SPARC Japan NewsLetter No.11 コンテンツ特集記事トピックス活動報告
line
menumenu  
Open Access Week「第1回SPARC Japanセミナー2011」に参加して テーマ:OA出版の現況と戦略(ジャーナル出版側から)

 

 


編集者から
日岡 康恵(ひおか やすえ)
社団法人 日本農芸化学会

 

今回の3名の講演とパネルディスカッションについて学会事務局の編集担当としての感想を述べる。因みに本会の英文誌 “Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry” は2010年の数字では投稿数967編、掲載数527編、印刷頁数2,626頁、冊子発行数1,700部、1998年掲載分から J-STAGE において全論文無料公開を行っている。また、それ以前の論文もアーカイヴとして搭載している。

「今回の講演をお聞きして、考えたこと」

● 論文単位の掲載料

今回、紹介された様々なジャーナルは掲載料がいずれも1,000ドル以上、1論文単位で設定されていた。課金されている論文の閲覧料も1論文単位であることを考慮すれば不思議ではない。冊子体として発行するジャーナルも掲載料を設定しているが、多くは1頁あたりの掲載料を基本として論文の頁数に比例させている。この料金には冊子や別刷を印刷するための用紙代、インク代、印刷のための諸経費、人件費が含まれている。冊子体では1頁の論文と10頁の論文の掲載料が同じというのは考えられない。

原稿が投稿されそのまま掲載されるわけではなく、審査、(英文校閲)、ファイルチェック等のプロセスがあり、その作業量の集約が掲載料金に反映されるのではないだろうか。将来的には搭載されるファイルの容量により金額設定がされてもいいと思える。

● 審査料の問題

斎藤先生のご講演の中で「Reviewer 審査料を支払うべき」というご意見があった。個人的には賛成であるが全 Reviewer に対しての実施は難しい。例えば日本から海外の Reviewer に支払う場合、為替、銀行振り込み、いずれ場合にも手数料が高く手続きも煩雑である。可能なら今やコンビニでも使われているポイントカードのようなもの導入し、Reviewer が投稿した場合には積算されたポイントで掲載料を支払うことができたらどんなにいいだろう。

「OA を将来、可能にするために学会として今後必要だと考えること」

● オープンチョイス

OA 化が研究者にもたらした利点は研究内容を知るために図書館でジャーナルを Copy、別刷請求の葉書を利用して著者に連絡するといった手間がなくなり、自らの PC に PDF 等で保存可能となったことである。著者側も論文を掲載する側も、嘗て何百部と作成していた別刷作成費および配送料が不要となった。また閲覧者側はジャーナルの検索が容易になった。

その反面、それまで雑誌購読や別刷で収入を支えてきた出版社や学会は収入が激減し、新たに Pay per View の料金の設定をして自らの収入減を防いだ。

また、投稿者は自分の論文が掲載されたジャーナルの IF は気にするのに自分の論文の Citation 数を気にする著者は極めて少ない。自分の論文が掲載された、あるいは Accept をされた段階で満足してしまう著者もいる。多くの人に論文を見、あるいは引用してもらうにはどうすればよいかを投稿者には考えてもらいたい。

課金してもオープンチョイス(OC)システムのように、論文を多くの人が無料で閲覧できるような選択もある。10年ちょっと前まで投稿者が自身の論文の別刷を大量に購入配布していたが、それが形を変えたように思える。日本で掲載論文を全て公開しているジャーナルは、著者に代わって OC の料金を負担しているといえる。今後OCの料金が掲載料に転嫁される可能性は大きい。

 

J-STAGE に論文を搭載しているジャーナルは、アクセス数やアクセスしてきた国情報が報告される。本稿執筆中、今までアクセスが全くなかった国のダウンロード数が突如として1位になっていた。過去にも同様なことがあったのだが組織的に行われた可能性は否めない。学会はアクセスしてきた国名ばかりではなく、組織名まで把握する必要がある。

 

 

 


研究者から
栗山 正光(くりやま まさみつ)
常磐大学 人間科学部 准教授

 

去る10月28日(金)、東京で開催された SPARC Japan セミナー「OA 出版の現況と戦略(ジャーナル出版の側から)」に参加した。これについて研究者の立場からコメントするというのが筆者に与えられた課題だが、実は筆者は研究者といっても図書館員上がりで、オープンアクセス(OA)を含めた学術情報の流通や保存を研究領域としている。従って、本職として別に専門分野を持つ通常の研究者とはいささか視点が異なるということを、予めご承知おきいただきたい。

最初の日本物理学会の瀧川先生の講演では、高エネルギー物理学(HEP)という OA 実現に最も近い分野の最新動向が紹介された。中でも特に注目されたのは SCOAP3 で、世界各国から資金を拠出してこの分野の主な商業誌を一挙に OA 化しようという壮大な試みである。SCOAP3 はこれまでにも日本に紹介されたことはあったが、今回の解説は入札イメージ図などもあってわかりやすく、理解が深まった。

ここで感じたことは、瀧川先生ご自身の言葉にもあったように「リスクの大きな実験」だということである。入札という方式はうまく機能するのか。HEP の雑誌だけ OA 化して出版社の価格戦略はどうなるのか。そして何より、今後ずっと予算を確保し続けることができるのかどうか。講演中で、ほとんどの HEP 研究者が arXiv を通じて論文を読み、学術誌はピアレビューによる正当性付与のためにのみ存在するという説明があった。それだけのために膨大な金額を支払い続けることが、昨今の経済情勢下で果たして許されるものだろうか。もちろん、これは現在の講読モデルでも同じことが言える。ピアレビューによる正当性付与の必要性は動かないとしても、費用対効果が問われるのはまぬかれないだろう。

やや話がそれたが、筆者としては SCOAP3 の成功を期待している。これがうまくいけば、次は物理学全般さらには他の分野へと同様の方式で OA が広がっていく可能性があるからである。

次に紹介された日本物理学会の新しい OA 誌「Prog­ress of Theoretical and Experimental Physics(PTEP)」にも大いに期待したい。この雑誌の前身となる「Progress of Theoretical Physics(PTP)」は新聞記事にも何度か登場している有名な雑誌で、これが OA 化されることの意義は日本にとって非常に大きい。

瀧川先生は最後に、科研費(研究成果公開促進費)による OA 誌の支援に言及された。科研費は OA を支える財源として誰しもまず思い浮かべるものだろう。より一層の充実が望まれると同時に、科研費による研究成果は OA を義務付けるべきだと思う。

ピアレビューのコストという点で考えさせられたのが二人目の斎藤先生(国立遺伝学研究所)の講演である。研究者自身で OA 誌を立ち上げれば、高額の掲載料を取る必要はなくなるどころか、査読者への謝金も支払うことができるという。もしこれが本当なら、研究者は存在しない衣装に多額の金を費やしてきた裸の王様ということになってしまうのだが…。

ディスカッションの様子(正面左から 安達 淳:NII学術基盤推進部長 教授、瀧川 仁:東京大学物性研究所 新物質科学研究部門 教授、斎藤 成也:国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門 教授、友常 勉:東京外国語大学 国際日本研究センター 専任講師

たぶん研究者が学術雑誌の面倒をすべて見るというのは、たとえオンライン・オンリーの OA 誌でも無理があって、何らかの専門知識を有したスタッフの補助は必要なのだろうと思う。ただ、学会、出版社、書店、大学の図書館および研究協力部といった広範な組織が大人数で学術情報流通を支えるといった体制は無駄が多いとみなされ、リストラを要求される可能性は十分ある。関係者の準備が必要な所以である。

最後に、東京外国語大学の友常先生からは、OA と直接の関係はないが、日本研究資料の電子化の立ち遅れが海外の日本研究者に大きな影響を与えているという非常に重要な指摘があった。OA も電子ジャーナルやインターネットの存在が前提であり、電子化の遅れは OA の遅れに直結する。もはや学術情報の流通が紙の世界に戻ることはあり得ない。あらゆる専門分野での効率的、効果的な電子化事業の推進が望まれる。

 

 

 


図書館から
谷 奈穂(たに なほ)
千葉大学 情報部学術情報課学術情報グループ

 

先日(平成23年10月28日)、第1回 SPARC Japan セミナーに参加した。登壇された3人の先生方の講演は、図書館で働き始めて一年にも満たない私にとって未知の言葉の応酬で、正直なところ話についていくのに精いっぱいだった。しかし同時に、オープンアクセス(以下、OA)が世界的に重要な運動であり、それを担う人々の具体的な動きを知り、その情熱を垣間見ることができて、「OA ってどうやら、とんでもなく壮大で、面白そうなプロジェクトらしい」という思いを抱くこととなった。

以下には、今回の講演をお聞きして考えたことと、それを受けて OA を将来可能にするために、図書館として今後必要だと思われることについて自分の考えを述べる。

今回お話を聞いた先生方は、アプローチの仕方はそれぞれだが、OA に対する情熱は3人とも共通していた。中でも、斎藤先生の「大きな学会に所属せず、研究者自身がつくる小さなコミュニティーからジャーナルを発信することが OA につながる」という考え方が印象深かった。斎藤先生は、OA こそが自由な研究の第一歩であるという信念のもと、昨年から OA 誌の立ち上げを目指して活動を行っている。進化学研究会が以前発行していたジャーナルを「Shinka」という名前で OA として再生することが目標で、具体的な方法としては、ジャーナル立ち上げ後当面は投稿料を無料とし、スタッフはボランティアでの活動を行うという。現在の人数はご自身を含めて編集委員7名だそうだ。このように、研究者自らが安価に掲載できる OA 誌創刊の動きが拡大すれば、資金や派閥に左右されることが少なくなり、今までよりも多くの研究者に広く投稿のチャンスが与えられ、特色あるジャーナル登場の可能性が生まれる。そうした変化は、「何か面白いことが起こりそう」という「わくわく」した予感に満ち溢れている。そういった点では、瀧川先生がお話しくださった SCOAP3 は、高エネルギー物理学(HEP)分野の全体を OA 化するという「壮大な実験」であり、友常先生が紹介された e- Japonology の取り組みは、今まで遅れていた日本学資源の電子化を、海外の日本学研究者向けコンテンツを作成して情報基盤を構築することで推進し、国内外の日本語学習者を結びつけようとする重要な試みであるということで、どちらも OA の動きに大きな変革をもたらすと考えられる、非常に「わくわく」させる取り組みだ。もちろん、運営資金や継続方法等多くの課題も想定されるが、OA を目指すプロジェクトが、そしてそれらを動かす多くの人々が存在し、何らかの変化を起こそうしていることが、何よりも重要ではないかと思う。そして自分もそこに、図書館から何らかの形で参加できないかと考えてみたい。

私は現在、図書館と呼ばれる職場で働いているが、この「図書館」という言葉に縛られて、自分の仕事の幅を狭めてはならないと思う。図書館も新しい発想で、何か「わくわく」する予感を孕んだ挑戦をしていくべきだ。OA の実現一つをとっても、地道にリポジトリに論文を登録していくことも必要だが、それと並行して、例えば学生に対して、図書館がサポートする形でサークル活動の一環として、OA に取り組ませるのはどうだろうか。最終目標はもちろん OA 誌の創刊である。普及していけばいずれ、全国大学生による OA ジャーナルコンテストなんていう企画も開催されるかもしれない。また、大学間(大学に限らずともよいが)の連携として、例えば OA ウィーク(以下、OAW)には、OA に賛同する全ての大学の門に OA のテーマカラーであるオレンジ色の旗を掲げたり、オレンジ色を身に着けている人には図書館で飲み物等をサービスするといった企画もありうる。また、かなり無謀な発想だが、OAW 中は世界中すべてのジャーナルが OA になるという実験も面白そうだ。以上に挙げたことを実際にやろうとすると膨大なエネルギーが必要であるし、「わくわく」なんて楽観的な考え方だと一蹴されてしまうかもしれない。しかし私は、「わくわく」すること・させることが、人を動かし変革をもたらす源であると思う。従って、「わくわく」の予感をもたらす姿勢を忘れず、OA に前向きに取り組んでいくことが、今後図書館として求められるのではないかと考える。


 

NIIによる新しいサービス JAIRO Cloud -NII共用リポジトリ(仮称)の愛称の決定
サービス概念図

 

国立情報学研究所では、大学等の教育研究成果を発信する機関リポジトリの構築を推進し、オープンアクセスの進展を図るため、平成24年度より、機関リポジトリのシステム環境を提供するサービス(JAIRO Cloud)を開始する予定です。

JAIRO Cloud は新たに機関リポジトリを構築予定の機関(大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関等)を主な対象としており、当面は無料でご利用いただけます。

詳細に関しましては、下記までご連絡ください。

JAIRO Cloud(ジャイロ クラウド)

サイト:http://www.nii.ac.jp/irp/repo/

国立情報学研究所 学術基盤推進部 学術コンテンツ課

機関リポジトリ担当

電話:03-4212-2350 電子メール:co_ir@nii.ac.jp


 

title
space
日程
開催場所
内容
講師(敬称略)
2012年
1月31日(火) 岡山大学 第3回 SPARC Japan セミナー2011
「学術情報流通の新たな展開
ー研究者・学会とオープンアクセスー」
森 いづみ(NII)
「NII による新しいサービスについて」
永井 裕子(日本動物学会)
「IR における Zoological Science 論文の動向」
轟 眞市(物質・材料研究機構)
「研究者のアウトリーチ活動としてのセルフアーカイビング」
2月10日(金) 富山大学 第4回 SPARC Japan セミナー2011
「学術情報流通の未来を切り開く
ー電子ジャーナルの危機と
      オープンアクセスー」
森 いづみ(NII)
「NII による新しいサービスについて」
谷藤 幹子(物質・材料研究機構)
「ビッグディールからの脱却の試み-窮途末路の図書館の明日は」
轟 眞市(物質・材料研究機構)
「研究者のアウトリーチ活動としてのセルフアーカイビング」
2月29日(水) 国立情報学
研究所
第5回 SPARC Japan セミナー2011
「OA メガジャーナルの興隆」
Peter Binfield(PUBLIC LIBRARY of SCIENCE)
西薗 由依(DRF,鹿児島大学附属図書館)
佐藤 翔(筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科)
Antoine E. Bocquet(NPG Nature Asia-Pacific)
山下 幸侍(シュプリンガー・ジャパン)
大澤 類里佐(DRF,筑波大学附属図書館)
安達 淳(NII)
土屋 俊(大学評価・学位授与機構)

 

※ SPARC Japanのサイトで最新のイベント情報を確認できます。(http://www.nii.ac.jp/sparc/event/