)
今回は少し難しかったので、より初級向けのものもお願いします。(国立機関/学術誌編集関係・図書館関係)
オンラインでの林さんとのやりとりは大変興味深い。一歩進んで、SPARC Japanのリアルタイム配信とかはどうでしょうか?(大学/大学院生・学生)



イベント開催報告
(2009/10月現在)
日程 場所 内容 講師(敬称略)
2009年
10月20日 国立情報学研究所
(12階会議室)
Open Access Week 2009
第5回 SPARC Japan セミナー2009
「オープンアクセスのビジネスモデルと
研究者の実際」
Charlotte Hubbard
(BioMed Central, Singapore)
栃内 新
(北海道大学大学院理学研究院)
11月11日 図書館総合展
@パシフィコ横浜
第11回 図書館総合展フォーラム
第6回 SPARC Japan セミナー2009
「NIH Public Access Policyとは何か」
(通訳付)
Neil M. Thakur
(National Institutes of Health
Office of Extramural Research)
12月3日〜4日 東京工業大学
蔵前会館
くらまえホール
DRFIC 2009
デジタルリポジトリ連合国際会議 2009
※詳しくはhttp://www.tulips.tsukuba.ac.jp/DRFIC2009/index_ja.phpをご覧ください。
12月11日 国立情報学研究所
(12階会議室)
第7回 SPARC Japan セミナー2009
「機関リポジトリ方針、著作権、 電子ジャーナル人文系ジャ−ナルの現状」
Kate Wildman Nakai
(モニュメンタ・ニポニカ)
山本 眞鳥
(日本文化人類学会/オセアニア学会)
2010年
1月 未定 第8回 SPARC Japan セミナー2009
ALPSP ジャーナル出版 セミナー &
トレーニング
ALPSP

※ SPARC Japanのサイトで最新のイベント情報を確認できます。(http://www.nii.ac.jp/sparc/event/





編集後記
 SPARC Japanという日本の学術情報流通基盤を強化する事業が2003年に開始され、はや6年という時間が過ぎた。海外学会の活動やジャーナル編集・出版の在り方に関する熱い議論を国際会議などで垣間見る機会を得たことも、国内学会の優秀なジャーナル編集・出版担当者と直接意見を交換できる場ができたことも、SPARC Japan活動によるものである。学術出版、わけてもジャーナル支援政策は、それを実行する折に、大きな投資を行えば、確実に何かを得られるというものではない。地味な、日々の怠らぬ “より良いものにしよう”という努力によってジャ−ナルは育てられるものであり、支援の成果が見えにくく、それらは、また研究者の考えや行動に大きく依存するものでもある。
 ここに、2009年SPARC News Letter 2号を皆様にお届けし、また、御多用の中、この号に執筆くださった方々にこの場を借りて御礼申し上げたい。このNewsをご覧いただくことで、日本の学術誌を含めた、世界の学術誌情報流通の現状をわずかでもご理解いただけるのであれば、それは私にとって大きな喜びである。(YN )