国立情報学研究所 研究成果発表・一般公開 オープンハウス2017

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NIIオープンハウス2017
レポート

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第1日の9日(金)は、開会式でNIIの喜連川優所長が活動報告を行いました。喜連川所長は、NIIの両輪である「研究」と「事業」それぞれの主な取り組みとして、NIIが関わる大型の研究プロジェクトやNIIが構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET5」、今年4月に新設した「オープンサイエンス基盤研究センター」等を紹介し、「今後ともさらなるご支援をお願いいたします」と呼び掛けました。

ご挨拶・活動報告

「NIIの今」

喜連川 優[国立情報学研究所長]

 お忙しいところオープンハウスにお越しくださいまして大変ありがとうございます。毎年、NIIが何をやっているかをご紹介してるのですが、あっという間に4年間の所長業が終わり、今年が五年目です。もう一度NIIが何をやっているところなのかと振り返りますと、ひとつは、研究所ですので、研究をするということ。そしてもう一つ、アカデミアに対して学術情報基盤をご提供申し上げるというのが私どものミッションです。日本でも情報に関連する研究所はありますが、情報だけに専念しているのは私どもNIIだけです。2000年に設立した比較的新しい組織です。

 今年特筆すべきは、経済産業省様と密な連携を図りながら、5月1日、JETROとの共同のオフィスを作ることができました。これだけいろいろな試みがグローバルになされていながら、シリコンバレーの価値は圧倒的に大きいことは事実でございます。これは、各国のトップからなる国際アドバイザリーボードから、インキュベーションに対する試みは何一つしていないのかというご指摘があり、今回の取り組みに至りました。

 現在、NIIは概ね400名くらいの所帯です。一つのトレンドは、女性の方が着実に増えているということです。政府目標30%の値と対するとかなり良い数字であると思います。また、情報系ですので若い人もお招きしなくてはいけません。もちろん研究費がないと研究はできません。外部資金はリニアに大きく上がってきており、NIIの活動も積極的に上向き方向になっています。特にこの後の基調講演でIBM様との協働の試みをご紹介しますが、今まではどちらかというとアカデミアのサポートが中心でありましたが、政府の動きもあり、いわゆる産学連携、民間企業とどう付き合っていくかも真剣に考え、動いています。そういうこともあり、多くの先生が多様な賞を受けており、また、報道の露出も大きく増えてきています。やはり社会に認められるようなアウトカムを出していこうという気持ちが、研究者の中に少しずつ芽生えてきているのかと感じています。幸いにもITは世界中どこでも研究されていますので、そういう意味では国際連携も継続的に増やし活動しています。MOU締結数というのは、共同で論文を書いている組織との数ですので、あまり多くなりえない数値ではありますが、そういう意味で最大値に近づいたのかと思います。

 さきほど二つのファンクションがあると申し上げましたが、学術情報基盤のインフラを提供するというファンクションは、世界的にみると非常にユニークです。研究だけをやる研究所は山のようにありますが、私どもはITのインフラを持っています。ネットワーク、クラウド、セキュリティ、ID、学術コンテンツ、現在この5つのパッケージを提供しています。昨年の5月、SINETで全国を100Gのネットワークで結び、SINET100G開通式を行いました。グローバルに見ましても、アメリカとは100Gの回線、ヨーロッパとは20Gの回線をひきました。SINET5をご利用いただいている感想からは、とにかく速い、100Gというのは体感としては圧倒的に軽やかな感覚が得られるということがアンケートから分かります。これには非常に多くの方々のご支援を賜りここに至ることができました。こうした100Gのネットワークのクライアントはビッグサイエンスであり、エッジを引っ張るのはビッグサイエンスです。もちろんスモールサイエンスも重要です。高エネルギー研究、HPCI、スパコン、核融合、地震、天文、測地、8K伝送、宇宙、教育、医療など様々に活用いただいています。クラウドサービスのSINET直結、認証基盤などで大学間をシームレスにつなぎ、リソースのオンデマンド化ということで、時代に即したサービスインターフェイスを作るということも行っています。

 ネットワークは、アッパーレベルへシフトしなければなりません。ということで、明日のオープンハウスで、SINET100Gアイデアソンを実施します。100Gの体感をどう生かすかというのはNIIだけで考えられる時代ではありません。大学にとってどのように利用できるかをみんなで考えようという試みでございます。

 そんな中、学術のコンテンツというのがNIIのオリジンでもあり、多様なサービスを展開しています。CiNiiは年間6千万回の検索、2~3億ほどのPVです。電子図書館事業の移行について、昨月4月の不具合では大変ご迷惑をおかけしました。NII何しているんだと呟く方が約12,000もおられました。CiNiiで論文を検索することが、学生にとって重要な役割を果たしているのだということを再認識いたしました。もう一つは、機関リポジトリです。大学のコンテンツを公開しましょうということで、機関数・コンテンツが増えています。国によって運営事情が異なりますが、例えば最近ですと、講義の資料、映像、eラーニングの素材などが格納されているようです。最初の頃は、各大学が独自に構築をしていましたが、NIIが提供する機関リポジトリのクラウドサービスJAIRO Cloudにシフトしてきているという状況です。

 センターについて申し上げますと、2013年、G8によりオープンサイエンスが合意されました。公的資金によって投入された科学研究の成果はグローバルに共有すべきであるという高邁な精神です。大きな潮流にいち早く貢献していこうということで、NIIに新たなセンター「オープンサイエンス基盤研究センター」を作りました。従来は論文を共有化していましたが、論文を出すために使われたデータを共有するというのがオープンサイエンスの神髄です。コマーシャルなパブリッシャーに研究データを出してしまうと、パブリッシャーが全てのデータを持つことになります。すべてのデータが一局集中してしまうのは、国益上望ましくありません。そういう意味で日本のデータは日本が持つということです。論文に必要不可欠な部分のみをオープンにしていこうというものです。本日の基調講演で山地准教授からご紹介いただきますが、非常にジャイガンティックなリポジトリを日本でどう作っていくかということを考えている最中です。

 もうひとつはセキュリティです。セキュリティというのは言うまでもなく大学にとっては頭痛のネタです。大学はいろいろなところから学生や研究者が来ますがアカデミックフリーダムの中であまり強い縛りをつけたくない。アメリカでは2016年からサイバーセキュリティに投じる予算がべらぼうにあがっております。人材育成を含めどうしていくか、というのが我々にとって大きな課題ですが、暖かく見守っていただければと思います。

 少し個別の研究者のアクティビティをご紹介します。声の障がい者のための研究で高く評価されている山岸准教授が日本学術振興会賞を受賞されました。吉田准教授もお若く、先進的な定数時間アルゴリズムの研究で受賞されました。SINETチームや安達副所長も学術情報に関する貢献として受賞されました。大型プロジェクトに関しては、蓮尾准教授が4月からNIIにお越しになりました。ソフトウェアのデザインの根源となる方法論を研究します。河原林教授も数理の分野での根源的なアルゴリズムの部分を研究しています。ヘルスケアに関しては、来年の今頃には多くのことをご紹介できるのではと思います。多くの若手の先生方も頑張っておられます。

 産学連携に関しては、IBM様と一緒にやらせていただいている「コグニティブ・イノベーションセンター」があります。たくさんの企業が参加され、今までにないone to manyの形で行っています。また、フィンテックが活性化している中で、三井住友アセットマネジメント様と膨大な企業情報をダイナミック・リアルタイムにクラスタリングしモデル化していくかというのを「金融スマートデータ研究センター」で研究しています。そして、社会貢献では、ハノーバーで行われたCeBITには教育機関からは唯一我々だけが出展し、ドイツ大使館、経済産業省から高く評価されました。

 4年間を振り返りますと、SINET100G化をしました。新しい領域への挑戦として、クラウド、セキュリティ、オープンサイエンスに挑戦しています。産学連携では、コグニティブ、フィンテックなどです。これらの活動は、NIIの先生方、職員、文部科学省からのご支援のおかげです。そして半導体産業がこれだけ沸騰したのは過去ありえないくらいIoTの世界が出てきます。今我々が想定しているコンピュータから、大きな世界に転換している。どこまでがリーガルポーションで守っていくべきなのか、何がエシカルに正しいことかが全く不透明です。ここをぜひ一歩進めていきたいと思っている次第です。

 NIIは共同利用機関です。NII自身が研究することもありますが、各大学・研究機関の皆様と一緒に考えていきたいと思っています。オープンハウスでもポスター展示をしていますが、それぞれの研究者はますます元気に活躍をしています。今後ともぜひご支援のほどをよろしくお願いします。

活動報告を行う喜連川所長 活動報告を行う喜連川所長

基調講演

「これまで聞けなかったコグニティブ活用の神髄に迫る~NII-CICだから聴ける!」

吉崎 敏文[日本IBM株式会社執行役員 ワトソン事業部長]
竹内 政博[株式会社フォーラムエンジニアリング 取締役]
上條 浩一[日本IBM株式会社東京基礎研究所 リサーチスタッフメンバー]

 今年の基調講演は、NIIのコグニティブ・イノベーションセンター(CIC)にご参加いただいている企業の方々に、「これまで聞けなかったコグニティブ活用の神髄に迫る~NII-CICだから聴ける!」と題し、お話しいただきました。NIIのCICは、ディープラーニングなどの人工知能技術を包含した最先端のコグニティブ・テクノロジーを、社会や産業、新たなビジネスに結び付け、イノベーションを創出することを目的に、平成28年(2016年)2月に設置されました。はじめに、イントロダクションとして、日本アイ・ビー・エム株式会社の執行役員 ワトソン事業部長 吉崎敏文氏がCICにおける企業の役割などについて話されました。続いて、株式会社フォーラムエンジニアリング 取締役 竹内政博氏、日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所 リサーチスタッフメンバー 上條浩一氏がコグニティブの最新技術や活用事例について説明されました。

パネルディスカッション

「コグニティブによる社会イノベーションの創出~コグニティブ・イノベーションセンターの取り組み」

加藤 大策[明治安田生命保険相互会社 企画部 イノベーション調査室 室長]
久世 和資[日本IBM株式会社 執行役員 最高技術責任者]
喜連川 優[NII 所長]

 さらに、「コグニティブによる社会イノベーションの創出~コグニティブ・イノベーションセンターの取り組み」をテーマにパネルディスカッションを行いました。パネリストの明治安田生命保険相互会社企画部イノベーション調査室 室長 加藤大策氏、日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 最高技術責任者 久世和資氏、喜連川所長の3人は、「CICは社会課題の解決に向けた大きな仕掛けである」などと話し、CICが今後進むべき方向について意見交換しました。

 もう一つの基調講演では、今年4月に新設したNIIオープンサイエンス基盤研究センターのセンター長、山地一禎准教授(コンテンツ科学研究系)が「オープンサイエンスを支える新しい学術情報基盤」と題し、オープンサイエンス時代の到来に向けて、NIIが構築を目指す新しい学術情報基盤について紹介しました。

基調講演

「オープンサイエンスを支える新しい学術情報基盤」

山地 一禎[NIIコンテンツ科学研究系 准教授]
講演資料

 オープンサイエンスにはいろいろな表現がありますが、簡単に言うと、論文だけはなく、研究成果を広く一般に公開し再利用可能にすることで、科学の営みをより促進しようという試みです。このオープンサイエンスには二つの要素があります。ひとつは、オープンアクセスといって、論文を誰でも読めるように公開しオープンにしましょうという動き。そしてもうひとつはオープンリサーチデータです。研究データを公開しようという動きです。この「オープンサイエンス」が、今回の基調講演のトピックです。

 NII主催のオープンハウスということですので、オープンサイエンスについて自由に表現させていただきます。まずオープンサイエンスの話に行く前に、オープンにしようとしているサイエンスとはどういうものかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 サイエンスというのは、真理の追究であると表現されることがあります。サイエンスのステップを表現すると、初めに仮説の設定というものがあります。いくつかのデータを積み重ね、ある種の規則性を発見する。例えば、ある未知の生物に遭遇したとしましょう。そして、もう1匹に遭遇した。そういうときに科学者は規則性を発見します。例えばその生物の足が3本であったとすると、これは発見です。そして、その次に未知の生物Xに遭遇したら、きっとこの未知の生物の足は3本なのだろうと予測します。こうしたいくつかの観測データに基づいて、仮説を帰納的に設定します。仮説を設定したら、今度は仮説の検証です。一旦全ての生物Xの足は3本であると設定したので、仮説から演繹されるのは、次に見つかる生物Xも3本であるということが導き出される。そして実際観測したら3本だったとすれば、仮説の確度がひとつ、「確からしく」なるわけです。しかしながら次に4匹目の生物Xを見つけたときに、足は3本ではなく2本しかなかった。これは初めに設定した仮説が棄却されることになります。仮説が反証されるわけです。仮説を確証していくのは大変地道な作業です。

 仮説を立てるときは、1回起性の出来事(単称言明)をいくつか集めて仮説を設定します。そして単称言明をさらに集め、仮説の尤もらしさを検証していきます。しかしながら、単称言明をいくら積み重ねても、普遍言明にはなりません。逆に1回でも反証が起こると、それにより普遍言明は偽(ぎ)になってしまいます。言い換えれば、科学の営みというのは、仮説や理論は反証可能でなければならない、という考え方があります(カール・ライムント・ポパー)。

 科学は、普遍的な真理を証明できるのでしょうか。そうではありません。単称言明から普遍言明は導くことはできないのです。それはすなわち、真理に到達できないということを意味しています。では科学は客観性を示していこうとしているかというと、そうではない。いろいろな観測というのは、何らかの主観によって為されているものであり、事象・観測を積み重ねていっても客観性を示すことはできません。以上の科学の営みの中から、科学を進めるにあたって発見は不可欠であり、欠くことができないステップということがいえます。仮説というのは、演繹できるものではなく発見するものであるというのはご理解いただけたかと思います。また、科学というのは、普遍的な真理を追究するものではなく、ひとつひとつの観測データを積み重ね、単称言明からよく似たところを集めるということが科学の営みであると表現できると思います。この単称言明から集めてくる作業というのは非常に地道で地味な作業です。かつ発見までに到達しようとすると、これまで科学者が集めてきたいろいろなデータから、そしてそれらを複雑に組み合わせながら、学者は何らか無意識に発見へとつなげていっているのです。現在、科学の分野は非常に細分化され、深くなってきています。その広い空間の中で、観測データを集め、発見し、同一性を見つけていくのですが、何とかしてこれを効率的・的確にできないかというのは科学者として思うところであります。

 このスライドは、私自身が研究をやっていたとき、論文を書いたときに、どういったデータやマテリアルが背後にあるかを示したものです。私がやっていたのは動物実験でしたので、今でいうビッグデータに比べると小さいものですが、それでも1本の論文をまとめるのに、これだけたくさんの実験ファイルやデータ処理のプログラムというものを用意します。1本の論文で表現される引用論文は30本程度ですが、それよりはるかに多い論文を読んで研究のストーリーを組み立てるわけです。背後にはたくさんの実験マテリアルがあるというのが分かるかと思います。科学の営みは、単称言明の積み重ね、あるいは論文・研究成果の積み重ねによって構築されているので、単純にペーパーとして積み重ねるだけでなく、その背後にある実験データやプログラムを公開することにより、その活動をより効率的にしていこうというのがオープンサイエンスです。

 オープンサイエンスの意義は皆さんお分かりかと思います。論文だけでなく、データを公開するわけですから、分野融合型の研究が進んだり、新しくその分野に入る際の研究の障壁が下がったり。全体の研究のコストパフォーマンスがよくなり、そして自然と研究に関する透明性は向上する、科学技術外交的にも意義があるといったことが挙げられます。さて、意義があるというのは分かりましたが、オープンサイエンスをどのように進めていくかについて、こうした団体が共同声明として取りまとめたものがあります。それによりますと、まずは、研究データを公開するのは研究者の責務であるということが言われています。研究プロジェクトを推進するために公的資金を受けたものはpublic goods、つまり公共財であるという考えが欧米で浸透しつつあります。再利用性を高くし、追試性を高める努力をすることも責務であると書かれています。そして次に、機関の責務として、データを公開する環境を整備していくのは大学や研究機関の責務であり、公開のためのインセンティブを提供することも役割だと書かれています。そして図書館は、長い間、オープンアクセスという活動を支えてきました。やるべきことがすでに明確になっているわけです。データを長期的に公開するサービス、そのための標準を取りまとめていくのは図書館の責任であるといわれています。そして、研究データを説明するためのメタデータや本文、二次利用性を促進できるように進めていくのが学会・出版社の責務であるというようにまとめられています。最後に、助成機関は研究データの公開の費用対効果を評価していくべきであり、公開のためのリソースやポリシーを整備していくのは助成機関の責務であるとまとめられています。このように各ステークホルダの責務がまとめられ、国際的にも同意が得られ、進んでいるというのが現状です。日本では、最近、JSTがオープンサイエンスの基本方針を出しました。研究データは原則公開すべきであるといった基本方針が、研究資金を受けるときに条件になってくるでしょう。欧米ではマンデトリー(義務化)として制定されています。

 こういった現状の中で、NIIが何をすべきか。我々NIIは、研究データの管理・公開、利用のための共通のプラットフォームを作っていくということが責務です。大学共同利用機関として、うまく基盤を作れるように準備しているところですが、海外では、古くから大学レベルで同じようなことが進んでいます。

 例えば、イギリスのエディンバラ大学のRDM(Research Data Management)プログラムです。2011年の段階で、研究者と大学の責任について大学憲章で設定し、構成員に対して4つのサービスを提供しています。①RDMプラン、研究データ管理計画というものです。欧米では研究プロジェクトの中でデータをどう扱うかを取りまとめて提出する必要があります。それをサポートするためのツールの提供です。②その次は、ストレージです。研究データを管理してバックアップするためのインフラを機関として提供しています。③かつ内部で管理するだけでなくそれを公開するためのサービスの提供、④最後はリテラシー教育。研究データ管理のトレーニングコースを開き、学内の人にデータ公開の重要性を普及啓蒙しています。

 次の例が、アメリカのパデュー大学です。「Data Management Plans」、「Collaboration」「Publishing Your Data」「Archiving Your Data」というように、共同研究者の間で研究データをセキュアに共有したり、公開、アーカイビングしたりするサービスを大学の先生方に提供しています。

 最近の世界のトレンドとしては、国や地域のレベルで研究データを管理・公開する基盤を構築・運用するという流れがあります。こうした取り組みは、NIIの取り組みと非常にリンクしてきます。かつ、日本の大学にとっては頭の痛いところではありますが、研究公正に関する対応という課題があります。研究データを一定期間保存しなければいけないという規定を各大学で設定しているか、という問いですが、多くの大学で10年間の保存をするための規定が作られています。しかしながら、その規定を実際に履行するためのインフラの整備というのはまだまだ進んでいないというのが現状です。そしてこれは、多くの大学がこれから取り組まなければならない課題のひとつです。オープンサイエンスのコンテクストで、コンプライアンス対応とイノベーション創出により新たな科学の仕組みを作る、というこの2つを同時に語ることは嫌われるきらいがあるのですが、インフラ屋の立場からすれば、研究データを管理するためのサービス、プラットフォームをまずは作っていかなければなりません。それらは同時に解決できる問題だと考えています。

 NIIは、研究データ基盤と名付けて、データ公開基盤、データ検索基盤、データ管理基盤といった構造でプラットフォームを作ろうとしています。

 まず公開基盤についてです。大学の図書館の人を中心に、機関リポジトリという活動が進んできています。研究成果である論文を蓄積し公開するという活動で、オープンアクセスの活動を支える基盤のひとつです。NIIは、この基盤としてJAIRO Cloudを提供しています。このクラウドサービスの開発・運用はNIIが行い、大学はコンテンツを構築していくという役割分担です。現時点で、744機関が構築しています。これは世界ダントツNo1の数です。現在は論文や論文に関わるものが多く入っているのですが、これを研究データに展開していく上では、まだまだやらなければならないことがあります。うまく研究データの登録・公開ができるような設計をしていく必要があるのです。図書館が使うワークフローを想定しているため、研究者のワークフローを考慮する必要があります。図書館、研究者がうまく使えるような機能を考えていく必要があります。  次は、検索基盤です。我々はCiNiiというものを持っています。主に日本語で書かれた論文・本・博士論文が収納されています。特に日本語文献をターゲットとしている研究者や学生にとっては研究ワークフローの中で欠くことができないサービスです。このサービスも研究データをハンドリングするために解決しなければならない問題があります。ユーザが、いつどのように検索をするか、ユーザモデルが明確でないという現状があります。エンドユーザが何を探そうとしているのかをうまく提示できるような検索サービスへと成長させようとしています。まず研究論文、研究者、研究プロジェクトを一体化して提供し、そしてデータをうまくつなげられるような新しいCiNiiの開発を行っていきます。

 最後に、管理基盤です。これは今までNIIが持っていなかったサービスです。研究者のニーズとして、各機関のセキュリティポリシーを満たした上で共同研究者と共有できる場がない、研究成果の長期保存可能な環境がない、コンプライアンス対応の側面のみで研究者のメリットをシステム的に解決でいていない、といった現状における問題点があります。研究データをきちんと管理していくこと自体にメリットがあるのですが、オープンサイエンスの関係性や研究者のメリットを挙示できるシステムを提供できていないのです。こういった現状を解決するための管理基盤を開発していきます。

 これら3つの基盤を合わせて科学の研究フローをICTでサポートしたいと考えています。まだまだ解決すべき問題がいくつもあります。解決するための基盤がないというのが現状ですので、この3つの基盤で、研究のワークフロー、あるいは、データサイクルというのをうまくサポートしようと取り組んでいます。

 最後に、研究の管理基盤の利用イメージをご覧いただきます。まず、プロジェクトを作って、共同研究者を追加していきます。学認と連携してより使いやすく機能拡張しています。次はストレージの追加です。いろいろな種類のストレージを追加できます。それがファイルがハンドリングできるページに追加され、そこに研究データをドラッグアンドドロップで追加していきます。それらのファイルについてはプレビュー機能、ファイルの履歴、バージョン管理が可能です。公開するフェイズは、管理基盤に研究成果をドラッグアンドドロップするだけで、機関リポジトリと連携させ、シームレスに公開操作ができます。データ、論文を公開するためには、ある程度品質の高いメタデータを公開する必要があります。公開する段階でメタデータを準備するのは敷居が高いため、ある程度管理基盤で用意できるようにします。

 これらを今年度中に開発するというスケジュールです。そして平成30年度後半から実証実験、試験運用を経て、本格運用を進めてまいります。開発期間中も、想定されうるケーススタディーをとらえながら、研究者にとってこれがあってよかったと思える基盤の整備を進めていきたいと考えています。日本のオープンサイエンスのための研究データ基盤を皆様と一緒に作っていけたらと思います。よろしくお願いいたします。

講演を行う山地准教授 講演を行う山地准教授

情報学最前線:産官学連携交流会
研究発表会:ミクロとマクロから見るデータ解析

 「情報学最前線:産官学連携交流会」や「研究発表会:ミクロとマクロから見るデータ解析」が行われ、NIIの研究者が、企業や学術関係者向けに研究成果や取り組みの最新情報を発信しました。

 

NII研究100連発

 この日一番の盛り上がりを見せたのは、NIIの研究者10名が、一人7分間の持ち時間の中でそれぞれ10件、合計100件の研究成果を発表する「NII研究100連発」! 一昨年、昨年に続き3回目となる今年も、多くのお客様にご来場いただきました。息つく暇もなく次々に繰り広げられる熱いプレゼンに、会場のお客様も圧倒された様子。情報学の幅広さや面白さを感じていただける75分間だったのではないでしょうか。今年はMCとして、タレント/エンジニアの池澤あやかさんが登場。NIIの武田英明教授(情報学プリンシプル研究系)と息の合ったトークで、イベントをより一層盛り上げていただきました。この様子は、株式会社ドワンゴ様の協力により「ニコニコ生放送」で生中継されました。

SINETアイデアソン

 今年初めて開催したSINETアイデアソン「100Gbps/フルメッシュだから○○」では、昨年4月に本格運用を始めた学術情報ネットワーク「SINET5」の広帯域およびフルメッシュによる低遅延という特性を生かし、新たなイノベーションにつながるアイデアを競っていただきました。大学や企業などから8チーム(計17人)が参加。このうち、6チームがプレゼンに臨みました。

  • 「SINET賞」:「チームOHU」(上崎燿一、太田雅司、広沢真璃)
  • 「SINET学生賞」:「チーム音響カプラ」(尾崎周也、城一統)

小学生のための情報学ワークショップ

 小学生のための情報学ワークショップ「くまを動かそう~楽しいプログラム講座」では、坂本一憲助教(アーキテクチャ科学研究系)が開発したプログラミング学習アプリを使用し、子どもたちが楽しみながら、ぬいぐるみのクマを動かすプログラミングに挑戦しました。自分たちがプログラミングした通りにクマが腕を上げたり下ろしたりすると、子どもたちは「ちゃんと動いた」「やったー」と歓声をあげていました。

ポスター展示/デモ・体験コーナー

 NIIの研究者が取り組む研究内容を紹介するポスター展示やデモ・体験コーナーには多くの来場者が訪れ、研究者に熱心に質問する姿が見られました。見学に訪れた戸山高等学校の生徒は、研究者に英語で質疑を行うことに挑戦していました。情報学の研究の一端に触れた多くの若者からは「難しかったけど、丁寧に説明してくれたので理解できた」「情報学って意外と身近にあると感じた」「来年もまた来たい!」といった感想が聞かれました。  研究成果を見たり、聞いたり、体験したりできるデモ・体験コーナーも終日人気を集めました。また、NIIの研究者らがガイド役となり、ポスターやデモ・体験コーナーを案内して回るツアーガイドも、「研究のことがよくわかる」「効率よく見られてよかった」と大変好評でした。

 2日間という短い期間ではありましたが、オープンハウスをきっかけとして、情報学への興味・関心を深めていただけましたら幸いです。NIIは今後も、「研究」と「事業」を両輪として、情報学という新しい学術分野での「未来価値創成」を目指し、皆様のご期待に沿えるよう、まい進していく所存です。

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