検索   |   バックナンバー   |   著者索引   |   タイトル索引   |   目次

Articles

spacer

D-Lib Magazine
2005年9月

11巻9号

ISSN 1082-9873

学術機関リポジトリ

2005年半ばにおける13カ国の配備状況

 

Gerard van Westrienen
<vanWestrienen@surf.nl>

Clifford A. Lynch
Coalition for Networked Information
<cliff@cni.org>


(原文: Academic Institutional Repositories: Deployment Status in 13 Nations as of Mid 2005, D-Lib Magazine, v. 11, no. 9 (September 2005)

Red Line

spacer

1. はじめに

2005年5月10日から11日にかけて、Coalition for Networked Information(CNI)、英国のJoint Information Systems Committee(JISC)およびオランダのSURF Foundationは共同で「機関リポジトリのための戦略的事例の作成」と題する国際会議を開催した。 この会議の目的は、学術部門における機関リポジトリ(IR)の配備状況を広範囲に調査すること、および、この配備が国家的政策あるいは戦略によりどのように形成されているかを探索することであった。 会議に向けて、主催者は13カ国(オーストラリア、カナダ、アメリカおよびヨーロッパ諸国――ベルギー、フランス、イギリス、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダ)に機関リポジトリの配備に関するデータを求めた。 各国の報告書には共通のテンプレート(付録: 質問票)を用い――多くの国はテンプレートにある全ての質問に答えることができたわけではなかったが――収集したデータは会議プログラムとして提供した。 会議の席で各国のデータを比較して明らかになった解釈の違いを明確にするために、会議後、各国の代表にはデータを修正する機会が与えられた。

各国の完全なデータは<http://www.surf.nl/download/country-update2005.pdf>で見ることができる。会議のその他の資料は<http://www.surf.nl/en/bijeenkomsten/index2.php?oid=6>にある。

我々の知る限り、このデータは機関リポジトリの配備に関する国際比較データを系統的な方法で収集する最初の試みである。 この論文の目的は、データをまとめ、調査結果について論評を加えることである。 もちろん、我々の論評は、様々な具体的な配備事例に関する文献や我々の知識だけではなく、今回の会議やその他の会議の発表から得た情報にも基づいている。

結果論であるが、明らかに、各国から比較可能なデータを得るためには(実際には、多くの場合、機関ごとに比較可能なデータを得るためにさえ)、いくつかの質問は、別の質問、あるいはもっと詳しい質問にした方が良かっただろう。また、データの入手可能性について見込みが甘かったことも明らかである。ある国で得られた情報が別の国では必ずしも簡単に得られるわけではなかった。高等教育制度は多くの面で国により大きく異なっており、機関リポジトリの全国的コレクションの発展形態だけでなく、このリポジトリコレクションの理解や特徴およびその学術コミュニケーションとの関係についても、その意味するところが広範囲におよび複雑であるからである。 調査テンプレートの作成過程において、最終的には予備調査的観点を取ることを決め、幅広い情報について質問し、参加国が提供できるものであればどんな指標のデータであっても受け入れることにした。

データの収集過程にも問題があった。ある国の状況についてどの組織に尋ねたら良いのかが常に明らかなわけではなかった。 また、データの収集や報告に関する各国回答者の捉え方や取り組み方は若干異なるものであった。実際、配備状況に関して関係者の間で意見の相違が見られた国もあったようである。 しかし、各参加国においてデータ収集戦略や報告についての意見の相違を解決しコンセンサスを得る過程は、会議やデータ収集過程が関与する範囲をはるかに超えるものであった。 興味のある読者には各国の報告を見ることを勧める。そこにはデータ収集過程や提出についての各国特有の制約が記載されているからである。 分析では、各国が報告したデータを尊重し、勝手な推測はできるだけしないよう努力した。 ただし、オランダ、イギリス、アメリカの特定のケースにおいては、会議を共催した3機関がここで報告・分析されているデータを明確にするような追加説明を与えた。 ここで報告されている各国のデータに不十分なものやリポジトリの配備状況をほぼ確実に過小評価しているものがあることは疑いようがない。 しかし、どう考えてもそこに見られる全般的な傾向は依然として有効である。 最後に、配備はほとんどの国で急速に進んでいるので、このデータの中にはすぐに古びてしまうものがあることに読者は留意するべきである。

このような制限はあるが、この調査は非常に貴重であり、興味深く示唆に富むデータや情報をもたらしたと我々は考えている。 本調査は、各国の高等教育機関、研究助成機関、政策決定機関、高等教育部門の個々の機関コミュニティが検討せざるを得ないような方針や戦略に関する問題を確実に提起している。 また、機関リポジトリの成長と発展を監視できるように、データの収集や報告に関して何らかのガイドラインや標準を作成することには潜在的な価値があるのではないかという問いを発している。

2. 機関リポジトリの現状

機関リポジトリには非常に多様性のあることがわかった。調査項目は、IRの総数、国内でIRを有する大学の割合、IRが保管するオブジェクトの数と種類、IRが収録する学問分野の範囲、使用するIRソフトウェアである。また、IRに参加するようになった研究者についての情報を知ることにも興味があった。

IRの数
各国の学術機関リポジトリの総数を尋ねた。その際、何を機関リポジトリと見なすかについては各国の回答者に判断を任せた。国あたりのIRの数は、絶対数においても、全大学数に対する割合においても、国により大きく異なった。

表 1: 学術機関リポジトリ; 13カ国の現状 - 2005年6月
IRの数 大学の数 IRを有する大学の割合 IRあたりの平均文献数
オーストラリア 37 39 95 n.r.
ベルギー 8 15 53 450
カナダ 31 n.r. - 500
デンマーク 6 12 50 n.r.
フィンランド 1 21 5 n.r.
フランス 23 85 27 1000
ドイツ 103 80 100 300
イタリア 17 77 22 300
ノルウェー 7 6 100 n.r.
スウェーデン 25 39 64 400
オランダ 16 13 100 3,000 / 12,500
イギリス 31 144 22 240
アメリカ n.r. 261 - n.r.

   n.r.: 回答なし

IRを有する割合
各国のIRを有する学術機関の割合を推定するために、大学の数を尋ねた。しかし、この結果は「厳然とした事実」ではなく1つの目安として見なければならない。学術リポジトリについて話す時、どの機関を考慮に入れるべきかが明らかではなかったからである。事情は国によりまちまちであり、たとえば、カレッジやビジネススクールが含まれている場合があった。アメリカでは、中等教育卒業者のための学位授与機関2,364のうち「博士課程を有する研究大学」として数えられるのは261だけであるが、アメリカのデータはこれらの機関を全て調査したものではなかった。それでも、時間とともに、アメリカにおける学術機関リポジトリはこれら261の博士課程を有する研究大学を超えて拡大すると予想することは妥当であると思われる。

さらに、リポジトリの数を報告された機関の数で割ることでIRの配備割合の推定値を得た。これは推定値に過ぎない。2つ以上のIRを持つ機関があることがデータから明らかであるからである。複数のカレッジやスクールからなる学術機関の中には、それぞれが独自のリポジトリを持つものや関連部局が合同でリポジトリを持つものがある。これらのリポジトリをIRの数として数える国もあれば、機関全体としてサポートされているリポジトリだけを数えようとした国もあった。また、学位論文や研究報告書、ビデオ資料など、特定の資料種別に限定した機関リポジトリを構築している機関もあった。したがって、1機関が異なる種類のリポジトリを複数持っている可能性がある。これは1機関が2つ以上のIRを報告した場合のもう1つの理由である。

この推定値は、機関リポジトリが始まったばかりのフィンランドのような国の約5%から、明らかにリポジトリが高等教育部門全体の共通のインフラとして既に相当なステータスを持っており、それゆえ、機関リポジトリのほぼ普遍的な有用性を前提とするその他の活動の基礎となっているドイツやノルウェー、オランダのような国の基本的に100%の配備まで幅広い値を示した。

オブジェクトの数
IRの大きさを詳細に調べると、再び各国間や各国内で大きな違いが見られた。リポジトリあたりの件数は数件から1万、さらには数10万件までの違いがあった。

我々が計算できた範囲において、調査した国のIRあたりの平均レコード件数はおおよそ数100件であると思われる。ただし、IRあたりの平均が12,500件のオランダは除く。なお、アメリカなど数カ国についてはこれを計算するデータが得られなかったことに注意して欲しい。

また、データの分析の過程で、「レコード」の数え方が国により大きく異なっていたことが明らかになった。アメリカなどいくつかの国では、機関リポジトリのコンテンツとは論文や画像、データセットなど原資料全体であるという非常に強い前提が存在する。一方、オランダなど別の国では、機関リポジトリのレコードの中にメタデータ(基本的には書誌事項)だけのものもあった。オランダについては、これを明らかにする追加データを得ることができた。それによれば、オランダにおけるIRの平均レコード数12,500件のうち、およそ3,000件が利用可能な全オブジェクトファイルも持っていた。将来さらなる調査を行う場合、データを求める際にはこのメタデータとオブジェクト全体という二分法についてもっと詳しく指定する必要があることは明らかである。しかし、これがリポジトリのオブジェクトの数え方に関する唯一の問題ではないことを認識することも重要である。複数バージョンが存在したり、階層構造を持ったり、複合データストリームになったりと、オブジェクトが複雑になった場合は、オブジェクトに対して多くの合理的解釈が可能になるからである。

別の考えがアメリカからもたらされた。アメリカでは、IRの大きさや成長度合いをレコード数だけでなく、ギガバイトやテラバイトにも及ぶデータ量によっても推定するべきだという提案がなされ、実際にこの種類のデータが収集された。ディスク容量の測定も問題が多いが、少なくとも、オブジェクトやレコードの計数を補完する別の視点を提供するものである。

オブジェクトの種類
質問票では、参加国のリポジトリで普通に見られるだろうと考えた以下の数種類の資料を区別しただけである。

  • 論文
  • 図書および学位論文
  • 一次データ
  • ビデオ、音源など
  • 教材
  • その他

結果を表2に示す。

表 2: オブジェクトの種類に関するIRの収録範囲(オブジェクトの総数に対する割合)
論文 学位論文 図書 一次データ ビデオ、音源など 教材 その他
オーストラリア 8 8 1 83   0  
ベルギー 33 66        
カナダ              
デンマーク              
フィンランド              
フランス 80 20          
ドイツ 20 40-50   5 1 25
イタリア 70 5     20 5
ノルウェー 10 90        
スウェーデン 30 70        
オランダ 20 40       40
イギリス 74 16 1 4   4
アメリカ              

このデータから明らかなことは、報告のあった国においては、現行のIRへの収録はテキスト資料に重点が置かれていることである。しかしながら、この種の資料の中にも国より大きな違いが見られる。たとえば、ノルウェーでは現行レコードの90%は図書と学位論文である。一方、フランスでは、現行レコードの80%が論文であると推定される。ドイツの「その他」がテキスト―― 会議録――であり、同様に、オランダの40%の「その他」が主に研究報告書であることも注目に値する。

他の報告国とは対照的に、オーストラリアではレコードの83%が一次データである。ただし、オーストラリアの報告書は、この割合の解釈が少々恣意的であることを警告している(リポジトリの大きさの測定法に関して先に述べた理由による)。また、幅広い種類について、その種類の資料を収録しているリポジトリの数を数えたアメリカのデータから、アメリカのリポジトリは非テキストコンテンツをかなり多く収録していることが明らかである。

このデータは非常に重要である。なぜなら、各国が機関リポジトリの役割をどのように考えているかについての重要なヒントを示唆するからである。そして、この結果は、例外と思われるオーストラリアとアメリカを除いて、現在のところ機関リポジトリのほとんどは、伝統的な(印刷志向の)学術出版物や灰色文献、すわわち、雑誌論文や図書、学位論文、研究報告書を収録している。これから少なくとも、再びオーストラリアとアメリカを除いて、学術出版におけるオープンアクセス問題は、少なくとも極めて短期的には、e-サイエンスやe-リサーチといった新しい学術コミュニケーション手段の要求というよりむしろ、機関リポジトリの配備に対する主要な原動力になるだろうと推測することができる。もちろん、これは時間と共に変わっていくだろう。また、報告書に見られるものが、機関リポジトリの初期定着を図るために採用した戦略に起因する何らかの偏りである可能性もある。

これを完全に理解するには、各国の学術・科学情報の全体的な管理事情を正しく評価することが必要である。たとえば、イギリスは様々な分野において大規模かつ高機能で充実した全国規模のデータリポジトリシステムを持っており、デジタルデータセットを生産する研究者はデータを保存するためにローカルの機関リポジトリをあてにする必要がない。むしろ、研究者は適当な全国的データリポジトリにデータをデポジットし、おそらくその後に、全国的リポジトリに保管したデータセットに関連する出版物をローカルの機関リポジトリにデポジットする。対照的に、アメリカでは全国規模のデータリポジトリの数は極めて限られている。

対象となる学問分野
IRが対象とする学問分野についても尋ねた。質問票では学問分野を(表3に示したように)5つの大まかなカテゴリで区別した。

  • 人文・社会科学
  • 生命科学
  • 自然科学
  • 工学
  • 舞台芸術
表 3: IRが対象とする学問分野の推定
HSS: 人文・社会科学 LS: 生命科学 NS: 自然科学 工学 舞台芸術 その他
オーストラリア 49 19 17 9 3 3
ベルギー 33 39 16 11    
カナダ            
デンマーク            
フィンランド            
フランス 18 1   4   67
ドイツ 5 5-10 20 10-20 5 25
イタリア 55 10 20 15    
ノルウェー            
スウェーデン 30 20 30 20    
オランダ 20 20 30 20 1 19
イギリス 16 12 25 41   6
アメリカ            

対象とする学問分野を示すことができた国においては、これに大きな違いが見られた。オーストラリアとイタリアでは明らかに人文・社会科学に重点が置かれており、一方、イギリスのような国では、現在、重点のほぼ2/3が自然科学と工学に置かれている。その他の国では、スウェーデンやオランダのように、各学問分野がより均等に分布している。(面白いことに、学問分野のカテゴリを大まかに定義したことは明らかに解釈に影響を与えたようである。フランスのデータは(表3に示されている)67%の「その他」が主に物理学と数学であることを示している。また、ドイツの25%の「その他」は明らかに主としてコンピュータ科学である。)

使用ソフトウェア
IRに使用されているソフトウェアの調査では、国により使用するソフトウェアの多様性のレベルに顕著な違いが見られた。多くの国では数種のパッケージが使用されているだけであった。回答の中で最も目立つソフトウェアは、13カ国のうち少なくとも7カ国で使用されているEPrintsと、11カ国で使用されているDSpaceである。表4に示したパッケージリストの他に、多くの機関では独自に開発したシステムやコンテンツ管理システムを使用してIRの構築している。ドイツではOPUSソフトウェアの使用が44サイトと非常に多いこと、および、オーストラリアではバージニア工科大学のパッケージが27サイトで使用されていることも注目に値する。

Table 4: IRに使用されているソフトウェアパッケージの種類と数
GNU Eprints DSpace CDSWare ARNO Fedora DIVA iTOR その他
オーストラリア 7 3     3     29
ベルギー   2            
カナダ   +            
デンマーク   2       1   3
フィンランド               1
フランス 11 2           3
ドイツ 2 2           103
イタリア 7 3 1          
ノルウェー   1       1   3
スウェーデン 3           10 12
オランダ   6   6     2 3
イギリス 24 6           2
アメリカ + +     +     +

   +: 調査した1以上の機関が現在このソフトウェアパッケージを使用している

教官の参加
さらに、教官の間で機関リポジトリがどの程度知られており、また、興味がもたれているかを知るために、IRに少なくとも1件のレコードをデポジットしたことのある教官の数と割合を知ろうと試みた。このデータは、教官に面接してIRとセルフアーカイビングに関する意見を調査した最近の研究に対する興味深い補完となっている。

回答できた国は非常に少なかったが、その示すものは明確であり、教官の数も割合も依然として非常に低いものであった。ただし、2つの例外があった。オランダでは、現時点で全教官のおよそ40%がIRに少なくとも1件はデポジットしたことがあることが推定された。また、特定の種類の資料、すなわち、学位論文でも例外が見られた。たとえば、ドイツでは、分野によるが、全学位論文の2%から62%がIRにデポジットされていると推定された。これらは非常に興味深い数値である。

さらに、幅広い学問分野で1年間に生産される研究成果のうち、IRの全国的コレクションに収録されたものの割合の推定値を尋ねた。再び、そのような推定値を提供しようと試みた国は非常に少なかったが、その推定値は、学術コミュニティからの参加者の割合の観察値と強い相関関係があった。オランダでは、多くの学問分野を通して、全国の研究成果の約25%が機関リポジトリに入っていると推定された。ベルギーのフランス語圏の研究所も大きな推定値を示した―― 人文・社会科学で33%、生命科学で39%、自然科学で16%、工学で11%である。ドイツにおける自然科学の10%、イギリスにおける工学とコンピュータ科学の15%を除いて、(提供された)他の推定値は無視できる程度のものであった。

資料の収録過程に関する質問への様々な意見から、ほとんどのデポジットが教官自身により行われていると断言する大学がイタリアにあったものの、ほとんどの場合、デポジットは図書館員などの仲介者が行っていると結論付けることが可能である。

(イギリスなどいくつかの場合で)現在IRに収録されているアイテムの大部分は以前あったシステムから引き継いだものであることを示す意見もあった。これは、多くの機関が今もなおIRの構築段階にあること、および、IRにコンテンツを収録することが機関の定常的な仕事の流れにまだ組み込まれていないことを示している。少なくとも人の話によれば、同様なパターンをアメリカの機関でIRのコンテンツを急速に増加させるために採用しているいくつかの戦略の中に見ることができる。

3. リポジトリ連携・横断サービス

国レベル、あるいは多国間レベルで複数の機関リポジトリにより作成されているサービスの種類について尋ねた。多くの実験が開始されている(最も一般的なものは、横断検索、オンデマンド出力、システム間のメタデータやコンテンツの自動複製である)が、これらのサービスはいずれも完全に実験段階のものであり、どのサービスが成功するか、あるいは、広く受け入れられるかを述べるには明らかに時期尚早である。しかし、様々な形態のリポジトリ間検索(横断検索あるいはハーベストによる総合目録のいずれか)が必要であることは明らかであると思われる。そして、少なくともプロトタイプとしてはそのようなサービスはたくさん存在する。しかし、現時点では第1にインフラの構築と機関リポジトリへのコンテンツの収集に主として重点が置かれている。さらに、どの組織が機関横断サービスを構築する(あるいは、少なくとも構築に資金提供し、普及促進する)べきかという問題が存在する。ただし、これは、JISCやSURFのような計画や助成を行う強力な中央組織が存在する国では、そのような組織を持たない国に比べてあまり問題にはならないと思われる。

ハーベスティングに関する標準、とりわけ、OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)のサポートは広まっていると思われる。SRU/SRW/Z39.50などの検索インターフェースのサポートも、OAI-PMHほど一般的ではないが、かなり普及していると思われる。これは、機関横断サービスを開発する時が来た時に鍵となる標準として期待されるものの少なくともいくつかが、既にリポジトリのインフラに用意されていることを示唆している。

多くのプロトタイププロジェクトの詳細(リンクを含む)はSURFサイトに置かれた各国の報告書で見ることができる <http://www.surf.nl/download/country-update2005.pdf>。

貢献した人の多くが問題を指摘し、組織的作業がふさわしいと提案してきた標準化や模範事例が必要な特定の分野がいくつか存在する。もっとも明白なものはリポジトリに格納するオブジェクトの永続的識別子に関する分野である。

4. 国および機関の方針と組織

機関リポジトリに関する国の方針があるか否かについて各国に尋ねた。実際に国の(政府の)方針がある国は数カ国に過ぎないが、国レベル、あるいは、(特にオープンアクセスを促進するためのインフラという文脈で)機関リポジトリの支援を次第に行うようになってきた各国の主要な高等教育機関グループで、意見書の提出や宣言、政策指示、および同様な活動が行われるようになってきている。高等教育と政府間の関係、ひいてはこれらの分野における方針策定の場は、複雑かつ時に微妙であり、国により大きく異なることに注意が必要である。報告書で見ることができるこの件に関する各国の具体的な進展をまとめたリストは、おそらく単なる数値の組より現状をより良く描いているだろう。

イギリスやオランダのように、IRの配備やその実装に関する標準や模範事例を促進している大規模な国家プログラムが存在する国もあるが、その他の国でも、国レベルから極めて小規模な機関間協力レベルまで、調整や促進をする様々な団体や作業グループ、コンソーシアムを見ることができる。ただし、機関リポジトリを推進する国の中心的指導力(および資金援助)の大きさは国により非常に異なると思われる。その詳細とリンクは各国の回答書に見ることができる。

ドイツには、ある基準に従ってIRを認証する国立機関が設置されているという独特で興味深い状況が存在する。他の国では、オランダのように、全国的な調整・助成団体が標準化に関する国家的合意を得るための努力も行っている。

学術コミュニケーションや知識へのアクセスに関する機関レベルの施政方針の作成やベルリン宣言などの文書の採択による集団的行動が明らかに多く見られるようになっている。 これらの多くは事実上一般論レベルであるが、機関リポジトリへの資料のデポジットに関する方針を持つ機関があることを特に指摘する国もあった。

5. 機関リポジトリ配備の促進要因と阻害要因

機関リポジトリの構築・コンテンツ収集・保守を阻む、あるいは、ボトルネックになる主な要因を挙げるよう各国の回答者に求めたところ、非常に多くの回答を得た。 その多くは想定内のものであり、機関リポジトリの価値を教官に知らせ、貢献するよう説得することの難しさと資源の制約に関するものであった。 知的所有権の問題(単にデポジットのために著作権の許諾を得る問題だけでなく、デポジットされた資料を誰が利用するのか、どのような目的で利用されるのか、帰属が適切に処理されるのかといった問題もある)やインパクトファクター、学術上の信頼度、その他の問題について、明らかに混乱や不確実性、不安が存在する。 不思議なことに、機関リポジトリの資料は品質が劣るという根強い俗説が広まっているように思われる。その理由の1つはオープンアクセス資料を低品質だと思わせようとする企てに関係しているかもしれない。なぜなら、既に述べたように、ほとんどの国において機関リポジトリを促進するものは短期的にはオープンアクセスであると思われるからである。

面倒で時間のかかる投稿方法が一番の障壁であることは極めて明らかである。そして、教官が研究成果を機関リポジトリに投稿するために必要な作業の量を最小にし、その利益(たとえば、リンク化された文献目録の自動メンテナンスや、プレプリントや抜き刷りの発信など)を最大にするためにあらゆる努力をする必要があることもまた極めて明らかである。

しばしば言及されていた最後の問題は、学術研究成果をIRなどのリポジトリへデポジットすることを義務化する条項が機関や研究助成団体の方針に欠如していることである。ただし、そのような方針の確立については、特に機関レベルにおいては、依然として議論のあるところである。

促進要因の大部分は阻害要因と関連がある。オーストラリアやベルギーなど、いくつかの国は分かりやすく簡単な投稿プロセスを強調した。投稿プロセスに対する図書館員の積極的な参加と支援を指摘する国もあった。さらなる作業を教官が行うことなく、資料を機関リポジトリから全国リポジトリあるいは主題リポジトリへ自動的に送ることも価値を高める方法である(たとえば、デンマークでは、大学は科学出版物をデンマーク国立研究データベースに提出する必要があるが、各大学の機関リポジトリからこのデータベースに自動的に送る作業が進行中である)。

その他の促進要因の多くには、教官の関心に訴える方法や教官がせずにはいられないような価値を投稿に与える方法が含まれる。Googleなどの検索サービスでリポジトリのコンテンツが索引化されるようになれば、教官の研究成果の視認性や利用可能性をより高めることができる。オープンアクセスコンテンツはより多く読まれ、引用されるという議論もまた研究成果をIRにデポジットする事例を増やす一助となる。オランダの「Cream of Science」<http://www.creamofscience.org>――全国にいる数百人の指導的研究者の出版物をできるだけ多く全国リポジトリシステムに収録しようとした系統的な試み――のようなプロジェクトは、機関リポジトリにステータスや正統性を与えるものである。また、電子学位論文に関するプログラムや方針が、機関リポジトリの確立や一般化を促している国も存在する。

ベルギーにおける促進要因は、著者に対する出版リストの作成・保守サービスであった。オランダでは、資料保存のための王立図書館のE-Depotへのリンクが著者に対する促進要因になった(保存に関して言及された数少ない例の1つである)。

ここで指摘しておきたい最後のポイントは、多くの国で明らかに見られる説明責任や(イギリスの研究評価作業のような)研究評価の重視と研究資金の獲得競争である。ベルギーでは、機関リポジトリを、大学当局がセンターや部局への研究資金の分配を決定するための唯一の情報源にしようとロビー活動を行っている。機関リポジトリが(個人レベルや機関レベルの)研究助成や研究評価に直接結びつくようになれば、教官は資料をIRにデポジットせざるを得ない理由を持つことになるのである。

特にアメリカにおけるいくつかの事例の経験と対比させた場合に印象的であったことは、アメリカ以外の回答者が全体として、(どちらかといえば伝統的な)教官の学術出版とリポジトリの関係が、リポジトリの確立における中心的障壁であり、かつ促進要因であるみなしたことであった。既存の学術出版システムでは対応できない基本的に学術コミュニケーションの新しい形態で作成されたデータセットやソフトウェア、シミュレーションなどの大規模で複雑なボーンデジタルのオブジェクトを管理・保存してアクセスを提供する必要性に関する問題は提起されなかった。学術コミュニケーションにおけるe-サイエンスやe-リサーチの影響力についての意見もなかった。デジタル教材や学生が学業の一環として作成したデジタル資料を管理する必要性についての意見もほとんどなかった。デジタル形態の機関の記録を管理する必要性や学術機関の知的、文化的、芸術的生活の記録を捕捉・組織化してアクセスを提供する活動をリポジトリが支援する必要性についての意見もなかった。先に述べたように、これらを説明するには十分な注意が必要である。これらの資料が国レベルのリポジトリなど別の手段で処理されている国があるかもしれないからである。また、各国においてデータ収集活動が計画・実行された中でこれらの問題とは別のところに焦点が合わせられたかもしれないからである(たとえば、イギリスの調査では教材が具体的に除外されていた)。明らかに、もう一度調査を行う際には、これらの問題についてのさらなる検討と分析が必要である。

6. 結論

本調査は、我々が信ずるところによれば、学問および学術コミュニケーションのための未だにまったく未成熟であるが急速に進化しているインフラに関する広範囲にわたる初の国際調査である。不十分な点や至らない点はあった(その多くは調査後にはじめて完全に認識・理解できたものである)ものの、この調査は、リポジトリの国際的な状況について非常に有益な洞察を提供するものであると信じている。

少なくとも各国の調査結果から、機関リポジトリが大学におけるインフラの1要素として確立しつつあることは明らかである。機関リポジトリは調査した国の多くで広く配備されており、既にいくつかの国では基本的に全ての人が利用できるようになっている。どう考えても配備率は今後も増加し続けるだろう。収集したデータから、少なくともアメリカとイギリスでは今後1、2年の間に、配備される機関リポジトリの数が大きく増加することがわかっている。今後数年のうちに、このインフラは広範囲に広がって強固なものになり、それが広く存在することを前提とするサービスや方針の成長を支援するようになる可能性が高いと思われる。

コンテンツの獲得が未だにほとんどの機関リポジトリの中心的課題となっている。おそらくアメリカとオーストラリアを除いて、収集の重点はほとんど教官の出版物にのみ置かれているように思われる。そして、教官の参加と承認を増加させるオランダの「Cream of Science」のような非常に革新的な戦略が存在する。いくつかの国で研究評価が重視されつつあることは、国や所属機関、助成団体によるオープンアクセスポリシーの採用と共に、教官の出版物のデポジットを促進するだろう。

実際、相対的に伝統的な教官の出版物の管理やアクセスの提供を超える多種多様な目的のために、機関リポジトリはe-サイエンスやe-リサーチの発展をどの程度サポートする必要があるかについての、また、これらの目的のために機関リポジトリがいかに積極的に利用されているかについてのより良い理解を継続的に得ることが今後は極めて重要になる。これがアメリカやオーストラリの少なくともいくつかの機関で行われていることは明らかである。イギリスにおいても様々な機関で活発な活動が行われていることが分かっている。また、これらはJISCのリポジトリ振興プログラムにより全国的に明示的に促進されている目標でもある。しかし、今回の調査結果は、データを提供した他の国ではこれが広範囲には行われていないことを示している。既に述べたように、これには、最も広い意味での学術資料の管理に関する各国の総合的な(関係する場合は国際的な)戦略の文脈について理解する必要がある。これに関する各国の実態は良くわからないが、様々な国の機関リポジトリの配備を完全に比較理解するためにはこれを知る必要がある。我々の理解を別の角度から確認するもう1つの方法は、様々な国における先導的なe-リサーチの取り組みにおける情報管理作業を直接調査し、そこで生産される様々なコンテンツを使って実際に何を行っているかを解明することである。

最後に、あまり成功したとは言えないが、発表された一国の全研究成果と機関リポジトリの相互作用についての情報収集の試みも注目に値する。オープンアクセスの進展を理解することに関心のある者はこのような情報の収集を試みている。研究評価や管理にますます注目が集まると、一国の全研究成果を特徴付けるこれらのより広い問題がさらに重要性を持つことになる。これに特に関連するのは、これらのより広い問題の理解を助けるツールとして適当な構造化されたIR測定値を利用する可能性は、慎重な調査を行う価値があることである。なぜなら、それにより、より広いランドスケープを特徴付ける試みを通して機関リポジトリの発展をより良く理解できるかもしれないからである。

調査に参加した多くの国は、調査を繰り返し行うよう、あるいは、年次レベルで(あるいはもっと頻繁に)定期的に行うよう要請した。機関間や国際間の比較を容易にするリポジトリサイズや成長率の測定法を全体的に進展させることや、時間の経過に伴うデータのパターンの中から有用なものを見つけることができれば、調査の価値はいっそう高くなるだろう。明らかに、調査の範囲をもっと多くの国に広げることも有益であろう。これらの領域におけるさらなる活動について、CNI、JISC、SURFは現在活発な議論を行っている。

謝辞

データの収集・提供により本研究を支援していただいた全ての方に感謝いたします。また、本プロジェクトで共に作業を行ったJISC、SURF、CNIの同僚の皆さんに感謝いたします。この論文の草稿を注意深く読み、非常に重要なご意見をいただいたJISCのNeil Jacobs氏には特に感謝いたします。

付録: 機関リポジトリ質問票

Copyright © 2005 Gerard van Westrienen and Clifford A. Lynch
spacer
spacer

頁先頭 | 目次
Search | 著者索引 | タイトル索引 | バックナンバー
前の論文 | 次の論文
D-Libホームページ | 編集者へのメール

spacer
spacer

D-Lib Magazine Access Terms and Conditions

doi:10.1045/september2005-westrienen