EPrints.org - セルフアーカイビングとオープンアクセス(OA)Eprintアーカイブ

Budapest Open Access Initiative (BOAI)のための

セルフアーカイビングFAQ

ベルリン宣言  --  OAの提供に機関として取り組む宣言 -- 
機関のセルフアーカイビング・ポリシーのテンプレート --  機関アーカイブ一覧表 -- 
オープンアクセス(OA)対有料アクセス(TA):どちらの引用インパクトが高いか-- 
Citebase(被引用指標を用いた検索エンジン)--  英国研究評価作業(RAE)のための標準研究業績集テンプレート-- 
利用率と被引用率の相関を計算/予測するシステム--  Paracite(引用文献探索システム)-- 
パワーポイント資料(オープンアクセスの宣伝用)

「〜とは何か/何故〜なのか/どうしたらよいか」関連のFAQ:

セルフアーカイビングとは何か?
オープン・アーカイブズ・イニシアティブ(OAI)とは何か?
OAI準拠とは何か?
Eprintアーカイブとは何か?
どのようにしたら私は、あるいは私の機関はEprintアーカイブを構築することができるか?
どのようにしたら機関はEprintアーカイブへのコンテンツ収集を促進することができるか?
セルフアーカイビングの目的は何か?
分散型セルフアーカイビングと集中型セルフアーカイビングの違いは何か?
機関Eprintアーカイブと中央Eprintアーカイブの違いは何か?
誰がセルフアーカイブを行うべきか?
Eprintとは何か?
何故セルフアーカイブを行うべきなのか?
何がセルフアーカイブされるべきなのか?
セルフアーカイビングは出版なのか?
著作権についてはどうなのか?
著作権移譲契約で明示的にセルフアーカイビングが禁止されている場合はどうしたらよいか?
ピアレビューの改革: 何故ピアレビューにこだわるのか?
セルフアーカイビングは合法か?
出版社がプレプリントのセルフアーカイビングを禁止している場合はどうしたらよいか?

「何をすべきか」関連のFAQ:

セルフアーカイビングを促進するために研究者や著者は何ができるか?
セルフアーカイビングを促進するために研究者の所属機関は何ができるか?
セルフアーカイビングを促進するために図書館は何ができるか?
セルフアーカイビングを促進するために研究助成機関は何ができるか?
セルフアーカイビングを促進するために出版社は何ができるか?

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら〜」 32の主な心配事 (テーマ別に分類):

I. 10. 著作権
            32. 毒リンゴ
II. 7. ピアレビュー
            5. 証明
            6. 評価
            22. テニュア獲得と昇進
            13. 検閲
III. 29. 満ち足りし者
            4. ナビゲーション(情報過多)
IV. 1. 保存
            2. 認証
            3. 変造
            23. バージョン管理
            25. マークアップ
            26. 分類
            16. 画像
            15. 読みやすさ
            21. 偶然の発見
            18. 図書館と図書館員の将来
V. 19. 学会の将来
VI. 17. 出版社の将来
            9. ダウンサイジング
            8. 費用負担
            14. 資本主義
            24. ナプスター
            31. ゴールドを待つ
VII. 20. 大学の陰謀
            30. 料金節約分の再配分
            28. 手ごろなアクセス料金
VIII. 12. 優先権
            27. 機密性
IX. 11. 盗作

セルフアーカイビングとは何か?

セルフアーカイビングとは、一般の人がアクセスできるWebサイト、できれば OAI準拠のEprintアーカイブにデジタル文書をデポジットすることです。デポジットを行うには簡単なWebインターフェースを 使い、「メタデータ」(日付、著者名、タイトル、雑誌名など)をコピー・アンド・ペーストしてからフルテキスト文書を添付します。文書を1つずつではなく、 まとめてセルフアーカイブすることができるソフトウェアも開発されています。

オープン・アーカイブズ・イニシアティブ(OAI)とは何か?

オープン・アーカイブズ・イニシアティブ(OAI)は、メタデータ・タグ("date", "author", "title", "journal"など) の共有規約を設計しました。 OAI FAQ.を参照してください。 フルテキスト文書は別のフォーマットで、別の場所に置かれる場合もありますが、同一のメタデータ・タグを使用すれば、「相互運用が可能」になります。 これらのメタデータは「ハーベスト」することができますので、すべての文書を すべての人がアクセスできるあたかも1つの世界的コレクションのように、まとめて検索することができます。

OAI準拠とは何か?

OAI準拠とは、OAIメタデータ・タグを使用することを意味します。 文書もEprintアーカイブもOAI準拠になることができます。OAI準拠のアーカイブのすべてのOAI準拠の文書は 相互運用が可能です。これは、分散して存在する文書をあたかもすべてが1つの場所に1つのフォーマットで存在するかのように扱うことが できることを意味します。

Eprintアーカイブとは何か?

Eprintアーカイブとは、デジタル文書のコレクションです。 OAI準拠のEprintアーカイブは、コンテンツをお互いに 使用し合えるように同一のメタデータ・タグを共有します。これらのメタデータは世界的な「仮想」アーカイブにハーベストされ、すべての利用者はこれを使って すべてのコンテンツを(商用の索引データベースや抄録データベースと同じように、しかもフルテキストへのアクセス付きで)シームレスに ナビゲートすることができます。

どのようにしたら私は、あるいは私の機関はEprintアーカイブを構築することができるか?

フリーソフトウェアのEPrints(このソフトウェア自体フリーソフトウェアだけを使って 作られています)は、機関や個人が自身のOAI準拠のEprintアーカイブを作ることができるように設計されています。 アーカイブの構築には、Webサーバ上にほんの少しスペースを必要とするだけです。 EPrintsソフトウェアのインストールは比較的簡単で、 新しいバージョンがリリースされるたびにますます簡単になっています。 EPrintsソフトウェアの構築と保守は、Web管理者の手をほんの少しわずらわせる だけです。このための投資はほんのわずかです。実際に問題になるのはEprintアーカイブの構築や保守ではなく、目的とするコンテンツ(これは BOAIでは、査読前のプレプリントと査読を受け出版された ポストプリントです)で アーカイブを早く満たすことです。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

どのようにしたら機関はEprintアーカイブへのコンテンツ収集を促進することができるか?

(1) OAI準拠のEprintアーカイブをインストールしてください。

(2) 年次評価のために、すべての教員は オンライン版標準研究業績集(CV)を維持・更新するという 全学方針を導入してください。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

(3) すべての査読済み出版物のデジタルフルテキスト 大学のEprintアーカイブにデポジットし、著者のオンライン版CVの項目とリンクすることを必須としてください。 (セルフアーカイブにより、研究成果の視認性アクセス可能性インパクトが最大化され、どれだけ 研究や昇進にとって利益になるかをすべての教員に明らかにしてください。)

(4)教員に大学のEprintアーカイブに論文をセルフアーカイブする方法(とても簡単)を教えるために 訓練を受けたデジタル図書館員を派遣してください。

(5) 個人的理由(忙しすぎる、技術的にできない)により自分でセルフアーカイブをすることができないと感じている著者の代わりに セルフアーカイビングの「代行」を行うために 訓練を受けたデジタル図書館員を派遣してください。 教員は、ワープロ文書のデジタルフルテキストを提供するだけで、残りの作業(通常、論文あたり数10回キーを叩くだけ)はデジタル アーカイビング・アシスタントが行うことができます。

(すべての査読済み研究成果のセルフアーカイビングを必須とする方針と、時間と能力の不足を理由にこの方針が実行されないことがないようにするための 訓練された図書館員によるセルフアーカイビング代行サービスは、セルフアーカイビングプログラムを 成功させるために絶対に欠かせない組み合わせです。セルフアーカイビングの代行は、セルフアーカイビングに第1の波を確実におこさせるために必要と なるだけでしょう。いったんアーカイブが限界量を達成すれば、視認性アクセス可能性インパクトという言葉で語られる セルフアーカイビングの報酬がその勢いを持続させるでしょう。 そうなれば、新しい論文をセルフアーカイビングするために必要な 数個のキーを叩く作業を教員の代わりに学生がすることも可能になるでしょう。)

(6) 大学のEprintアーカイブの永続的な保存を保証する適切な保守、バックアップ、ミラーリング、バージョンアップ、データ移行を行うために Webシステム管理者に協力するデジタル図書館員を参加 させるべきです。ミラーリングとデータ移行は、OAI準拠のEprintアーカイブを運用している他のすべての機関の担当者と協力して行うべきです。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

セルフアーカイビングの目的は何か?

セルフアーカイビングの目的とは、学者や科学者、機関が生産する 査読済み研究成果のフルテキストをインターネットに接続しているすべての潜在的な利用者が見る、アクセスする、ハーベストする、検索する、 利用することができるようにすることです。このように一般の人の研究成果へのオンラインアクセスを最大にする目的は、これが結果的に 視認性利用度インパクトを最大にすることであり、さらにこれが結果的に、 名声、賞、給料、研究助成金という言葉で語られる 研究者や所属機関にとっての利益を最大にするだけでなく、 研究の発信、応用、成長、それによる研究の生産性や進展という言葉で語られる研究自体(その結果、研究を助成する社会)にとっての利益も最大にする ことです。これが、オープンアクセス最適かつ必然である理由です。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

分散型セルフアーカイビングと集中型セルフアーカイビングの違いは何か?

すべてのOAI準拠のEprintアーカイブは相互運用性を持っています。これは、ARCcite-baseなどのアーカイブ横断検索エンジンにより、アーカイブのコンテンツが世界規模の仮想 アーカイブにハーベストされうることを意味します。すなわち、OAIは、1つの中央アーカイブにセルフアーカイブされた文書と分散して存在する多くの アーカイブにセルフアーカイブされた文書の違いを解消しました。利用者は文書を検索、ブラウズ、入手する際、それがどこにあるかを知る 必要はありません(商用の索引サービスや抄録サービスを使っている時と同じです)。さらに、フルテキストをすべて入手することができます。

機関Eprintアーカイブと中央Eprintアーカイブの違いは何か?

OAI準拠であるので、文書が1つの中央Eprintアーカイブにあるか、多くの分散された アーカイブにあるかは、もはや問題ではありません。文書はすべて相互運用性を持ち、1つの仮想的「中央」アーカイブにハーベストする ことができます。この仮想アーカイブではすべてのコンテンツをシームレスに見たり、取り出したりすることができます。ただし、戦略的には 機関アーカイブへのセルフアーカイビングと中央アーカイブへのセルフアーカイビングには違いがあります。

セルフアーカイビングは審査済みの研究成果の視認性アクセス可能性を最大にし、 その結果、研究者による利用度や研究の インパクトを最大にするために行われます。 研究インパクトを最大にする利益については、(各専門分野の学会や協会などの)中央組織よりも、研究者や 研究者の所属機関の方が強い興味を持ちます。学問上の報酬システム(給与や研究助成金)は、研究者の所属機関に集中します。出版と インパクトは研究者と機関の双方に利益を与えます。したがって、セルフアーカイビングの ためのアーカイブを運営し、アーカイブが毎年の研究成果で満たされるように 管理するのに相応しいのは研究者の所属機関です。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

誰がセルフアーカイブを行うべきか?

Budapest Open Access Initiativeは特に、すべての分野にわたる審査済みの 研究文献に焦点を絞っています。 これらの研究の視認性アクセス可能性利用度インパクトを最大にするために、論文を セルフアーカイブするべき者は、論文の著者です。ただし、セルフアーカイビング自体は、簡単ですぐに済みますが、 研究者の所属機関や図書館のデジタルアーカイブ担当者「代行」することもできます。また、(開発中のフリー) ソフトウェアで一括して行うこともできます。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

Eprintとは何か?

Eprintとは、審査前あるいは審査後の、ピアレビューのある研究論文のデジタルテキストです。審査前で出版されていない原稿は 「プレプリント」と呼ばれます。審査を受け出版された最終原稿は「ポストプリント」と呼ばれます。 Eprintには、プレプリントとポストプリントの 両者(および両者の間に存在する重要な改訂稿と出版後の改訂版)を含みます。研究者はこれらすべてをセルフアーカイブすることが 奨励されます。OAIタグによりすべての版を記録することができます。

何故セルフアーカイブを行うべきなのか?

研究成果の視認性アクセス可能性を最大にし、 その結果、利用度インパクトを最大にするためです。 単に出版するだけではインパクトは最小です。 同時にセルフアーカイブすることによりインパクトは最大になります。

何がセルフアーカイブされるべきなのか?

審査前のプレプリントからピアレビューを受け出版されたポストプリントまで、さらに出版後の改定版など、研究成果のすべての重要な版が セルフアーカイブされるべきです。OAIタグによりすべての版を記録することができます。

セルフアーカイビングは出版なのか?

もちろん違います。優先権の確立や著作権の主張という意味では、たとえ1枚の紙切れでも、公にされるものは何であれ、 「出版」の法的定義を満たします。そういう意味ではセルフアーカイビングも出版です。しかし、学術的、科学的な 意味では、ピアレビューの品質標準を満たすこと、すわなち、査読雑誌での出版が承諾されることが出版であると 考えられます。決して、セルフアーカイビングと セルフパブリッシング(自費出版)を混同してはいけません(ただし、審査前のプレプリントをセルフアーカイブ することは優先権の確立と著作権の主張のための優れた方法です)。

著作権についてはどうなのか?

著者は、審査前のプレプリントの著作権を持っています。したがって、誰の許可を得ることもなしにセルフアーカイブをする ことができます。審査後のポストプリントについては、著者はセルフアーカイビングを許可するように著作権移譲契約の変更を 試みることができます。これに失敗した場合は、既にセルフアーカイブしたプレプリントに 正誤表ファイルを追加したり、リンクを張ったりすることができます。 「セルフアーカイビングは合法か?」「出版社がプレプリントのセルフアーカイビングを禁止している場合はどうしたらよいか?」Rights MEtadata for Open archiving(RoMEO)プロジェクト、 著者によるセルフアーカイブに関する出版社の方針一覧を参照してください。

著作権移譲契約で明示的にセルフアーカイビングが禁止されている場合はどうしたらよいか?

「セルフアーカイビングは合法か?」「出版社がプレプリントのセルフアーカイビングを禁止している場合はどうしたらよいか?」RoMEOプロジェクト、 著者のセルフアーカイビングに関する雑誌の方針一覧を参照してください。

ピアレビューの改革: 何故ピアレビューにこだわるのか?

ピアレビューに 欠点がないわけではありません。しかし、ピアレビューを改善するには、まず代替となるシステムを注意深くテストし、 この代替システムが審査後の文献の品質を(現状と同じ程度に)維持する上で従来のピアレビューシステムと 比べて少なくとも同じくらい効率的であることを実証的に示す必要があります。今のところ、テストを受けた、あるいは、 効率性を示した代替システムはありません。

したがって、現存する ピアレビューの改革案や排除案は、現時点では単なる想像上の仮説であり、査読文献の自由化を考える上では 人の気をそらすものに過ぎません。セルフアーカイビングの運動は、既存の査読文献をそのままの形で、今ある 購読/ライセンス/ペイパービューによる有料アクセスのインパクトやアクセスの障壁から開放することをめざしています。 文献のピアレビューからの開放やピアレビューの代替システムのテスト、未テストの代替システムの実装をめざすものでは ありません( http://library.caltech.edu/publications/ScholarsForum/042399sharnad.htm http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Ebiomed/com0509.htm#harn45を参照してください)。

今や審査済み文献の自由化の利益は明らかです。将来登場する(かもしれない)ピアレビューの代替システムの(あるかもしれない)利益は 単なる仮説であり、まったくセルフアーカイビングを抑制したり、 待たせたりするものではありません

セルフアーカイビングは合法か?

著者が自分で書いたテキストは著者の知的財産です。著者は著作権を持っており、自分が良いと思えば、複製物を紙媒体や(たとえばセルフ アーカイビングにより)オンラインにより無料で提供することも売ることも自由です。たとえば、 審査前のプレプリントは常に合法的にセルフアーカイブ することができます

盗作ではない自分のテキストのセルフアーカイビングは、一般に2つの例外を除いて常に合法です。1つ目の例外は、 BOAIが関心を持つ種類のセルフアーカイビングには無関係です。2つ目の例外には 合法的な代替手段があります。

例外 1: 「買い取り契約」において独占的著作権が著者から出版社に譲渡された場合、すなわち、著者がテキストと引き換えに 報酬を受けた(あるいは、印税が支払われる)場合、著者はそのテキストをセルフアーカイブすることができません。テキストの著者性は著者が 保持しており、テキストは他の誰からも盗用されることができないという意味では、テキストは依然として著者の「知的財産」ではありますが、 テキストの複製物を売ったり、無料で提供したりする独占的権利は出版社に譲渡されています。

例外1BOAIとは関係がありません。なぜなら、BOAIが関心のあるのは、 査読済みの研究成果だけであり、これに対して著者が報酬を得ることや、印税収入を期待したり、求めたり、支払われたりすることはないからです。

例外 2: 審査を受けその雑誌での出版が承認された査読原稿の独占的著作権が著者から雑誌出版社に譲渡された場合、 その原稿を著者は(出版社の許可なしに)セルフアーカイブすることはできません。

ただし、審査前のプレプリントは既に(合法的に)セルフアーカイブされています(その時点では著作権移譲契約は存在していませんでした)。

著作権移譲契約により著者が審査後の最終稿(「ポストプリント」)をセルフアーカイブすることが許可されないような場合にも、 セルフアーカイビングの代替手段は常に存在します。既にアーカイブしたプレプリントに 正誤表ファイルを添付し、審査前のプレプリントを審査後のポストプリントと同じ内容にするために必要な変更点をリストアップする方法です。

Rights MEtadata for Open archiving(RoMEO)プロジェクトによる各雑誌のセルフアーカイビング・ポリシーの一覧表を 参照してください。調査した1万誌を越える雑誌の80%以上は既に「グリーン」(すなわち、著者のセルフアーカイビングを許可している)雑誌です。 残りの20%の「グレイ」雑誌の多くも著者が尋ねれば、同意するでしょう。

おそらくもっとも実用的な不履行戦略は、1991年以来物理学者が実行して成功している「聞かざる・言わざる」 戦略です。これは単に、プレプリント同様、ポストプリントもセルフアーカイブして、出版社が削除を求めるかどうかを待つ方法です。この不履行戦略を 実践してから15年ほど経ち、25万件の論文がセルフアーカイブされましたが、出版社の求めにより削除された論文は1件もありません。それどころか、 セルフアーカイビングにより論文へのオープンアクセスを提供することの研究上の利益を享受することを物理学コミュニティが明らかに望み、決定している ことに応えて、ほとんどすべての物理学雑誌はその後正式に「グリーン」雑誌となっています。対照的に、この15年間この不履行戦略を実践してこなかった 研究者は、15年間にわたる累積的研究インパクトを いたずらに失う結果となりました。

出版社がプレプリントのセルフアーカイビングを禁止している場合はどうしたらよいか?

審査済みのポストプリントをセルフアーカイブする権利は法的な問題です。著作権移譲契約はそのテキストを対象とするからです。 しかし、審査前のプレプリントは、著作権移譲契約が存在せず、著者が独占的な全著作権を持っている時にセルフアーカイブされます。 したがって、プレプリントの事前セルフアーカイビングを禁止する出版社の方針は、 法的な問題ではなく、 単なる出版社の方針の問題に過ぎません(たとえば青い目の叔父を持つ著者による論文の投稿を雑誌が禁止するのと同じようなものです)。 ただし、未審査のプレプリントが事前にオンライン上にセルフアーカイブされていないことを明示的に記載している契約書に著者が署名した 場合は、法的な問題になります。ただし、契約上の問題であって、著作権上の問題ではありません。もちろん、そのような恣意的な条項は 契約書から削除するべきです。

この方針は、「 インゲルフィンガー・ルール(Ingelfinger Rule)」の名で知られており、New England Journal of Medicine(NEJM)誌の編集者の Franz Ingelfingerにより、出版前に未審査の発見が一般に知られることによる健康への悪影響から人々(とNEJMの優先権)を守るために採用されたのが 始まりです。

したがって、インゲルフィンガー・ルール(出版前の発表禁止と 呼ばれることもあります)は著作権上の問題ではなく、「以前にセルフアーカイブされたことのあるプレプリントは出版の対象としません」という雑誌の投稿規程 の1条に過ぎません。

BOAIは、そのような方針の順守に関しては、次の3点を指摘することを除いて、著者に 何の提言もしません。(1) インゲルフィンガー・ルールは法的な問題ではない。(2) 研究の進展に興味を持つ著者からのセルフアーカイビング圧力に直面して、 インゲルフィンガー・ルールを採用する雑誌の数は急速に 減少している(たとえば、『Nature』はこれを廃止し、他の 雑誌もこれに追従している)。(3) インゲルフィンガー・ルールはどんな場合においても決して法的強制力のあるものではない。





「何をすべきか」関連のFAQ

セルフアーカイビングを促進するために研究者や著者は何ができるか?

所属する大学や研究機関OAI準拠の Eprintアーカイブを構築しているか確認してください。

査読前のプレプリントを所属機関の(あるいは中央の)Eprintアーカイブにセルフアーカイブしてください。

査読済みのポストプリント(あるいは、正誤表ファイル)を 所属機関の(あるいは中央の)Eprintアーカイブにセルフアーカイブしてください。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

セルフアーカイビングを促進するために研究者の所属機関は何ができるか?

どのようにしたら機関はEprintアーカイブへのコンテンツ収集を 促進することができるか?」を参照してください。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

OAの提供に機関として取り組む宣言に署名してください。

セルフアーカイビングを促進するために図書館は何ができるか?

機関の査読済み研究成果の対外的コレクションであるEprintアーカイブを 運営する者の候補は当然デジタル図書館員です。

(1) 大学のEprintアーカイブに論文をセルフアーカイブする方法(とても簡単です)を教員に説明するために 訓練を受けたデジタル図書館員を派遣してください。

(2) 個人的理由(忙しすぎる、技術的にできない)により自分でセルフアーカイブをすることができないと感じている著者の代わりに セルフアーカイブの「代行」を行うために 訓練を受けたデジタル図書館員を派遣してください。 教員は、ワープロ文書のデジタルフルテキストを提供するだけで、残りの作業(通常、論文あたり数10回キーを叩いたり、マウスを クリックしたりするだけです)はデジタルアーカイビング・アシスタントが行うことができます。

(セルフアーカイビングの代行は、セルフアーカイビングに第1の波を確実におこさせるために必要となるだけでしょう。 いったんアーカイブが限界量を達成すれば、視認性アクセス可能性インパクトという言葉で語られる セルフアーカイビングの報酬が その勢いを持続させるでしょう。そうなれば、新しい論文をセルフアーカイビングする ために必要な数個のキーを叩く作業を教員の代わりに学生がすることも可能になるでしょう。)

(3) 大学のEprintアーカイブの永続的な保存を保証する適切な保守、バックアップ、ミラーリング、バージョンアップ、 データ移行を行うためにWebシステム管理者に 協力するデジタル図書館員を参加させるべきです。ミラーリングとデータ移行は、OAI準拠のEprintアーカイブを 運用している他のすべての機関の担当者と協力して行うべきです。

機関アーカイブ一覧表を参照してください。

セルフアーカイビングを促進するために研究助成機関は何ができるか?

英国政府科学技術委員会および 米国下院歳出委員会が勧告したように、公的な助成を受けている研究は 単に出版されるだけでなく、(セルフアーカイビング、オープンアクセスジャーナルでの発表、あるいはその両者を通じて) 一般の人々がオンラインでアクセスできるようにしなければならないと命令してください。

申請者のこれまでの研究成果を引用している 研究業績集や履歴書オンライン上のフルテキスト へのリンク(セルフアーカイブされたもの、オープンアクセスジャーナルで発表したもの、あるいはその両者)を含めることを 交付申請の条件にしてください。

OAの提供に機関として取り組む宣言に署名してください。

セルフアーカイビングを促進するために出版社は何ができるか?

調査した(8,000誌以上の)雑誌の90%以上が採用している、著者によるプレプリントとポストプリントのセルフアーカイビングを許可するという 著者のセルフアーカイビングに関する「グリーン」ポリシーを採用することにより、オープンアクセスを支援してください。 Rights MEtadata for Open archiving (RoMEO)プロジェクトによる出版社のセルフアーカイビング・ポリシー 一覧表を参照してください。
学会、専門協会によるFree Online Scholarship(FOS)ポリシー声明書 「オープンアクセスへのグリーンロード: 余裕のある移行」も参照してください。

出版社は、Romeo出版社ディレクトリに追加するためにSHERPA/RoMEO プロジェクトのWebフォームにセルフアーカイビングに関するポリシーを入力すること、および、RoMEO雑誌ディレクトリに追加するために http://romeo.eprints.org/corrections.phpにある Maria宛てに雑誌リスト(ISSNとURLを付ける)をメールで送信することが 奨励されています。 .



1. 保存

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、アーカイブされたEprintは、オンライン上では紙媒体のように永久に存在したり、 アクセスしたりすることができないかもしれないからです。」

この心配は見当違いです。実際、これはまったくセルフアーカイビングについての心配ではありません。オンライン媒体そのものについての 心配です。したがって、心配すべき対象は問題となる一次データベースです。それは現在、出版社と図書館の管理下にある有料アクセスの 審査済み雑誌文献であり、そのほとんどは既に紙媒体とデジタル形式で存在しています。もし、オンライン版の保存について心配しているのなら、 その心配を訴えるべき相手は出版社であり、購読やライセンスの契約を行う図書館員です。現在、著者により所属機関のEprintアーカイブにセルフアーカイブ されているプレプリントやポストプリントは、直接オープンアクセスを提供することによりインパクトを最大にすることを目的としています。すなわち、 現時点ではこれらは有料の一次文献に対する単なる補完物であり、その代替物ではありません。

この見当違いの心配を考慮に入れたとしても、紙に印刷したものもまた永遠ではないことを思い出す必要があります。関連する パラメータは将来アクセスできる可能性だけです。紙媒体がそのままの形で存在する可能性は、(a)(比較的)頑丈な媒体で、(b)複数部数を 生産し、(c)地理的に分散させ、(d)人間の目に触れる機会を多くさせることができることにより達成されます。

これら4つの属性すべてはオンラインでも達成することができます(し、達成してきました)。そして結果的に保存の可能性は現行の 紙媒体の可能性と同じか、それ以上にすることができます。

これで話は終わりにするべきです。なぜなら、この心配が現実的で客観的な可能性に基づいたものでなく、以前の習慣や関係者の 直感に基づくものになれば、偏見や迷信について話していることになり、実際のリスクについて話していることにはならないからです。

派生的な問題もいくつかあります。たとえば、人々は世界的な停電や独裁政権について心配します。しかし、これらも可能性の問題であり、 紙媒体にも同等のものがあることを思い出すべきです。

人々はまた、旧式のワードプロセッサや周辺機器に記憶されている文書が現在は読めなくなったことから類推して、デジタルコードは たとえ保存されたとしても、常にアクセスができ、目で見ることができるかどうかを心配します。

この答えも可能性の問題だということです。紙媒体の印刷物が(それが存在した場合)世代を超えて正確に保存されてきた理由は、 それを保証することにより学問の世界における集団的利益が得られたからです。デジタルコーパスにも同じ理由で、集団的利益に関する これと同じ台本が存在しています。しかも、かつて建物や管理形態が替わる度に紙媒体の印刷物を移動したことに比べ、新技術に 替わる度にデジタルコードを移行することの方がはるかに容易です。

(そして、技術に対して未だに十分な確信を持てない人のためには、おかしなことではありますが、バックアップとしてプリントアウトした ハードコピーを残すというオプションが常に用意されています。実際、これは人の保存に対する心配の大きさをテストする良い方法です。 すなわち、コーパスがオンラインでいつでも、どこでも、誰にでもアクセスできるようになっても、依然として誰がどれくらい ハードコピーを持つ必要があると感じているかというテストです。)

まとめると、積極的な保存プログラムをデジタルライブラリーで実施することは、実際、重要であり必要ではありますが、 何であれ、しっかりとした保存プログラムを実行する必要性を、セルフアーカイビングの権利を直ちに行使することをためらったり、遅らせたり する理由として説明することはまったく不合理です。まして、差し当たりセルフアーカイビングとは、保存方式として紙媒体あるいは オンラインで存在している物の単なる補完物であり、代替物ではないからです。主要な雑誌出版社がアクセスやアーカイブの 負担を完全に機関アーカイブネットワークに押し付けることにより経費を削減し、ダウンサイジングにより単なるピアレビューサービス提供者に なることを決断する日が来るとしても、この機関ネットワークは、集団的研究遺産を守るために分散してデジタル保存の負担を引き継ぐ用意が できており、意思があり、実行することができるでしょう。しかし、それは今ではありません。したがって、(今現在のセルフアーカイビングに 関する)この心配は見当違いです

2. 認証

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、紙媒体のように、現在読んでいるEprintが最終版であるかどうかを 確信することが、オンラインでは決してできないからです。」

ここでも、この心配を正しい状況に置き、正しく捉える合理的な方法は、印刷版の真偽についても可能性の問題にすぎないことや、印刷版の 真偽の可能性を最大にすることができるまさに同じ要因でオンライン版の真偽の可能性を最大にすることもできることを思い出すことです。実際、もし望むなら、 公開ハッシュやタイムスタンプ、暗号化などの技術を使うことにより、真偽について現行の印刷版よりはるかに高い可能性や検証可能性を オンライン版に与えることができます。

また、認証の問題をピアレビュー(7)雑誌の証明(5)の問題(別の問題です)と 混同してはいけません。また、「バージョンコントロール(23)の問題と混同してもいけません。これらのバージョンには、 セルフアーカイブされたプレプリント、改訂稿、最終的に承認を受け出版された原稿(ポストプリント)、改訂・修正されたポスト・ポストプリント、 査読者の意見、著者の返答、改訂第2版などがあります。このうち、審査を受け承認された最終原稿は1つの重要な「マイルストーン」ですが、 知の発生学においては唯一のものではありません (また、常に最良なものであるわけでもありません)。

最後に、「認証」についての心配がセルフアーカイビングと セルフパブリッシングを混同することにより生じている場合があります。具体的に言うと、セルフアーカイビング運動の第一の目的は、 審査済みの原稿をアクセスやインパクトの障壁から開放することです。審査済みの原稿はピアレビューを行った雑誌によりすでに 「認証されて」います。この認証と、セルフアーカイブされた原稿が実際に、著者が審査済み原稿であると表明している原稿であるかどうかという真偽の 認証に関してあなたの抱く心配とを混同してはいけません。この場合、著者が「自己証明している」ことは、これが実際、雑誌が証明した最終原稿で あることだけです。もちろん、それが、雑誌が証明した最終原稿ではない可能性は常にあります。しかし、著者が送ってくれた紙媒体の別刷りが 最終稿でない可能性があることも真実です。例によって、どちらの場合にも(特に機関における研究業績集のためのセルフアーカイビングにおいては) その可能性を満足のいくまで低くすることができます。また、保存の場合のように、セルフアーカイビングは、 現段階では、既存の認証形態の単なる補完物であり、代替物ではありません。

したがって、ここでもまた、認証に関する心配はセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的根拠にはまったくなりません。

3. 変造

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、 紙媒体ではできないような方法でオンラインではEprintが 変更されたり、変造されたりするかもしれないからです。」

「認証」に関する心配(2)が自分の論文をセルフアーカイブする著者による「自己変造」についての心配だとすると、 この2番目の「変造」に関する心配は、著者以外の「他人による変造」についての心配です。

ここでも、オンライン版の原稿が変造されていない可能性を必要なだけの大きさで保証する簡単で効果的な方法がある というのが答えです。したがって、これも問題ではありません(また、ここでも、 セルフパブリッシングの問題と 混同してはいけません。これは、雑誌で出版された審査済みの論文のセルフアーカイビングとは関係ありません)。 変造されていない可能性を高くする必要がどの程度であっても、セルフアーカイブされた論文についてもそれを 達成することができます。

したがって、変造に関する心配はセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的根拠とはなりません。

4. ナビゲーション(情報過多)

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、 紙媒体だけでも読むべきものが既に多すぎるくらいあり、 ナビゲートすることが困難であるので、Eprintの追加はこの状況を悪くするだけだからです。」

この心配は他の心配より取るに足りないものです。情報過多(http://www.sims.berkeley.edu/how-much-info/summary.htmlを参照)については紙媒体よりオンラインの方がはるかに ナビゲートすることも管理することも容易であることは明らかです。

セルフアーカイビングの第一の目的は、審査済みの雑誌文献を、インパクトを妨げる有料のアクセスから開放することです。この文献は 既に紙媒体で出版されているものです(もうそうではないと考えるのなら、異議を唱えるべき相手は雑誌やその審査員であり、 セルフアーカイビングやオンラインという媒体ではありません)。すべての審査済み文献がオンラインにより無料でアクセスできるとしても、すべての人が 紙媒体の時よりたくさん(あるいは少なく)読まなければならないと感じる必要はありません。情報をオンライン上に置かないことや有料のままにしておくことは いずれも情報過多の治療薬には(そんなものがあったとしても)なりません。単に、読者が文献を読めるか否かがアクセス料金を払えるかどうかにより 決まることになり、読者の合理的な判断では決められなくなるだけです(未審査のプレプリントはもちろん(読者が望むなら)紙媒体であっても オンラインであってもまったく気にする必要はありません)。

まとめると、ナビゲーションや情報過多に関する心配はセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的根拠にはまったくなりません。

5. 証明

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、オンラインの論文は冊子体の雑誌のようには証明されていないからです」

この心配もまた出版とアーカイビングの混同 によるものです。雑誌出版社(と審査員)は証明(Certification)を提供しますが、アーカイブは単にアクセスを提供するだけです。著者は、 セルフアーカイビングの際に、アーカイブする審査を受け出版済みの原稿が、実際に雑誌が審査し出版した(そして保証した)ものとまったく同じ原稿であることを「自己証明」します。 例のごとく、オンラインであろうと紙媒体であろうと、この自己証明が正しいか否かは可能性の問題です。そして、その可能性は必要なだけ 高くすることができます。

ふたたび、証明に関する心配はセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的根拠にはまったくなりません。

6. 評価

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、オンラインでは紙媒体のような評価プロセスがないからです。」

これも出版とアーカイビングの混同です。 雑誌の編集者や審査員は草稿や改訂版を評価し、それらが雑誌の品質基準を満たしていると判断した場合、最終稿が基準を満たしていることを証明します (ピアレビュー)。著者は査読済みポストプリント(と未審査のプレプリント、おそらくさらに、改訂版のポスト・ポストプリント)を それに相応しいタグ付けをしてセルフアーカイブします。私たちは査読済み原稿が実際に査読済み原稿である可能性をどの程度にするかを 決めることができますが、それは評価の 問題ではなく、再び認証(2)の問題にすぎません。

したがって、評価に関する心配のどこにもセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

7. ピアレビュー

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、オンラインのEprintは紙媒体のような審査を受けていないからです。 ピアレビューはどうなってしまうのでしょうか。」

ここでも、プレプリントポストプリント の混同に加えて、出版とアーカイビングの混同が見られます。 著者は未審査のプレプリントと審査済みのポストプリントの両者(など)をそれとわかるように明確にタグ付けしてセルフアーカイブします。ピアレビューは 審査員によりいつもと同じように実行され続けます。ピアレビューは媒体とは関係 ありませんし、セルフアーカイビングもピアレビューシステムを変えるものではまったくありません。

セルフアーカイビングやオープンアクセスがピアレビューと相容れないものであるとする根拠のない心配は一つには、「ピアレビュー改革論者」から生じています。 彼らはまったく独自の改革方針を何とかしてオープンアクセスの基本方針にリンクさせようとしてきました(おそらく、未審査のプレプリントのセルフ アーカイビングの意味を誤解したからです)。

ピアレビューの改革や置換を望む者は、まず代替案を提出・テストし、それが少なくとも現在ある文献と同等の品質、信頼性、ユーザビリティをもつ文献を 生み出すか否かを示すことが必要です。一方、セルフアーカイビングは現在ある査読済み文献をそのままオープンアクセスで提供するものであり、ピアレビューでは なく有料のアクセスから開放するためのものです。

以下の文献を参照してください。

ピアレビューの見えざる手
http://www.nature.com/nature/webmatters/invisible/invisible.html

ピアレビュー改革仮説 - 検証 http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Hypermail/Amsci/0479.html

「システムの改革」に関する警告メモ http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Hypermail/Amsci/1169.html

自己選択による厳格な吟味 対 ピアレビュー : 補完か置換か? http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Hypermail/Amsci/2340.html

ピアレビューに関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

8. 費用負担

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、必ず誰かがこのための経費を支払わなければならない、すなわち、 無料では何も得ることはできないからです。」

この心配には多くの誤解が含まれています。中でも世界規模のネットワーク化されたコミュニケーションの性質についての誤解です。 インターネットへの接続は、今では、世界中のほとんどの大学や研究機関の研究基盤として標準になっています。メールやWebサイト、 Webブラウジングの経費を誰が支払っているかについても同じように心配しているのでなければ、セルフアーカイビングについても心配するべきでは ありません。アクセス料金の支払いは、なんにせよ関係する配管工への支払いではないのです(すなわち、大学のネットワーク基盤について 支払っているのは出版社ではないのです)。)

審査済みの研究文献はWeb上の他のトラフィックに比べて 非常に小さいものです。犬の尻尾にいるノミにすぎません。審査済みのノミを心配する前に、大学や研究機関の研究者により日々生産され 使用されているオーディオ、ビデオ、マルチメディア(そのほとんどは研究とは無関係に使用されています!)のための記憶容量や帯域を 心配するべきです。

例によってここでも、印刷と配布のコストに対応する物を見つけなければならないと考える、ある種の アーカイビングと出版の混同が見られます。 しかしそのようなものはありません。すべての人が誰でも、どこにいても、永久にそれにアクセスすることができても、永久的なオンライン アーカイビングの論文あたりの経費は実質上ゼロです。これはグーテンベルグの時代の出費であり、ポスト・グーテンベルグの世界では、 チェシャーキャットのにやにや笑いだけを残してあっさりと消えてしまいました。

実は、依然として支払わなければならない必要不可欠な出版経費が1つ存在しますが、これはインターネットの使用とは無関係です。 それはピアレビューを行うための経費です。しかし、この経費は、現在支払っているアクセス料金の 10〜30%にすぎません。したがって、年間使用料の節約分により 容易に払うことができるでしょう。

「誰が配管工に支払うのか」という心配の残りは、考えるに、資本主義(14)に関する心配の1つの バリエーションです。この心配を晴らす最善の方法は、セルフアーカイビングにより文献がフリーになったポスト・グーテンベルグ世界に おける審査付き出版は、グーテンベルグの時代に読者たる機関に提供されていた有料の商品(テキスト)の代りに、(依然として 市場が求めるオプションのアドオン商品やサービスを除いて)著者たる機関に提供する1つのサービス( ピアレビュー)にダウンサイズされる可能性が高いことに 気づくことです。

しかし、たとえ審査済みの文献がセルフアーカイブされたとしても、人々が有料の商品に代金を支払い続けることを望む限り、 未来が必ずしもこのようになるわけではありません。文献がアクセスやインパクトの障壁から完全に自由になっても、配管工は全額の支払を得る ことができるでしょう。

費用負担に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

9. ダウンサイジング

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは雑誌出版社を維持できなくなる大きさにまで縮小させるかもしれないからです。 そうなったら、私たちはどうなるでしょうか。」

著者や機関により提供される審査済みの資料集成の全体に対して無料のオンラインアクセスが広がった場合に、学術科学雑誌出版社が採る進路を 確実に予想できる人はいません。冊子体や出版社によるオンライン版、 その他のオプションに対する有料の市場が永久に続くかもしれません。縮小化し小規模な出版社として再出発するかもしれません。あるいは、まったく消えてしまうかも しれません。また、この変化が比較的緩やかに起きるかもしれませんし、比較的急速に起きるかもしれません。

現存するどの雑誌出版社がどのような条件下で何をし続けたいと考えるかは事前には明らかではありません。結論を言えば、最後に残る唯一の 必要不可欠なサービスはピアレビューでしょう。もしもそれが市場に残る唯一のサービスになった時には、現存する有料アクセスの雑誌出版社は オープンアクセスジャーナルという新しいニッチにダウンサイズする意思があり実行することができるか、雑誌の刊行を止めるかのどちらかでしょう。刊行を 止める場合は、そのタイトル(すなわち、雑誌の編集者、編集局、審査員、原著者)は単純に、新しいニッチに適応しようと手ぐすねを引いて待っている 新設のオンラインのみのオープンアクセスジャーナル出版社(たとえば、Institute of PhysicsNew Journal of Physics Public Library of ScienceBioMed Central)に移行するでしょう。しかしながら、 セルフアーカイビングは局所的、急速的、体系的に成長するというより、分散的、漸進的、無秩序的に成長するものであるので、進化は突然生じるのではなく、 雑誌ごとに余裕のある移行を調整するための十分な時間を持って 漸進的に進行するでしょう。

出版社のダウサイジングに関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

10. 著作権

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは違法で、著作権契約に違反しており、キャリアや生活を危うく させる可能性があるからです。」

制限的著作権移譲契約をしていたとしても、著作権に関する章と セルフアーカイビングの法的状況の 章を参照してください。

手短に言うと、 80%以上の雑誌が既に公式にセルフアーカイビングを支持しており、まだ支持をしていない雑誌でも多くは著者が尋ねれば 著者によるセルフアーカイビングに同意するでしょう。また、セルフアーカイビングを認めていない雑誌については、投稿前のプレプリントと アクセプト後の「正誤表」ファイルのセルフアーカイビングで十分であり、これらは完全に合法です。キャリアや生活に関係するものは ピアレビュー研究インパクトであり、セルフアーカイブを行っている 著者はすべてこの両者を享受しつづけることができ、誰かが他人の犠牲になる必要はありません。

皮肉なことに、オープンアクセスのためには著者が著作権を保持する必要性があり、オープンアクセスは著作権の改革に依存する、あるいは、改革そのものであると 考えている善意の支持者によりオープンアクセスは抑制されてもいます(これは、オープンアクセスは ピアレビューの改革を必要とする、あるいは、改革を伴うという意見、あるいは、オープンアクセスを達成する唯一の方法は (「ゴールドの」)オープンアクセスジャーナルによる発表への移行であるという 意見と同様に、誤りであり、逆効果を招くものです)。

著作権に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

11. 盗作

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、オンラインでは誰かのテキストを盗んで、それを自分のテキストであるかのように 発表することが紙媒体に比べてはるかに容易だからです。」

これも可能性の問題です。確かに、「オンラインでは誰かのテキストを盗んで、それを自分のテキストであるかのように発表することが紙媒体に比べて はるかに容易です」が、オンラインではそのような盗みを発見することもはるかに容易です。そして、紙媒体でも両者(盗みと発見)をすることが可能です。

そうすることが重要であれば、オンラインでの発見から逃れることができないようにして、オンラインの方が紙媒体より盗作を難しくすることができます。 しかし、そうすることがそれほど重要であるかどうかでさえ明らかではありません。盗作に関する心配は一般に アーカイビングと出版の混同によるものです。 ひとたび研究成果が審査を受け出版されると、他の誰かが著者を犠牲にして研究成果から何らかの利益を得ることは難しくなるからです(査読済みの版は その後に生ずる著者性に関する論争をすべて押えます)。

審査前のプレプリントは話が別です。これについては先に述べた認証(2)で一部取り上げられており、 以下の優先権(12)でも一部取り上げます。

しかし、審査済みのポストプリントについては、盗作が心配だからという理由でセルフアーカイビングを控えるのは、盗作が心配だからという理由で まず第一に紙媒体でそれを発表することを控えるのと同じように合理的ではありません。

盗作に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

12. 優先権

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、紙媒体とは異なりオンラインでは優先権を確立できないからです。」

優先権の確立についても可能性の問題ですが、もし望むなら、オンラインの方が紙媒体より優先権の確立を(より早く)はるかに確実にかつ高い信頼度で 行うようにすることが容易にできます。認証(2)を参照してください。さらに重要なことは、すべての重要な審査済みポスト プリントについては、優先権はそれを出版することにより既に確立されており、セルフアーカイビングは単にアクセスとインパクトを最大にするだけだと いうことです。

優先権に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

13. 検閲

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、検閲によりオンラインでどれを見せ、どれを見せないかを決めることが できるかもしれないからです。」

この心配もおそらく一部はおなじみの アーカイビングと出版の混同 によるものです(研究成果を出版することを拒む出版社の役にWebやアーカイブを割り当てたものです)。

オンライン文献がアーカイブやアーカイブ管理人の意のままであることは真実です。しかし、それに相当する紙媒体の文献は同じように図書館の 意のままです。図書館は我々の研究成果も「検閲すること」を選んだかもしれません。

これもこの媒体での可能性をどの程度にしたいのかという決めの問題です。ミラーリングやキャッシング、ハーベスティング、分散プログラミングを行うことは すでに、悪意があるも知れないローカルの担当者の手から論文を守るためにいくらかの助けとなっています。そして、審査を受け発表済みのポストプリントについては、 (アクセスを高めることに反する)この議論はまったく意味がありません。

検閲に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

14. 資本主義

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、アクセス料は資本主義や市場経済、需要と供給、自由企業体制の特質 だからです。無料アクセスは社会主義や市場干渉のようで持続できないように感じられます。」

これも迷信に過ぎません。完全に資本主義的な無料の例がたくさんあります。そのもっとも顕著なものが広告です。 潜在的な顧客の広告へのアクセスに課金することにより広告の潜在的インパクトを抑えるという広告主の考えが 意味をなさないとすれば、潜在的な利用者の研究成果へのアクセスに課金することにより研究成果の潜在的インパクトを さげるということもまったく意味をなさないことになります。

また、審査済みの研究成果をセルフアーカイブすることが何らかの市場干渉になるということはありません。機関や個人が紙媒体の研究成果や 出版社のPDF、その他オプションのアクセス料金を支払うことを望むなら、彼らはそうすることができます。しかし、電話の時代において、 長距離通信に必要不可欠なものをかたに郵送経費を取り続ける必要性や正当性がなくなったように、ポスト・グーテンベルグ時代に おいては、必要不可欠なもの(査読原稿)をかたにそのような有料のオプションを取り続ける必要性や正当性はもはや存在しません (セルフアーカイビングからの攻撃にさらされた資本主義が、審査済みの研究成果を発信しインパクトを最大にするこの新しい、より 効率的かつ経済的な方法の利益を研究者が取れないようにすることはむしろ保護主義のように感じられます)。

資本主義についての心配の2つのバリアントは、出版社が読者たる機関へ有料の商品を提供することから著者たる機関にピアレビューサービスを提供する ことへ最終的に移行するという意見に対する懐疑から生じています。厳密に言えば、これらの心配は答える必要さえないということに注意してください。 なぜなら、この最終的な移行は仮説だからです。一方、審査済みの文献をセルフアーカイビングにより開放することは仮説ではありません。しかし、 ここではとにかく答えておきます。

質問 1: 「ピアレビューサービスに直接対価を支払うことは、非常に格式のある雑誌のピアレビュー経費を暴騰させることになりませんか?」

質問 2: 「ピアレビューによる収益をより多く得るために低品質の研究成果をアクセプトできるように、ピアレビューによる収益は 品質の基準を下げることになりませんか?」

両者に対する答えは同じです。審査員は無料で審査を行っており、雑誌の質や格式(とインパクト)は棄却率によります。 アクセプトする基準を下げて収益を増やそうとする試みは単に、基準を高くすることにより結果的に競争に有利となる品質を低下させるだけです。 これはピアレビューに元々備わっているカウンターウェイトです。ピアレビューの料金を上げることも同じです。審査員は無料で審査を行っているので、 ある雑誌が他の雑誌より高い料金を課す理由はありません。もしそれをすれば、著者だけでなく無料奉仕の審査員まで競争に駆り立てる危険を冒すことになります。 この無料奉仕という異常な分野における競争的商品は品質であり、ほかの何ものでもないからです。

著者がセルフアーカイビングをしないように買収したり、著者に利益の分け前を与えたり(印税の支払)することにより有料アクセスの障壁を 守ろうという意見がしばしば提出されてきました。しかし、印刷による収益とインパクトによる収益の間の トレードオフはこの異常な分野にはまったく相応しくないものですので、その引き換えに潜在的なインパクトを(審査済み研究成果の)著者に 捨てさせるほどのお金を準備できることはほとんどありえません。

資本主義に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

15. 読みやすさ

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、スクリーンでテキストを読むことは不便で、目に悪いからです。 また、 ベッドの上や浜辺、風呂で読むことに適していないからです。」

現在のところ、様々なとりとめのない読書に関しては依然として紙媒体の方がオンラインより好ましいことは疑いの余地がありません。 この状況は間違いなく変わるでしょうが、今でも、それはセルフアーカイブをしない理由にはまったくなりません。第1に、審査済み研究文献の 科学的、学術的使用法の大部分はブラウジングや検索であり、頭から順に読むことではないからです。この意味では、 オンラインナビゲーションは既に比較にならないほど 優れています。第2に、考慮すべき巨大な潜在的読者がさらに存在していることです。あらゆる形態の研究成果へのこれらの読者の アクセスは現在のところ負担できないアクセス料金により妨げられています(Odlyzko 1999a, 1999b ; http://www.arl.org/stats/index.html)。そのような完全に権利を奪われた人々に とっては、オンラインであるかどうかはまったく問題ではありません。最後に、 頭から順に読むために、アーカイブ版はいつでもプリントアウトする ことができます。

読みやすさに関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

16. 画像

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、オンライン画像は紙媒体に比べて解像度が低い上に、非常に多くの記憶容量や 非常に長い伝送時間を要するからです。」

画像もまた間違いなく改善されるでしょう。美術や組織学のような2、3の例外を除いて、デジタルグラフィックスは既に十分満足のいくものです。 利用者は常に豪華版の画集を見る必要があるかどうかを決めることができます。そのため、利用者のためにあらかじめ決定しておく必要はありません。 オンライン版は当分、どんな場合でも補完品であり、代替品ではないからです。また、画像は有料のアドオンサービスが依然として 市場に残っているかどうかを調べるきわめて自然な試験台です。多くの場合、Web上のイラストは既に紙の上のイラストよりはるかに優れており、 より高解像度のイラストやよりダイナミックレンジの広いイラストを、特にリンクとして、持つことができます。これは天文学のようにデータを はじめからデジタル形式で収集しているような分野のイラストには特に当てはまります。

画像に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

17. 出版社の将来

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは雑誌出版社の将来に何らかの影響を与えるかもしれないからです。」

費用負担(8)、ダウンサイジング(9)、 資本主義(14)に関する心配への回答を参照してください。ただし、これはすべて推測や仮説であることに 注意してください。 もしそうすることが必要になる時には( それが必要になるかどうか、またいつ必要になるかは明らかではありませんし、現在のところ、すべての証拠は これとは反対の兆候を示しています)、不要な経費をカットし、新しいオープンアクセスジャーナルニッチにダウンサイズすることをいとわず 実行できる雑誌出版社は、余裕のある移行中でそれを実現する ことができるでしょう。既存の雑誌出版社がそれを望まなかったり、それができなかったりした場合は、新設のオンラインのみのオープンアクセスジャーナル 出版社(たとえば、Institute of PhysicsNew Journal of PhysicsPublic Library of ScienceBioMed Central) がこれらのタイトルを引き継ぐべく待機しています。出版社に残されるピアレビューサービスの投稿論文当たり経費は、年間のアクセス料金を100%削減したうちの 10〜30%を使って、著者たる機関が支払うことができます。 そして、査読雑誌出版は出版の一部に過ぎません。無料ではない出版の残りのほとんどは、紙媒体だけでなくオンラインにも 進出するでしょう。

出版社の将来に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

18. 図書館と図書館員の将来

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは図書館と図書館員の将来に何らかの影響を与えるかもしれないからです。」

審査済みの雑誌文献は、セルフアーカイブ運動の進展速度や成功に関係なく、とにかくすべてオンラインになるでしょう。 たとえ、これにより図書館員のスキルや機能が再構築される必要があるとしても、いずれにせよこれは生じることになるのです。 デジタル雑誌コレクションの管理がこのギャップを埋めるだろうと考えた人もいましたが、年間のアクセス料金を払うことを止めることを除いて、 これらの管理にどの程度のことが必要なのかは明らかではありません。一方、著者や機関のEprintアーカイブは、研究者のセルフアーカイビングを 補助すること、機関Eprintアーカイブを保守すること、世界中のEprintアーカイブとの相互運用性を保つこと、アーカイブのアップデートをすること、 アーカイブを保存すること、など、あらゆる面でデジタル図書館員にこれまで以上のスキルを要求することになります。

さらに、機関Eprintアーカイブの構築と保守において、 図書館は雑誌危機を解決するための投資を行うことになるでしょう。年間の全雑誌購読予算(これは節約できるはずです)のうち、 10〜30%を著者たる機関のピアレビュー経費を賄うために転用したのち、残りの70〜90%を、(冊子体あるいはオンライン版を問わず)書籍などの 有料資料の購入をはじめとするその他の図書館活動の資金として使うことができます。

図書館や図書館員の将来に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

19. 学会の将来

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは学会の将来に何らかの影響を与えるかもしれないからです。」"

学会は潜在的にセルフアーカイブ運動の協力者かつ受益者です。何よりまず、学会とはすなわち私たちです。したがって、研究や 研究インパクトにとって良いものは何であれ、学会にとっても良いものです。

しかし、学会の多くは同時に雑誌出版社でもあり、それゆえ、いつかダウンサイジングの痛みに直面するかもしれません。しかし、商業出版社とは異なり、 学会が忠誠を誓うものは、もちろん何にもまして研究であり、研究者、すなわち、私たちです。私たちは、会議開催や奨学金の支給、陳情活動などの 「善行」に資金を提供するための有料アクセスによる収益を得る必要性を正当化する意見を聞くことになるでしょう。しかし、一方で、これらの善行の中には 必要不可欠なものではないものもあり、また、研究インパクトを犠牲にする必要がある ようなものは間違いなく1つもないということがすぐに明らかになるでしょう。また、(会議の開催など)本当に必要不可欠な善行についても、研究インパクトの 代償を払う必要はなく、他の方法で資金を得ることができることが証明されるでしょう( アクセスとインパクトの因果関係が周知の事実になった後で、学会の会員に次のようにはっきりと尋ねた場合を想像してください。 「オープンアクセスを先送りしアクセスを有料のままにしておくことにより、あなたの『無料の』研究成果を見ることができる人とできない人を決め、その結果、 研究インパクトを失うことがあっても、あなたは学会の善行の援助を続ける意思がありますか」)。

学会(とおそらく大学出版局)はまた、規模を縮小して単なるピアレビューサービスの提供者になることをせず、雑誌の刊行を停止することを選ぶ商業雑誌出版社の 雑誌タイトルを引き継ぐ自然な候補でもあります。

学会の将来に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

20. 大学の陰謀

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、Eprintアーカイブへのアクセスの有料化など、大学が研究者の論文を使った 何か別の計画を持っているかもしれないことを私は心配しているからです。」

この心配は大学当局やその動機に対する限度を越えたある種の(希望的な)疑惑の観点に基づいていると思われます。

無料の審査済み文献は、論文によっては実質的に「市場性」のない難解なものであることを忘れてはいけません。したがって、 難解ではあるが無料ではない研究成果(印税が発生する書籍や教科書)を奪い取る可能性があれば、困窮した大学がそれをする かもしれないという疑惑が生まれるかもしれませんが、市場性のない、無料の審査済み研究成果報告書では、たとえ大学が望んだとしても、 そこから収益を搾り出せる可能性はほとんどないでしょう。それどころか、要するに出版社が設定する購読/ライセンス/ペイパービューによる アクセス料金のうち「ペイパービュー」課金を選び、これにより機関アーカイブのアクセス料金を課金することにより 論文から搾り出すことができる潜在的な印刷物収益に比べて、すべてのアクセス障壁を取り去ることにより最大となった研究成果の 潜在的なインパクト収益の方がはるかに多くの 収益を大学は私たちと共に得ることができます

さらに、大学がアクセス料金の節約をできるかどうか、また、雑誌危機を解除できるかどうかは研究成果へのアクセスを無料化する 度合いに完全に依存しています。大学がアーカイブのアクセス料金を徴収しようとすることは何であれ、単に現行のアクセス料金を そのまま保持する役割を果たすだけです(単に有料のドル箱商品を握る手が変わるだけです)。

大学の陰謀に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

21. 偶然の発見

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、思いがけない幸運な出来事は、索引カードや図書館の書架、雑誌の目次をブラウジング している時にしか起きないからです。」

この心配は魅力的ではありますが、それほどのスペースをさく価値はありません。画面上でのデジタルの検索やブラウジングでも、紙媒体での アナログの検索やブラウジングとまったく同じように偶然の発見をすることができることが時間とともに明らかになるでしょう。近接効果による 発見のチャンスはどちらの方法でもまったく同じです。検索やブラウジングによる腕や指の疲れはとにかく少なくなるでしょう。

偶然の発見の消失に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

22. テニュア獲得と昇進

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは審査済み出版物と見なされず、審査済み出版物となる機会を 妨げることさえあるかもしれないからです。」

これもまたアーカイビングと出版の混同の例です。 セルフアーカイビングの運動は審査済み出版物を有料アクセスによるアクセスやインパクトの障壁から開放することを目的と しています(審査からの開放ではありません)。未審査のプレプリントはオンラインの場合、紙媒体とは違って 出版物とは見なされません

この心配の残りの半分はおそらく著作権(10)に関する心配( ここを参照)や 事前発表禁止という方針 Harnad 2000a 2000b)に関する心配のバリアントでしょう。どちらも根拠はありません。

テニュア獲得や昇進に関する心配にはセルフアーカイビングを直ちにやめさせるような合理的な根拠はありません。

23. バージョン管理

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、多くのバージョンが存在して、どれがどれであるか、また、それが正しいものであるか どうかを確実に知る方法がないからです。」

セルフアーカイブされたプレプリント、改訂稿、アクセプトされ出版された最終稿(ポストプリント)、改訂・修正されたポスト・ポストプリント、 査読者の意見、それに対する著者の返答、改訂第2版などが考えられます。OAI準拠の Eprintアーカイブは各バージョンをユニークな識別子でタグ付けします。利用者はアーカイブ横断のOAI検索を使うことにより、 あたかもすべてのアーカイブが1つの索引目録にあるかのように、すべてのバージョンを検索し、「検索結果」を識別・比較して、最新の正式版あるいは 決定版を選ぶことができます。

24. ナプスター

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、ナプスター(Napster)やグヌテラ(Gnutella) のように盗みを行っているように 思えるからです。」

セルフアーカイビングにより自分のデジタル生産物を著者側が無料化することは、ナプスター(www.napster.com)やグヌテラ(gnutella.wego.com)により 他人の無料ではないデジタル生産物を消費者側が搾取することとは正反対のことです。

両者を明確に区別し距離を置くことは非常に重要です。 なぜなら、セルフアーカイブ運動とナプスターの混同は意図的であれ非意図的であれ、セルフアーカイビングが最適かつ当然のことになるための運動 の進展を遅らせることになるだけだからです。

(「情報は無料」というのは馬鹿げています。いつの時代にも無料の情報と有料の情報がありましたし、現在もそうです。 有料の情報を盗むということは、まず第一にそれを提供しようというインセンティブを殺ぐことになるだけです。)

25. マークアップ

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは適正なマークアップを危うくするかもしれないからです。」

マークアップ(タイトルや見出し、節、図、表、段落、その他の識別あるいは操作のできる可能性のあるサブパーツなど、文書のあらゆる機能的部分に タグ付けすること)はデジタル文書においてますます重要になっています。最も一般的なマークアップ「言語」は、SGML と呼ばれるものと、SGMLのサブセットでWeb上のデジタル文書の条件に合わせたXMLと呼ばれるものです。現在では ほとんどの著者は文書を作成したり表現したりするためにWordやPDF、HTMLTEX のいずれかを使っています。したがって、作成された文書は豊かな表現力や十分な柔軟性を持つマークアップがなされていないので、 参考文献へのリンク付けやデータ形式の柔軟な再変換、永久的な保存を 行うための将来登場する形式への信頼できる劣化のないデータ移行などの重要な機能を持たせることができません。この表現力の豊かなマークアップは現在 出版社で行われていますが、おそらく手作業であり、それゆえコストのかかる作業です。

したがって、XMLによるマークアップなしにセルフアーカイブされた文書を持つEprintアーカイブは短期的なアーカイブに過ぎません。 長期的なアーカイブには出版社により提供される表現力の豊かなマークアップが必要です。しかし、もし無料のオープンアクセス文書を好むという 現代の利用者の嗜好により、出版社がマークアップコストを回収することが不可能になったら、マークアップの利点とアーカイブされた文書の 長期的機能性の両者は失われてしまうのでしょうか。

この問題の答えは次のとおりです。

(1)今のところ、セルフアーカイビングは、出版社が提供しているものの代替品ではなく、補完品です。すなわち、 出版社が提供する査読済みテキストの有料版にアクセスできない機関の利用者のためにそれと同等なオープンアクセス版を提供するものです。 出版社のマークアップ版はそれを購入することができる人にとってはより多くの機能性を持つことになるでしょうが、査読済みのフルテキストを 最終的にすべての人がアクセスできるようになれば、今すぐその研究インパクトを最大にすることができます。これがセルフアーカイビングの 当面の短期的な目標です。

(2)オープンアクセスの短期的目標が達成された後にどうかなるかについてはいくつかの可能性があります。そのうちのどれが実際に 起きるのかは誰にもわかりません。もっともありそうな未来は次の2つです。

(a)何も変わらない。セルフアーカイブ版にはそれを必要とするすべての読者がアクセスすることができ、出版社のマークアップ版は 今後も購入することができる人だけがアクセスすることができる。マークアップコストは出版社の利益により負担され、マークアップの利益は従来どおり それを購入することができる人のものになる。ただし、マークアップされていない(Word、HTML、PDF、TeX形式の)フルテキストはその他の あらゆる人が利用することができる。

もし最終的に(a)が実現するなら、当面のセルフアーカイビングを控える理由がないことは明らかでしょう。私たちはそれから得られるすべての もの(最大のアクセス)を手にしており、失うものは何もないからです。オープンアクセスの直接的効果を保ったまま、現状が続きます。

しかし、別の可能性もあり、おそらく、こちらの可能性のほうが高いと思われます。

(b)オープンアクセス版を好むという利用者の嗜好により、これまでのようにアクセス料金でマークアップコストを賄うことができないくらい 出版社のマークアップ版に対する需要が減少する。そうなったら、マークアップのコストは誰が持ち、どのように提供されるべきか。

もし最終的に(b)が実現するなら、オープンアクセスは広く行き渡るので、アクセス料金という形の費用回収を読者たる機関の側から得ることはもはや 不可能になります。しかし、読者たる機関は図らずも著者たる機関でもあります。彼らは今や、思いがけなく得られた年間購読料金の節約分の一部を、 購読している論文ではなく、発表する論文にとって必要不可欠なコストをカバーすることにまわすことができる立場にいます。現在、すべての雑誌購読 機関により支払われているコストの合計は、購読している論文あたりの平均で1,500ドルになります。すべての購読機関がこのコストの節約分をすべて自分のものにせず 一部を持ち出せば、500ドル以下である論文あたりのピアレビューのコストは、節約分の多くを残したまま、この年間節約分から容易に支払うことができます。論文あたりの 物理的なアーカイブコストは無視できます。論文あたりのマークアップコストはどのくらいでしょうか。ピアレビューコストより高いのでしょうか。

今のところ、正確なところは誰もわかりませんが、ユーザフレンドリーなXMLマークアップツールが開発されれば、デジタルテキストの作成のように、 マークアップ作業の大部分を著者に任せることができるでしょう。Wordはまもなく、現在HTML版を自動的に生成しているように、XML版を自動的に生成するように なるでしょう(それは間違いなく、ウィンドウベースの手作業の修正が必要なHTML版と同じように不十分なものでしょうが)。 しかし、全体的に言えば、必要があればさらに効率的で利用しやすい利用者本位のマークアップツールが開発されるでしょう。

しかし、これらの適応的変化をもたらす必要性という圧力は、無料のオープンアクセス版の存在によってはじめてもたらされるものです。したがって、マークアップに 関する心配は当面のセルフアーカイビングを控える理由にはなりません。

26. 分類

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、私たちは何よりも主題分類システムを必要とするからです。」

大学のデジタルアーカイブを考える上で(少なくとも)2つの方法があります。どちらも重要で必要性のあるものですが、両者は まったく別物です。

(1)大学デジタルアーカイブ。大学のデジタルライブラリー、より具体的に言えば、大学が生産する学術的成果、科学的成果、教育的成果(これには雑誌論文、 書籍、教材、その他大学が生産し、デジタル成果に含めたいと考えるものを含みます)を保存する大学デジタルライブラリーとしての大学デジタルアーカイブ。 機関リポジトリに関するSPARC声明書MITのDSpaceを参照してください。

そのような大学のデジタル成果物のすべてをナビゲート可能とし、まとめあげることを可能とし、また、他大学のデジタル アーカイブに保管されている同じようなデジタル成果物との相互運用を可能とするために、分類やタグ付けのための厳密なシステムを 持つことがきわめて重要なことは疑問の余地がありません。実際、これは、そのような大学デジタル成果物ライブラリーが実用性や有用性を 持つための前提条件です。

(2)大学Eprintアーカイブ。大学が生産するすべてのピアレビューを受ける研究成果(査読前後)への オープンアクセスを提供する方法としての大学Eprintアーカイブ。これは、ほとんど例外なく、(その時期は査読の方法によりますが)遅かれ 早かれ査読雑誌にも発表される研究成果です

(2)が(1)の非常に特別なサブセットであることは明らかでしょう。この特別なサブセットは際立った、あるいは差し迫った分類の問題を 抱えていないことも明らかです。これに保管されるものは書籍ではなく、雑誌論文です。大学図書館のカード目録には雑誌論文の目録は作成されていません(掲載されている 雑誌の目録があるだけです)。雑誌論文を検索したい場合、私たちは大学の分類システムを当てにしません。INSPECやMEDLINE、ISIなどのインデックスサービス を使用します(これらは独自の分類システムを持っていますが、それらの分類システムが、フルテキストのインデックスファイルに基づくGoogle 型の論理検索より優れたパフォーマンスを示すとは思われません。たとえば、citebase が実現しているような、被引用頻度やヒット率、新しさ、関連性に基づいて検索結果を順位付けするような目的では、特に太刀打ちできません)。

査読済みの研究成果コーパス(および現時点で特定の研究成果集成が主な対象文献であるような大学Eprintアーカイブ)は分類の問題を抱えていないこと、 また、大学の研究成果物でアーカイブを満たす(その結果、ようやく潜在的なインパクトについての慢性的な漏れに栓をし始めることができる)と いう明らかに重要な作業を行う前に分類の問題を解決する必要はないし、解決を待つべきでもないことを明白にしておくことが重要です。

方法(1)(大学デジタル成果物ライブラリー)は非常に重要で取り組むべき価値があります。また、方法(2)(機関セルフアーカイビングによる 査読済み研究成果へのオープンアクセス)の極めて貴重な協力者でもあります。ただし、それは、2つの方法が互いに抑制しあう(たとえば、方法(2) が解決すべき分類の問題を持っていることを暗示することで必ず生じます)のではなく、助け合う場合に限ります。

27. 機密性

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それは特許や委託研究の機密を危うくするかもしれないからです」

セルフアーカイブは、出版と同じように、公表したい研究成果についてのみ行います。発表したくないなら、セルフアーカイブをする必要は ありません(Eprintアーカイブは、そうした方が都合が良いと判断した場合は、デポジットするテキストの使用を機関内部のみとし、一般への 公開をしないというオプションも持っています)。

28. 手ごろなアクセス料金

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、それはアクセス料金をもっと手ごろな価格にすることを妨げるからです。」

セルフアーカイビングの直接的な目的は研究インパクトを最大にすることであり、アクセス料金をもっと手ごろな価格にすることではありません。 研究成果の審査付きの出版が始まって以来、研究インパクトは(研究や研究者により)不可避的に失われてきました。論文へのアクセスを提供する コストが高かったからです。今や、オンラインメディアにより、 この累積的インパクトの損失に終止符を打つことができるようになりました。もちろん、例外のない手ごろなアクセス料金も同じ効果を持つかもしれません (本当に例外がなければ、です。すなわち、すべての査読研究成果に対するすべての潜在的読者を抱える大学がすべての論文に手ごろな料金でアクセスできれば、です)。 雑誌出版社が例外のない手ごろな価格の有料アクセスを提供でき、また、そうするよう努力することを本当に奨励されたとしたら、すばらしいでしょう。しかし、 その一方で、今日の研究者が(例外のない手ごろな有料アクセスが登場する日を)待つことを望んでいないこともまったく理解できることです。 研究者は自分の研究成果のインパクトを今すぐ最大にするために(生きており、正気でいる限り)セルフアーカイブをするでしょう。

有料アクセス版とオープンアクセス版が競争している限り、手頃でないアクセス料金が続くのではないかと考える人もいるかもしれません。また、この競争が 経費削減や必要不可欠な機能へのダウンサイジングの奨励、もっと手ごろな料金にさせることに対して、反対の効果を持つのではないかと 考える人もいるかもしれません。付加価値のある有料版の価格が十分手頃になり、その付加価値に市場の支持を得るだけの需要があれば、縮小するのは オープンアクセス版に対する需要であり、それに伴いセルフアーカイブに対するインセンティブも減少するでしょう。例外のない手頃感はさらなる インパクトの損失を無視できるくらい小さくするからです。

しかし、それは私たちが現在いる場所ではありません。もはや必要ではないと、 日々の潜在的なインパクトを放棄し続け、ものごとが結局どうなるか、どうならないかを辛抱強く待っているような研究者は愚か者であるというべきでしょう。

29. 満ち足りし者

「私はセルフアーカイビングについて心配していません。なぜなら、本当に問題がないからです。というのも、 私の機関は既に私が望み必要とするすべてのアクセスやインパクトを与えてくれているからです。私は満足しています。」

研究者、特に裕福な機関の研究者は批判的な反省を行わないと、次のような感情を自然と持つようになります。「どこに問題があるのですか。 私や職場の同僚は紙の時代に既に満ち足りていました。オンラインの時代となった今ではさらに良い状態になっています。 机に座ったままオンラインですべてにアクセスすることができるので、図書館に行く必要がありません。「ビッグディール」契約のおかげで、 以前より多くの雑誌を見ることもできるようになりました。」

これは「ハーバード対ハーバナット(持つ者対持たざる者)」という誤解とある程度関係しています ( http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Hypermail/Amsci/3177.html )。また、アクセスとインパクトの因果関係を理解していないしるしでもあります。

確かに、裕福な機関はそうでない機関より査読雑誌文献へのより良いアクセス(や紙の時代よりさらに良いアクセス)を享受しています。しかし、 存在する2万4千誌の査読雑誌のすべて、あるいはほとんどすべてに対するアクセス料金を払える余裕のある機関は1つもありません。ほとんどの 機関はそのほんの一部(それもだんだん減少しています)の料金を払うことができるだけです( http://www.arl.org/stats/index.html)。そして、(ハーバナットだけでなく)ハーバードでさえ、増大する雑誌購入予算にうめいています。 したがって、存在する雑誌のすべてにアクセスできる研究者はどこの機関にも1人もいません。オンラインによるオープンアクセスがもっとも進んでいる 幸運な研究分野における利用パターンは、すべてがアクセス可能で、タイピングが唯一の障害である場合、利用者は非常に多くの文献を利用することを 示しています( http://cfa-www.harvard.edu/~kurtz/jasis-abstract.html)。

だから、もっとアクセスを。コインの裏側はなおさら重要です。一流機関の研究者はお互いのために書いているだけだと言います。 しかし、本気で言っているわけではありません。すべての研究者は研究インパクト(被引用回数)に興味を持っています。それがキャリアアップや さらなる研究資金の獲得のために必要なものであるからだけではなく、知識への貢献の大きさや重要性を測るものでもあるからです。 アクセスとインパクトの間の強い因果関係を示すデータは 最近のものであり、まだ収集している最中なので、研究成果へのアクセス料金を支払うことができない機関に所属する世界中の潜在的利用者が アクセスを拒絶されることにより失われている自身および機関のインパクトの 日ごと、週ごと、月ごと、年ごとの累積的損失の量を知っている研究者は少ないはずです( http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Temp/self-archiving_files/Slide0025.gif)。

この式において、ハーバードが失う量はハーバナットとほぼ同じです。なぜなら、ハーバードよりはるかに数の多いハーバナット機関に 所属する利用者による潜在的なインパクトをハーバードは失っているからです。確かに、ハーバードは他人の研究成果へのアクセスについてはいくぶん 恵まれているかもしれませんが、次の点はハーバードにとってもハーバナットと同じように真実です。2万4千の学術雑誌で毎年発表されている250万の論文のどれをとってみても、 負担できないアクセス料金という障壁のために潜在的な利用者のほとんどがアクセスできないというのが真実です。そして、(これもまた危機的ですが) たとえ2万4千誌の雑誌をすべて原価で売ったとしても依然としてこれは真実なのです。

現在自分は充ち足りし者であると考えている研究者には、セルフアーカイビングにより研究成果をオープンアクセスにすることを遅らせている間に、 日ごと、週ごと、月ごと、年ごとに蓄積されるインパクトの損失がいかに大きいかを正確に指摘することが残されているだけです。 上で述べたKurtzの研究などで示されている推定値は、ダウンロード インパクトでみると、この無用なインパクトの損失がかなりの量になることを示しています。 被引用インパクトに関してもっと広く引用されている研究 によれば、その値は336%です( http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/Temp/self-archiving_files/Slide0006.gif)。

30. 料金節約分の再配分

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、料金システムが崩壊したら、所属機関の図書館が、他機関の査読済み研究成果の 購入を止めることで得た料金節約分を、自機関の研究成果を査読してもらうための雑誌への支払に再配分する方法がなくなるからです。」

意思のある所に、道は開けます。必要は発明の母です。

31. ゴールドを待つ

「私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、オープンアクセスジャーナルが唯一の安定的な解であるからです。」

世界中の2万4千誌の査読雑誌で年間に発表される250万件の論文をオープンアクセスにするには 2つの道があります。 「ゴールデンロード」とは、2万4千誌のオープンアクセスジャーナルを新たに創刊するかオープンアクセスジャーナルに変換することです。 「グリーンロード」とは、有料アクセスの雑誌に発表した論文を著者がセルフアーカイブすることです。ゴールデンロードでは 2万3千誌のオープンアクセスジャーナルが1つずつ創刊あるいは変換されるのを待つことになります(1991年以来、現在までに約 1,000誌のオープンアクセスジャーナルが存在しています http://www.doaj.org/)。 グリーンロードでは、セルフアーカイビングを待つだけです。どちらの道も辿る価値のあるものであり、お互いに補完しあうものですが、 ゴールデンロードは長く、時間のかかる、不確実な道です。一方、 グリーンロードは短く、時間のかからない、既に実績のある道です(すでに毎年3倍ずつオープンアクセスは増加しており、 1991年以来安定して進行中です)。したがって、 最適のオープンアクセス戦略は次の両面 作戦です。

(1: ゴールド)すでに適当なオープンアクセスジャーナルが存在する (現在1,000誌、全雑誌の5%未満)場合は、それに論文を発表し、

(2: グリーン)残りの論文はあなたが選んだ有料アクセスの雑誌 (現在23,000誌、全雑誌の95%以上)に発表して、同時に、所属機関のオープンアクセスのEprintアーカイブにセルフアーカイブする。

(1)図書館の雑誌危機とそれに付随する雑誌の 価格設定とその妥当性の問題は、(2)研究者の論文のアクセスとインパクトの問題とは同じものではないことを 明確に理解する必要があります。オープンアクセスのためのセルフアーカイビング(グリーン)は(2)は解決しますが、 (1)は解決しません。オンラインの時代における雑誌出版の不変の最終的な形が本当にゴールドになる運命にあるとしても、また、 それだけに限るとしても(現在の状況がそうなっているかどうかは誰も知りません)、グリーンロードもまた、そこに至る もっとも時間のかからない、もっとも確実な道です。出版社の将来(17)を参照してください。 しかし、ゴールドが本当に運命的な終局形であるかは疑問が残ります。出版社はこれを知っています(それが 92%の雑誌が既にグリーンである理由です)。したがって、図書館員や研究者が、単にゴールドではなくグリーンだという理由で、また、 必ずしもゴールドにつながらないからという理由で、必須にすれば必ず100%の オープンアクセスが得られ 研究者にとって確実な利益を導くセルフアーカイビングに抵抗したり、延期したりすることは不合理です。

32. 毒リンゴ

「たとえ雑誌がセルフアーカイビングに青信号を出しているとしても、私はセルフアーカイビングについて心配しています。なぜなら、私がしたとたんに信号が 赤に変わるかもしれないからです。」

少なくとも6つの理由で、雑誌の90%以上は既に著者がセルフアーカイブすることを認めています。 以下がその6つの理由です。順番はおおよその重要度を表しています。

(1)オープンアクセスは研究や研究者にとって最適であり、不可避なものである。 オープンアクセス(OA)は明らかに実現途中にあります。研究成果の利用度やインパクトを高めるという意味での研究や研究者へのその利益は、 立証されており、議論の余地がありません。その進展は止めることが できません。雑誌をグリーンにすることは、学術雑誌出版社がOAを支持することや研究や研究者の一番の関心事と関心を共有していることを 示す自然な方法です。現在ではOAに反対することは雑誌出版社にとってますます悪い広告になってきています。

(2)グリーンはゴールドに対する保険である。 同時に、OAジャーナル出版への変換(「ゴールド」)のリスクはやはり相当大きなものです。誰が何に支払うのか、 何にどれくらいのコストがかかるのかについては、依然として不透明です。OAのコスト回収モデルはまだ十分な長さのテストを受けておらず、 さらにわずか約5%の雑誌についてテストしただけです。したがって、グリーンの実行は ゴールドへの移行を促す圧力に対する合理的な保険です。「もし著者がOAを本当に望むのなら、すべての犠牲を払うことやすべてのリスクを とることを私たちに押し付けないで、私たちの承認と賛意を使って自分自身のためにOAを提供することでその願いを示してください。」

(3)グリーンを実行することのリスクは低い。 物理学分野の雑誌は1991年以来、事実上グリーンでした。そして、そのコンテンツの一部はもう何年もの間セルフアーカイビングにより100%OAでした。 しかし、その購読料による収益が落ちることはありませんでした。アメリカ物理学会(APS)は 最初のグリーン出版社でした。ある物理学分野の雑誌(JHEP)は、ゴールドとして創刊された(助成による)ましたが、 グリーン出版社(IOP)に移行することで、 逆にグリーン雑誌に変換することに成功しています。

(4)もしその時が来たら、グリーンは出版社がゴールドへと緩やかに移行することを可能にするだろう。 著者のセルフアーカイビングによるOAの増加は、雑誌ごとの急激的かつ全か無か的なものではなく、論文ごとの漸進的かつ無秩序的なものです。 それは雑誌出版社がOAに順応するための時間を与えます。 ゴールドへ移行すべき時がもしも来たら、先行するグリーンの準備期間により出版社は、突然で破局的な移行ではなく、 安定的で余裕のある移行を行うことができるでしょう。 (ゴールドへの移行を促す利用者たる機関の購読やライセンスの中止は、もし起きれば同時に、著者たるまったく同じ機関に思いがけない年間予算の節約 を生み出すことも同じくらい重要です。この節約分で、利用者たる機関側が現在支払っている購読料(論文の受入)の代わりに、著者たる機関側 の出版手数料(論文の発表)を支払うための機関全体の経費をカバーすることができるからです。)

(5)OAはまた雑誌のインパクトも高める。 インパクトの向上は、著者とそのキャリアや研究のためになるだけでなく、雑誌のためにもなります。なぜなら、 雑誌のインパクトファクター(これは雑誌の販売を助ける)は掲載されている個々の論文のインパクトの平均値だからです。

(6)研究機関や助成機関は間もなくセルフアーカイビングを必須とする。 米国下院歳出委員会 英国議会科学技術委員会は、助成を受けた論文のセルフアーカイビングを命ずる勧告を出しました。 この命令が実施されると、「グリーン化しなさい、さもないと 著者を失うことになります」という圧力を雑誌に与えることになるでしょう。したがって、今グリーン化することにより、 この命令を先取りすることはまったく合理的な行動です。

出版社が今の段階でグリーン化するためのこれら6つの理由を考慮に入れると、今現在、出版社の青信号に応じてセルフアーカイビングを 行っている(それによりさらに多くのOAを生み出し、また、さらに多くのOAへの需要と信頼を生み出している)著者が、 92%の雑誌が既にグリーンである今日において、今後、さらに多くの雑誌がグリーン化 しないまま放置させやすくすると誰もが考えるとは想像し難いものです。 一方、出版社が青信号を出している今になってもセルフアーカイビングに踏み出していない著者は、研究コミュニティは 結局、それが主張するほどOAを必要としないし望んでもいない、したがって、グリーンもゴールドも本当はどちらも求めてはいないのである、と 主張するための大きな根拠をオープンアクセス反対派に与えることになるでしょう。

ロスアラモスの補助定理ゼノンのパラドックスも参照してください。

 

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