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全国的・国際的研究コミュニティの構築:21世紀の学術情報センター(報告)
1999年4月23日

ミョン・チャン・ウィルソン (Myoung C. WILSON) 1)
ニュージャージー州立ラトガース大学アレクサンダー図書館

訳 野末俊比古(学術情報センター)

1) Alexander Library, Rutgers-The State University of New Jersey, New Brunswick New Jersey 08903, U.S.A.; Email: mywilson@rci.rutgers.edu 本稿は1999年3月の招へいにより学術情報センターにおける検討を踏まえて同年4月に提出されたものである。

緒言
21世紀の学術情報センター
1 学術情報センターのシームレス化
2 学術情報センターの利用者志向化
3 学術情報センターのグローバル
結語

参考文献
解説(1999年5月)(内藤衛亮)

緒言

 この報告は、1999年3月の学術情報センターへの訪問に基づいたものである。訪問の際には、まず学術情報センターの創設と沿革、現在の活動についてのビデオが上映され、ついで酒井清彦氏(目録情報課)によってNACSIS-CATのデモンストレーション、加徳健三氏(データベース課)によってNACSIS-ILL、NACSIS-IRのデモンストレーションをしていただいた。内藤衛亮教授は、すべてのセッションに同席し、さらに派生した質問に回答するとともに、プレゼンテーションの解説をしていただいた。学術情報センターからいただいた資料一式、すなわち、デモンストレーションとプレゼンテーションの内容に相当する印刷物、NACSIS Annual Report、およびNACSIS Newsletterの最近の三つの号の内容も参照した。

 内藤教授、酒井氏、加徳氏による卓越したプレゼンテーションから、学術情報センターが日本における研究コミュニティのための知識アクセスの管理の最前線にいることは明らかである。また、学術情報センターが次世代の研究者・図書館員のための知識アクセスツールの開発の最先端にいることも明らかである。このことは、現存の製品が継続的に向上されていること(例えば、Web上で作動する、最新版のNACSIS-CAT, NACSIS-ILL, NACSIS-IR)と、NACSIS-ELSのような新しいディジタルライブラリサービスを創造することによって獲得されたものである。さらにまた、継続的なシステム改良を通して、より高速でより強力なネットワークゲートウェイが継続的に研究・構築されていることも明らかである。

 研究ツールを開発し、研究コミュニティに貢献することを目的とする学術情報センターのような国家機関は、他国にとって好モデルとなる。学術情報センターはその任務を遂行するにあたって、日本の研究者が世界中の情報資源を利用できるようにするための方法を精力的に追求している。このことは、NACSIS-IRデータベースの多さによって充分に示されている。学術情報センターは、海外における日本の学術情報の需要と供給を測定するという先導的な役割も担っている。そうした努力は、日本とタイの研究コミュニティを結ぶであろう「アジア情報ハイウェイ」のようなプロジェクトに見てとれる。

 以下のコメントは、米国で提供されている同様のサービスと、そうした製品・サービスを大規模な公立の研究大学で利用している者としての筆者の経験とに基づくものである。

 学術情報センターの業績と任務について、米国におけるいくつかの先導的な書誌ユーティリティと研究機関に関する知識を用いて理解することができる。すなわち、学術情報センターは、特に、米国の三つの別個の組織が果たしている三つの機能を担っている。第一は、NACSIS-CAT, NACSIS-ILL, NACSIS-IRであり、研究図書館グループ(RLG)とOCLCが提供しているサービスと同様のサービスを提供している。これらの組織はいずれも私立の図書館コンソーシアム/ネットワークである。学術情報センターの参加館構成を見ると、参加を要請した研究機関によって構成されているRLGと類似している。RLGの情報システムであるRLIN(Research Libraries Information Network)は、参加館によって構築されている、専門化されたオンラインデータベース総合目録として機能している。第二は、NACSIS-IRが部分的に担っているもので、「政治・社会研究大学間コンソーシアム」(ICPSR; Inter-university Consortium of Political and Social Research)が受け入れデータベースの構築を通して果たしている機能である(ICPSRの数値データファイルの多くは、他の多くが購入されものであるのに対して、研究者個人個人から収集されたものであった)。第三は、学術情報センターは、研究職の公募情報をリストする独特なデータベースの構築であり、米国の高等教育ニュースの「バイブル」である、「高等教育の歴代志略」(Chronicle of Higher Education)と同様のサービスを提供している。

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21世紀の学術情報センター

 学術情報センターの情報製品・サービスの利用者は、明らかにすべての研究者層に及んでいる。それゆえ、日本の研究情報の先導的提供者として学術情報センターが現在有している強さと有利さを確固としたものとするために、筆者がこの報告において言及したい論点が三つある。すなわち、(1)学術情報センターのシームレス化、(2)学術情報センターの利用者志向化、(3)学術情報センターのグローバル化である。学術情報センターはすでに、これらの分野でイニシアティブをとってきており、ビデオ上映でも言われていたようにリーダーシップもとってきている。

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1 学術情報センターのシームレス化

 この分野は、システムと事業の領域にその多くが属し、残念ながら、筆者が最も明るくない分野である。しかし、筆者は、データベースの構築・設計における利用者の要求がどのようなものか、という点についての知識を持っている。ヒューマン-コンピュータインタラクション(HCI)は巨大な研究分野(まだ未知の事柄も多い)であるが、筆者が利用者と毎日やりとりをしている経験から、データベースは利用者がマニュアルを読む必要のないような方法で構築されなければならない、ということがいえる。特定のデータベースの利用・検索方法についての案内は、直感的であるべきで指導的であるべきではない。わざわざ確認しなければならない箇所を最小にするようにシステムを設計することができれば、研究を促進することになるだけでなく、学術情報センターが提供しているデータベースの閲覧性を向上することになるだろう。利用者はすでに利用可能な膨大な数のデータベースの中から選択するという作業を強いられ、それに圧倒されてしまっている。利用するのに必要以上の訓練を要するような検索エンジンは、再考・再設計されるべきである。

 NACSIS-CATは、日本における先導的な分担目録作成サービスシステムであり、海外の日本研究図書館のレコードの登録も始まっている。筆者は、この目録は参加館の目録レコードによって構成されている、と理解している。この目録は逐次刊行物のレコードも含んでいるのだろうか。この目録には、初期のRLINがそうであったように、二つの別個のデータベースがある。利用者の視点からは、総合目録に収録されているレコードは、技術や法的義務が許す限りにおいて、理解しやすいものとすべきである。

 NACSIS-IRデータベースは、国内、国外のものとも急速に増加している。Web上で作動するNACSIS-IRでのデモにあったように、その設計は直感的な特徴を持つ部分もある。実際、NACSIS-IRは、例えば会議録や専門団体の論文などのような、一般に灰色の分野と呼ばれているものの宝庫である。米国では、OCLC FirstSearchが、公共・研究図書館のために同様のサービスを展開している。FirstSearchについては、利用者コミュニティへのシームレスなアクセスを提供するために、検索結果をローカルな図書館のレコードまたはOCLCのフルテキスト電子雑誌コレクションにリンクさせる新しいサービスについての案内があったところである。この新しいシソーラスに基づいた検索は、検索結果の質を促進させることにもなるだろう。

 NACSIS-ELSは、フルテキストの雑誌論文を提供するディジタル図書館に対する独創的努力の結果である。学術情報センターは、著作権の問題によって、当初は、学協会雑誌をスキャニングして画像テキストにする方法を選択した。米国において急速に進展しているProject Museは、NACSIS-ELSとほぼ同様のプロジェクトといえよう。Project Museは、John Hopkins大学出版が、John Hopkins大学Baltimore校(メリーランド州)のMilton S. Eisenhower図書館と協力して始めたものである。筆者は最近、Detroitで開催された会議でProject Museの資料を入手したので、この報告でその内容にも触れることにしたい。筆者はまず、日本の四つの図書館(高知大学、京都大学大学院、NTTコミュニケーション科学研究所、東京都立大学)が購読者となっていることを知って驚いた。Project Museは、コンソーシアム参加機関が割引購読料を受けられることを明らかにした。学術情報センターは、参加館の利益のためにコンソーシアムを形成し、フルテキストのProject Museの雑誌を講読することができるだろうか。そうすることができれば、NACSIS-ELSを拡大し、英語フルテキスト電子雑誌を扱うことができるようになるだろう。

 学術情報センターはまた、多言語データベースの研究・開発・構築においても先導的位置にいる。学術情報センターの猪瀬所長は、そうした努力について、リテラシーに関して述べた最近の文章において、次のように的確に表現している。

“言語の多様性が人類の文化を発展させてきたという事実から見れば、国際的言語による母語の抑圧と、標準的言語による地方語の抑圧と、ラテンアルファベットによる他のアルファベットの抑圧とは、深刻な問題である。母語と国際的言語の両方、およびローカルなアルファベットとラテンアルファベットの両方とを場合によって使い分ける多言語能力がどのようにして養成可能か、ということが、今日のリテラシーに関するもう一つの重要な問題である。”2)

 NACSIS-UCSフォントの開発によって、NACSIS-CATの利用者は欧州言語を利用できるようになるだろう。そうしてできた多言語目録データベースはまた、シームレスな情報源ネットワークにおいて、中国語・韓国語の利用も可能にするだろう。

2) Hiroshi Inose, "Literacy in this day and age," NACSIS Newsletter, no. 15, March 1997, p. 3.

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2 学術情報センターの利用者志向化

 現代情報時代において、学術情報センターは、利用者志向の組織とならねばならない。学術情報センターが情報供給連鎖において果たしている役割を評価するために、学術情報センターは増加し、変化している利用者のニーズを絶えず観察しなければならない。学術情報センターの利用者が最先端の研究に携わる洗練されたエリート利用者から成り立っていることを考えれば、このことはとりわけ重要である。そうした利用者は情報を多様な情報源から獲得することができるので、学術情報センターは自らの情報提供者としての効果性を観察していかねばならない。

 学術情報センターは、自らの利用者の間における、ある種のコミュニティの組織・形成に対して先導的役割を果たさなくてはならない。また、地域的、全国的、国際的会議を通して、学術情報センターのプログラム、方針、指針、サービスに対する利用者・利用機関の認知度を高めることによって、ある種の目的の共有を行なっていかねばならない。NACSIS-MAILとNACSIS-BBSは、利用者・利用機関に提供されているサービスの一部であるが、利用者が、学術情報センターのサービスとデータベースの最適な利用方法に関する経験を共有することができるディスカッショングループを組織することによって、さらに多くのことをなすことができよう。

 こうしたタイプの利用者コミュニティを構築するためには、学術情報センターは、コミュニティのなかに異なった利用者グループがあることを認識する必要がある。学術図書館は顧客として巨大であるので、利用者グループの第一は、学術図書館で前線にいる経験豊かな図書館員であるべきである。NACSIS-CATは極めて長期的なサービスであるので、学術情報センターは目録作成者のための研修機会を提供しつづけてきたが、すでに取り組みが始まっている、他エリアにおける図書館員や研究者に対する研修についても拡張していくべきである。

 上記以外の比較的新しく、また急速に展開しているサービス、すなわち、NACSIS-IRやNACSIS-ILL、NACSIS-ELSなどは、利用者に対する集中的な研修と対話を要するものである。ここで「研修員の研修」という概念が非常に重要になる。すでに印刷・オンラインで利用可能な利用者マニュアルはすばらしいものであるが、経験豊かな一般の図書館員とともに図書館管理者をも含む「利用者評議会」を形成することによって学術情報センターはいっそう発展でき、そうすることによって研究コミュニティに対していっそう効果的な貢献をなすことになるだろう。「利用者評議会」は、根本的には利用者の視点から、必要なインプットを提供するワーキンググループである。「評議会」は、学術情報センターの主催のもとで定期的に会議を持つべきであり、また、学術情報センターのデータベース作成スタッフ、特に事業部のスタッフとも打合せを持ち、両者が同じ言語で話し、同じ立場を共有できるようにすべきである。「利用者評議会」は将来的に、学術情報センターの役割を向上・強化することにのみ働くだろう。

 図書館員に対する研修はまた、一日のワークショップから、数日間から一週間続くセミナーまで多様な形式をとりうる。筆者が駆け出しのレファレンス担当図書館員であったとき、最も有意義だったワークショップは5日間のものであった。そのワークショップは、米国国勢調査局センター(U.S. Census Bureau Center)で行われ、1980年の国勢調査の使い方を学んだ。「米国国勢調査」(U.S. Census)の実際の作成者から、あるデータがなぜ利用可能(または利用不可)であるのか、「米国国勢調査」の地勢が物理的な地勢となぜ異なるのか、ということを学ぶことができ、非常に有意義であった。今度は、筆者が教える番となり、これまでに膨大な数の学生・教員に対して、現在存在している膨大な量の国勢調査のデータの利用法について研修を行なってきた。この種の集中的な研修は、研修受講者を次々と送り出すことによって、学術情報センターのデータベースの利用を最大限に引き出すことができ、学術情報センターの発展に役立つものであろう。

 学術情報センターが働きかけるべきもう一つの利用者グループは、研究者そのものである。研究者は、研修にはそれほど関心を持っておらず、忙しすぎるとか、自分の研究のほうが大切だとか思っている。しかし、学術情報センターは、また別のメカニズムとして「フォーカスグループ」のようなものを利用することもできるし、学術的会議を主催し、小規模グループセッションを設け、研究者が学術情報センターに対して、方針、製品、サービスに関するアドバイスができるようにすることもできる。そうした会議では、データベースがどのように利用されているか、どのようなデータベースが将来的に最も有効であるか、といった点についてアイディアとコメントを引き出すフォーラムを設置することができるだろう。繰り返すが、学術情報センターが将来の方向性を検討することは、研究者に対してある意味でのエンパワーメントを与えることになるだろう。毎年開催されている学術情報センターシンポジウムはすでに、このニーズを部分的に満たしている。

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3 学術情報センターのグローバル化

 学術情報センターは、多くの国々との国際的なシンポジウム、セミナー、共同研究プロジェクトを運営し、国際的に著名な図書館員や研究者を招待することによって、特に、予算の乏しい国々において、静かだがしっかりとライブラリアンシップを浸透させてきている。国際的なライブラリアンシップに関する問題は多岐にわたるが、学術情報センターセミナーを通して、地道ながら検討されている。情報ネットワーク、情報検索、国際的ライブラリアンシップの分野における先導的な研究開発シンクタンクとしての学術情報センターの評価は、選りすぐられた研究プロジェクトを世界中の観客に英語で利用できるようにすれば、右に並ぶものはなくなるだろう。

 学術情報センターの国際的ライブラリアンシップへの貢献を向上することができる二つの点に言及することにしたい。この提言を実施することは、日本だけでなく世界の図書館員にとっての利益となる。

 第一に、一般にアジアにおいては、ライブラリアンシップについて英語で書かれたものはほとんどない。学術情報センターは、図書館コミュニティの先駆者たちをアジア各地から(同じ目的で世界中からも)招待しており、フォーラムを開催し、彼らが自国での実践としてのライブラリアンシップについての論文を発表する機会を設けている。タイ、インドネシア、韓国、中国、そしてもちろん日本といった国々からの英語で書かれたライブラリアンシップの情報は、西欧の国々では入手しがたいものである。例えば、Rutgers大学大学院コミュニケーション・情報・図書館学研究科では、「国際的ライブラリアンシップ」のコースを設置しているが、アジアのライブラリアンシップについて研究することに関心を持った学生にとって、背景的な情報を入手することは容易ではない。

 もちろん、この問題の大部分は、これらの国々の言語に対して不案内であることが原因である。米国の図書館が、必要な母国語資料を提供することができないでいることも問題である。学術情報センターは、主催してきた多くの会議やセミナーから選び出した論文を一冊に編集すれば、多大な貢献をすることができるだろう。

 米国の出版社は(また、国際図書館連盟(IFLA)やユネスコでさえも)、優れた原稿を常に探している。学術情報センターのセミナーで数年来、発表されてきた論文は、集めて一冊にすれば、国際的ライブラリアンシップを世界的に進歩させることができるものである。そうした出版物はまた、学術情報センターが過去10年間にわたり関わってきためざましい業績を国際的に広めることにもつながるだろう。

 グローバルな学術情報センターを構築するための第二の方法は、Rutgers大学(または他の適切な米国・欧州の機関)と学術情報センターとの共同会議を組織することによって、日本と米国の図書館員にとって国際的な教育的経験を提供することである。Rutgers大学と学術情報センターは幸い、強力なコネクションを構築してきているので、試験的に会議を開催し、日本の図書館員がRutgers大学(および近隣)の図書館を訪問する機会を提供することができよう。もちろん、3日または4日間のセミナーに参加することは勇気を要するが検討に値する。Rutgers大学は、東海岸にある他のすべての主要な研究大学図書館の500マイル圏内に位置する。学術情報センターは、参加者である米国の日本研究の図書館員、研究者、大学院生にビデオ上映を行なったり、参加者に対して学術情報センターの種々のデータベースを紹介したりすることができよう。一方、日本の図書館員は、この機会を使って、米国学術図書館の業務の仕方や米国の書誌ユーティリティが提供している製品・サービスのいくつかの利用の仕方を学ぶことができよう。さらに、NACSIS-IRの一部として学術情報センターが収集している米国のデータベースのいくつかを検索するための研修を受けることもありえるだろう。会議の内容は、会議を開催するそのときどきで最も顕著な問題をめぐったものとすることが考えられる。学術情報センターの利用者・利用機関である図書館員・研究者にそうした機会を提供すれば、学術情報センターの利用者グループによって、きっと高い価値のあるものと見なされることになるだろう。

 Rutgers大学Alexander図書館学術コミュニケーションセンター(SCC; Scholarly Communication Center)では、2年前の創設以来、そのような共同事業がほとんど毎週行われている。SCCには、実習のための情報処理室(Information Handling Labs)と人文社会科学データセンター(Social Science and Humanities Data Center)があるので、会議や研修を行うのに理想的な場となっている。つい先月、「第4回大学一般教育国際会議」(International Conference on University General Education)が開催されたところである。この会議は2日間の会議で、台湾の中国一般教育協会(Chinese Association for General Education)とRutgers大学内のいくつかの機関の共催であった。同様の会議が、国際的ライブラリアンシップと実地研修に関心を持つ図書館員のために計画されるべきである。

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結語

この報告では、学術情報センターがサービスと評価を向上させることができるいくつかの方法を提示してきた。もちろん、それらは予備的なものであり、さらに詳細に検討されるべきものである。これらの提言に実行可能なものがあれば、筆者の幸いとするところである。この報告を提出するよう依頼を受けたことについて、その結果はともかく、光栄に受け止め、深く感謝する次第である。

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解説(1999年5月)

 本稿は平成10年度リーダーシップ経費による招へいプログラムの最終行事として、平成11年3月21-25日にかけて実施した、レビュープログラムの報告である。日本語訳は野末俊比古が担当した。

 評者・報告者であるミョン・チャン・ウィルソン氏は米国ラトガース大学アレキサンダー図書館に勤務する、ファカルティステイタス(教職身分)を取得した図書館員である。ラトガース大学アレキサンダー図書館と学術情報センターにおける国際共同研究(科学研究費)チームの交流には、これまでに多くの実績があり、ウィルソン氏は1997年3月に科学研究費国際共同研究の一環としてすでに招へいされ、学術情報センターを訪問している。ちなみに同大学副学長J. フラナガン教授は学術情報センター外部評価委員会(1996年)の委員である。

 本稿の特色は学術情報センターの各種サービスを対象とした点にある。そのため、平成11年3月の段階でセンターにおいて主要な関心事である国立情報学研究所(仮称)への移行については、相互の合意のもとに、レビュープログラムの対象としなかった。それゆえに、学術情報センターの現時点の状況からすれば、この報告の文言に若干の違和感を感じることを否めないが、学術情報センターのサービスに対する評価としては、創立以来の実績を認識した上で、将来的な課題と可能性を述べている点で注目に値する。
 本稿はリーダーシップ経費による学術情報センター・サービスの評価を目的とするレビューである。これに対して、報告者ウィルソン氏はサービスに対する評価・提言を次の三つの側面から論じている。

  1. 学術情報センターのシームレス化
  2. 学術情報センターの利用者志向化
  3. 学術情報センターのグローバル化

 これらは学術情報センターの事業・サービスに係わるデモンストレーションにおいて、実績を述べれば、併せて積み残し課題についてふれざるを得ず、したがって評者の関心を引き起こすことになった側面を象徴化している。また、最近の米国における同種・同等の機能との比較において、評者が言及せざるを得ない事項であると言えよう。さいわい、センター側の意識・指向のありかと符合するところ大であり、センター・サービスに対してきわめてポジティブな評価を戴いたと言えよう。

 限られた時間内でのデモンストレーションと解説をもとに、大きな誤解を生ずることなく、正鵠をうがつ評価報告を得ることができたのは、継続的な交流をもとに、評者が学術情報センターに寄せる不断の関心があったことにくわえて、的確なデモンストレーションの効果によるところが大きいことを付記する。
(文責:内藤衛亮)

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