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活動状況・イベント参加報告

谷藤 幹子(たにふじ みきこ/物質・材料研究機構 科学情報室長)

今回のセミナーは「日本の論文(海外流出はまだ続いているのか)」「日本の学術誌(海外誌との相対的な立ち位置は今どこに)」といった最近動向を学ぶ場として企画された。正確なデータ収集と専門的な手法による分析が欠かせない定量分析の結果を、お二人の専門家から直に聞き、参加者各々が自らの立場において考える機会として、これほどに恵まれた機会はなかったであろう。日本の学術環境の国際化について、日本人の感覚そのままで理解できたことでリアリティが生まれ、多くの聴衆を引きつけた魅力の所以であったと思う。

「科学研究のベンチマーキング2010
-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況-」

講師:科学技術政策研究所 主任研究官 阪 彩香 氏

世界で発表される論文数は1年間に約100万件、依然として増加傾向にあるという。論文数や被引用の関係をみながら、国単位の状況を集計したものが「科学研究のベンチマーキング2010」として公開されている。過去30年のデータを分析したところ、国際共著論文が確実に増えて20万件、日本の論文はその25%を占めるという。研究活動の世界ネットワークの構造が変化しつつある中で、国際共著率が一段と上がっている中国での特徴的な動きと共に、学術活動が世界を舞台に学際化している様が、これらの集計データによって実証された。独法化以来、大学や研究機関では、自機関の状態や強みを知るために、同様の定量分析が盛んに行われるようになり、講演にあった被引用数上位10%に入る論文数について機関間・分野内比較なども手軽にできる時代になった。政府の期待もあって、研究そのものから離れたところで評価・戦略・企画関係者は一喜一憂のただ中にある。欧米では分析手法も含めて独自の分析を行い、研究計画や評価に取り入れていると聞くが、日本では論文数と被引用数、引用の関係を集計して強みのあるところを強調するに留まっている。その意味で、一元的な集計分析から更に踏み込んで、当該分野専門家への聞き取り調査や多面的な考察を加え、視覚化したサイエンスマップの紹介は、研究を本業とする参加者にも新しい情報(見方)だったのではないだろうか。

なお初めての試みとして、日本における組織区分別の論文産出構造の分析結果が紹介された。分野によって国立・私立大学、研究独法、企業の出版論文数の順位が入れ替わる中で、工学分野での1980年代後半からの企業論文数減(-7%)が、研究独法や私立大学での論文増に入れ替わっている様は、研究活動というよりも日本の経済・政策の変遷そのものを表していると言えるだろう。

「日本の学術論文と学術雑誌の位置付けに関する計量的調査分析
-日本の論文の『海外流出率』の動向を中心として」

講師:国立情報学研究所 名誉教授 根岸正光氏

図1:ディスカッションの様子 (正面左から阪 彩香 文部科学省 科学技術政策研究所 主任研究官、根岸 正光 NII名誉教授、安達 淳 NII学術基盤推進部長・教授)

日本の学術論文の約80%が日本ではなく海外の論文誌で出版されている、という『海外流出率』についての発表論文「研究評価における文献の計量的評価の問題点と研究者の対応」(薬学図書館 Vol.49、2004、p.176)の後継にあたる調査である。

• 主要国際学術誌の発行国別の掲載論文数とその構成比
• 日本の研究者の論文の雑誌別掲載数とその発行国別構成比

を中心とする最新データが紹介された。昨今の研究をとりまく諸情勢とも合わせて学術活動の国際化の意義を論考する-という大変に深い講演内容であり、学会関係者・日本に足場をおく出版社・図書館・研究者いずれの聴衆にとっても有意義な機会であったと思う。

2000年時点、日本の論文(論文著者の所属機関が日本に住所を置く論文)の79.3%が海外誌(集計に採用したデータベースにおいて、論文誌の編集刊行国が日本ではない論文誌)に掲載されている状況は、世界における日本の論文率が12%である中で、その8割が海外流出率という“由々しき問題”であった。その後、日本の論文と雑誌の世界シェアを集計したところ、2001年に80.6%でピークとなり、今は再び79%になったということである。先の阪氏による論文共著分析にみえる学際化現象や構造変化、さらには日本の評価社会と考え合わせると、この数字は“海外進出”とみてよいのではないかと思う。研究者は世界を舞台に競争している。数字が同じようでも、数字の持つ意味が格段に変わっている。むしろ日本発論文誌の国際的な位置づけの方が深刻であるように思う。日本の研究者が世界を舞台に競争している(あるいは意識をする)中で、日本発論文誌の国際的位置とは私たちに何を示しているのであろうか?

世界論文における日本論文の占有率は、臨床医学などの分野以外では、全体として2000年をピークに下がって約8%、日本発論文誌の占有率も徐々に下がって約2.5%まできているという。しかし日本発論文誌のインパクト・ファクターは徐々に伸びており、平均的な引用度としてみると着実に向上しているという朗報もあった。定量的な現在位置が分かったところで改めて、どのような論文誌・学会誌が研究者相互のコミュニケーションにおいて求められているか、そして国際舞台での共同研究が進む分野ではどのような論文誌体制(査読システム)が望まれるかといった点で、日本発論文誌の再考、論文誌を必要とする研究者自身の発想による再生が必要な時に来ているのかもしれない。あるいは… 世界を舞台とした論文誌淘汰の波がそこに来ているのかもしれない。


*参考資料

第8回 SPARC Japanセミナー2010

「世界における”日本の論文/日本の学術誌”のインパクト」< http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/20110203.html>



星子 奈美(ほしこ なみ/九州大学情報システム部情報基盤課デジタルライブラリ担当)

図2:バーバラ・リヒター=ヌゴガング ドイツ文化センター図書館長による開会挨拶・趣旨説明

図3:ウルリッヒ・コーヴィッツ ドイツ医学中央図書館長による安達 淳 国立情報学研究所学術基盤推進部長への質疑

2011年3月8日、ドイツ技術情報図書館(TIB)・ドイツ医学中央図書館(ZB MED)・国立情報学研究所(NII)の3機関において、連携覚書(MoU)が締結された。関係者間での締結式終了後に開催されたのが、今回の講演会である*1

まず、MoU締結という記念すべき出来事の背景に、ドイツ文化センターの尽力があったことを述べておきたい。ドイツと日本が学術情報流通基盤の分野で連携するという構想は、ドイツ文化センター前図書館長であるクリステル・マーンケ氏の在任当時から温められてきた。それは、形式的な文書の取り交わしではなく、実質的な意味で成果を産み出す連携を目指すものであった。2009年11月に日本の大学図書館員や研究機関の職員がドイツを訪問するスタディツアーが実施された*2ことは、今回のMoU締結の嚆矢であったといえる。ツアーより1年以上の時を経て、マーンケ氏の志は新図書館長バーバラ・リヒター=ヌゴガング氏に継承され、ようやく形となったのである。調整を続けてこられた関係者の方々に敬意を表しつつ、スタディツアーの一員であった私は、ことさら感慨深い思いで講演会を拝聴した。

講演会では、ドイツと日本それぞれの取組状況が紹介された。ZB MEDのウルリッヒ・コーヴィッツ館長の講演では、ドイツの政治体制に起因する特徴、すなわち、各州の独立性が高いために、中央で集中管理するシステムがなく、資金も分散する傾向があるという点が述べられた。そのためドイツでは、学術情報基盤の整備においても関係機関が緊密な協力体制を保っているのだという。確かに、資料の分担収集や電子ジャーナルの共同管理などの取り組みは、個々の機関が全体の一部分として高い責任意識を持っていなければ、継続の難しい事業であろう。また、インテリジェントな情報検索技術・ナショナルライセンスでの電子資料購読・オープンアクセス・デジタル資料の長期的な保存・バーチャル研究環境などの新たな動きについても触れられた。これらのトピックは、日本でもまさに現在進行形の課題となっており、MoU締結を機に、今後ドイツとの間で一層の情報共有や意見交換が期待される。

TIBのウーヴェ・ローゼマン館長による講演の冒頭では、組織の概要が写真とともに紹介された。TIBが建物を構えるハノーバー大学の敷地内には歴史的な建造物が数多く、そうした環境下に科学技術分野の専門図書館があるという対比が面白い。さらに、学術研究を支える「データセンター」に関するお話も興味深かった。論文などの形となって発表された研究成果とは異なり、研究の過程で生じたデータ自体は、散在し、見つけづらい場所に埋もれがちであり、量的にも膨大なものとなる。そこで、多様な学術的データを検索・提供可能にするデータセンターの存在が重要になるという。ローゼマン氏の見解では、図書館とデータセンターの役割は別個のものとして捉えられていたが、日本国内の場合を考えると、図書館員が研究者と連携してデータ管理に寄与することも十分あり得るのではないかという感想を抱いた。

一方の日本側からは、NII学術基盤推進部長の安達淳教授より、日本における機関リポジトリの整備状況や、JAIRO、CiNii等のサービスに関する説明がなされ、また、東京大学附属図書館情報管理課の尾城孝一課長より、新たな大学図書館コンソーシアム連合、JUSTICEの運営方針が語られた。このように、ドイツと日本の現状を端的に理解できる、充実した内容の講演会であったが、MoU締結の記念イベントという意味では、両国間の連携についての具体的な構想を伺うことができれば、一層の期待感を参加者の間で共有できたのではないかと思う。

講演会の3日後、日本があのような地震に見舞われるとは、会場の誰もが予期し得なかったであろう。ドイツと日本が連携を進める上で、震災から受ける影響は少なからずあると思われるが、じっくりと長期的な視点で、MoU締結を契機とした取り組みが実を結ぶことを心より望んでいる。また、そうした取り組みの中で、私自身に何らかの貢献ができるのであれば、ドイツの図書館を訪問する貴重な機会をいただいた者の一人として、尽力することが責務であろうと考えている。

*参考資料
*1:TIB/ ZB MED/NII MoU締結記念 講演会
  「ドイツと日本における 学術情報流通基盤の未来」< http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/20110308.html >
*2:「ドイツの図書館を巡るスタディーツアー」< http://www.goethe.de/ins/jp/lp/wis/sbd/jaindex.htm >


守屋 文葉(もりや ふみよ/国立情報学研究所 学術基盤推進部 図書館連携・協力室)

JUSTICEの業務(概念図)   

平成23年4月1日に、「大学図書館コンソーシアム連合」(略称、JUSTICE: Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources、以下、JUSTICE)が誕生しました。
JUSTICEは、国公私立大学図書館協力委員会(以下、協力委員会)と国立情報学研究所(以下、NII)との間で平成22年10月13日に締結された『連携・協力の推進に関する協定書』の趣旨に基づき発足した、国立大学図書館協会コンソーシアム(以下、JANULコンソーシアム)と公私立大学図書館コンソーシアム(以下、PULC)とのアライアンスによる新たなコンソーシアムです。JUSTICEの発足に伴い、JANULコンソーシアムとPULCをあわせた500 近い参加機関がJUSTICEの参加機関となっており、世界でも有数の大規模コンソーシアムが日本に生まれることとなりました。

電子ジャーナルをはじめとした学術情報を安定的・継続的に確保・提供するにあたって、解決が容易でない種々の課題に対処するためには、既存のコンソーシアムによる取り組みをさらに発展させる必要があるとの共通認識が、大学、図書館、国レベルで醸成されたことが誕生の背景にあり、JUSTICEの活動の重点は、わが国の学術情報基盤の整備に貢献することをミッションとして、喫緊の課題である電子リソース共同購入のための出版社交渉を強化することに置かれています。しかしそれだけではなく、ナショナルコレクションの拡充、長期保存とアクセス保証、管理と提供、人材の育成といった種々の活動も並行して進めるべく計画しております。

なお、このような活動・計画を推進する上で、今回の連携にNIIが加わっていることの意味は非常に大きく、NIIと大学図書館の連携で従来から推進されていた機関リポジトリ構築・連携支援事業やSPARC Japan等の事業にJUSTICEが加わったことで、学術情報流通の問題を解決するための多面的な取り組みの基盤ができつつあるといえます。

JUSTICEの運営は、協力委員会とNIIによる連携・協力推進会議のもとにおかれた、運営委員会と事務局が実質的な活動の母体となって行われます。運営委員会は、図書館の管理者を主なメンバーとする運営委員会委員と実務担当者がメインの協力員で構成され、国公私立大学図書館から幅広く参加していただく形となっています。また、コンソーシアム内外の窓口となる事務局は、NIIの学術基盤推進部内に新設された図書館連携・協力室が担い、国立、私立大学から集まった3名の図書館職員が日々業務を行っています。

このように、JUSTICEは、国立公立私立の壁を越え、日本の大学がNIIと緊密に連携をはかり、一丸となって大きな問題に立ち向かうことを体現するような画期的な取り組みです。図書館の皆様、また日本の学協会の皆様におかれましては、JUSTICEへのご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。