SPARC Japan NewsLetter No.14 コンテンツ特集記事トピックス活動報告
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第1回 SPARC Japaセミナー2012 「学術評価を考える」に参加して

村上 英夫(むらかみ ひでお)
岡山大学研究推進産学官連携機構 研究推進コーディネータ

● きっかけ

講演(Michiel Kolman:エルゼビア) 講演(Michiel Kolman:エルゼビア)


講演(広瀬 容子:トムソン・ロイター) 講演(広瀬 容子:トムソン・ロイター)


講演(孫 媛:国立情報学研究所) 講演(孫 媛:国立情報学研究所)

私自身は、5年ほど前に初めて大学で職を得て、岡山大学研究推進産学官連携機構に所属することになりました。それまでも仕事の関係では、大学の先生方とのお付き合いはあったのですが、大学の実態とか内実等を全く知らなかったもので、そういった意味で、いろんなことが新鮮な目で見られるということがあるかもしれません。

今の職場で、新しく仕事を始めるにあたって、大学内の研究がどうなっているのか、よく分からず、いわゆる研究マップ的なものが作成できないかということで、評価に関するいろいろなセミナーに参加させていただいたのが、書誌・引用データベースに触れるきっかけとなりました。

全くの素人でしたので、今回もご講演いただいたエルゼビア社、トムソン・ロイター社等が主催されるセミナーに参加をし、どのようなかたちで自身がデータベースを活用できるかということから勉強を始めました。それぞれの社で実施されるセミナーは、当然ながら自社の宣伝をも兼ねて行われるものですから、データベース自体が持つ問題点は、表には出て参りません。良い点だけが目について、何回かセミナーを受講した後、何とかデータベースが使いこなせるのではないかということになり、作業に入りました。

今、考えてみますと余りにも簡単に、また単純に考えていたことが笑えます。

● 書誌・引用データベースの限界とその理解

最初に、書誌・引用データベースに詳しいであろう図書館の担当者に相談を持ちかけたところからスタートしました。そこで、同じく研究評価の作業に入ろうとしていた教員の方と巡り会うことができ、図書館の方のご協力をいただきつつ、データベースの分析作業に入ったわけですが、分析結果を眺めてみて、どうも自分が予想していた結果と違うと思い、そこで、データを個々に、詳しく確認してみて、初めて書誌・引用データベースがどのようなものであるかを知った次第です。きちんとした分析には、実は膨大な作業が発生し、なお、その結果ですら使い方を誤ると、間違った結論が導きだされると言うことが漸く分かることができました。

鋏や包丁と同じで、書誌・引用データベースも使い方次第ではないかと思います。限界と問題点を十分に把握しつつ活用することが必要なのではないでしょうか。

本来、科学技術というものは、人類の生存に役立つ、あるいは人の知的興味を満足させて初めて役立ったと言えるのであり、単純にインパクトファクターが高い雑誌に論文が掲載されたとか、引用数が多いということだけで優れた研究ではないことは、誰もが分かっているでしょう。つまり実際に人に役立ってこそ優れた研究業績なのです。そういった意味で書誌・引用データベースを使うことは、評価をする上での一つの指標でしかないことを、自分自身では常に心の中に置いておく必要があると思っています。

● 評価を行う側からの書誌・引用データベースへの期待

現時点での書誌・引用データベースは、日本語の論文が対象となっていないことや、日本にとって不利な状況にあるといった問題点を包含しておりますが、すべての論文誌をデータベースの対象としたり、完全に統計的処理が可能となるように書誌事項を精緻に付与することは、膨大な費用と時間を要することから現実的ではないと思います。それでも、Researcher ID などの研究者の特定の問題とか機関移動の問題などは、出来れば対応していただくことが必要ではないかと思います。これは研究者側の問題かもしれませんが、何とかしていただければと思います。

● SPARC Japanセミナーへ参加したことの意義

今回のセミナーを受講して一番良かったのは、最後の意見交換を聞かせてもらったことです。これまで、書誌・引用データベースを使って学内研究の分析をしてみて、いろいろな問題にぶつかってきたのですが、やはり、データベースに対して、多様な見方があるということが分かったことだけでも、大変、参考になりました。

研究の評価において、絶対的基準があり得ない現状の中で、書誌・引用データベースは大きな役割を果たしていることは事実ですし、これからも上手く活用して行く必要があるのではないでしょうか。

評価が重視される中、これからますます重要な役割を果すであろう書誌・引用データベースについては、使い方、改善の方向性等、第三者の一層の議論・研究が必要だと思いますし、そのためにも、公開の場での議論があるべきだと思います。NII のような機関において、今回のようなセミナーだけではなく、もっと多くの意見を集約できる公開討論会といったかたちで、情報提供をしていただければと思います。

素人的感想でございますが、今回のセミナーに参加をして、書誌・引用データベースがより身近に、簡単に、より正確なかたちで使えるようになる時が来ることを願っています。