● 合同PRの考察
日本の学協会発行の論文誌の多くは電子化され、海外からのアクセスも投稿論文も増えつつあります。しかし、PRの現場で聞く声は、「日本のジャーナルについてもっと情報がほしい」というものでした。海外の研究者にとっても、図書館員にとっても、まだ日本の学術情報は情報をどこから得たらよいのかわからないものです。それに比べ、海外の出版社は営利、非営利を問わず定常的に出展し、広報も重要な活動と位置づけられています。ちなみに、このようなPR活動によって購読数など具体的な数字が実際増えるのかといった直接的な成果を求める声もよく挙がりますが、日本分析化学会や日本化学会で中国へのPR後に中国からの投稿が若干増えるといった傾向を見ることができた程度で、数字の上では顕著な成果を見ることはできませんでした。この点をイギリス化学会に率直に伺ってみたところ、彼らも具体的な数値目標があって(出展)PR活動を行っているわけではなく、常にPRし続けることで、その存在(プレゼンス)を示すことが大事であるとのことでした。また、常に新しい宣伝材料を用意することも大事であり、その上で、継続的なPR活動を事業予算として取り込んでいるのです。
この2年間のPR活動で得ることができたことの一つは、この内外の差を目の当たりにしたことです。いままでの日本の学術出版には、PRという点が欠けていたことを改めて強調しつつ、この現状を正しく認識し、ジャーナルが海外の研究者および図書館員の目に触れるために継続的な努力を続ける必要があります。また、少ないながらも学協会スタッフが現地を訪れ海外の研究者の生の声に触れられたことも大きな経験です。当たり前ではありますが、自ら海外に出向かなければ海外の本当の様子は掴めませんし、それがわかっているからこそ欧米のスタッフは日本にも足しげく通ってくるのです。日本発の情報発信が真の国際化を目指すのであれば、海外マーケットの反応は肌身で感じる体制にしておくことは不可欠とも言え、今後もこのような機会が継続的に学協会スタッフに与えられることが期待されます。
なお、このPR活動は副次的な効果も生み出しました。それは、化学以外の分野の学協会にもPRの意識が浸透したことです。2007年の化学系合同PRの一定の成功を受けて、2008年からは物理系、情報系、医学系など分野を問わず多くの学協会が国際会議でのPR企画を立ち上げ、そのいくつかはSPARC Japanの補助を得て活動を行っているか、近々に行う予定です。
● 実際的な今後の活動のために
しかしながら、日本の学協会がPR活動を続けていくには大きな問題が依然として二つ残っています。一つ目はPR活動のための予算確保です。日本の多くの学術出版は欧米と異なり学術ジャーナル発行で利益を得ることが難しく、科研費の出版補助に頼っているところも少なくありません。さらに、電子ジャーナルで課金を行っているジャーナルも全体的に見ればまだ少なく、ジャーナルをビジネスとして確立できていないので、結果としてPRのための予算を確保する余地がないのです。二つ目はスケールメリットの問題です。このようなPR活動はジャーナル単体ごと個別にできることではなく、もしくはできても大変非効率的ですので、今回のような学協会連合のスケールメリットを生かした取り組みが望まれます。さらに申し上げれば、化学系など分野別にパッケージ化したほうがPRの観点だけから見れば効率が良いのですが、それが難しいことがこれまでの学協会間の対話で判明しています。そのために、各個別の活動ごとに学協会の連携を取るという事態になっており、常に連携が崩れるリスクを内包しながらPRを進めていくことになっているのが現状です。実際に今回の参加学会の一つである高分子学会は、2010年以降商業出版者のNature Publishing Groupに委託を開始することがアナウンスされ、今後どのように連携を行っていくかが不透明になっています。
以上、合同PRを定常化するための、予算および人員の確保と長期的かつ安定的な提携体制の維持など大きな問題も横たわっています。これらは簡単に解決できる問題ではありませんが、冒頭で述べたPRの重要性を常に認識しながら今後も日本発の学術情報発信の向上に向けて様々な活動を展開できればと考えています。
謝辞
本活動にあたっては、丸善(株)に事前準備と展示期間の設営等にご協力いただきました。また、本活動に理解を示し参加ただいた各学協会の関係者と、本活動を全面的にサポートしていただいたNIIのSPARC Japanおよび同事務局に謝意を表します。 |