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ニュースリリース
センサが故障しても匂いを探索できるロボットを開発
~昆虫の行動原理を応用、災害救助などへの活用を期待~
国立情報学研究所(NII、所長:黒橋 禎夫 東京都千代田区)の志垣 俊介 助教(情報学プリンシプル研究系)、東京科学大学工学院(工学院長:井上 裕嗣、東京都目黒区)の倉林 大輔 教授、東北大学大学院工学研究科(研究科長:伊藤 彰則、宮城県仙台市)の大脇 大 准教授らの研究グループは、昆虫の行動原理を応用したロボットシステムとして、2つあるセンサの片側が故障しても、故障前と同じ精度で室内外で匂いの源を探索できるロボットを開発しました。カイコガが触角の片側を失っても、残された触角で匂いの情報を得て、適切に行動できる行動原理を応用したもので、生物の行動戦略をロボットの開発に活かす、新たな研究の枠組みを提案しました。
この研究成果をまとめた論文は、ネイチャー・パートナー・ジャーナル(npj)のロボット系雑誌、npj Roboticsに2026年2月9日に掲載されました。
研究の背景
匂い(化学物質)を手がかりに目的地を探す能力は、多くの生物に共通する基本的な行動です。昆虫はごく小さな脳と単純な神経系にもかかわらず、風に乗って拡散する匂い分子を迅速に感知し、食糧源や交尾相手の場所へ向かうことができます。こうした匂い誘導型ナビゲーションは、神経科学や遺伝学、行動学など生物学の観点から長年研究されてきましたが、近年はこの生物の巧みな行動原理をロボットシステムに応用する研究が進展しています。たとえば災害救助や危険物・爆発物探査、環境モニタリングなどの実システムへの応用として、匂い源を検出・追跡できるロボットシステムが期待されています。
しかし、これまでの多くの匂い誘導型ロボットは、左右両側に等しい匂いセンサが正常に働くことを前提に設計されています。実際の運用環境では、センサの故障・損傷によって片側の情報が欠損する可能性があり、これが性能低下や探索失敗につながる重要な課題でした。こうした問題に対しても頑健性を保つロボットシステムの確立は未だになされていませんでした。本論文は、この課題に対して生物の行動戦略に学ぶことでロバストな匂い探索を実現する新しい枠組みを提案しています。
論文の概要
採録された本論文では、モデル生物としてカイコガ(Bombyx mori)の雄成虫を用い、性フェロモンを手がかりに匂い源を探索する行動を分析しました。通常、カイコガは頭部にある左右一対の触角を用いて、バイラテラルな匂い情報を用いて匂い源探索を実現しています。興味深いことに、触角の一方を失っても、昆虫は残された触角から得られる匂い情報に基づいて、適切に行動を選択・調整することで正確に匂い源に到達できることが行動実験で示されました。これは、残された触角で受容する匂い信号の受信位置や現在の身体の向きの情報を統合し、行動決定プロセスを状況に応じて変化させていることが明らかとなりました。
得られた行動決定プロセスの妥当性を検証するために、我々はカイコガに似たセンサシステムが実装されたロボットに実装しました。このロボットシステムを用いて、室内および野外環境で匂い源探索実験を実施した結果、室内環境ではもちろんのこと、外乱の多い野外環境においても片側センサが故障した条件でも、故障する前と同等の探索性能を発揮することがわかりました。昆虫に倣った適応戦略は探索成功率を維持し、高い探索効率を示しました。これは従来の匂い誘導型ロボットに実装されてきた探索アルゴリズムでは達成が困難であった感覚器官損傷下での頑強な匂い誘導性能の実現を意味します。
本研究は、生物行動の原理を工学システムに応用する生物規範型ロボティクスの新たな展開を示すものであり、災害対応などのシナリオに対して長期自律探索機能を持つロボットシステムに対する設計指針に貢献するものです。
論文タイトルと著者、および掲載誌
論文名:Insect-inspired adaptive behavioral compensation strategy against olfactory sensory deficiency for robotic odor source localization
著者:Shunsuke Shigaki, Keisuke Yokota, Ryoko Sekiwa, Daisuke Kurabayashi, Dai Owaki
雑誌名:npj Robotics
DOI: https://doi.org/10.1038/s44182-026-00080-5
掲載日: 2026年2月9日(日本時間)
関連リンク
- 志垣 俊介 - 情報学プリンシプル研究系 - 研究者紹介
- Insect-inspired adaptive behavioral compensation strategy against olfactory sensory deficiency for robotic odor source localization - npj Robotics

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