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計 宇生 教授と龍田 真 教授の退職記念講演会を開催[イベントレポート]

「つながる」「調べる」「伝える」──スマートフォンやAIで毎日当たり前のように行っているこれらの行動の裏側には、何十年にもわたって磨かれてきた研究が積み重なっています。2026年3月24日、国立情報学研究所(NII)の会場とYouTubeライブのハイブリッド形式で、計 宇生 教授と龍田 真 教授の退職記念講演会が開催されました。現地には約50名、オンラインには約200名が参加し、それぞれの研究への思いと歩んできた道のりが語られました。

計 宇生 教授「情報通信技術の発展とともに:研究と教育に携わって」

計教授は1990年にNIIの前身である学術情報センターに着任して以来、36年にわたり情報通信ネットワークの研究を続けてきました。ジャーナル論文223件・国際会議論文367件という膨大な業績を残し、21名の博士号取得者を育て、IEEEフェローの称号も授与されています。

講演では、通信技術の進化に寄り添ってきた研究の歩みを3つのテーマで紹介しました。

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「快適につながる」を支える技術

スマートフォンで動画を観ているときに映像が止まった経験はないでしょうか。ネットワーク上を流れるデータは交差点を通る自動車のようなもので、制御がなければ渋滞が起きます。映像通話のように「少し遅れると会話が成り立たない」データと、メールのように「多少遅れても問題ない」データを、いかに適切に優先付けして届けるか。計教授はこの「優先度をどう決めるか」という問題に長年取り組み、ネットワークを公平かつ効率よく使うための仕組みを研究してきました。

災害時の「つながり」をどう守るか

東日本大震災では、東北地方の携帯電話接続数が普段の90倍に膨れ上がり、多くの人が家族に連絡できない事態が生じました。計教授もその経験を語っています。「電話が全くつながらなくて、仕方なくメールでやり取りしました」。この経験をもとに、地震発生時のモバイルネットワークへの被害を事前に予測するシミュレーション技術の研究にも取り組み、国際学会でベストペーパー賞を受賞しました。

人とのつながりが研究を深めた

講演の中で計教授が繰り返し強調したのは、共同研究・学会活動を通じた「人とのつながり」の大切さでした。1992年に在外研究で滞在したウィスコンシン大学では、インターネットの礎を築いた研究者たちと共に仕事をする機会を得たといいます。「当時、人々が夢見た『人類のあらゆる知識を瞬時に伝達できるネットワーク』は、今日まさに実現しつつある」という言葉が印象的でした。

参加者からは「先生の温かいご指導と誠実な学問への姿勢は、常に大きな模範でした」「通信技術の発展とともに先生が築かれた人との『つながり』は私たちの大きな財産です」といったメッセージが多く寄せられました。

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龍田 真 教授「プログラム理論と数理論理」

龍田教授は東京大学の法学部・理学部という異色の経歴を持ち、東北大学・京都大学を経て2001年にNIIに着任。以来25年にわたり、プログラム理論と数理論理学の研究を一貫して続けてきました。2017年にはヨーロッパの理論計算機科学分野でベストペーパー賞を受賞しています。

「この講演では、私が25年間一体何をやってきたのかを分かってもらいたい」という言葉から始まった講演。前半は一般向けに、研究の「考え方の核心」をわかりやすく紹介しました。

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「3行で書けるプログラム言語」の話

私たちが使うアプリやシステムは、膨大なコードで動いています。龍田教授が長年研究してきた「ラムダ計算」は、その複雑なソフトウェアの本質をわずか3つのルールで記述できる「理想化されたプログラミング言語」です。「複雑で難解なソフトウェアを、この単純なものに帰着させて調べることができる。だから面白くて、20年以上もこのゲームを続けてきました」と語る姿に、研究への純粋な愛情が伝わりました。

「数学の証明」を見える化する

もう一つの柱が数理論理学です。教科書に書かれている数学の証明は、本当に正しいかどうかを厳密に確かめることが難しいものです。龍田教授は、数学の推論を記号と規則の組み合わせで「見える化」し、分析できる形にする研究を続けてきました。「こういう形に書けば曖昧さがなくなる。それがとても面白い」というシンプルな言葉が、研究の動機をよく表していました。

講演後半では「当時みんなが正しいと信じていた定理の反例を、古いノートパソコンで作った」「別の研究者が証明できていなかったものを、自分たちが初めて証明した」といったエピソードも紹介され、研究の面白さと地道さの両面が伝わる内容でした。

参加者からは「一貫した理論研究と後進育成で、本分野の礎を築いてくださいました」という声が届きました。

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研究と教育が育てた「つながり」

冒頭の黒橋所長が挨拶で述べたように、退職記念講演とは「先生方が長年大切にしてきた思いやこだわりを直接伺える、貴重な機会」です。計教授は通信という「見えないインフラ」を支えた研究の歩みを、龍田教授は数学とプログラムをつなぐ知の探究の歩みを語りました。計教授が育てた21名の博士号取得者、龍田教授が指導した学生たちの名前が論文に刻まれているように、研究の成果は数字だけでは測れません。研究を通じて人と人がつながり、その知識が次世代へと受け継がれています。

両教授の今後のさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。

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