平成10年度COEプログラムの活動報告

研究代表者 学術情報センター教授

小野 欽司

1.COEプログラムの概要

 学術情報センターにおいて平成7年度から実施している文部省による卓越した研究拠点形成の一環である中核的研究機関支援プログラム(COE:Center Of Excellence)では「学術情報の高度化および次世代情報ネットワークの構築に関する研究ー次世代学術情報基盤のためのオープンプラットフォーム」のテーマのもとに,学術情報センター研究開発部の教官や外国人研究者,COE研究員を中心として研究を進めている。

2.研究プロジェクト

 本研究では,21世紀にも通用する新しい学術情報基盤や知的資産形成に必要な情報学,情報科学・技術に係る基盤的・総合的研究を国際的な視野のもとに行うことを目的としている。

 現在以下の8つのプロジェクト研究(プロジェクト:プロジェクトリーダ名)および情報学の基礎となる個別研究を行っている。

1)アクティブハイパメディア・デリバリーシステムに関する研究:F.Andres

 Active Hypermedia Delivery System (AHYDS) and Phasme Project

2)情報検索への応用を考慮した自然言語処理基本ツールの研究:影浦峡

3)ネットワーク情報システムにおける戦略的管理情報収集と分析・応用に関する研究:藤野貴之

4)情報関連研究の実体と日米比較に関する調査研究:西沢正己

5)INTERNETを用いた高等教育を対象とする遠隔教育システムの研究:上野春樹

6)ネットワーク環境での衛星画像データベースの内容検索:北本朝展

7)インターネット上での協調的辞書構築支援システムに関する研究:A. Uuthichai

8)GUI構築を対象とした制約プログラミング言語処理系に関する研究:細部博史

 上記に関する研究の進捗状況をまとめた中間報告書を平成10年12月に発行し,また平成11年7月には各プロジェクトの研究評価も兼ねた研究発表会を行った。

3.COE研究員

 外国人研究員のAndres博士(Paris VI大学 仏〔H8.7〜 〕)が小野教授の指導の下に引き続き研究を行っているが,他にCOE研究員として次の2名がCOEプログラムに加わっている。Andres博士は新しいデータベースエンジンPhasmeやオープンなハイパメディアシステムAHYDSの研究開発で多くの成果を挙げている。

 内山清子さんの専門は自然言語処理で民間企業や慶応義塾大学で研究開発活動に従事した後,影浦助教授の指導で平成10年度からCOE研究員に加わっている。主にコンピュータで扱う辞書(概念辞書)の構築について研究を行なっている。研究テーマは「専門分野における複合語(専門用語)の解析」で,情報を検索するためのキーワードとして専門用語(複合語)が多く使用されるため,専門用語を解析することが重要となる。専門用語を解析するために,複合語を構成している語基についてそれぞれの文法的特徴や語基間の係り受け関係,結合関係,意味関係を段階別に整理している。特に従来の品詞枠では扱えなかった部分について文法的特徴別にカテゴリーを設定し,実際に情報処理用語の複合名詞にあてはめて評価を行なうなど文法レベルにおける専門用語の解析に関する研究を行っている。

 ウッティチャイさんはタイのチュラロンコーン大学を卒業した後,日本の文部省の奨学金を受け,平成4年に来日した。半年間東京工業大学留学生センターで日本語を勉強し,平成5年に同大学大学院制御工学科へ入学した。平成11年2月に博士課程の単位を取得退学した後,COE研究員に採用され相澤助教授の指導を受けている。大学では分散型ロボットに関する研究をし,論文のテーマは“遺伝的方法による分散駆動型機械システムの自発的運動パターン生成に関する研究”で,本センターではインターネットの応用の一つとして,居場所が異なる参加者の協力のもと,協調的辞書構築支援システムに関する研究をしている。具体的には,SaiKamと言う日タイ辞書構築環境の問題点や課題を探るとともに,日本語学習者や辞書構築者に対する用例の適合度評価および学術的テキストからの専門用語用例の自動引用の方式について研究を行っている。

4.今後の計画

 本研究は,現在の学術情報センターの研究開発部における使命や活動にとらわれない自由な,新しい発想の下で進めてきたものである。

 現在推進されている情報学の中核的研究機関のコンセプトを先取りし,その実現に学術情報センターとして具体的なアウトプットとして貢献できることを示すことが重要である。

 平成12年3月8,9日には,学士会館および新しい学術情報センターのビルで「次世代学術情報環境を支えるオープンプラットフォームとその応用」というテーマで国際シンポジウムの開催を計画している。

 第1日目は世界の著名な研究者による21世紀の情報学に関する様々な視点からの講演を,第2日目にはそれぞれのテーマに分かれて分科会を構成し,より突っ込んだ専門的議論をするワークショップを計画している。上記に挙げた各研究プロジェクトについても研究成果を発表する予定である。

 本年度で今回のCOEプログラムは終了するが,各研究プロジェクトにおいては,残された期間でそれぞれの研究目標の遂行に努力すると共に,将来に向けて新しい研究テーマの発掘,方向づけに役立てるよう努力している。

Dr.Andres

内山さん

  Mr.Vuthichai


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