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「昆虫のナビゲーション戦略の解明と実世界応用に関する研究」で志垣 俊介 助教(情報学プリンシプル研究系)が若手科学者賞を受賞
~令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰~

 文部科学省が2026年(令和8年)4月7日(火)に発表した「令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰」において、「昆虫のナビゲーション戦略の解明と実世界応用に関する研究」の業績により、国立情報学研究所(NIIエヌアイアイ、所長:黒橋くろはし 禎夫さだお 東京都千代田区) 情報学プリンシプル研究系の志垣しがき 俊介しゅんすけ助教が、若手科学者賞(*1)を受賞しました。

【研究の背景】

 ナビゲーションは、予測不可能な実世界環境において目的地へ頑健かつ適応的に到達するための基盤能力であり、AI・ロボットが実社会で機能するうえで不可欠な要素です。近年、AIやロボティクス技術は急速に進展しているものの、多くの既存手法は記号化・理想化された環境情報に基づく最適化を前提としており、実世界で生じる不完全かつ動的な感覚情報への適応には依然として課題が残されています。特に、ロボットがナビゲーションを自律的に達成するためには、時々刻々と変化する環境から部分的にしか観測できない情報に基づき、リアルタイムに適切な判断を下し続ける必要があり、この点が大きな技術的困難となっていました。

【評価の対象となった研究成果】

 この課題を解決するために、志垣助教は、昆虫が環境の変化に柔軟に行動を選択し、目的地まで到達する優れたナビゲーション能力を有している点に着目し、その原理をロボットへ応用することを着想しました。優れた匂いの探索能力を持つカイコガは、「匂い」、「風向」、「視覚」の情報を巧みに統合し、適切な行動へと変換しています。志垣助教はカイコガの、この柔軟な行動を計測できる「昆虫用VRシステム」を開発し、行動選択の過程を数理モデル化しました。その結果、カイコガは匂い情報のみに依存するのではなく、風が匂いと同方向から到来する場合に行動がより活発化するなど、環境の複雑さに応じて優先すべき感覚情報を動的に切り替えていることを、世界に先駆けて明らかにしました。さらに、この知見に基づいて構築した数理モデルを用いて昆虫の行動原理を模倣した自律探索ロボットを開発し、シミュレーションにより昆虫行動との高い類似性を確認しました。
加えて、昆虫がナビゲーション中に触角などを能動的に動かして空間情報を効率的に取得していることを実験的に解明し、この能動的センシング戦略をロボットへ実装することで、空間把握性能を約2倍に向上させることに成功しました。今回、こうした業績が評価され、志垣助教は令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰の若手科学者賞を受賞しました。

【令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 】
昆虫のナビゲーション戦略の解明と実世界応用に関する研究

志垣 俊介(しがき・しゅんすけ)

情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)情報学プリンシプル研究系 助教

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業績概要:

 ナビゲーションは予測困難な実世界で目的地に到達するための基盤能力であり、AIやロボットの社会実装に不可欠である。特に匂いは視界不良下でも有効な手がかりとなるが、従来の研究は理想化された感覚条件に依存し、実環境の動的特性との乖離が課題であった。
 氏は、昆虫がダイナミックに変化する環境に応じて行動を柔軟に選択する点に着目し、昆虫用VRとデータ駆動型モデリングを駆使することで多感覚統合機構を解明した。さらにその原理をロボットシステムに実装し、限られた計算資源でも高い適応能力を実現した。
 本研究成果は、災害時の探索や危険物検知の自動化を可能にし、安全確保に貢献する。また感覚統合の理解は、加齢や疾患による感覚機能低下の補完技術の創出にもつながり、我々の福祉向上に貢献できると期待される。

主要論文:
  • 「Multisensory-motor integration in olfactory navigation of silkmoth, Bombyx mori, using virtual reality system」eLife誌、vol.10、e72001、2021年発表
  • 「A novel framework based on a data-driven approach for modelling the behaviour of organisms in chemical plume tracing」Journal of the Royal Society Interface誌、vol.18、20210171、2021年発表
志垣 俊介 助教のコメント:

 「このたびは、このような栄誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。日頃よりご指導・ご支援をいただいている先生方、共同研究者の皆様、ならびに研究活動を支えてくださった関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。本研究は、昆虫が有する優れたナビゲーション能力の原理解明と、そのロボットシステムへの応用を目指して進めてまいりました。本受賞を励みとして、今後も生物学と工学を融合した研究をさらに発展させ、実社会に貢献できる知能ロボット技術の創出に取り組んでまいります。」

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「昆虫のナビゲーション戦略の解明と実世界応用に関する研究」で志垣 俊介 助教(情報学プリンシプル研究系)が若手科学者賞を受賞
~令和8年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰~


(*1) 「若手科学者賞」: 萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者個人(ただし、出産及び育児により研究に専念できない期間があった場合は、42歳未満の若手研究者個人)
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