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Opinion

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D-Lib Magazine
2004年6月号

10巻6号

ISSN 1082-9873

同一ジャーナルに掲載されたオープンアクセス論文と非オープンアクセス論文のインパクトを比較する

(原文: Comparing the Impact of Open Access(OA)vs. Non-OA Articles in the Same Journals, D-Lib Magazine, v. 10, no. 6(June 2004)


 

Stevan Harnad
Chaire de Recherche du Canada
Centre de Neuroscience de la Cognition
Université du Québec à Montréal
Montréal, Québec, Canada H3C 3P8
<harnad@uqam.ca>
<http://www.ecs.soton.ac.uk/‾harnad/>

Tim Brody
Intelligents, Agents and Multimedia
Electronics and Computer Science
Southampton University
Highfield, Southampton, SO17 1BJ, United Kingdom
<tdb01r@ecs.soton.ac.uk>

Red Line

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(このOpinion記事は、本記事の著者の意見を表明したものである。必ずしも、D-Lib Magazine、および、その出版者である The Corporation for National Research Initiatives、もしくは、そのスポンサーの見解を反映したものではない。)

オープンアクセス(OA)のインパクト上の優位性を検証するには、OA雑誌と非OA雑誌の引用インパクトファクターを比較するのではなく、同一の(非OA)雑誌に掲載されているOA論文と非OA論文の個々の引用回数を比較するべきである。 現在行われているその種の比較では、OAの引用上の優位性が劇的に示されている。

最近行われたInstitute for Scientific Information(ISI)社の研究では、従来の雑誌とOA雑誌が同一の引用インパクトファクターを有していることを報告している(Pringle 2004)。 ISI社のプレスリリース には、次のように書かれている。

「現在 Web of Scienceがサービスする雑誌から選択した8,700誌のうち191誌はOA雑誌である。…OA雑誌とその学問分野における非OA雑誌[との比較研究]において、引用インパクトあるいは雑誌の引用回数において目に見える差[はなかった。]」 < http://www.isinet.com/oaj>

ISI社により索引化された191誌のOA雑誌と8,509誌の非OA雑誌において、できるだけ同一分野の雑誌を比較した結果、インパクトに差がないということは確かに歓迎すべきニュースである <http://www.isinet.com/oaj> 。 これは、OA雑誌は低品質で、インパクトも低く、ISI社により索引化されていないのではないかと考える懐疑論者が(少なくとも191誌のOA雑誌については)間違っていたことを証明するものである。 OA雑誌はISI社により索引化されており、かつ、非OA雑誌に匹敵する引用インパクトを有している。 しかし、明らかにこの方法には、ある種の堂々めぐりの議論を引き起こす要素が存在する。

OA雑誌のインパクト効果の現実的な推定値を得るには、ISI雑誌のわずか2%のOA雑誌を98%の非OA雑誌と比較して両者のインパクトが同一であることを見つけるだけでは十分ではない(これはたぶん、対象が同じだからといってリンゴとオレンジを比較することに等しいだろう)。

さらなる比較を以下の両者の間で行う必要がある。

(1)98%の非OA雑誌の論文で、著者によりOAにされた(つまり、セルフアーカイブされた)もっとはるかに高比率(Swan と Brown(2004)のサンプルによればおそらく20〜40%程度)の論文の引用インパクト

および

(2)まったく同じ雑誌の同じ号に掲載されている著者によりOAにされていない論文の引用インパクト

ISI社と共に引用分析の創始者であるGene Garfield(1998)は、雑誌の平均引用回数だけでなく、その個々の論文(および著者)の引用回数を分析する必要があることをしばしば強調している 。

OAの時代においてこの種の分析が明らかにしているのは、論文の引用回数において実際に「目に見える差」が存在することである。すなわち、著者がOAにした論文を支持する劇的な優位性が存在するのである(Lawrence 2001; Kurtz 2004; Brody et al. 2004)。 現在利用できる調査結果は、コンピュータ科学、宇宙科学、物理学におけるものだけであるが、 その他のすべての学問分野についても現在分析が行われているところである。 コンピュータ科学において行われたOAのインパクト向上効果に関するLawrence(2001)による先行研究を他の分野でも繰り返すことで、それがコンピュータ科学は会議主導であり雑誌主導ではないという事実による単なる人為的な結果ではないことを、また、優位性がオンラインアクセスと冊子によるアクセスの違いを反映したものではなく、実際にOAと非OAを反映したものであることを、検証する必要がある。 幸いなことに、Observatoire des Sciences et des Technologies(OST)にライセンスされたISIデータベースと研究遂行のためにISI社が寛大にも与えてくれた特別な契約のおかげで、ケベック大学モントリオール校、サウサンプトン大学、オルデンブルク大学からなる研究チームは、ISIの10年分にあたる1,400万件の論文を使用して全分野にわたるOAの優位性を検証しているところである。物理学分野における2001年までの分析は既に終了しており(Brody et al. 2004)、そこではOA対非OAの引用比率は2.5〜5.8であり、Lawrenceの報告より大きな効果を明らかにしている。

図: 物理学分野におけるオープンアクセス対非オープンアクセスの引用インパクト比率

図1. 物理学分野におけるOAの優位性

図1は、ISI社により1992年から2001年にかけて索引化された物理学分野における雑誌論文の総数(灰色)、このうち著者によりオープンアクセス(OA)にされた比率(緑色)、OA論文の引用回数の非OA論文の引用回数に対する比(赤色)を示している。(分析は、Brodyら(2004)により行われた。Observatoire des sciences et des technologies <http://www.ost.qc.ca/>にライセンスされた®ISI CD-ROM* 引用データベース上の主要7,000誌の1991年から2001年の1400万件の論文と<http://www.arxiv.org/>にセルフアーカイブされた26万件の論文のメタデータと参考文献に基づいている。)

 

すべての指標が、2002年および2003年にもこれらの比がさらに高まるだろうことを示している。なぜなら、自然科学分野においては出版から最初の3年間に最大の効果が生じる(また、OAおよびOA論文の認知度もまた年毎に増加する)ためである。

アクセスできることは引用のための十分条件ではないが、必要条件ではある。 所属機関が論文を掲載した雑誌のアクセス費を捻出できないためほかの方法では論文にアクセスできないユーザを取り込むことで、OAは論文の潜在ユーザの数を劇的に増加させている。 それゆえ、利用とインパクトの両者を増加させることができるのがOAだけであることは当然である。「読むこと」と「引用すること」の比は疑いなく学問分野により異なるであろう。 たとえば、Kurtz(2004)と共同研究者は、宇宙物理学分野ではそれが17:1あるいは12:1にもなることを報告している。Odlyzko(2002)は数学分野において同様な傾向が見られることを予測している。 Tim Brodyの注目すべき相関係数計算機/補完推定機1は、学問分野によるダウンロード数と引用数の相関関係の大きさを計算するもので、今日ダウンロードした論文の(調整可能な時間間隔を使用して)6から24ヶ月後の引用数を推定することに利用できる(<http://citebase.eprints.org/analysis/correlation.php>)。

著者によりオープンアクセスが提供されている論文の割合は今や劇的に増加しそうである。その理由の1つはOAが持つインパクト上の優位性を示す証拠が増加していることにある。 OAもまた増加すると思われる。その理由は、1つには、すでに著者のセルフアーカイブに対して公式に「グリーンライト」を与えている雑誌の数が増加しているからであり、また、論文のインパクトが増加することの恩恵を雑誌のインパクトファクターもまた受けるからであり、さらに、各雑誌はOAとその研究や研究者に対する利益を阻止することを望んではいないことを示したいと考えているからである。(「グリーン」雑誌の比率は2003年から2004年にかけて55%から83%に増加している。 <http://www.ecs.soton.ac.uk/‾harnad/Temp/Romeo/romeosum.html> および、<http://romeo.eprints.org/>)

セルフアーカイブにグリーンライトを与えている出版社/雑誌のRoMEO一覧表

http://www.sherpa.ac.uk/romeo.php
http://romeo.eprints.org/

著者や所属機関によるセルフアーカイブに対してすでに
公式にグリーンライトを与えている雑誌の比率は
(現在83%であるが)増加中である。
図: セルフアーカイブに対してグリーンライトを与えている出版社のRoMEO一覧表

図2. 著者・所属機関によるセルフアーカイブに対する出版社・雑誌のポリシー一覧

 

グリーン出版社の比率は
2003年から2004年にかけて
42%から58%に増加した。
図: グリーン出版社の比率は2003年から2004年にかけて増加した
グリーン雑誌の比率は
2003年から2004年にかけて
55%から83%に増加した。
図: グリーン雑誌の比率は2003年から2004年にかけて増加した

図3. 2003年から2004年にかけてのグリーン出版社とグリーン雑誌の比率の増加

JISCの調査(Swan & Brown 2004)では、次のように述べている。

「出版された論文のコピーを…リポジトリにデポジットするよう雇用主や助成団体から要求されたとしたらどのように思うかを著者たちに尋ねた。大多数の著者は、…喜んでそうするだろうと答えた。」

従って、明らかに次は大学の番である。すなわち、大学が一刻も早く、既存の「出版せよ、さもなければ死を」というポリシーを拡張して、出版された論文のすべてをオープンアクセスにすることを同時に要求するようにすれば、それだけ早く、研究成果に対するユーザのアクセスを最大にすることによりその研究のインパクトを最大にするという恩恵を研究者コミュニティ全体が受けられるようになるのである。 <http://www.eprints.org/signup/sign.php>

参考文献

Brody, T., Stamerjohanns, H., Harnad, S. Gingras, Y. Vallieres, F. & Oppenheim, C.(2004) The effect of Open Access on Citation Impact. Presented at: National Policies on Open Access(OA)Provision for University Research Output: an International meeting. Southampton University, Southampton UK. 19 February 2004.
< http://opcit.eprints.org/feb19prog.html>.

Garfield, E.(1998)The use of journal impact factors and citation analysis in the evaluation of science. Presented at the 41st Annual Meeting of the Council of Biology Editors, Salt Lake City, UT, May 4, 1998 - April 17, 1998
< http://www.garfield.library.upenn.edu/papers/eval_of_science_oslo.html>.

Harnad, S., Brody, T., Vallieres, F., Carr, L., Hitchcock, S., Gingras, Y., Oppenheim, C., Stamerjoanns, H., & Hilf, E.R.(2004) The green and the gold roads to Open Access. Nature(web focus)
<http://www.nature.com/nature/focus/accessdebate/21.html>.

Kurtz, M.J.(2004)Restrictive access policies cut readership of electronic research journal articles by a factor of two, Harvard-Smithsonian Centre for Astrophysics, Cambridge, MA
<http://opcit.eprints.org/feb19oa/kurtz.pdf>.

Lawrence, S.(2001)Online or Invisible? Nature 411(6837): 521
<http://www.neci.nec.com/‾lawrence/papers/online-nature01/>.

Odlyzko, A.M.(2002)The rapid evolution of scholarly communication." Learned Publishing 15: 7-19
<http://www.catchword.com/alpsp/09531513/v15n1/contp1-1.htm>.

Pringle, J.(2004)Do open access journals have impact? Nature(Web Focus). <http://www.nature.com/nature/focus/accessdebate/19.html>.

Swan, A. & Brown, S.N.(2004a)Authors and open access publishing. Learned Publishing 2004:17(3)219-224.

Swan, A. & Brown, S.N.(2004b)JISC/OSI Journal Authors Survey Report. <http://www.jisc.ac.uk/uploaded_documents/JISCOAreport1.pdf>.

1. 相関係数計算機/補完推定機: 相関係数計算機は論文のダウンロード数と引用数を数え(「時間間隔」とダウンロード数と引用数の値範囲は調整可能)、その相関係数を計算する。 たとえば、ダウンロード数の上位4分の1の論文や引用数の下位4分の1の論文について、2年間隔のダウンロード数と引用数の相関係数を計算することができる。 時間間隔と値範囲は自由に拡大・縮小することができる。相関係数が0.4から0.6もあるとすれば、今日ダウンロードした論文が2年間にどの程度引用されるかを予測できることを意味する。 時間間隔をだんだんと狭めていくと、ダウンロードが引用の要因となり、引用がさらなるダウンロードの要因になるという、循環する因果関係効果とその時間係数を検証することができる。

Copyright © 2004 Stevan Harnad and Tim Brody
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doi:10.1045/june2004-harnad