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書誌ユーティリティの接続
Connecting Bibliographic Utilities

宮澤 彰 (Akira MIYAZAWA)
学術情報センター研究開発部教授

1 はじめに
2 書誌ユーティリティ
3 書誌ユーティリティの技術動向
4 グローバルな展開
5 書誌ユーティリティネットワーク実現の問題点
6 おわりに

1 はじめに

 書誌ユーティリティは30年近くの歴史を持つ、情報システムとしては確立したものとなってきている。とくに、先進諸国の図書館の世界ではすでになくてはならないものとして、認められているといってよいだろう。

 近年、インターネットを中心としたコンピュータシステムのネットワーク化にともない、書誌ユーティリティの情報システムも相互に接続される技術的環境が整ってきた。また、部分的には国際的に接続して、書誌ユーティリティを通した検索を行っている例もある。これら、主として国際的な接続について、その技術的基盤を簡単に概観し、問題点の検討を行う。

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2 書誌ユーティリティ

 書誌ユーティリティという言葉を、ここではOCLCのような図書館を中心とした情報サービス機関として使う。もともと、OCLCのような共同目録作成の機関を米国で呼んだもののようである。OCLCは1960年代終わりころから活動しているが、RLGのRLIN、カナダのUTLASなどは70年代に始まった。

 機能的にはオンラインの総合目録作成サービスから始まり、結果としてできた総合目録の応用として情報検索や、ILLメッセージ交換システムなどをサービスしている。もっとも、歴史的には、共同開発共同運用による図書館機械化という色合いもあり、受け入れや貸し出しのシステムをサービスしていたこともあるが、現在ではそれらはローカルなシステムとされている。

 ヨーロッパ各国では、70年代〜80年代になって始まっている。ヨーロッパの場合、国単位、あるいはそれより小さな単位で成立していることが多い。特徴的なのはドイツで、2〜3州の単位で一つずつ書誌ユーティリティ(Verbund)がある。

 日本でも学術情報センターの前身、東京大学文献情報センターは85年に目録所在情報サービスを開始した。組織的な特徴としては政府の主導による点、大学図書館主体の点があげられ、技術的な特徴としては、著者典拠や書誌階層をとりいれたデータベース構造、コンピュータネットワーク上の応用システムといった点があげられるだろう。

 北米、ヨーロッパ、日本以外ではオーストラリアの国立図書館が運用するABNがある。また最近韓国で先端学術情報センターが発足した。日本以外のアジアでは(おそらく)最初のものだろう。

 これらの書誌ユーティリティは、多くが国の中央図書館とは別に存在しているし、また、個別の図書館とも独立に存在している。利用者に直接見える中央図書館とはことなり、図書館の裏にあるために、利用者からは見えにくい組織であるが、先進国の図書館システムの中ではいまや確立した機能になったといえるだろう。

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3 書誌ユーティリティの技術動向

 書誌ユーティリティの多くはメインフレームとミニコンピュータという時代に最初のシステムを開発している。そのため90年代に入っての、いわゆるダウンサイジングにどう対応するかは一つの課題であったし、現在もなお継続中である。

 NACSISの場合、当初から各図書館のローカルシステムとNACSISのシステムの間のネットワークアプリケーションという形で作られていたため、比較的スムーズな転換が可能であった。XUIPによるオープンシステムでの旧プロトコル(仮想画面転送)クライアントの開発に始まり、センター側でのデータベースサーバとアプリケーションサーバの切り離し、新プロトコル(CATP)の設定と普及、新プロトコル用アプリケーションサーバの立ち上げという手順であった。これに対し他のシステムではそれぞれに苦労をしている。

 オープンシステムでクライアントサーバ型のアプリケーションになってくると、図書館側のシステムと書誌ユーティリティ側のシステムの間のやり取りの手順、すなわちプロトコルが重要になってくる。目録作成のためのこういったプロトコルでは標準的なものがいまだ確立していないが、目録を中心とした情報検索のためのプロトコルANSI Z39.50(ISO 23950, JIS X0807)は、欧米の図書館では広く使用されている。書誌ユーティリティと図書館の間のプロトコルとしても、これを使おうという動きもある。例えばOCLCはZ39.50プロトコルの拡張サービス機能を用いたOCLC用目録作成のサービスを行っている。

 図書館用アプリケーションプロトコルとして、もう一つ広く使われつつあるものにISO ILLプロトコル(ISO 10160, 10161)がある。ILLの申し込みと、状態管理のためのプロトコルで、英国図書館ドキュメントサプライセンターが、その受け付けシステムで使用するために開発しているほか、OCLC、RLG等も採用を決めている。

 これらのプロトコルは、もちろん書誌ユーティリティだけに使われるものではなく、個別の図書館同士でのアプリケーションにも使われるものであるが、多少変わった使われ方としては、RLGとドイツ図書館との間で、MARCデータのZ39.50検索という利用例がある。書誌ユーティリティでは、目録作成のための基本データソースとして、US MARCやJAPAN MARCのような中央図書館の作成するMARCデータを利用可能にしている。これらのデータは、従来はMARC作成機関からテープ等で受け取って、自分のシステムにロードして利用させていた。これを、自分のシステムにロードするのではなく、MARC作成機関のZ39.50サービスを利用して検索することにより、自分のシステムにロードされているのと同様に目録作成ユーザから利用できるようにするわけである。RLGはこの方法でドイツMARCを99年の春からサービスしており、また、英国のCURLのデータを98年秋からサービスしている。

 技術動向の今一つは、多言語化である。もっとも、米国の書誌ユーティリティの多言語化はRLGのRLINシステムで80年代の前半に行われ、OCLCでも、80年代に中国語、日本語、韓国語が扱えるようになっていた。しかし、これらは、書誌ユーティリティだけで、個別の図書館システムでは、一般的にこれらの文字コードのレコードが扱えるわけではなかった。したがって、限定された環境でのみこれらの文字を含むレコードが表示でき、ローマ字部分のみを一般的なシステムで扱うというのが普通であった。この原因は、一般的なOSではこれらの文字を扱ってくれなかったためである。特に、US MARCでのこれらの文字の文字コードはEACCとよばれる特殊なもので、US MARCの世界のみでしか通用していないものである。

 近年、UNICODEコンソーシアムがOSのUNICODEサポートをすすめており、これに伴って、個別の図書館のシステムも、特殊な端末を要しないで多言語化可能な環境が整ってきた。実際、欧米のいくつかの新しい図書館用システムはUNICODEを使用した多言語サポートをうたっている。ヨーロッパの書誌ユーティリティでは、これらの技術動向を見て、多言語化を考えるにいたっている。ただし、まだ、実用段階にはいたっていない。

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4 グローバルな展開

 これらの、技術的動向から、当然考えられるようになってくるのが、書誌ユーティリティ同士をつないで、全世界的な書誌ユーティリティネットワークを作れば、世界中の図書館の総合目録が仮想的にできあがる、あるいは、世界中どこで出版された本でも目録をとれるような目録作成システムができるということであろう。

 例えば、学術情報センターのNACSIS-CATを米国や、ヨーロッパの書誌ユーティリティとつなぐ。目録を作成する際に、検索してないレコードは、現在の参照MARCのように、他の書誌ユーティリティや、中央図書館のMARCを検索して利用できるようにする。(つながっている書誌ユーティリティが多くなると、例えば、言語によってどのサイトを使うか順番を付けるような方式も必要になるかもしれない)。

 あるいは、現在のWebcatのような総合目録の検索システムから、他のサイトも検索できるようにする。もちろん、他のサイトについて検索する順位をつけるなりの仕掛けは必要となるだろうが、仮想的に全世界的な総合目録の検索システムというものが考えられる。

 ILLメッセージ交換も、他のユーティリティと接続することにより、どの図書館に対してもILLの申し込みメッセージを送ることが、統一的なインタフェースでできるようになる。例えば、具体的には、NACSIS-ILLのBLや国会図書館への申し込み機能の延長で、OCLCの参加館や、ヨーロッパの図書館にILLの申し込みをし、その回答や状態チェックをする機能が実現できる。

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5 書誌ユーティリティネットワーク実現の問題点

 書誌ユーティリティの世界的な接続は、以上のようないわばユートピア的世界を可能にするが、実現にはまだまだ、問題も多い。

 比較的、技術的な問題としては、書誌レコードのフォーマット変換あるいは、標準化の問題がある。現在、書誌レコードの内容はかなりの部分標準化が進んできているが、完全に一致するわけではない。Z39.50では検索条件や、検索結果のレコードを登録されたフィールドフォーマットにマッピングして扱われる。例えば、階層を持ったドイツのレコードをいったんUS MARCフォーマットに変換し、これをさらにNACSISの内部形式にすると、書誌階層の表現は保存されないことが考えられる。これは一例にすぎず、同様の問題は書誌階層に限らず、細かい様々な点にある。とくに、変換が1度の場合、大きな問題のない変換仕様を作ることはなんとかなるが、変換が2回になると、問題のおきる率は高くなる。だからといって、すべての局面で変換を1回ですませるような方式をとろうと思うと、場合の数が飛躍的に増えて、開発量が膨大になってしまう。解決できない問題ではないが、技術的な難点の一つである。

 また、総合目録としての管理が、多くの場所でなされているデータベースを同時に検索するわけであるから、名寄せの問題が出てくる。これは、総合目録と個別図書館システムの問題でもあるが、同じ本の書誌レコードを別のところで作成すると、どうしても記述の差が発生し、同一性の判断を機械的にすることが難しくなる問題である。書誌レコードの作成機関が少ない場合には、名寄せを行わなくても実用上の問題が少ないが、何十という数になってくると、名寄せを行わないと検索上の効率が悪くなる。書誌ユーティリティを何十とつなげば(各書誌ユーティリティではこれらの管理を行っているが)、全体を検索したとき、同様に検索効率の問題が出てくる。これを解決するには、検索システムのいずれかの場所に名寄せ機能が必要になるが、機械的な方法での名寄せ機能が実用レベルで動くかどうかの保証は現在のところない。(将来的には解決される見通しはあると思うが)。

 技術的な問題以外に、経済的問題がある。日本の学術情報センターは国の機関で、たとえばNACSIS-Webcatを無料で公開しているが、米国のOCLCやRLGは基本的にこう言った情報のサービス料金を参加館からとることによって成り立っている。ヨーロッパの書誌ユーティリティも国により異なるが、サービス料にある程度依存している場合と、国立などで、それにあまり依存していない場合とある。これらの、様々な事情を無視して、技術的につなぐだけでは、サービスとして成り立たないのは当然である。情報を提供する側と、情報を利用する側との間を経済的にも成り立つようなシステムを確立しなければならない。これは包括的な対応は難しく、接続ごとに2者間で決めていかなければならない可能性もある。

 ILLのメッセージ交換システムは、さらに、個別の図書館同士の問題も出てくる。現在のNACSIS-ILLや、OCLCのILLシステムでもそうであるが、どのような場合にILLのサービスをする、しない、というILLポリシーは、基本的に個別の図書館が決定する事項である。現在、国際的なILLというのは必ずしもさかんに行われているわけではない。メッセージ交換システムが実現可能でも、それが実際の国際ILLに結びつくには、国内ILLで多くの合意や指針、清算システムが必要だったように、まだ、多くの合意を必要とするだろう。

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6 おわりに

 以上、書誌ユーティリティの国際接続の、技術的基盤について簡単に紹介し、その問題点について述べた。国際接続がどのようになるかは、他に類例があるわけでもなく、全く未知数の問題である。ただ、少なくとも予見される技術的問題は、解決の可能性はある。また、経済的問題は、煩雑な問題ではあっても、すべて無料でなければならないというような極端な話にならない限り、解決不可能な問題ではない。

 現在のヨーロッパ、米国の書誌ユーティリティの事情を見ると、OCLCという巨人と、先進各国の多くのユーティリティが結局併存している。OCLCやRLGはヨーロッパでもサービスを展開しているが、それによって、ヨーロッパの書誌ユーティリティがなくなるということは(部分的にはともかく)、全体的傾向としてはなかった。これは、日本でも同じである。この状況の下で、情報サービスの将来を考える限り、お互いのリソースを融通しあってよりよい情報流通を探っていくのは、いわば当然の帰結である。今後、諸問題の解決とともに国際接続の方向に進んでいくと考えるし、NACSISとしてもその方向を十分検討していきたい。

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