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「光応答特性に基づく三次元層構造と内部状態推定の研究」で 佐藤 いまり 教授(コンテンツ科学研究系)が科学技術賞(研究部門)を受賞
~令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰~

 文部科学省が2026年(令和8年)4月7日(火)に発表した「令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰」において、「光応答特性に基づく三次元層構造と内部状態推定の研究」の業績により、国立情報学研究所(NIIエヌアイアイ、所長:黒橋くろはし 禎夫さだお 東京都千代田区) コンテンツ科学研究系の佐藤さとう いまり 教授が、科学技術賞(研究部門)(*1)を受賞しました。

【研究の背景】

 物体を損傷することなく、その内部や外部の構造・状態を高精度に把握し、可視化する技術は、長年にわたり発展してきました。とりわけ、1895年にヴィルヘルム・レントゲンによって発見されたX線は、非侵襲的に人体内部を観察する手段をもたらし、医療分野に革新をもたらしました。さらに、X線情報を三次元的に再構成するCT(コンピュータ断層撮影)の登場により、内部構造の詳細な把握が可能となり、診断や治療の高度化が進みました。
 近年では、こうした技術は医療にとどまらず、幅広い分野へと展開しています。照明方向の変化やパターン照明のもとで取得された画像から物体の外観を復元する手法は、長い研究の歴史を有しています。さらに、光の吸収に伴う熱膨張を利用した光音響イメージングなど、多様な原理に基づく計測技術が実用化されています。
 一方で、これまでに提案されてきた手法にはいくつかの課題も残されています。例えば、X線による内部検査は被写体に対する被ばくやダメージのリスクを伴う場合があります。また、光音響イメージングでは、物体内部における光散乱や信号減衰の影響によりノイズが生じやすく、計測結果の信頼性向上が求められています。
 これらの課題を踏まえ、より安全で高精度な可視化技術の実現に向けた研究が進められています。

【評価の対象となった研究成果】

 本研究では、物体ごとに異なる「光の性質(波長ごとの特徴)」に着目し、光の散乱・吸収・蛍光といった現象に加え、光音響計測(光を当てた際に生じるわずかな熱変化から発生する超音波を利用して内部の情報を捉える技術)を活用することで、物体内部を高精度に解析する新しい手法を開発しました。これにより、対象物を傷つけることなく、内部構造を詳しく調べることが可能となりました。
 また、可視光から近赤外光までの幅広い光を用い、吸収や発光の違いに基づいて内部構造や性質を明らかにする解析基盤を構築しました。その結果、蛍光画像解析の高度化に加え、光音響データを用いた三次元構造の可視化や、時間とともに変化する状態の把握が可能となりました。さらに、光に対する物体の応答の違いに基づく独自のアプローチにより、多様な素材に対応した形状の推定や、内部における光の伝わり方、層構造の可視化を実現しました。
 本技術は、生体解析に加えて材料や製品の検査など、幅広い分野の研究開発や品質管理を支える基盤として活用されています。さらに、画家・藤田嗣治が乳白色の肌を表現するために複数の白色顔料を使い分けていたことを解明するなど(*2)、美術品の分析にも応用されています。
 これらの成果は、光の吸収・散乱・蛍光に基づく新しい状態推定技術や、光音響計測による三次元内部構造理解の発展に貢献することが期待されます。佐藤教授は、これらの先進的な研究成果により、視覚情報処理の対象を物体内部へと拡張し、医療から文化財まで幅広い分野への応用に貢献したことが高く評価され、令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)を受賞しました。

【令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 (研究部門) 】
光応答特性に基づく三次元層構造と内部状態推定の研究

受賞に関する情報は以下の通りです

佐藤 いまり(さとう・いまり)

情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)コンテンツ科学研究系 教授

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業績概要:

 実世界には、生体や植物など、半透明性や蛍光特性を有する複雑な対象が多数存在し、光の吸収や散乱といった内部での光伝搬を考慮した情報解析技術の確立が求められている。
 本研究では、対象物の波長固有な特性に着目し、散乱・吸光・蛍光解析および光超音波計測を基盤として、内部光伝搬モデルを考慮した情報解析手法を提案し、非侵襲・非破壊で物体内部構造を高精度に解明する技術を確立した。
 本研究により、可視から近赤外光における吸収や発光特性に基づき、生体を含む対象物の内部構造、分光特性、散乱状態を解明するための解析基盤を構築した。これらの成果により、蛍光に基づく画像解析分野を発展させるとともに、光超音波データ解析による三次元内部構造解析や生体組織ごとの状態解析が可能となった。
 本成果は、吸光・散乱・蛍光に基づく状態推定技術ならびに光超音波計測に基づく三次元内部構造理解の発展に寄与することが期待される。

主要論文:
  • 「Reliability-Aware Restoration Framework for 4D Spectral Photoacoustic data」IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、vol.45、no.12、p15445-15461、2023年発表
  • 「Image-Based Separation of Reflective and Fluorescent Components Using Illumination Variant and Invariant Color」IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、vol.35、no.12、p.2866-2877、2013年発表
佐藤 いまり 教授のコメント:

 「このたびの受賞を大変光栄に存じます。本研究では、光の性質を手がかりに、外観に加えて、これまで可視化や解析が困難であった物体内部の構造や状態の解明に取り組んでまいりました。本成果が、外から内部をつなぐ新たな構造解析技術の基盤となり、医療から文化財に至るまで多様な分野における理解の深化に貢献できることを期待しております。
 本研究は、多くの共同研究者や学生の皆様に加え、所属研究所の関係者の皆様からの多大なるご支援のもとに実現したものであり、この場を借りて心より御礼申し上げます。
 今後も、より高精度かつ実用的な技術の確立に向けて研究を推進してまいります。」

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「光応答特性に基づく三次元層構造と内部状態推定の研究」で 佐藤 いまり 教授(コンテンツ科学研究系)が科学技術賞(研究部門)を受賞
~令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰~


(*1) 科学技術賞(研究部門):科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者を表彰する文部科学大臣表彰のうち、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は発明を行った個人又はグループに贈られる
(*2) 詳しくは、NIIニュースリリース「フジタは紫外線によって赤、緑、青に蛍光発光する3種類の白を使い分けていた!~レオナール・フジタ(藤田嗣治)が描いた肌質感の秘密を、蛍光スペクトル解析によって解明~」を参照
https://www.nii.ac.jp/news/release/2023/1127.html
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