「学術情報センター紀要」第7号

1995年3月

              論文要旨


全文情報(Gopher)

1. SGML文書による全文データベースのための文法的処理を用いた論理構造の変換手法
酒井 乃里子 (東京大学工学部), 高須 淳宏 (学術情報センター),
安達 淳 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
SGMLによって記述された科学技術論文は、多様な論理構造を持つことが想定される。このような文書を対象とする全文データベースを実現するためには、この多様性を吸収して、多量の文書を処理するための画一的な処理手法を確立し、ユーザにシステム固有のビューを提供する必要がある。このような問題を踏まえて、本論文では、文書をオリジナルな形式のままデータとして保持しつつ、ユーザの要求に応じてデータベース側で設計した構造に変換する、文法的な処理を用いる手法を提案する。本手法では、データベース側で設定した構造と著者が各自の文書の要素の対応づけを定めた上で、構文解析・字句解析をもとにした処理を行う。この手法を説明するとともに、実用化の第一段階として実際にSGML文書を項目型の二次情報に変換する実験を行ったので紹介する。

2. インターネットに適応した全文データベース検索システムの構成
大山 敬三 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
本論文では現在のインターネット上での情報サービス環境を最大限に利用しつつ、高度で使用しやすい全文データベース検索サービスを提供できるシステムの構成方法を述べている。WWWのクライアントであるMosaicとサーバであるHTTPDを用い、既存の高度な検索エンジンとの間を独自のゲートウェイにより結合する。階層構造を持つ文書データを対象に柔軟で効率的な検索を可能とするインタフェースを実現している。

3. 文献の機能構造を用いた全文データベース検索の試み
神門 典子 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
あらかじめ各文に構成要素カテゴリが付与されている、日本語で書かれた50件の論文からなる実験的な全文データベースを検索した結果を報告する。構成要素カテゴリとは、論文の機能構造を分析する枠組みとして提案されたもので、各カテゴリは、論文中の文が果たしている機能や役割を表わす。構成要素カテゴリを使った検索では、文献中の語の共出現に基づく従来の検索方式に比べ、検索精度が向上する効果が見られた。また、構成要素カテゴリを用いて、文献内の文脈を保持したまま、文献中の部分を対象とした検索や表示を行なうための方式を例示した。

4. 「研究要覧」の電子出版 : 大学図書館による電子出版への取組み
畠山 珠美 (国際基督教大学), 橋爪 宏達 (学術情報センター),
長野 由紀 (国際基督教大学), 内藤 衛亮 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
大学図書館において,電子情報時代に対応した新しい機能が求められている。この新しい機能の一つとして電子出版を取り上げ,実際に,国際基督教大学において,教職員の研究業績を収録した「研究要覧」の出版を試みた。本稿では出版までの一連の作業行程を通して,大学図書館による電子出版における課題について考察するとともに,その可能性を検討した。

5. データベースサーバ上での目録データベースの論理設計
高須 淳宏 (学術情報センター),
牧野 隆志 (日立ソフトウエアエンジリニアリング),
山田 清志 (日立製作所), 橋爪 宏達 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
本論文は、現在学術情報センターですすめている総合目録データベースシステムのデータベースサーバへの移行に関連し、総合目録データベースの論理的な設計について述べる。総合目録システムは、総レコード数が1千万件を越える大規模データベースシステムであり、データベースサーバ上で実現する場合、処理性能が最も大きな問題となる。本稿では、目録データベースのための1つのテーブル設計および索引設計を示し、実験的に作成したシステムにおけるトランザクション処理性能を示す。

6. 常用者のための日本文入力法の基礎的研究について
山田 尚勇 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
ワープロが普及し,常時活用する者が増えるとともに,かな漢字変換などのわずらわしさを嫌って,「直接」入力法に関する関心が高まっている。本稿ではかつて筆者たちが行なった2ストローク入力法についての,約10年まえの紹介の事後経過をまず報告し,次いで当時から問題であった,技能習熟訓練を普及させる努力の現状と,特に小中学生からの習熟に欠かせない,人間工学的に配慮された小型キーボードの開発の必要性について述べる。最後に,変換入力法における文字使いをもつと知能的に改善する方略と,ローマ字入力におけるつづり方の統一について考察する。なお付録として,アメリカ合衆国ミネソタ州における,キーボードの使い過ぎによって起こったとする手の異常に対して起こされた損害賠償請求裁判の経過の速報と評価をつけてある。

7. シミュレーションによる最適化 : 評価量に雑音が含まれる場合の解空間の効率的な探索法
相澤 彰子 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
本稿では、シミュレーションによる最適化を効率的に行うための動的なサンプル配分法を検討する。まず解探索における解の生成と評価の2つのプロセスについて統計モデルを仮定し、これに基づき動的にサンプル配分を行うための決定式を導出する。正規乱数による予備実験の後、提案するサンプル配分法を汎用のネットワーク・シミュレータと組み合わせて大規模システムのパラメタ最適化への適用可能性を示す。

8. 高速通信網の交換ノードにおけるサービス規律
計 宇生 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
高速なコネクション型のパケット交換網では、異なる送信元の通信が多重化される交換ノードにおけるパケット転送優先度の制御は、トラヒックのバースト性による品質の低下を防ぐ上で必要となる。本論文では、まずサービス規律の目的および基本概念について述べた上で、高速通信網のために提案されたいくつかのサービス規律について紹介し、それらを仕事保存であるものとそうでないものに分けて比較検討を行う。さらにシミュレーションの結果によって、それぞれのサービス規律を用いた場合のトラヒックの遅延特性の相違を示す。

9. モデル駆動型画像理解における幾何情報の利用
佐藤 真一 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
モデル駆動型画像理解は、画像理解手法の中でも、特に複雑な対象物の認識も可能である強力な手法として期待されている。この手法は、対象物の幾何的な構造をモデルとして表現し、これを認識対象の画像と照合することにより画像理解を行うというものである。その実現には幾何情報を積極的に扱う必要があり、幾何推論が重要な役割を演ずることになる。本稿では、モデル駆動型画像理解における幾何情報の扱いについて特に幾何推論を中心に近年の研究をまとめ、その位置付けについて考察する。

10. 図形間の幾何的および概念的関係を用いた作図支援システム
金原 史和 (東京大学大学院工学系研究科), 佐藤 真一 (学術情報センター),
濱田 喬 (学術情報センター) [本文: 英語]

要旨
人間と計算機とのコミュニケーションを円滑にするためのグラフィカルなユーザインタフェースに関する研究は様々な分野で行なわれているが、今後は、人間から計算機に対する視覚的なコミュニケーションに対する支援がさらに望まれる。そこで本研究では、作図支援を例に取り上げ、この点を意識した作図支援プロトタイプシステムDOGSを試作した。DOGSでは、主に概念的な図を対象として、図形間の関係に着目した作図機能を提供する。DOGSでは作図者からの、図形間の位置関係などの幾何レベルの関係、ならびに、それらを基にした概念レベルの関係の、多様でかつ明示的な指示を可能にしており、作図者の意図を明確にシステムに伝えることを実現している。この概念レベルの関係は作図者によって定義されるものであり、作図者の指示の多様性を目指すとともに、概念を図式化するという作図プロセスを考慮したものである。DOGSでは、作図者の意図を反映するための機能として、指示された関係の保存機能を提供しており、これにより視覚的で柔軟な操作が実現されている。また、DOGSでは、これらの機能を基にした、概念的な図の作成に有効と考えられるボトムアップ的な作図スタイルを提供している。本論文では、この構築したプロトタイプシステムDOGSにおける支援方法とその機能について論じる。

11. 図面理解システムのための人間機械協調を用いたルール作成支援手法
佐藤 真一 (学術情報センター), 孟 洋 (東京大学生産技術研究所),
坂内 正夫 (東京大学生産技術研究所) [本文: 日本語]

要旨
人間機械協調を用いた、図面理解システムのためのルール生成システムについて述べる。われわれはこれまでに、汎用図面理解システム実現のための試みとして、状態遷移型図面理解システムを提案した。このシステムでは、図面理解処理は認識ルール(状態遷移ルール)に従って行われるようになっており、ルールを人間にとって作成しやすいものとすることにより汎用図面理解の枠組を実現したものであった。しかしながら、このルールの作成において、閾値などの微調整を必要とする部分の作成が非常に困難であった。この点は、他の図面理解システムでも同様の問題である。そこでわれわれは、状態遷移型図面理解システムに対し、人間との対話からこうした作成の困難なルールを自動生成するための拡張を行った。このシステムでは、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)を用いた平易な対話から図面理解システムで実際に利用できるルールを生成することができる。また、冗長な対話を避けて効率よくルールを生成するために、帰納推論による学習アルゴリズムを用いている。本システムにより、従来は作成が困難であった閾値などの微調整が必要な部分を含むルールが、数回程度の平易な対話で容易に生成できることが確認されている。

12. 我が国における高等教育部門のR&D統計再考
太田和 良幸 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
我が国の高等教育関係の統計、特に、教育・研究費関係の統計は、相互の関連が不明確である。総務庁「科学技術研究調査」の研究費データは、かなりの教育費その他の分を含んでおり、実際より過大評価されている。学術政策立案のための基礎データを作るためにも、また、大学等の研究費の国際比較のためにも、科学技術研究調査に適当な補正が加えられるべきである。

13. アメリカにおける差異項目機能(DIF)研究
孫 媛 (学術情報センター), 井上 俊哉 (東京家政大学) [本文: 日本語]

要旨
1960年代以降、アメリカではテストの公正な利用、テストバイアスが大きな関心を集める問題になっている。その間、差異項目機能(DIF:Differential Item Functioning)の概念が生まれ、いくつものDIF分析法が提案されている。現在、DIF分析は項目バイアスを検出するための統計的道具として、テスト開発過程に欠かせないものとなっている。また、バイアス探索とは別の文脈においてもDIFの概念と分析法が役に立つこともわかってきた。本稿ではまず、DIFが今日のように盛んに研究されるまでの経緯を概観した後、代表的なDIF分析法を関連する概念とともに展望する。ついで実際のテスト開発過程でDIF分析が適用されている現状を紹介する。最後に日本での研究の可能性を含めて、DIF分析のより広い応用について論じる。

14. 「語」と「専門用語」 : 専門用語に関する理論的研究へ向けての試論
影浦 峡 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
近年、専門用語の研究が盛んになってきており、その理論的研究は、言語学とは独立したものであるとする主張もなされている。それにも関わらず、専門用語というものの研究対象としての性格について、表面的な定義を越えて原理的に検討したものはほとんど見られない。本論文は、こうした状況を背景に、言語学における語の位置づけとこれを巡る研究の全体的な図式を参考に、専門用語の位置づけとそれに対する研究の基本的な在り方を改めて検討することを目的とする。

15. 臨床症例データベースにおける医学用語自由語シソーラスの作成
田代 朋子 (有限会社T辞書企画), 佐々木 仁 (株式会社平和情報センター),
大江 和彦 (東大病院), 木村 優 (学術情報センター),
熊渕 智行 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
医学雑誌に報告される臨床症例を全文データベース化した「臨床症例データベース」を精度良く検索するために医学用語シソーラスを作成した。このシソーラスは従来のシソーラスと異なり文献中に出現する自由語をそのまま収録したものであり、仮に「自由語シソーラス」と呼ぶことにする。本シソーラスにより自由な語から網羅性の高い検索を行うことができる。

16. 初診問診を中心とする医療タスク構造と関連知識の記述
小山 照夫 (学術情報センター), 大江 和彦 (東大病院) [本文: 日本語]

要旨
医療は,一連のデータ収集,評価,意志決定と医療行為の実行というさまざまなタスクが並列的に進められる作業であると考えられる。これらのタスクが実行される背景には,さまざまな知識が存在すると考えられる。今回の報告では,初診問診過程を中心に,代表的な医学教科書の記載から読みとれる知識にどのようなものがあるかを考察した。また,これらの知識の内,疾患と症候との関係を記述するものについて,基本的な情報構造を示すとともに,機械による評価を可能とするために必要となる表現形式の変更についても検討を行った。

17. 感覚障害者における大脳の言語処理機能について
山田 尚勇 (学術情報センター) [本文: 日本語]

要旨
多様性を持つ人類は,いろいろな能力において個人差が大きい。その中でも感覚器系の能力が他と大きく異なっている人たちとして,先天盲や先天聾の人たちがある。そのほか,難読症者の中にも感覚器系の異状によるものがみられる。さらには,異状の程度としては低いものと思われている人たちとして,左利きがある。また人類を他の動物から大きく引き離している能力の一つとして,言語の使用がある。この言語には,もっともふつうなものである音声言語のほかに,それを墨字や,盲人の用いる触字(点字)に写した文章があり,またそれらとは少し系統の異なるものとして,今では手話が自己完結の言語として認められている。本稿では上記の感覚障害者たちが,必要に合わせて適当な特殊言語を用いているのに並行して発現する,大脳の言語処理機能の特殊性や異状性について,手話の活用を中心に,脳科学的,心理物理学的な一般向けの展望を試みる。さらに健常人が手話という特殊言語を第2言語として習得し駆使しようとするときに起こる一般的な問題と,その軽減の可能性について考察をする。

18. 昭和6年樺太庁敷香のヤクート語資料の分析 : 日本語による北方「少数民族」言語資料へのアプローチ
藤代 節 (学術情報センター研究開発部) [本文: 日本語]

要旨
1931年に当時,日本領であった樺太庁敷香で行なわれた,彼の地に居住していたアイヌ人を除く「少数民族」言語の調査記録から,チュルク系言語であるヤクート語のデータを分析した。まず,ヤクート語の被調査者であるヤクート人について当時の記録等から明かな点をまとめた。被調査者の背景を参考にしながら,片仮名で記録された,単語を主とした190の調査項目のデータ各々について対応する現代ヤクート語をあてた。このヤクート語資料にみられる他の少数民族言語やロシア語との関係が当時の言語状況やひいては民族の動きを示唆するものであることを示した。また,記録されたヤクート語がどの地域の方言であるかについて考察を試みた。

19. アレキサンダー図書館学術コミュニケーションセンター
外山良子 (ラトガース大学アレキサンダー図書館長) [本文: 英語]

[日本語要旨なし]


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