Jun. 2022No.95

未知の智を創るSINET6、ついに始動!

Interview

高速メッシュ網を実現

400Gbpsを全国展開し拠点増で常時通信が可能に

SINET6で、全国400Gbpsでの回線網が整備された。いままでの4倍の速さになり、世界でトップレベルだ。高速回線を構築した狙いはどこにあるのか。工夫した点や新たに実現できることを聞いた。

栗本 崇

Takashi Kurimoto

国立情報学研究所
アーキテクチャ科学研究系 准教授

----全国400Gbps 回線網の導入の経緯を教えてください。

 SINET6 では、日本全国を総延長16,000km の光ファイバーで結び、全ての都道府県を含む70 接続拠点間において最大400Gbps の速度でデータ転送を可能にしました(沖縄は100Gbps)。

 データ通信量は、毎年指数関数的に増えています。特に近年は、ビックデータやAIといった、大量のデータを機械学習し予測や制御を行う研究が進むなど、学術研究を進める上でネットワークは不可欠となり、必要とされる回線の速度も増えています。

 SINET6 が400Gbps になったことで、例えば離れた場所に校舎がある大学でも、それぞれの校舎から最寄りのSINET6 データセンター(DC)まで400Gbps で接続すれば、大学の校舎間を400Gbps で接続できるようになります。米国の学術用ネットワークであるInternet2 も400Gbps で運用を開始していますが、バックボーン(基幹回線)の位置づけであり、大学間を常時400Gbps で接続できるようになるには、もう少し時間がかかりそうです。つまり、SINET6 は世界最先端でトップクラスのネットワークなのです。

 SINET5 でも2019 年には東京・大阪間を400Gbps にしましたが、このときは新しい光ファイバーや最新の装置を使い丁寧に敷設した、いわば特別待遇でした。しかし、同じやり方ではコストがかかりすぎるので、今回はすでに敷設してある光ファイバーの中から特性のよいものを厳選し400Gbps を通すなど工夫しています。

 400Gbps 通信では、例えば光ファイバーが振動を受けることで信号が揺らぎ、通信影響を及ぼします。安定的に通信できるよう、東京・大阪間の構築以降、改善を進めました。SINET6ではより安定的に通信できるようにしています。また道路工事などで光ファイバーが切断されることを防ぐため、できるだけ地中の深いところに鉄板などで覆った管の中を通すようにしています。

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400Gbps回線の全国展開と接続点の拡大

データセンターの増設で接続のしやすさが向上

----DC の数も増えていますが、この狙いは?

 素粒子研究や、量子エネルギー研究などの実験施設は電磁波の影響が少なかったり広大な敷地が必要だったりするため、都市部ではないところに設けられています。加えて、実験装置の高性能化により高感度で詳細な実験データがどんどん増えています。そのため各大学からは近くにSINETへの接続拠点がほしいという要望があり、20 拠点増やしました。より近いところにDC があれば、同じ価格でもより高速に通信ができるからです。

 それによりデータが取りやすくなり研究環境向上につながることを期待しています。

----通信の遅延のほうも少ないようですね。

 遅延が少なければよりリアルタイムでの通信ができるようになり、様々なサービスに生かせます。しかし、光ファイバーを使った通信であっても、距離が長くなるほど遅延は増します。

 例えば、東北で1 つのネットワーク、関東甲信越で1 つのネットワークを作り、各地域の代表(例えば仙台や東京)を接続する構成をとると、新潟と秋田のような近くの県同士で通信する場合でも、一度仙台と東京を経由することになり、物理的な距離が長くなります。

 SINET 6では拠点間を相互に網目のように接続していくメッシュ網にすることで、できるだけ最短距離で通信できるようにしています。全国を400Gbps でかつ最短で結ぶことで、遅延を極力少なくするように設計されているのです。

 メッシュ網にすることで、冗長性1 も高まります。例えば、東日本大震災では東北地方の光ファイバーが随分断線しました。高い冗長性を持たせることで断線が発生しても通信を継続することができます。自然災害に加え、機器の故障などで通信できなくなることもあります。修理・交換するにしても数時間かかります。しかし、現在のネットワークは365 日24 時間接続を求められており、その間通信ができないというわけにはいきません。メッシュ網にすることで、たとえ障害が発生しても迂回した経路で通信を維持できるようにしています。

[1]冗長性
システム/機器に障害が発生しても、継続して利用できるようにして信頼性を向上させる仕組み。予備の装置などを用意しておき、回線が使えなくなることを防ぐ。ここでは一方の回線が光ファイバーの断線、DCでの機器や装置が故障しても、継続して使えるようにしていることを指す。

(取材・構成 猪狩 友則)

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