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D-Lib Magazine
2005年1月

11巻1号

ISSN 1082-9873

より多くのコンテンツを機関リポジトリに集めるために教員を理解する

 

Nancy Fried Foster
Lead Anthropologist
<nancyf@library.rochester.edu>

Susan Gibbons
Assistant Dean, Public Services & Collection Development
<sgibbons@library.rochester.edu>

ロチェスター大学
リバー・キャンパス図書館
Rochester, NY 14627


(原文: Understanding Faculty to Improve Content Recruitment for Institutional Repositories, D-Lib Magazine, v. 11, no. 1 (January 2005)

Red Line

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機関リポジトリと本稿で取り上げるその問題点

機関リポジトリ(IR)とは、コミュニティが生産するデジタル成果物を捕捉・保存し、アクセスを提供する電子的システムである[1]。 大学に設置された場合、IRは教員の研究成果や学生の学位論文、電子ジャーナル、データセットなどを保管する場を提供する。何に重点を置くとしても 大学のIRを成功させるためには、長期にわたって検索・引用される価値ある学術研究成果でIRを満たさなければならない。

ここ数年の間に数多くの機関リポジトリが設置されたことを見ると、IRサービスは機関にとってきわめて魅力的で注目せずにはいられないもののように見える。 IRは、学術研究成果を展示し、価値あるデジタルドキュメントの集中化と管理の効率化を実現する機能を機関に提供する。また、IRは、拡大しつつある学術 コミュニケーションの危機に対して積極的に応えるものでもある[2]。

オープンソースのIRシステムが利用できることにより、IRは世界中の、特に学術機関や研究機関に広がっていった。たとえば、MIT図書館が ヒューレット・パッカード社と共同で開発したDSpaceは、2002年11月のリリース以来、15,500回以上ダウンロードされている[3]。

しかし、ソフトウェアのインストールはIRの成功に向けた第1歩に過ぎない。コンテンツがなければ、IRは単なる空の棚にすぎない。 現状では、各組織においてIRの設置が急速に進んでいるが、保管されているコンテンツの量はきわめて低調である。 45のIRに対する2004年4月の調査では、保管されている文書の平均件数は1リポジトリ当たり1,250件にすぎず、中央値は290であった [4]。 IRを構築し、維持するためにかかる数10万ドルの経費や職員の時間を考えると、これは小さな数字である。たとえば、MIT図書館はIRに かかる人件費や運営費、設備費が年間285,000ドルに上ると推定している[5]。MITのIRには現在およそ4,000アイテムが 保管されているので、1アイテム当たり年間71ドル以上を費やしていることになる。

MIT図書館はもちろん、DSpace IRにコンテンツを集めるために行ってきた活動に満足していたわけではなかった。キャンパスに DSpaceを広めるプロジェクトの一環として、MITは、DSpace利用者支援管理者を雇い、その任務の1つとしてコンテンツ収集を 担当させた。この戦略が期待した量のコンテンツを得ることに失敗すると、マーケティング専門家の手腕を求めた[6]。 全米中はおろか世界中にも報道されている、おそらくもっとも知名度の高いMITでさえコンテンツの収集に苦しんでいるということは、 何かが間違っているに違いない。

「それを作れば、彼らはやってくる」というせりふは今のところIRには当てはまらない。IRの利点は機関に対しては非常に説得力がある ように思えるが、著者やコンテンツの所有者からは注目すべき便利なものであるとは見られていない。そして、コンテンツなしには IRは成功しないのである。なぜなら、機関は、成功の確たる証拠なしにはそれほど長くIRを支持するとは思えないからである。

ロチェスター大学リバー・キャンパス図書館は、博物館・図書館サービス研究所(Institute of Museum and Library Services)の 2003年度National Leadership助成金を得て、IRの利点やサービスと教員が実際に抱いている要求や要望との間に明らかに見られるずれを 解明しようと試みた。特に、この助成金では、どのようにしたらIRは既存の研究方法を支援できるのかを知るために、様々な専門分野の教員の 日常的な研究活動を理解することが求められた。この1年間にわたる研究により、現行のIRシステムが教員にとって実際には理論的に想定されるほど 便利ではない理由を発見でき、その結果、教員の既存の研究活動により相応しいリポジトリにするために、ロチェスター大学の DSpaceを改造することになった[7]。さらに、調査結果は、IRをいかに説明し宣伝するべきかについて、完全に考え 直させる結果となった。

教員の研究行動の調査

本調査では教員がどのように研究や論文執筆をしているかに焦点を絞った。これには、教員がどのようなデジタルツールを使っているか、 どのような仮想的、物理的作業空間で研究作業を行っているかを観察する必要があった。そのため、我々は「ワーク・プラクティス調査法」を用いた。 これは、人類学で従来から行われている参与観察法に基づいて作業中の人々を詳細に観察し記録する方法である[8]。

ワーク・プラクティス調査を行う最良の方法は、調査対象となる人々と長時間共に過ごし、彼らが普段通りに行う作業をありのままに観察することである。 ワーク・プラクティス調査では通常ビデオテープを使って記録を残すことにより、研究チームが繰り返し見直すことができるようにする[9]。 これにより、観察の段階では見過ごしていた詳細な事柄を発見したり、観察者の偏見や先入観を無くしたりすることが可能となる。

大学における教員の研究行動を調査する上で、観察や録画に長時間を割くことは現実的ではないので、観察は短時間(通常1時間)とした。我々は教員が 研究を行っている時に研究室に出かけて行き、ビデオ撮影を行い、教員に質問をし、出版済資料や灰色文献などのデジタル形式の研究成果をどのように 発見、使用、配布しているかを教えてもらった[10]。さらに、電話による教員へのインタビューや図書館員から集めた情報により この観察を補強した。我々はまず、ロチェスター大学の経済学科、物理学科、政治学科、言語学科、映像文化研究大学院の教員に的を絞った。

調査のコアチームは、2名の図書館員と、コンピュータ科学者、人類学者、プログラマ、グラフィックデザイナー各1名で構成した。さらに、 4名の参考図書館員と1名の目録担当者がビデオレコーダの操作やブレーンストーミングへの参加などのプロジェクト活動を行い、コアチームを補助した。 様々な考え方を持つ専門を異にする者が参加することにより、より多くの調査ができ、より良いアイデアを出すことができたことを、また、 このプロジェクトチームの多様性がプロジェクトの成功の鍵であったことを我々は確信している。

教員へのインタビューと観察は25本のビデオに録画し、文書化を行った。チームのメンバーは時間が許す限りできるだけ多くの記録を読み、 ビデオを見た。人類学者はフィールドデータに基づいて様々な分析を行った。何回かの会議では、チーム全員で記録の分析を行った。分析は 一般に、研究課題の検討、あるいは活動の遂行と言う観点で行った。たとえば、3人の教員とのインタビュー記録を使って、構想から発表に到る 研究サイクルのストーリーボードを作成し、これを教員に見せて議論し、改良していった。我々はまた、たとえば、自分が教員になり、研究をもっと 簡単にもっと効率的にするツールを魔法のように手に入れ使うことができた場合を想像するなど、「現実性を欠く」ブレーンストーミングを 自発的に行うこともあった。

データは厳格な人類学方法とより創造的かつ直感的なプロセスの両者を用いて分析を行った。2つの方法が互いに補完し合い、組み合わせることで 多くのアイデアを生み出すことがわかった。実際、これらの分析の結果、教員が何を望み、何を必要としているのかといった一般的なアイデアから、 DSpaceソフトウェアの機能を拡張する具体的なアイデアまで、150以上のアイデアを得ることができた。

システム改善のための数多くのアイデアを取り出し、これを、たとえば、「バージョン管理など文書作成上の要望に関するアイデア」や 「灰色文献をもっと簡単に発見するためのアイデア」のような複数の概念にまとめた。コアチームはこれらの様々なアイデアを評価し、 DSpaceの機能拡張、具体的には、研究者のためのパーソナル・ショーケース・ページを持たせることが最善の策であると決定した。

機能拡張を決定すると、直ちにデザイン作業を開始し、プロトタイプを教員協力者に提供した。協力者によるプロトタイプの操作をビデオに 録画し、文書化の後、分析を行った。そして、これから得た成果を次のデザインに活かしていった。デザインが決まると、静止画像を使った オンスクリーン・プロトタイプを作成した。これらの画像は互いにリンクしており、プロトタイプの一部は実際に動いているように見えた。 この「クリック可能な」プロトタイプを使ってユーザビリティ調査を行い、実際の機能拡張を実現していった。利用者調査、デザイン作業、 プロトタイプのテストからなるこのサイクルは参加型デザインの典型例であり、最終製品が利用者にとって使いやすいものになる可能性を高める ものである。

教員が望んでいるもの

主要な調査結果は後で考えれば自明のように思わる次のようなものであった。大学の教員や研究者が望んでいるものは、研究を行うこと、研究に関する 読み書きを行うこと、研究を共有すること、研究分野の動向を常に把握することである。教員の多くは優れた教師であり、秀でた管理者である者もいる。すなわち、 彼らは所属する部局や学界にサービスを提供している。しかし、教授の役割(その定義は漠然としたものであるが)をもっともよく果たしている教員でさえ、 過重労働に不満を漏らし、事務的仕事に抵抗し、研究や執筆の時間を削るあらゆる余計な活動を不快に思っている。

インタビューを行ったすべての教員はデジタルツールを使用していることが判明した。デジタルツールには最低でも、電子メール、文書を作成するためのワープロソフト、 データを保存・操作するためのスプレットシート、デジタル成果物を組織化し保存するためのネットワーク、オンライン図書館目録、出版物を検索し閲覧するための データベース、専門家としての活動を維持し実行するためのWebサイトが含まれる。ただし、インタビューしたほとんどの教員の関心は、これらのツールが実際に使える かどうかだけであり、ツールがどのようにして動くのか、あるいは、ツールがどんなものであるかにはほとんど興味を持っていなかった。

インタビューを分析する過程で、我々は主として、論文の執筆と共同執筆、研究成果の保存と発信、他の研究者による該当分野の研究成果の発見と講読に重点を置いて、 個々の要求をリストアップしていった。インタビューした教員は、次のようなことが可能になることを望んでいる。

  • 共著者と作業すること
  • 同一論文の様々な版を管理すること
  • MacとPCといった異なるコンピュータを使って異なる場所で作業すること
  • 研究成果を他人に利用できるようにすること
  • 他の研究成果を簡単にアクセスすること
  • 研究分野の動向を把握すること
  • 自分のやり方で資料を整理すること
  • 所有権、セキュリティ、アクセスを管理すること
  • 文献の永続的な閲覧・利用を保証すること
  • サーバやデジタルツールの管理を他人に任せること
  • 著作権問題を侵害しないことを保証すること
  • コンピュータに関するあらゆることを簡単かつ完全に保つこと
  • 混乱状態を無くすこと、少なくとも新たに作り出さないこと
  • これ以上忙しくならないこと

IRで行われることがすべて、完全に安全かつセキュアであることは不可欠であるが、それ以上に、教員にとってのIRの最大の価値は、 IRに投稿した研究成果を他の人々が発見・利用して引用することである。これがかなわなければ、たとえIRの熱狂的な支持者であっても すぐに興味を失うだろう。

教員や研究者の要望が判明すると、初めて教員にDSpace IRを売り込んだ際に引用したDSpaceの特徴と比べてみた。そして、両者が一致していないことを知った。

Bar chart showing the disparity between DSpace features and needs of faculty

図 1. DSpaceの特徴と教員/研究者による要望との間の齟齬。緑は理解を、赤は誤解、理解の欠如、無関心を表す。

教員は、読む、研究する、執筆する、発信するという観点で考えている。また、ニュートリノやドイツ映画、韻律論、下院黒人問題調整部会など、 研究分野の特定の事柄について考えている。そんな彼らに「機関リポジトリ」と言っても、ほとんど反応はない。

ハードウェアのクラッシュやソフトウェアの陳腐化でデータや文書を失っている者も多いというのに、ほとんどの教員は、 彼らの資料が厳重にバックアップされ、永久にアクセス可能であると、一般に間違って、思い込んでいる。少し説明すれば、彼らは「様々なフォーマットを サポートする」ことや「デジタル保存」を保証することの重要性を理解する。すべての教員は「アクセス権の管理」を理解し、それを望む。 IRという文脈における「メタデータ」という言葉の意味をすでに知っている教員がおり、また、すべての教員はその意味を容易に理解することができるが、 メタデータの概念は彼らにとっては重要ではないので、反応はない。「オープンソースソフトウェア」はほぼ完全に無意味である。

そのようなわけで、IRを宣伝する典型的な言葉を使ってコンテンツを集めようとしても、教員や研究者は熱狂的な反応を示さなかった。それは、 IRの特徴が図書館員や文書館員、コンピュータプログラマ、機関リポジトリを構築・運営する人々が使う言葉で表現されていたので、彼らは そのほとんどすべてが自分には関係ないと思ったからである。すなわち、教員が研究成果を競ってIRに投稿しなかった1つの理由は、 教員の観点から見た機関リポジトリの利点を認識していないことである。

判明した教員のすべての要望、特に進行中の研究成果の執筆に関する要望に対応することは現プロジェクトの範疇を越えるものである。 DSpaceは完成した研究成果を補足、格納、索引、配信するよう設計されたので、原稿のバージョン管理や共著者との作業分担機能は サポートしていない。インタビューしたほとんどの教員は、研究を安全かつ組織的に行うために、手の込んだ作業手順を開発していた。 たとえば、他の研究者と共同研究を行う際には、原稿の最新版を把握するために多大な努力を費やし、各版の日付を刻印するために原稿を メールで互いに送付しあうという間に合わせのバージョン管理システムを開発している。

バージョン管理は別の意味でも問題である。教員は多くの場合、原稿を様々な環境で複数のコンピュータを使って執筆しているからである。 ある教授は、事務室に1台、研究室に1台、自宅に1台、デスクトップコンピュータを持っており、さらに、図書館や喫茶店、会議に持っていく ラップトップコンピュータを1台持っている。大学院生が研究を補助している場合は、さらに複数台のコンピュータが加わることになる。 デジタルファイルは部局や大学のサーバにメールやFTPで送付され、CDに焼かれ、フロッピーやzip装置、USB装置に保存される。さらに、 保管のために他州に住んでいる家族に送付されることすらある。

これらの教員は、ほとんどの大学における典型的な教員であると信ずるが、バージョン管理機能や共同執筆機能、任意のコンピュータ、任意の場所から アクセスできる集中化された文書システムなどを持つ執筆支援システムを心から必要としている。この要望が非常に大きいので、完成された研究成果を 格納、保存、配信するIRは彼らにはほとんど印象を残さない。

教員がIRにほとんど関心を示さないもう一つの理由は、IRという名前と組織化の方法に関係する。「機関リポジトリ」という言葉は、必ずしも 個人のニーズや目標ではなく、機関のニーズや目標を支援・達成するために設計されたシステムであることを暗示するからである。さらに、リポジトリに 成果を投稿することは個々の研究者や著者の業績ではなく、機関の業績を強調することを意味するからである。我々の調査結果は、「機関リポジトリではなく、 個人デジタルリポジトリを強調することにより個人に焦点を合わせるべきだ」というGandel, Katz, and Metrosの提案[11]を強く 支持するものである。

教員は通常研究に入ると、プラズマ天文物理学や現代ヨーロッパの批判的思想といった同一の研究分野に興味を有する世界中にいる少人数の研究仲間との関係が 強くなる。研究者が連絡を取り合い、研究成果を共有したいと考えるのは、その多くは他の機関に所属するこれらの研究仲間である。しかしほとんどの組織は IRのコミュニティ機能を機関の研究部門に割り当て、相互関係にある研究プロジェクトに従事する移り変わり捕らえにくい研究者コミュニティには割り当てていない。 ただ単に著者が同じ学科に所属するからという理由で、アングロサクソン・イングランドの女性に関する論文とポストソビエト・カザフスタンに関する論文を 同じコレクションに入れることは教員にとっては意味をなさない。そのようなコレクションに研究成果を捜しに来るような者はいないと思われるからである。 他の研究者が研究成果を検索、発見、利用するようなコレクションに自然と論文を集めるような強い結びつきがなければ、著者に論文を投稿させるための 説得力のある理由は存在しないのである。

教員の要求に合わせた機関リポジトリの拡張

調査を終えた時、最優先課題は短期間のうちにより多くのコンテンツをIRに集めることであることを、我々は理解した。 教員の原稿執筆や共同執筆のためのシステムに対する要望にも応えたかったが、IRのコンテンツを増やすまではこの作業を延期することにした。

この短期的な目標を達成するために、2つの戦略を用意した。1つは、投稿してくれる教員を集める新しい戦略を試すことであり、これは、下で述べるように、 教員の立場に立って彼らにアプローチし、教員の言葉を使って彼らと対話するものである。今1つは、教員が資料をIRに簡単に投稿でき、教員自身やその研究を 展示できるようにDSpaceを拡張することであった。参加型デザインプロセスを繰り返すことにより、この目標を実現する2つの新しいDSpace要素を作成した。

研究者ページ(図2)は個人用のWebページであり、IRに研究成果を投稿するロチェスター大学のすべての教員と研究者が利用できるようにする予定である。 研究者ページは研究者の研究成果のすべてを展示するショーケースを提供するものである。インターネットに接続している世界中のすべてのコンピュータ から誰でも、このページを見つけて、研究者がセルフパブリッシュした研究成果のすべてを見ることができるようになるはずである。さらに、研究者ページには 主題リポジトリや電子ジャーナルに掲載された出版済みの研究成果へのリンクを含めることも可能である。

Screen shot showing a personalized researcher page

図 2. 研究者ページ

研究者ページを支援するものが研究ツールページである(図3)。このページは、研究者が実際にセルフパブリッシュやセルフアーカイブをする場所である。 資料のコレクションへの配置やコレクションの命名は教員がすべて管理することが可能である。また、研究ツールページは、原稿執筆や共著作業のホームページ を提供したり、教員の研究を支援するWebベースのサービスのハブとして使用したりすることも可能であろう。言い換えれば、研究ツールや研究者ページは、研究者が 様々なコミュニティで行う幅広い総合的な活動を支援するものになるだろう。

Screen shot showing available research tools

図 3. 研究ツール

事実上、我々はDSpaceの構造に新たな階層を付け加える作業を行っている。我々のIRでは、DSpaceに元々存在するコミュニティとコレクションに加えて、個々のコミュニティメンバと その個人的コレクションを表現する階層を持つ予定である。新しいデザインは、IRの機関向けの多くの利点を残したまま、システムの個人化という強力な要素を付加する。

Chart showing the relationships

図 4. 機関リポジトリにおける研究者ページの位置づけ

IRについて説明する方法

教員への新しいアプローチとしては、現在、少数の初期協力者グループと共同で、またその同僚へとネットワークを広げることにより、 IRにコンテンツを集めている最中である。また、より広範囲にわたるコンテンツの収集と利用者支援の体制を構築中である。

小さな学科の4人の利用者が我々の研究プロジェクトへの参加に同意し、DSpace拡張のプロトタイプの評価を行っている。彼らは研究者ページを 持つ最初の研究者になる予定であり、また、さらなるユーザビリティのテストにも参加する予定である。彼らが研究者ページを使い始めたら、 訪問者がどの程度研究者ページを検索し、そこに掲載されている研究成果を閲覧するかに特に注目して、彼らの経験をモニターする予定である。

初期協力者のいるこの学科は、学内の異なる分野の2つの学科と、学外の同じ分野の多くの学科と密接な関係を持っている。初期協力者が 新しいページを使って良い結果を残したら、潜在的な利用者にまでネットワークを広げるために彼らがどのような役割をはたすことができるかを 検討する予定である。

同時に、我々はコンテンツの収集と利用者支援のための新たな体制を構築中である。この体制により、直接あるいはオンラインにより、 我々が教員に連絡をとることや教員が我々から必要とする支援を得ることが、容易になることを期待している。

この新しい体制は、訓練を受けた主題図書館員が務める「ライブラリーリエゾン」を基本とする。ライブラリーリエゾンは現在、 指名したIRコレクションのコンテンツ収集担当者を支援しているが、教員と個人的に会ったり、部局の会議に出席してIRの利点や IRがどのようなものであるかを紹介したりすることも任務とする。また、教員がIRへ研究成果を投稿するようになった後は、 ライブラリーリエゾンと目録担当者は、メタデータを補完したり、投稿された研究成果を適切なコレクションに配置したり することにより裏舞台で活躍する予定である。

ライブラリーリエゾンの活動は、型どおりの万人向けの宣伝文句で教員にアプローチするのではなく、各個人に合わせたオーダーメードの ガイダンスを行うことがベストである。ワーク・プラクティス調査から学んだように、教員がもっとも関心を持っているものは研究である。 たとえば、教員と会う前に教員の最近の論文を読み、研究について2,3質問をするなど、教員の研究に関心を持っていることを示せば、 教員の注意を引くことができ、一般に非常に活発な会話を引き出せるものである。ライブラリーリエゾンは会話の間ずっと、研究者が 示すWebに関連した研究上の要望に対して、IRの機能がいかに直接対応するかを説明する機会を捉えるよう耳を澄ましている。たとえば、 教員がリンクの切れたWebサイトについて不満を示したら、ライブラリーリエゾンはIRの文書はすべてユニークで安定したURLを持って いることを説明することができるのである。

我々は今ではIRの特徴や利点を述べる際にかつて使用していた言葉ではなく、教員とのインタビューから得た言葉を使ってIRを説明している。 つまり、IRは次のようなことを可能にすると、我々は教員に説明している。

  • 研究成果をWeb上でGoogle検索やIR自身の検索機能により他の人が容易にアクセスできるようにすること
  • デジタルアイテムを将来にわたって、消失や破損がないよう安全に保存すること
  • ファイルを探したりメール添付で送付したりするために時間を費やす必要がないように、研究成果へのリンクを割り当てること
  • 研究成果の所有権を保持し、研究成果を閲覧できる人を管理すること
  • サーバを管理する必要がないこと
  • 面倒なことを何もする必要がないこと

教員が我々の話を聞いていることがわかったら、決められたフォーマットを使えばそのフォーマットが使われなくなっても投稿したファイルが 永久に利用できること、少なくとも、見ることができることも教員に説明する。さらに、DSapceを使用したすべてのIRが保管する学術研究成果を Googleで検索できる機能や研究ツールページ機能をIRが持っていることも説明する。

長期的には、まずなにより、教員が「研究を遂行する」ための尽力、すなわち、資料の組織化、原稿の執筆、共著者との共同作業などを支援する システムを想定している。そのシステムはDSpaceが既に持っているセルフパブリッシングやセルフアーカイビングの機能を持ち、 保存、メタデータ、永続的URLなどDSpaceの既存の機能にも大きく依存するものになるだろう。しかし、我々がこのシステムを構築する際には、執筆中の研究 成果をセフルパブリッシングやセルフアーカイビングする形に変換する、すなわち、作業フォルダからIRへ文書を移す簡単なメカニズムを 付け加えるつもりである。我々が研究過程全体を支援し、IRが教員の要望にマッチし、彼らの研究の方法に合えば、教員はIRを利用し、「自然と」 より多くの研究成果をIRに投稿するようになると我々は確信している。

IRを越えて

我々は現在、研究者ページと研究ツールをJavaで開発中であり、少人数の教員グループにより試行運用を行う予定である。このページが 満足いくものになったら、プログラムをオープンソースとして公開する予定である。

研究者ページ/研究ツールを公開する際には、いくつかの主要な結果に焦点を絞ることにより、これが成功したか 否かを評価する計画である。1つは、新しいページを使って利用者がどの程度自分でIRに研究成果をデポジットするかである。今1つは、利用者が IRにデポジットした研究成果へのリンクを公表するようになるか、また、研究成果の発信のために研究者ページ/研究ツールがどの程度うまく 働くかである。さらに、我々は試行運用協力者からその同僚へとネットワークを広げることができるかどうか、あるいは、このネットワーク化の試みが 関心の欠如から先細りになるかどうかを見守ることにも興味を持っている。

我々は本稿で述べたワーク・プラクティス調査法を図書館における別の面にも応用し始めた。現在、学部学生がどのようにして研究論文を読み、 研究主体の授業を選択しているかに焦点を絞った調査を行っている。チームアプローチを使って、学生が様々な学術的、非学術的資料をデータベースや 図書館員の助言、Googleなどを使って、どのように見つけて利用しているかを理解するためにワーク・プラクティス調査や関連した調査を行う予定である。 調査結果が、参考質問の改善や書誌情報に対するより良い指導、調査により示されるその他の改善点を通じて、学生をさらに支援するための参考になる ことを期待している。

機関リポジトリはその発展において危機的な位置にある。IRの成功を測る尺度はたくさんあるだろうが、中でもコンテンツの量は明確で単純な 測定基準である。この基準のみを適用すれば、IRは失敗しているように見えるだろう。しかし、我々のワーク・プラクティス調査の結果は、 リポジトリの設計やマーケティングにおいて教員中心のアプローチをとれば、IRは魅力的で有用なツールとなりうることを示している。 教員の既存の活動にうまく合わせれば、IRは現在かなえられていない多くの期待に応える可能性を持っている。

参考文献

[1] ネットワーク情報連合(Coalition for Networked Information)事務局長のClifford Lynchは、ARL Bimonthly Report 226 (2003) 掲載の「機関リポジトリ : デジタル時代における学術研究に不可欠のインフラストラクチャ」において、IRとは「大学がその構成員に提供する、 大学やその構成員により作成されたデジタル資料を管理し発信するための一連のサービス」であると述べている。
Available at: <http://www.arl.org/newsltr/226/ir.html >.

[2] Gibbons, S. (2004). Establishing an Institutional Repository. Library Technology Report. 40:4, pp. 11-14.

[3] DSpace Federation home page, <http://www.dspace.org>.

[4] Ware, M. (2004). Institutional Repositories and Scholarly Publishing. Learned Publishing. 17:2, pp. 119.

[5] Barton, M.R. & Walker, J.H. (2002). MIT Libraries' DSpace Business Plan Project: Final Report to the Andrew W. Mellon Foundation, p. 33.
Available at: <http://libraries.mit.edu/dspace-mit/mit/mellon.pdf>.

[6] 2004年3月10日〜11日に開催されたDSpaceユーザグループ会議においてMargaret Branschofskyが発表した「DSpaceのマーケティングと ポリシー計画(DSpace Marketing and Policy Planning)」による情報。
Available at: <http://www.dspace.org/conference/presentations/mit-marketing.ppt>.

[7] DSpace at the University of Rochester home page, <https://dspace.lib.rochester.edu/index.jsp>.

[8] 次の2つがワーク・プラクティス調査の2つの例である。
Wenger, E. (1998). Communities of Practice: Learning, Meaning, Identity (New York: Cambridge University Press)
Goodwin, C. (1994). Professional Vision. American Anthropologist, New Series, 96:3, pp. 606-633.

[9] Brun-Cottan, F. & Wall, P. (1995). Using Video to Re-present the User. Communications of the ACM. 38:5, p. 61.

[10] 「灰色文献とは、出版がその組織の主要な活動ではない政府、学術団体、会社、産業界により印刷体あるいは電子的形式で作成された もので、商業出版社の制御下にないものである」 Farace, D. (1997)。
Aina, L.O. (2000). Grey Literature and Library and Information Studies: A Global Perspective. The International Journal on Grey Literature, 1:4, p. 179 からの引用。

[11] Gandel, P., Katz, R. & Metros, S. (2004). The Weariness of the Flesh: Reflections on the Life of the Mind in an Era of Abundance. Educause Review, 39:2, pp. 40-51.
Available at: <http://www.educause.edu/apps/er/erm04/erm042.asp>.

Copyright © 2005 Nancy Fried Foster and Susan Gibbons
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