林 賢紀(はやし たかのり)
農林水産研究情報総合センター
2011年12月6日(火)に国立情報学研究所にて開催された第2回 SPARC Japan セミナー「今時の文献管理ツール」ワークショップに参加する機会を得た。本ワークショップでは、既に多くの研究者に利用されている EndNote、RefWorks といった文献管理ツールのほか、ソーシャルネットワーク機能を取り込み急激な成長を遂げた Mendeley や、医学生物分野に特化し PubMed との連携や論文推薦までをサポートする TogoDoc、合わせて4つのツールを同じ場で比較できる貴重な機会となった。
発表資料や当日のビデオ映像、またアンケートの回答が SPARC Japan の Web サイトで公開されている1 ため、本稿では各ツールの詳細に言及することは避け、発表や質疑を元にした所感などを述べたい。また、筆者を含め当日会場で聴講していた者による会議の模様の Twitter 発言のまとめ2 も参考にされたい。
ワークショップは、各ツールの説明と、使い比べを目的としたディスカッション「実際の文献管理で各ツールを使ってみる」の2部で構成され、特に CEO である Dr. Victor Henning が来日し、自ら紹介を行った Mendeley に注目が集まった。
個々に文献管理ツールを見たとき、ありきたりの結論としては「時と場合に応じて使い分ける」となるだろうか。文献データベースを検索しその書誌情報を取り込んで管理し、執筆する論文の引用文献リストに指定の書式で出力する、という文献管理ツールにとって基本的な機能はいずれも変わらない。また、相互に書誌情報を標準的な形式のファイルで交換することもできる。その他、有償か無償か、あるいはデスクトップ上にインストールするアプリケーションか、Web のみで利用できるのかなど、機能やインターフェースの差違が、文献管理ツールの一般的な選択要素となるだろう。
しかし、筆者に衝撃を与えたのは、機能比較の質問に対する Dr. Henning から発せられた「大事なのは機能ではなく、使っていて楽しいかどうかだ。MendeleyはResearcher にとって、使って楽しいツールであり情報共有を簡単にするものである」という言葉である。
研究テーマの多様化・複雑化は、他分野の研究者との共同研究を必要としている。Thomson Reuters は保有する膨大な学術文献情報を元に、ResearcherID に見られる自著の公開と研究者間のコミュニティツールを持ち、RefWorks は文献共有機能を有する。現在は、文献管理から共有、そしてコミュニケーションツールへの進化の過程である、と言えるだろう。蓄積した文献のメタデータなどから利用者同士を結びつけ、ソーシャルネットワークの構築を可能にしたのが Mendeley である。また、TogoDoc は精度の高い論文推薦機能により関連する著者の発見を容易にし、結果としてコミュニケーションに繋げることができる。一頃流行した Web2.0 の文脈で言えば、「集合知」の集積によるサービスとも言えるだろう。
このように、いずれのツールも論文管理による研究の効率化を起点としており、その目指す先には、アプローチは異なるがコラボ
レーションや情報共有などの研究開発に必要な根本的な活動をデジタル化により支援する、という新たな概念が見えてくる。ここで一歩リードしているのは Mendeley や TogoDoc と言えるが、運用実績やサポートなどの側面からは、使い慣れた EndNote や RefWorks は捨てがたく、手放せないものであるだろう。そこで重視されるものは何か。多機能性より「日常使っていて楽しい」要素の重視は、国内における国産スマートフォンと iPhone との違いを彷彿とさせる。
学術研究の分野においても、集合知やこのような概念が入り込んできたことへの驚きと、研究活動においてはどちらが優先されるのか、サービスを提供する側である図書館員として新たな課題を課せられたワークショップであった。
参考文献
1. |
SPARC Japan. “2011年度 第2回「今後の文献管理ツール」ワークショップ”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2011/20111206.html(参照 2012-01-23) |
2. |
tzhaya. “第2回 SPARC Japan セミナー2011 「今時の文献管理ツール」ワークショップまとめ”. http://togetter.com/li/224136(参照 2012-01-23) |
コーネル大学図書館とデューク大学出版局が共同運営をしている数学・統計学分野のオンライン出版プラットフォームである Project Euclid の担当者をお招きし、3月26日(月)に東京理科大学にて共同ワークショップが開催されます。
このワークショップでは、数学出版、特に学協会および学術出版界が直面する課題と可能性に焦点を当てます。取り扱う内容は、現行の出版における実践と取り組み、マーケティングと広報、印刷体から電子出版への移行、ジャーナルを製作するための戦略、新たなビジネスモデルを含みます。ワークショップは4つのセッションに分かれており、学会出版と実務担当者、それぞれの立場から現状と取り組み、電子出版への移行、学術出版におけるビジネスモデルに関して集中的に検討・意見交換をします。数学分野のみならず他の分野の関係者にとっても非常に興味深い内容となっておりますので、是非ご参加ください。事前予約不要、入場無料です。
Workshop on Mathematics Publishing
日時:2012年3月26日(月)9:00-18:00 会場:東京理科大学 神楽坂キャンパス 842教室(8号館4階)
http://mathsoc.jp/meeting/tus12mar/mathpub.html
● スケジュール概要 |
9:00 |
開会の挨拶と趣旨説明
Mira Waller(Manager, Project Euclid) |
9:15–10:40 |
学会出版に関して:学会から
David Ruddy(Director of Scholarly Communications Services, Cornell University Library, Project Euclid),Don McClure(Executive Director, American Mathematical Society),堤誉志雄(京都大学 教授,日本数学会),Dong Kwan Shin(Vice President, Korean Mathematical Society),Susan Hezlet(Publisher, London Mathematical Society)
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11:15–13:00 |
学会出版に関して:出版部門から
Mira Waller(Project Euclid),坂元国望 (Managing Editor, Hiroshima Mathematical Journal),筱田健一(Managing Editor, Tokyo Journal of Mathematics),石田正典(Managing Editor, Tohoku Mathematical Journal),印南信宏(Editor-in-Chief, Nihonkai Mathematical Journal)
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14:00–15:55 |
ジャーナル出版における重要な要素について
Erich Staib(Senior Editor, Duke University Press),Erich Staib(Duke University Press),David Ruddy(Project Euclid),三輪哲二(Managing Editor, Kyoto Journal of Mathematics),鈴木昌和(九州大学 教授,ISIT, Director, Science Accessibility Net)
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16:00–17:30 |
学術出版のビジネスモデル
Mira Waller(Project Euclid),安達淳(NII 教授,学術基盤推進部長),行木孝夫(北海道大学大学院 准教授),尾城孝一(NII 図書館連携・協力室長)
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17:40 |
閉会の挨拶
David Ruddy(Project Euclid) |
※ SPARC Japan では、上記16:00-17:30のセッションを後援しています。
※ SPARC Japan のサイトで最新のイベント情報を確認できます。(http://www.nii.ac.jp/sparc/event/)
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