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Doric column and link to Issue Home Page 40号 2004年7月 Doric column and link to Issue Home Page

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サウサンプトン大学の機関リポジトリが対象とする学術研究

Jessie Hey は、TARDisプロジェクトの担当者として、サウサンプトン大学の研究リポジトリ「e-Print Soton」の進化発展にユーザのニーズがいかに影響を与えたかを説明する。

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(原文: Targeting Academic Research with Southampton's Institutional Repository
Jessie Hey. Ariadne, Issue 40. July 2004)

はじめに

サウサンプトン大学は学術研究のオープンアクセス化のパイオニアである。特に、Stevan Harnad教授の精力的な宣伝・普及活動、および、研究活動のためのオープンアクセスアーカイブ(あるいは、リポジトリ)を構築するツールであるEPrintsソフトウェア[1]の開発で知られている。 これらの活動は、電子図書館やハイパーメディア、学術コミュニケーションに関する長年の研究プログラムにより支援されてきた。 オープンアクセスという言葉の意味がまだ完全に定まっていなかったずっと前から、我々は「難解で奥義を窮めた文献」(すなわち、「非営利の」学術文献)や研究者が出版社と交わす魂を売り渡すようなファウスト的契約について、話題にしてきた[2]。 研究者は著作権を手放してしまい、その結果、著作へのアクセスをコントロールする権利も放棄してしまった。著作とは、執筆し審査するのは研究者であるが、あるべき姿としては、できるだけ広範囲の関心を有する読者に読まれ、影響を与えるものであるのに。 原理上、デジタル媒体は変革の大きな機会を提供するものであり、いくつかの学門分野では早くから中央集権的なアーカイブによりこの変革に取り組んできた。 今や変革は本格的となった。様々な新しいイニシアティブが世界中で続々と登場しており、この変革に遅れをとらないためにはオープン・アクセス・ニュース [3] に定期的に目を通すことが不可欠なほどである。

我々は世界規模の協力によるe-リサーチ時代に参画したいと熱望しており、研究のオープンアクセス化が今年、英国下院科学技術委員会の強い関心事になったことは当然であると考える。 委員会は2003年4月会期の第10次報告書「学術出版物: 万人に無料で提供すべきか」 [4] を7月20日に発行した。 その中で、委員会は学術出版の現行モデルには満足できないと結論付けた。 論文数の増加、雑誌価格の高騰、図書館予算の固定化、これらにより図書館は利用者が必要とするすべての学術雑誌を購読するために非常に苦労している。 報告書は、英国のすべての高等教育機関が研究リポジトリを構築し、自組織で生産した出版済の研究成果を保存し、オンラインで無料で読めるようにすることを勧告している。 報告書はまた、研究財団やその他の政府基金が資金提供をした研究者にすべての論文のコピーをリポジトリにデポジットすることを義務付けることを勧告している。

今では機関リポジトリは機関の知的資産を価値付け、公開する重要な方法であると認識されている。

「初期に設置された機関リポジトリでは、リポジトリの存在を広めるため、あるいは学内の承認と支援および参加を得るためにさまざまな道を選択したが、・・・成熟し完成した機関リポジトリには、教員や学生の知的成果物(研究資料と教育資料)およびイベントやパフォーマンスの記録あるいは毎日の知的生活の記録といった機関自身の活動に関する文書も含まれることになるだろう。さらに、学術研究活動をサポートする、機関の構成員により採取された実験データや観察記録も格納されることになるだろう。」[5]

我々はこれらすべての資産の収集を完了するには程遠い地点にいるが、どのような資産をどのように保存できるのかという予測できない多くの疑問にさらされている。 これまでの経験と他の機関の作業基準とを比べることは有益である。 リポジトリに対する要求がまったく異なっていてもリポジトリは同じ道をたどることになるかもしれないし、状況が同じであればリポジトリに対する要求は常にリポジトリを同じ方向に導くかもしれない。サウサンプトン大学での現在の環境に対する我々の対応については後で述べるが、スウェーデンのルンド大学においても利用者の要求は出版物データベースを媒介とする我々のリポジトリと同じ方向性を与えている[6]。

TARDis

TARDis(Targeting Academic Research for Deposit and Disclosure)[7]e-プリントプロジェクトは、英国における高等・生涯教育を支援するJISC(Joint Information Systems Committee)が助成するFAIR(Focus on Access to Institutional Resources)プログラム[8]の補完プロジェクトとして支援を受けている。 FAIRプログラムのプロジェクトはオープン・アーカイブズ・イニシアティブ(OAI)[9]の成功に触発されたものである。ここで、OAIとは、情報資源に関するメタデータを収穫して、職員や学生に検索サービスを提供できるようにする簡単なメカニズムである。

このような状況において、TARDisはサウサンプトン大学で生産される研究成果を活用するための持続的で多分野にわたるe-プリント機関アーカイブ(現在ではe-Prints Soton [10]と名づけられている)を構築する方法を検討している。 また、TARDisでは様々な学問分野についてセルフアーカイブと仲介者によるデポジットの双方について、その実行可能性を検証している。 アーカイブを発展させる過程で、TARDisは先駆的なGNU EPrintsソフトウェアに対してフィードバックを行っている。 様々な学問分野を擁する機関という観点から、我々はまた、様々な文化や慣習を持つアーカイブ管理者やエンドユーザがソフトウェアを利用しやすくなることを目的としている。

電子工学・計算機科学科で開発されたGNU EPrintsソフトウェアによる出版物アーカイブは、2003年に我々が試験的な機関リポジトリを構築し始めた時、既に800件を超えるフルテキストを保有しており、TARDisチームにはよく知られた存在であった。このアーカイブは現在では1600件を越えるフルテキストアイテムを保有しているが、これはこのアーカイブが継続的に使用されてきた証拠であり、大学全体のアーカイブとして理想的なものであると考えることができる。 このアーカイブは学科所属の研究者による研究成果を引用するための書誌データベースでもあるので、元来アクセスとビジビリティの両者を高めることを目的として電子的形態のフルテキストを収蔵しようとする機関データベースにこのアーカイブを組み入れるという実際的かつ技術的な判断は既に存在するだろう。

機関全体に適用できる解を用意するためには、異なる出版慣習を持つ学科もあることを理解することが非常に重要である。 様々な主題分野からサンプリングして調査したところ、きわめて有益な知見が得られ、また、現在の環境に適したまことに実践的な戦略を提案してくれた利用者もあった。 詳細については、プロジェクトパートナーであるエジンバラ大学[12]における調査結果を補足した環境評価報告書[11]で見ることができる。

大学全般の状況

サウサンプトン大学は現在、研究の質において英国の大学の上位10校にランク付けられている。 そのため、傑出した学科の高い質を維持すると同時にその他の学科の研究水準とビジビリティを高めるよう努力している。 大学は近年著しく拡大し、今では19,000人を超える学生と約4,800人の教職員を抱え、サウサンプトン地区に複数のキャンパスを擁している。

本調査ではキャンパスに存在する様々なコミュニティで現在行われている、研究成果物やその他の出版物の学外での利用を管理するための活動について調べた。 また、同時にこれらの活動を前進させるための提言を行う。

しかしながら、新たな投機的事業を導入するにはどのような方法がベストであるかを検討している間に、Webサイトの改良や大学の管理システムの変革など、考慮しなければならない多くの変化が学内で生じていることが明らかになった。 これらの変化の目的はそのプロセスの合理化であったが、職員はこれらの変化を学び、適応しなければならなかったので、これらの進展はすべて職員に余分な負担を与えることになった。 もっとも重大な変化は、2003年8月1日から実施された大学の大規模な機構改革であった。 当然、これはTARDisプロジェクトの作業にも様々な面で影響を与えた。 最大の改革作業は、大学の学術研究部門を、変更の程度は様々であったが、3つの学部と20のスクールに再編したことであった。

この再編は2003年8月に行われたので、簡単にするためにe-Prints Sotonは新しい学部構成を取り入れて構築した。研究者が自分の著作をデポジットする際の障害を最小にする必要があったので、単純なフレームワークにすることが重要な検討課題であった。たとえば海洋学の場合は、異なる文化と慣習を持つ自然環境研究会議(NERC)の研究部門と大学の海洋・地球科学科が1つの中核的研究機関として統合され、2004年後半には工学・理学・数学部の1部局として(従って、大学の管理下で)運営されることになっており、事情はさらに複雑である。 ある研究グループのメンバー(現在10名)がすべて職員になる予定である。 しかしながら、この変化は部外者が様々な研究分野を理解することを容易にするかもしれない。 もっとも、この評価のためにサウサンプトン海洋学センターの研究出版物をサンプリング調査した際、これは確かに難題であったが。

e-Prints Sotonにとっては、処理しやすいように新しい構成を表現でき、ちょうど良いタイミングであった。 事前の議論から、この構成は固定的なものではなく、変化に応じてサービスを構築する努力が必要であることを認識することが重要であることは明らかであった。 学部という言葉は何とかボキャブラリーとして残ったが、驚いたことに、従来の「学科」という言葉はなくなり、「スクール」に置き換わった。 個々のスクールごとにデータベースを作成するのではなく、すべてのスクールを1つのデータベースに入れようとすることが最初の判断であった。 そうでないと、ソフトウェアのバージョンアップを個別に行わなければならないし、横断検索ツールを使って個々のデータベースを検索しなければならないからである。 この大規模な組織再編と同時に、学生の管理を支援するソフトウェアにも大きな変更がなされた。これはこれらのシステムが安定した暁にはコアシステムに連結した調査がより便利になることを意味している。

各学部の調査

新しくできた3つの巨大な学部は次の通りである。

我々は各学部について、いくつかのスクール、あるいは、その下位部門のWebサイトを調査した。スクールの規模はとにかく大小様々であった。 たとえば、数理科学スクールは以前の構成では1つの学部を構成していた。

下の表は、サンプル調査したWebサイトに掲載されているフルテキスト付きの出版物の比率を具体的に見たものである。 学科(すなわち、スクール)のWebサイトには出版物の一部しか掲載されていないことや、必ずしも最新の出版物が掲載されているわけではないことを思い出す必要がある。

学科 Web上に掲載されている出版物の総数 フルテキストの掲載数 フルテキスト付きの出版物の割合
法学・芸術学・社会科学部
考古学 252 2 1%
英語学 243 3 1%
現代言語学 160 0 0%
音楽学 280 5 2%
政治学 138 6 4%
経済学 357 89 25%
数学教育学 170 34 20%
 
医学・保健学・生命科学部
生物学 796 24 3%
医学 1603 247 15%
保健・リハビリテーション科学 332 0 0%
看護・助産婦学 439 0 0%
 
工学・理学・数学部
化学 1128 111 10%
電子工学・計算機科学 7008 866 12%
数理科学 849 310 37%
海洋・地球科学スクール(SOES)海洋循環・気候学グループ 286 9 3%
サウサンプトン海洋学センター(SOC)ジェームズ・ルネル部門 792 68 9%

図1: サウサンプトン大学の各学部からサンプル調査したWebサイトに掲載されているフルテキスト付き出版物の割合

これをグラフにしたものが下図である。

Bar chart(41KB): Number of academic publications listed with full text electronically available via exemplar school websites, 2003

LASS

MHLS

ESM

1 考古学

8 生物学

12 化学

2 英語学

9 医学

13 電子工学・計算機科学

3 現代言語学

10 保健学

14 SOES海洋循環・気候学

4 音楽学

11 看護・助産婦学

15 SOCジェームズ・ルネル部門

5 政治学

 

16 数理科学

6 経済学

   

7 数学教育学

   

図2: 2003年にサンプルしたスクールWebサイトに掲載されている電子的に利用可能なフルテキスト付きの学術出版物の数

フルテキストの割合からわかるように、4つの研究グループについてのきわめて組織的な出版物リストを持つ数理科学スクールでは、既に出版物の37%がWebサイトから電子的形態で利用可能であった。 このリストはGNU EPrintsソフトウェアを使って作成されたものではないが、機関全体を考える際、これを考慮する必要があるだろう。

法学・芸術学・社会科学部

この学部のいくつかの専攻分野について例証するために、まず人文学スクールからいくつかの例を調べてみる。

現代言語学専攻

先の現代言語学科は、英国における外国語および外国文化研究の中心的機関の1つであり、2001年の研究評価事業で最高評価(5*)を得ている。 博士論文の指導教官には、言語学、文化学、社会学の主要な研究部門の専門家を揃えている。

現代言語学専攻分野の全教職員リストを見ることができる[13]。 教官はすべて、自身の経歴、教育および研究分野、最近の出版物などを手短に掲載したWebページを持っている。 一般に各教官は、最近の著作のうちおよそ3篇から7篇を掲載しており、そのほとんどは書籍である。 一人だけは、執筆した出版物のリストではなく、自身の論文が掲載された雑誌のタイトルを掲載している。 51名の教官が69冊の書籍をリストアップしており、そのうち数人の教官は出版された書籍の表紙を掲載している。 しかし、書籍の表紙から出版社の目録記述などにリンクして、さらなる情報を得られるようにしてあるものはない。 多くの教官は翻訳した書籍も出版物リストに含めている。 ある教官は標準的なプロフィールに加えて自身の出版物の完全なリストを提供している。 リストには96篇の出版物があげられているが、抄録や電子テキストへのリンクはまったく存在しない。

全体として、現代言語学分野の教官は自身の出版物のフルテキストや抄録へのリンクは提供しておらず、また、個人のWebサイトへのリンクも提供していない。 しかしながら、出版物やその一部をオンラインで提供したり、出版物についての有用な追加情報へのリンクを提供したりする可能性があるように思えるので、さらなる調査が必要であろう。 出版物の種類は自然科学分野と大きく異なるが、GNU EPrintsソフトウェアに表紙画像表示機能を組み込めないか検討する価値がある。

人文学スクール音楽学専攻

大学は芸術学キャンパスを作ったが、音楽学専攻はメインキャンパスに残り、有名なターナー・シムズ・コンサートホールに隣接している。 音楽学専攻では、音楽史や音楽理論、学曲分析、現代音楽における諸問題、大衆文化、パフォーマンス研究、作曲など、音楽学に関する幅広い分野で世界水準の研究を行っている。 専攻の研究は6つの大テーマに分類でき、テーマ毎に数名の教官が研究を行っている。1つのテーマに異なる研究分野の教官が取り組むことは、研究環境の活性化に大きく貢献している。 これらのテーマは、この分野で1994年から2000年になされた研究をまとめた2001年の研究評価事業申告書の該当する項目へのリンクと共にリストアップされている[14] 。 また、専攻の年間出版物リストが大学の法人・マーケティング部門のWebサイトに掲載されている。ただし、研究テーマリストにも専攻の出版物リストにも抄録やフルテキストへのリンクは存在しない。

大学が管理している教官用のWebページはすべて、ホームページ作成のためのガイドライン[15] に従っている。 このガイドラインに従って、音楽学専攻ではすべての教官が簡単な経歴と出版物リストを掲載するホームページを持つことを方針としている。 出版物リストには進行中のプロジェクトや研究に関するセクションも含まれている。 音楽学専攻では出版物リストを特定のフォーマットで書くように規定している。なぜなら、この出版物リストから(研究申告書や大学院案内などのための)情報を得るためであり、この目的を果たすためにはすべての教官が同じフォーマットを使用することが求められるのである。

この点を除けば、教官は好きなようにホームページをレイアウトすることができ、非常に洗練されたホームページを持つ者もいる(たとえば、Pete Thomasのホームページ [16]を参照)。 一般に書籍、書籍の章、雑誌論文、評論などを含む通常の出版物リストに加えて、音楽学専攻の教官は音楽作品やパフォーマンスもリストアップしている。 Webサイトの訪問者が音楽作品を聞けるようにMP3ファイルへのリンクを作成している教官もいる。 リストアップされた書籍の中には、出版社の目録記述へのリンクを持つものもある。

新しくできた人文学スクールは、考古学、英語学、映画学、歴史学、ユダヤ史・ユダヤ文化学、現代言語学、音楽学、哲学など信じられないほど幅広い学問分野を含んでいる。 この新しくできた様々な学問分野を擁する人文学スクールにおいて音楽学のような学問分野は明らかに独自の特別な要求を持つことになるだろう。

社会科学スクール経済学専攻

社会科学においては、研究報告書といった人文科学とは異なる伝統があり、この点で、フルテキストを電子的形態で提供する方向に移行しつつあることが明らかに見て取れる。 報告書のフルテキストが簡単に入手できるようになれば、報告書で述べた考えについての議論がよりタイムリーになると思われる[17]。

サウサンプトン大学経済学部門では、1992年から経済学分野のディスカッション・ペーパーを発行してきた。1997年以降の論文は抄録をオンラインで読むことができる。1999年以降の論文については、著者はpdfフォーマットのオンライン版のファイルを添付している。ただし、紙媒体の論文も求めに応じて送付されるし、購読ベースで入手することもできる。

 Bar Chart(8KB):The transition to full text of Economics Discussion Papers at Southampton

図3: サウサンプトン大学経済学ディスカッション・ペーパーのフルテキスト化の推移

この図は、現在ではこの出版物がフルテキストを持つことはノルマであることを示している。 大学全体を考える際、このスクールの確立された出版物リストを全体としてどのように管理するかだけではなく、この確立された慣習をどのように統合管理するかについても検討する必要があることは明らかである。

数学教育研究センター

数学教育研究センター(CRIME)は、大学に設置された学際的研究センターの一例である。先の教育学科附属のセンターの1つであるCRIMEは1970年に創設された。教官は数学部と教育学研究大学院から来ている。 組織再編後、教育学スクールは法学・芸術学・社会科学部に所属し、数学部ははるかに大規模な工学・理学・数学部の一部となった。 センターは既に研究成果の一部をオンラインで利用できるようにしている。機関リポジトリの利点として考えられることは、こうした学際的研究分野では研究成果を1回入力するだけで両研究分野の研究成果として直ちに反映でき、大学が発行する研究報告書などで使用できるようになることである。 センターはpdfファイルを作成する簡単な変換サービスの採用に興味を示している。 教育学の他の分野では、e-ラーニングのようなより新しい研究分野で特に、フルテキストのビジビリティを通して研究成果の威力を示したいという希望がある。

医学・保健学・生命科学部

医学分野では特に出版物にアクセスして注目すべき出版物の抄録や時にはフルテキストを得るシステムを持っている。機関e-プリントアーカイブはこの既存のシステム上に構築する必要があると思われる。 医学スクールでは従来の主題境界を乗り越える大規模な学際的研究部門を持ち、きわめて集中的な研究戦略をとっている。 スクールの主な得意分野を反映した6つの研究部門の研究を紹介する高度に組織化されたWebサイト[18]をスクールは提供している。

教官が掲載する最近の出版物リストは一般に論文の抄録やフルテキスト、あるいはその両者へのリンクを持つ文献リストである。 抄録リンクは常にPubMedデータベース [19]へのリンクであり、このデータベースは通常、該当する出版社のWebサイトにある論文のフルテキストへのリンクを持っている。 文献リストにあるフルテキストリンクは一般にPubMedデータベースを迂回して直接出版社のWebサイトにリンクされている。 医学スクール(SOM)のWebサイトを見ると、個人の研究プロフィールはスクールのWebサイトあるいは該当する下位組織のWebサイトで管理されているようである。 研究プロフィール以外に自身のWebページを持っている教官はほんのわずかである。

医学スクールの教官のWebページの典型的な例を見ることができる[20]。 この例では、9篇の最近の論文のすべてに抄録リンクがあり、5篇はpdf形式の雑誌論文へのリンクを持っているが、サイト内に格納されているpdfファイルは1つもない。 サウサンプトン大学の研究者はオープンアクセス出版社であるBioMed Centralに、2004年1月に出版された会議発表論文や評論、コメント、口頭発表など10篇の研究アイテムを投稿している。 対照的に、看護学ではまだフルテキストへのリンクを持っていない。しかし、研究者のセミナーではビジビリティや注目度を高めたいという希望があることを示していた。

工学・理学・数学部

電子工学・計算機科学スクール

電子工学・計算機科学科[21]は1998年に学科の研究出版物をリストアップするためにデータベースの使用を開始した。 また、知能・エージェント・マルチメディアグループの研究者が、世界中の人々がe-プリントアーカイブを構築できるようにオープンソースのGNU EPrintsソフトウェアを作成した。 最初のデータベース「Jerome」はEPrintsソフトウェアの良い手本となり、現在では最新版のEPrintsを使用している。 Jeromeは書誌情報を持ち(現在、8000件を越える出版物の情報を保持)、フルテキストを追加するオプションを提供している(現在1600件のドキュメントを保存)。 すべての教官および学生は可能ならフルテキストを付けて出版物を提供することが学科の方針になっている。 それゆえ、2003年には、大学の2002年度研究報告書へ提出する学科の基礎データとしてデータベースを使用することに成功した。 職員がメタデータをすばやくチェックすることができるようにデータのないフィールドを強調表示したリストが作成された。 そして、大学への提出用として指定されたフォーマットで報告書を容易に生成することができた。

学部のその他のスクールでは、様々な理由でEPrintsに興味を示している。 化学スクールでは留学生が多いので電子出版に対して潜在的興味が存在する。また、データへのリンクについては、eBank UKプロジェクトに参加するなど特に興味を持っている。

物理・天文学スクールでは、フルテキストあるいはフルテキストへのリンクを持つ出版物データベースに対する要求が認められた。 伝統的な高エネルギー物理学プレプリントリストも簡単なデポジット法の恩恵を受けるであろう。 天文学専攻は既にWebページで提供する出版物リストを作成するために主題ベースのアーカイブである「arXiv」に対するオンライン検索を提供している。 すべてではないが何人かの物理学者は、arXivやSPIRESと呼ばれる図書館ベースの補完的データベースと強いつながりを有している。

サウサンプトン海洋学センター

サウサンプトン海洋学センター(SOC)では対照的なアプローチがとられている。 先に述べたように、SOCは今後より密接に一体化することになる2つの関連団体から成っている。 これら2つのグループのWebサイトを見ると現在の違いがはっきりと見て取れる。

サウサンプトン海洋学センターは、国立環境研究会議(NERC)とサウサンプトン大学の共同事業であり、先の海洋学研究所(IOS)と地質・海洋学科を統合したものである。 歴史的に(1949年以来)IOSにあった国立海洋学図書館(NOL)はすべての研究成果を記録することに責任を負っており、1950年から1980年の間、リプリントコレクションの年刊版を作成して全世界に配布していた(明らかにこれは現在検討しているe-プリント活動に匹敵する紙媒体による活動である)。NOLはSOCの「成果基準」を毎年報告する義務があり、(SOCがスタートした)1995年以来、NERCと大学双方の研究者の研究成果を記録する責任を担ってきた。

NOLは学術コミュニケーションプロセスの中心的役割を果たしている。 すなわち、出版用に投稿した研究論文をすべてリストアップし、研究論文のリプリントの収集と配布を行い、SOC報告書の作成と配布に責任を負っている。 NOLはまた出版された論文の最新版を、年間を通じてライン管理者に提出し、SCO職員出版物データベースをNOLのWebサイトで利用できるようにしている。 毎年600篇以上の研究出版物が生産され、うち300篇近くは査読論文である。 最終的な成果物リストがNERCと大学双方の研究報告書に確実に提供されるように研究者とNOLの間には正式な手続きが存在する。 我々はe-Prints Sotonの試験運用にこの恵まれた環境を利用しているが、現在のところフルテキストに重点は置いていないが既にきちんとした手続きを持っているこの環境は一方で課題も提供している。

大学の様々な学問分野のいくつかについて調べたこの調査により、そこには様々な慣習やスタイル、フォーマットがあることが示された。 最も重要なことは、我々はいろいろな意味でより簡単であるかもしれないゼロからのスタートではないということが示されたことである。 しかしながら、フルテキストの追加やフルテキストへのリンクは、経済学研究報告書や天文学分野の雑誌論文で既に実現しているように、いずれこれが当たり前になるほど多くの可能性があることも示されている。

我々は試験システムへの投稿者に会うたびに、オープンアクセスに至る我々のルートを知らせるために様々な現実的な提案を組み立てていった。

明らかとなった大学研究者のニーズと提案されたサービスのまとめ

研究者は非常に多くの理由で、またその度に違うフォーマットで出版物についての情報を提出するように求められる。 以下はサウサンプトン大学の研究者から明らかになったニーズを順不同であげたものである。

研究者にとって毎年負担になるのは「サウサンプトン大学研究報告書」である。伝統的には紙媒体であったが、2002年はpdf形式の出版物リストを学科に課した。 一般にこの後もたくさんの情報を求められることがわかっているので、e-プリントアーカイブがより前向きなサービスの基礎となり、同時に、このサービスがより簡単な方法によりサウサンプトン大学で行われた研究のビジビリティを改善できたら、それは大きなボーナスとなるであろう。 e-プリントデータベースを単なるフルテキストデータベースとするか、あるいは、出版システムの一部とするか、どちらにしたらデータベースの作成に協力してくれる研究者の支持を得ることができるかを決定する際にこれらの要求は強い影響を与えることになる。

これらのニーズをすべて首尾よく満たすために多くのサービスが研究者から提案された。これらのサービスは、e-Prints Sotonやその他の出版サービスにより上記のプロセスを容易にするために提供されることになるかもしれない。

研究者が最も高く評価すると思われるサービスは、データを1回入力するだけで、複数の出力で使用できるようにすることである。 ただし、論文が出版される際には書誌情報や文書自体も更新されるかもしれない。 研究者がすでにarXivやRePECなどの主題ベースのアーカイブやAKTなどの大手プロジェクトデータベースに投稿しているような研究分野ではデポジットプロセスがより複雑になる。 SPIRES図書館システムがbibtex形式で出力できるようになり、学科のデータベースに直接インポートできるようになれば、おそらく高エネルギー物理学者の入力を助けることになるだろう。 物理・天文学スクールは出版物情報に対する多くの需要があるので、EPrintsソフトウェアを使った実験を既に行っている。 彼らは作成された出版物データベースが、arXivなど他のデータベースにまだ保管されていない電子文書を保管できるようにすることも考えている。

その他、次のような機能を持つ有用なサービスが提案されている。

e-Printsコミュニティは今後フィルター・バンクを形成・構築したらどうかという提案があった。 数学や化学のような特別な目的のために考案されたマークアップ・スキームを利用することができるかもしれない。

e-Prints Sotonの主な課題

TARDisプロジェクトの主な検討課題はe-Prints Sotonと新しくできたスクールの協力関係をいかに効果的に築くかである。 移行中というこの微妙な時期では、我々のサービスが研究者に余分な手間を取らせることなく研究者に対する価値を高め、研究者の時間を節約できるようにする必要がある。 いずれは必要なくなるとはいえ、現時点では仲介サポートが特別な価値を持っていることが証明されるかもしれない。 これまでフルテキストを電子的に利用できるようにして来なかった学問分野では、重複するサービスがない分、e-Prints Sotonは単純明快に新しいサービスを提供することになるだろう。 ただし、ここでは報知活動とサポートが高い優先順位を持つことになるかもしれない。

検討すべき新たな問題を投げかけることになるが、特にフルテキストの発信を含む大学で現在行われている電子出版物の記録慣習の調査は、部局やスクールにおける研究をオープンアクセスに仕向けるための堅固な基礎を提供し、また、一定の喚起を促した。明らかとなったニーズを満たす多くの付加価値サービスを提供すれば、出版物をe-Prints Sotonに積極的にデポジットするための貴重なインセンシティブを形成する助けとなるかもしれない。 研究を記録するという需要は、機関リポジトリをデジタル時代における必須のインフラ要素と位置づけるフレームワークを提供する。 我々のユーザ指向のルートマップに対する予備的視点を以下の図に示した。

Diagram(62KB): Back to the future with the TARDis Institutional Repository route map

図4: TARDis機関リポジトリで未来に戻るルートマップ

当初のビジョンを達成するために、我々は時計回りに進んでおり、真夜中12時にゴールに到達するために現在はこの図の下半分の活動を一生懸命行っているところである。

結論

「高位へ登ることはすべて曲がりくねった階段による。」 - フランシス・ベーコン[*]

持続可能なリポジトリを構築するには、職員や学生にとって自然なプロセスでアーカイブを統合する必要がある。 そうすれば再利用可能な資源というボーナスを彼らに与えることになる。研究インパクトの増加につながる迅速なビジビリティを得ることがStevan Harnadの運動の第1の目的であるが、我々は実例と実践、協力でこれを成し遂げることができる。 情報資源がクリティカルパスに到達すればまた別の恩恵を得ることになることは疑いがない。 我々が採ったルートはユーザにより選ばれたものである。たとえ当初思っていたより曲がりくねった道であったとしても、それが採るべきルートであると確信している。 ドクター・フーのタイムマシンTARDIS号が時空を越えて旅する方法はちょっとした謎であるが、サウサンプトン大学のTARDisは、ユーザの操縦により、より明確に定義された方法で未来に戻る旅をしている。TARDIS号には図書室やプールなど多くの部屋があった。我々のTARDis図書館は、オープンアクセスという文化を奨励するにつれて毎週その輪郭をより明らかにしている。

参考文献

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著者紹介

Jessie M N Hey
Research Fellow
TARDis Institutional Repository Project
University of Southampton

Email: jessie.hey@soton.ac.uk
Web site: http://tardis.eprints.org/

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Ariadne is published every three months by UKOLN. UKOLN is funded by MLA the Museums, Libraries and Archives Council, the Joint Information Systems Committee(JISC) of the Higher Education Funding Councils, as well as by project funding from the JISC and the European Union. UKOLN also receives support from the University of Bath where it is based. Material referred to on this page is copyright Ariadne(University of Bath)and original authors.


*: 「ベーコン随想集」渡辺義雄訳 岩波書店 1983.3, p.59