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岡部 晋典(おかべ ゆきのり/筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科)

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ぼくはどこにでもいる一介の大学院生である。図書館情報学の周辺をうろうろ、面白そうなトピックを拾ってはまじまじ眺め、美味しそうだと思えば研究し、どうにも手に負えそうもなければ放り投げる…というのを繰り返してきている。

オープンアクセスについてはたいして詳しくはない。やたら元気な学友がオープンアクセスだの機関リポジトリだの大騒ぎしているので、なにやら面白そうなホットイシューがあるのだなあと思っていた程度である。もともとぼくは1980年代の情報学の研究をほじくりかえしてネチネチ研究している人間である。過ぎ去ったものをああだこうだと検討し、何があそこでは起こっていたのかという後ろ向きの事象を検討するのは得意であるが、現在進行形の事象にはコワくて手が出せない。それは自分が所属するのが社会学・思想史のゼミであることも影響しているだろうし、あるいは、ただ単に臆病なだけかもしれない。ともあれ情報収集は大事だよな、と、こんな軽い気持ちで参加したのがSPARC Japan セミナー第5回である。

しかし滅法な面白さに興奮しっぱなしであった。オープンアクセスだの大騒ぎしている前述の学友に、こんな面白い話題があるならもっと布教しろと謎の逆恨みを覚えた始末である。BioMedCentral のHubbardさんは何しろ門外漢のぼくにも分かりやすい形でビジネスモデルを語ってくれた。詳細はいくつかのブログで確認できるが、とくに面白いと思ったのがメディアの変化に伴うコンテンツの提供のかたちの変化を強調した点だ。音楽がレコード・CDからiPodに変化したことを引きつつ、紙媒体からウェブによる学術情報流通へ。メディアがコンテンツの内容を規定するといったおなじみマクルーハンの議論を連想させつつも、プラスアルファの面白さがそこにはあった。とくに感心したのは査読のカスケードだ。自グループ内にフラグシップの雑誌からリジェクト率の低い査読誌まで並べることにより、研究者にとっては一発の投稿でいずれかの雑誌に査読付きとして採録される可能性を期待させ、編集者にとっては査読コストを減少させるというアイデアだ。なるほどこれがコロンブスの卵かと思った。時間的コストを嫌う研究者と金銭的コストを厭う出版社の幸せな結婚がそこにあるようにみえた。自分の領域にもそんな雑誌は欲しい。

北海道大学の栃内先生の講演はたいそう面白かった。この興奮を共有するためにウェブにあがっている動画をぜひともご覧いただきたい。昔はエライ先生に別刷りを貰いにお願いしただの、昔いらした北大の世界的な蜂の研究者はほとんど紀要に書いていただの、科学哲学やSTSをやっている知り合い連中に是非とも首根っこふんづかまえてでも聞かせてやりたいものだった。なにしろ記述されない一世代前の常識というのは次の世代にとって調べるのが困難になるという経験則がある。第一線で活躍されつづけている栃内先生だからこそ語れることだろう。栃内先生が喋っている間ずっとなんだこりゃ面白い面白いとぼくの内なる科学少年がわいわい大騒ぎをしていたのだった。余談ながら別口の出張で北海道大学の図書館員の方々とお会いしたら「栃内ファン」を自認する方が何人もいらっしゃった。

今回のSPARC中はなぜか常にグーテンベルクの肖像が自分の脳裏にちらついていた。ぼくは現在進行形で読書史にはカブれており、読みとは何だろうか、知識が社会に拡散するとは何だろうか、と、あてもなく結論のつかぬ思索に耽ることもしばしばである。しかしまさか学術情報流通の先端のセミナーに出席しながらこんな大昔のことを思い返すとはと、一人でにやにや笑いっぱなしであった。隣に座っていた学友はさぞかし気持ちが悪かったに違いない。ともあれ読書史では、活版印刷は知を拡散させ、そして知が人々に伝達し結果、世界がハッピーになったのだという言われかたがよくされる。質疑応答では主にお金の面が重点的に議論されていたが、実のところその裏側で語られていない全自動で進行中の事象があるんだなあと思いついたら自分がチェシャ猫になるかと思った。なるほど確かにオープンアクセス運動はプラクティカルな問題、つまり電子ジャーナル価格の高騰に対抗してはじまった運動かもしれない。しかし結果として、それは低コストで知を拡散・伝播させることに他ならず、過去に起こった事象の拡大反復を行っているようにみえる。革命である。一心不乱の大革命である。ニュートンの言葉でおなじみの「巨人の肩」は、一説によると当時の背の低いニュートンの論争相手を当てこすったものであったらしいが、ともあれその巨人がじわっと動き出す瞬間を目撃させていただいたようなものである。激動の時代を愉快がることのできる立場の自分の幸福さをしみじみ噛みしめつつ、今の学術情報変革期はひょっとするとン百年に一度の面白い状況なのだからみんなも見ろ見ろ注目しろ、と自分は宣教師にでもなるべきではと自問自答中である。


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山崎 千恵(やまざき ちえ/京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館 学術情報掛)

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人文系の論文では書誌を特定するのが困難であることも少なくない。情報探索の講義や講習会で「信頼できる先行研究者」を探すために参考図書(事典)を頼りにし、次にCiNii を使う方法をとると、参考図書で調べていたときには意気揚々としていた人文系の学生が、CiNiiの検索で苦戦し出し、逆に理系の学生が次々と論文を探しだす姿を思い出す。私の担当するILL(Inter Library Loan文献複写・相互貸借)業務でも、毎回まず論文の書誌特定兼オンライン版探しをする。論文情報がWeb上にみつからないと不安にさえなってくる現在、CiNiiの存在は心強い。メタデータでさえ、みつかれば資料、そして先行研究者に辿り着ける道がひらける。CiNiiのマネジメントを担う大向一輝准教授曰く、「見えない=存在しない」に慣れた社会で、ミッションの一つは「見てもらうこと」だという。論文のメタデータの公開、Googleから可能になった検索、リニューアル等の成果は著しく、ここ数年のCiNii利用件数の推移が「いい環境におくと論文は使われる」ことを裏付けてもいる。そして次は科研費データベースで使用するIDとの照合やユーザ参加型化で著者検索を強化し、論文が人と人を繋ぐことを目指すというCiNiiの今後の躍進にも注目したい。


人文系の学術誌のオンライン化が進まない理由には以下の3点が考えられるだろう。

1.購読数及び発行元収入の減少

2.厄介な著作権処理

3.図書出版の予定(先に電子版で読める=利益損失)

1点目は理系文系問わずオンライン化の課題だが、上智大学発行の“Monumenta Nipponica” のオンライン化は明るい例の一つだ。55機関の購読数減少があったものの、契約先データベースであるProject MUSEは収入の70%を出版社に収益として分配するため、上智大学の受け取る額は現在では年23,000ドル。確かな収入源となっている。図書館員としては学術誌を機関リポジトリへと誘いたい思いが先立つが、電子ジャーナルの高騰化に考慮しつつも、こうした収益のあるオンライン化を選択肢に入れた上で、教員に学術誌のオンライン化の提案ができればとも痛感した。

日本の学術誌のオンライン化に対する課題として、受信の体制に目を向けるべきというKate Wildman Nakai教授の提言も興味深い。受信機関が少ないことは発信の妨げにもなる。しかし購読料は安くはない。値下げ交渉のために契約体制の強化を図る大学・研究機関の連携は必須であり、SPARCにはその綱渡しの期待も寄せられた。


山本真鳥教授からは機関リポジトリのような学術情報のコモンズ的思想を推進する立場にありつつ課金モデルとぶつかる点で苦慮したという著作権を中心とする報告があった。日本の人文系学術誌では一般的に著作権は著者にある。特に人文系では投稿した論文を本にする場合があるが、その際著者に著作権がないことには出版の手続きが厄介だ。しかし著者のもつ著作権は学術誌全般のオンライン化には障害ともなりえる。

日本文化人類学会では総会の決議により「文化人類学」の著作権は著者に属するものの、学会が電子媒体での公開を行う権利を有することになった。著者の所在が不明である論文の再録や翻訳の希望に対しても学会で管理できるという利点も得た。現在では過去のすべての巻号をオンライン公開し、最新一年間分はNIIを通した課金モデルを採用している。

過去の論文に対しても総会の決議一つでオンライン化を推し進めた例については質疑応答も飛び交った。私もオンラインで広く頒布する公衆送信権の侵害、論文上でテキストとは異なるオリジナル性を持つ図や写真などの著作権処理への危惧が浮かびつい慎重になる。しかし先生方からは「著作権に躊躇して公開しないことは残念」、「思い切って公開することは評価に値する」といった前向きな意見が次々と挙がった。また手間をかけて処理を加え、部分的公開を目指すといった実例(国立民族学博物館)も聞くことができた。セミナー後に京大の機関リポジトリ担当者にも意見を聞いてみた。同じく許諾処理を丁寧に行った結果、一部の図版は公開できず削除した例も数々あるという。グレーゾーンであることは否めないが、いずれにせよ学術情報流通を促進し、ひとつでも多くの公開に繋がる提案と努力を惜しまない姿勢が必要だ。


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菊井 寿子(きくい ひさこ/社団法人 日本生物工学会)

space 発表者及び座長による集合写真  

2007年にSPARC Japan選定誌の化学系ジャーナル5誌と日本化学会の2誌で始まった化学系ジャーナル合同プロモーション活動では、これまで海外の国際学会へのブース出展を通じて、日本発の学術情報を欧米及び中国で紹介してきました(SPARC Japan NewsLetter No.1、「化学系を中心としたジャーナル合同プロモーション」参照)。活動3年目を迎え、化学系ジャーナル9誌(SPARC選定誌6誌、日本化学会の2誌、FCCAの1誌)の参加を得た今回、新たな試みとして日本国内で開催される国際会議に着目し、Asia Pacific Biochemical Engineering Conference(APBioChEC’09/第9回アジア太平洋生物化学工学会議、2009年11月24日〜28日神戸国際会議場)に出展しました。

APBioChECは、生物化学工学分野における研究者間の情報交換及び連携を通じて、環太平洋地域での教育、研究開発、経済活動を活性化させることを目的に、2年毎に関係各国で開催される国際会議です。今回は「持続可能な発展のためのバイオテクノロジー(Biotechnology for Sustainable Development)をテーマに、日本、中国、韓国、台湾、タイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなど18ヶ国から545名の参加者(うち海外266名)があり、基調講演8件、口頭発表141件、ポスター発表375件、セミナー5件が行われました。次回は2011年に上海での開催が予定されています。


APBioChEC’09組織委員会には、国内のバイオテクノロジー分野の関連学会・協会が参加しており、合同PR参加誌の発行学会からは、化学工学会バイオ部会、日本生物工学会、日本農芸化学会、日本化学会バイオテクノロジー部会が名を連ねていました。そのため会場には日頃の学会活動で交流のある先生方の姿が多く見られ、PRの主旨を説明すると、展示ブースに知り合いの海外研究者を連れてきて下さる、あるいはジャーナルの表紙をプリントしたエコバックを会場内で目立つように持ち歩いて下さる等、宣伝活動にご協力頂くことが出来ました。このエコバックは希望した学会が共同出資して作成したもので、パンフレットやチラシ、見本を入れて配布しました。主催者の許可を得て、ポスター発表会場での配布も行ったところ、海外から参加している多くの学生達が、積極的に見本誌を手に取り、興味のある分野のジャーナルが入ったバックを喜んで受け取ってくれました。中国での展示では、見本誌が飛ぶようになくなるそうです。特にアジア圏の学生達は日本のジャーナルに接する機会が少ないようで、国内での国際会議を彼らへの出版情報提供の場として活用することは、日本をアジアにおける学術情報発信の中心地とする一助になると思われます。


展示ジャーナルへの投稿経験がある方、これから投稿を考えているという海外からの参加者の方々とも、言葉を交わす機会がありました。出版担当業務においては、メールや電子投稿システムを通じてのやりとりが主で、論文データを審査・出版の流れにシステマティックに載せることに関心が向きがちですが、論文の向こうには常に審査結果を心待ちにしている生身の著者がいることを実感出来ました。足を止めて説明を聞いてくれた韓国人の学生グループが、未来の著者になってくれることを期待しています。


実際に展示会場に立つことで見えた課題も色々とありました。一口に化学系ジャーナルといっても、必ずしも全てのジャーナルが参加者の関心に当てはまる訳ではなく、なかなか手にとって貰えない見本誌もありました。ただある程度の数のジャーナルが集まらないと、展示ブースの存在自体が目立たなくなってしまうため、その時々の会議のテーマにより近いジャーナルを前面に展示する等、メリハリを付けた宣伝活動を考えてもいいかもしれません。また他学会のジャーナルについては、年間投稿数や却下率などの質問を受けても詳細な説明が出来ないため、宣伝担当者用の説明資料を作成しておくことが望ましいと思われました。


「日本のジャーナルがこんなにあるとは知らなかった」との日本人研究者の言葉には、海外研究者だけでなく、国内の研究者に対しても宣伝活動の余地が大いにあることを感じました。また若手研究者の方からは、「日本のジャーナルは、大半の審査員が日本人なので、採点が甘いのではないかという不安がある。自信がある内容の場合、厳しい評価を求めて敢えて欧米のハイレベルなジャーナルに投稿することがある」とのご意見を頂きました。海外研究者にアピールする際は、投稿先としての魅力を訴えるだけでなく、世界中から質の高い審査員を招くためのPRという観点も意識する必要があるでしょう。そして日本人研究者には、これからの発展地域がアジアであり、そこに日本がトップジャーナルを保持することが、日本の将来に重要な意味を持つことへの理解と誇りを持って頂くことが重要です。


国内で開催される国際会議での宣伝活動は、海外及び国内の研究者に一度にプロモーションが出来ることや、開催地が近いため、複数誌の担当者が日替わりで展示会場に詰めることが出来るメリットがあります。海外PR と平行する形で、今後も国内での国際会議に出展するチャンスがあることを願っています。




謝辞

今回の合同PR は、国立情報学研究所及びSPARCJapan事務局、各学会担当者の皆様にご支援並びにご尽力頂きました。会場設営とエコバック作成には、スタンドポイントコンサルティング社にご協力頂きました。またプロモーションの場をご提供下さり、会場内での便宜を図って下さったAPBioChEC’09大会運営本部の先生方にも、この場を借りて厚く御礼申し上げます。