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「学術情報センター紀要」第9号(1997年3月) 要旨

[last updated: 1998.5.7]

1. 演題 「21世紀の政治・経済システム」 [本文:日本語]
佐和 隆光 (京都大学経済研究所長)

2. 演題 「わが国のマルチメディアネットワークの将来」 [本文:日本語]
青木 利晴 (日本電信電話株式会社常務取締役・研究開発本部長)

3. 情報化社会の国際化と日本語 [本文:日本語]
山田 尚勇 (中京大学情報科学部)
要旨 現在世界的な規模で進行しつつある、社会の情報化と国際化に伴い、日本語とその表記法とは、いま新たな問題に直面している。すなわち、言語学的には世界でもっともやさしい部類に属する日本語が、世界でもっとも複雑な表記法を用いているが故に、外にはなかなか国際的に受け入れられず、内には情報化の出発点となる機械可読化、すなわち入力が複雑で非能率、かつストレスの多い作業となることである。本稿では、長期的な課題として、いかにして日本語の表記を国際化するかについて、また短期的な課題として、いかにして現在の表記法のままの文章を能率よく、かつ楽に入力するかについて、考察する。

4. CJK(中国語/日本語/韓国語)環境下での国際標準件名標目システムの適用 [本文:日本語]
相原 信也 (国立国会図書館), 内藤 衛亮 (学術情報センター)
要旨 本稿は国際図書館連盟(IFLA)第52総会において、IFLA多文化図書館サービスに関する常任委員会が開催し、IFLA目録常任委員会;分類・索引常任委員会が後援したOne Day Workshopにおいて発表したものの日本語版である。日本語版として原典に注及び参考文献を付して拡大した。

中国語、韓国語、日本語は、異なるスクリプト、すなわち表記形とその読み・ローマ字による翻字の組からデータが成り立っている。本論文では、このような異なるスクリプトを扱わなければならない言語における国際標準件名標目の適用可能性を論じる。件名標目の国際的な標準化の前提となるいくつかの観点に即して、日本の件名標目表を紹介する。MARCと件名標目の本質的な違いは、前者が「入れもの」で、後者は内容であるというところにある。人的・技術的要素、言語、管理・運用の観点から、国際件名標目システムを実現するために解決しなければならない要件を論じる。

5. 総合目録オンラインDBと情報検索システムの連携方式 [本文:日本語]
大山 敬三 (学術情報センター), 高須 淳宏 (学術情報センター)
要旨 本論文では、学術情報センターの目録所在情報システム(NACSIS-CAT)と情報検索システム(NACSIS-IR)の連携方式について述べている。オンラインで更新される書誌・所蔵データベース中のレコードに対して、自動的に情報検索用のインデクスを付与してエンドユーザへ検索サービスを提供するシステムの構成の検討を行っている。データベースサーバへの負荷、検索応答性能、ファイル容量などの面から、いくつかの方式を評価して実際のシステムの基本設計を行った結果として、データベースの構造と性質に応じた最適な構成が示されている。

6. 物理的な空間としての研究室やオフィスにおける情報組織と視覚的な手がかりによる探索 [本文:日本語]
越塚 美加 (学術情報センター)
要旨 個人の情報利用行動を明らかにする上で、研究室における情報利用を無視することはできない。本稿では、図書館・情報学及びオフィス・オートメーション・システムの研究分野で発表された文献をもとに、研究室や会社のオフィス内での情報利用行動、パーソナル・ファイル、すなわちそこに蓄積される資料類の組織法と検索法について検討した結果、研究室内の情報探索は空間的な位置、資料の色や形等の視覚的な情報及びその資料を扱った時間に関する記憶によって行なわれることが明らかになった。

7. 多次元データに対する項目反応モデル [本文:日本語]
孫 媛 (学術情報センター)
要旨 テスト理論の分野で近年重要性が増している項目反応理論(IRT)は、テストデータの一次元性を仮定している。しかし、現実のテストでは、項目に正答するのに複数の能力が関与していると考えざるを得ない場合も多い。そのような多次元データに対して、被験者を多次元潜在空間における能力ベクトルとして位置づける多次元項目反応理論(MIRT)が提案されている。MIRTモデルは、特に認知診断テストへの適用が有望視されているが、いくつかの問題も残されている。一方、個人の能力特性値の変動を導入することによって、一次元IRTを拡張したものとして、一般化項目反応理論(GIRT)がある。GIRTモデルでは、攪乱能力次元の影響を、能力特性値の変動の個人差によってある程度説明できるので、多次元データへの適合が改善される。本研究では、MIRTモデルとGIRTモデルの解析的観点からの比較、両モデルの特徴・適用場面の検討が行われる。

8. ヤクート語語彙研究 (2) 方向表現 : サハ族英雄叙事詩オロンホを資料として [本文:日本語]
藤代 節 (学術情報センター)
要旨 東・中央シベリアを中心として、広い地域に分布するチュルク系言語ヤクート語の方向に関連する語彙についての研究である。ヤクート語にはその主要な話者であるサハ(orヤクート)族が今日の分布域に至るまでに辿ってきた過程が、特に語彙において反映されており、そのことがチュルク諸語の中にあって、ヤクート語が特異な言語とされる所以でもある。この言語の特異性を明らかにするため語彙の中でもセットとして扱えるものを取り上げる。既に色彩名称に関する研究を発表したが、本稿ではこれに続いて同じくセットと出来る語彙として方向表現を選び、研究の対象とした。サハ族の英雄叙事詩オロンホを主な資料とし、ヤクート語の方向表現の整理分析をこころみた。

9. 簡易幾何モデルを用いたコンピュータ合成動画像の圧縮 [本文:英語]
後藤田 洋伸 (学術情報センター), 小野 欽司 (学術情報センター)
要旨 MPEG規格はコンピュータで合成された動画像の圧縮には必ずしも適していない。合成動画像をネットワークを通して転送する場合、全体を「概略部」と「詳細部」とに分け各々を個別に圧縮する方が、全体をまとめてMPEGを用いて圧縮するよりも、よりよい圧縮率が得られる。ここで概略部とは、動画像のうちの一部で、簡略化されたモデルを用いて受け手側で容易に再現できるものであり、一方詳細部とは、全体の動画像と概略部との差分動画像であって送り手側で計算される。本稿では、このアイディアを押し進め、さらにフレーム間相関をも利用することのできる方法について述べる。この方法では、簡略化モデルとして簡易幾何モデルを採用し、概略部を再現すると同時に詳細部の近似も行なう。具体的には、簡易幾何モデルを用いてオプティカル・フローを近似計算し、それを用いて詳細部のフレーム間相関を推定する。これにより、詳細部をさらに縮小し、ネットワーク上の転送量を軽減することができる。

10. AODBMS: Phasmeとその形状検索処理機能を持つ画像検索プラグイン・モジュール [本文:英語]
フレデリック アンドレス (学術情報センター), クリストファー クローデ (東京大学), 小野 欽司 (学術情報センター)
要旨 本稿では、筆者らが開発を進めている「Phasme」と呼ばれるアプリケーション指向のデータベースシステム(AODBMS)について述べる。Phasmeは高いパフォーマンスを提供し、オープンかつ柔軟なDBMSに必要とされる今日のマルチメディアシステムの要求条件を満たしている。Phasmeは、データ構造としてExtended Binary Graph(EBG)を使用し、インターオペレーション(inter-operation)とイントラオペレーション(intra-operation)の並行性を利用したデータベースであり、データタイプから実行モデルまで、完全にカスタマイズ可能である。また、異なったデータ構造を効率的にサポートするために、動的プラグイン(Plug-ins)機構や多ソート代数を提供している。さらに、これらの機能をkernelに持たせているので、商用の汎用DBMSに比べて、カスタマイズしやすいのが特徴である。本稿では、これらの特徴が画像検索アプリケーションの設計や実装にどれだけインパクトを与えるかを論じ、Phasme上の高性能なイメージ検索システムの構築に際して有効なことを示す。本文では、革新的な形状の画像検索方式がPhasmeのExtended Binary Graph(EGB)にどのようにマッピングされるかを具体的に示す。またアーキタイプ変換を利用して、類似イメージ検索処理に対する解決策を示す。

11. 単語間の係受け情報を用いた文献検索手法 [本文:日本語]
池田 和幸 (東京大学大学院工学系研究科), 高須 淳宏 (学術情報センター), 安達 淳 (学術情報センター)
要旨 キーワード検索は現在文献検索手法の主流を占めているが、出現単語とその統計的特徴量のみで検索要求に適合した文献を選別せねばならず、その限界は明らかである。そこで我々は、文献の表題やキーワードの検索においてそれらの構成単語間に成立する係受け関係に着目した検索を行うことで、言語の持つ情報を活用し検索精度を高めることを提案する。本手法では、事例分析に基づいた文の係受け解析及び単語2-gramを用いた複合名詞の係受け解析を通じて文献情報を二分木の形で構造化し検索インデックスとしている。問合せは文献表題と同様の構造を持った擬似的な自然言語で発行するため、検索者は検索言語を意識することなく検索要求を問合せに反映することができる。本稿ではこれらの手法を説明するとともに、プロトタイプシステムを用いた検索実験を通じて本手法の有効性を検証する。

12. 認識誤りを含むテキストにおける検索手法 [本文: 日本語]
太田 学 (東京大学大学院工学系研究科), 高須 淳宏 (学術情報センター), 安達 淳 (学術情報センター)
要旨 本稿では、OCRによる認識誤りを含む和文のテキストに対する3つの確率的な全文検索手法を提案する。提案手法では、認識誤りの存在を考慮に入れた上で検索を行なうため、OCRによる文書認識後に必要だった手作業による修正編集を行なう必要がない。検索時に認識誤りを吸収するために、誤る可能性のある文字とその確率を保持した類似文字テーブル及び文字の2-gram統計に基づいた文字の接続確率を保持した2-gramテーブルを用いる。 検索の手順は、1つの入力検索語に対して類似文字テーブルを参照することで複数の検索文字列を生成し、それぞれの検索文字列を用いて全文検索を行なう。検索された文字列の適否は、類似文字テーブルによるOCRの誤り易さに基づいた確率と2-gramテーブルによる文字の接続確率によって判断する。具体的にはこれら2つの確率に基づいた得点を各検索結果に与え、その得点が閾値を越えていれば検索条件を満足するとし、さもなくば棄却する。本手法を用いて検索効率(再現率と適合率)に関する実験を行なった結果、認識誤りを考慮しない場合と比較してはるかに検索効率が改善されることを示せた。

13. ATMネットワークにおける自動再送方式に関する研究 [本文:英語]
趙 偉平 (学術情報センター), ルンキーラティクン スワン (学術情報センター), 浅野 正一郎 (学術情報センター)
要旨 ATMネットワークは、異なるサービス品質(QoS)を要求するさまざまなサービスを提供している。電子バンクや電子キャッシュなど信頼性の高いアプリケーションを実現するために自動再送方式(ARQ)が有力な手段として期待されている。本論文では、まず、ATMネットワークにARQを導入する際の要素を観察し、次に、選択再送(SR)を基づいたARQ方式を提案する。本方式では受信側で誤りセルを検出した際、それ以降に受信した正しいセルは保持しておき、誤りセルのみ再送要求する。異なる転送距離と異なる転送誤り率について性能評価を誤り訂正率、スループット及びバッファーサイズを性能指標として理論解析とシミュレーションにより行った。その結果、本提案方式は誤り訂正性能を大幅に改善し、高いスループットを維持することが分かる。

14. ATM網におけるセル廃棄特性解析 [本文:英語]
ルンキーラティクン スワン (学術情報センター), 趙 偉平 (学術情報センター), 浅野 正一郎 (学術情報センター)
要旨 ATMは超高速通信ネットワークの実現方式として検討されているが、バースト性の通信トラヒックを含めて様々なトラヒックに対応することができるため、ATM網の性能評価には一般のトラヒックモデルを考慮する解析方法が必要とされている。本論文では、ATM網を 待ち行列にモデル化し、セル廃棄特性の解析について廃棄率の上限に着目する。実際、廃棄率の上限値を求めるとき、トラヒックモデルの到着確率の母関数が重要な要素となるが、一般の到着過程、特にバースト性をもつものについては、このような関数の計算が非常に複雑であることが知られている。そこで、本論文では、バースト的なトラヒックモデルの到着確率の母関数に対する近似計算法を提案する。本計算法はバースト性をもつトラヒックモデルの性質、すなわち、バースト的な確率過程は、複数の基本的な確率過程から構成されていることに基づいている。厳密計算法との結果比較では、提案した近似計算法が高い精度で結果を与えており、かつその計算量が非常に小さいため、ATM網の性能評価法として有効に適用できることがわかる。

15. シェーピングによるトラヒック特性への影響 [本文:日本語]
計 宇生 (学術情報センター)
要旨 ATM網におけるユーセージパラメータ制御(UPC)のための機構としてGCRAが標準化されている。それはLeaky Bucketとして知られている方式と同等である。その他に、Jumping WindowやMoving Windowなどの方式もそのために提案されている。一方、トラヒックシェーピングではUPCと同様のアルゴリズムが使われることが多いが、異なるシェーピング機構によるトラヒックの特性への影響についてはまだ明らかでないことが多い。本稿では、シェーパー及び交換ノードの両方における遅延及び損失に着目し、Leaky BucketとMoving Window方式をシェーピングに用いた場合の比較を行う。それによって、Leaky Bucketが他の方式よりもすぐれた特性を有していることを示す。

16. 動画像情報サービスのためのオープンプラットフォーム技術について [本文:日本語]
相澤 彰子 (学術情報センター)
要旨 ネットワークを利用した動画像情報サービスの現状を概観し、広域バックボーン上でサービスを実現するために今後必要となる中継/変換技術について考察する。

17. DBMSにおけるクエリーコスト評価のためのニューラルネットアプローチ [本文:英語]
ジハド ブロス (学術情報センター), ヤン ビエモン (ベルサイユ大学(フランス)), 小野 欽司 (学術情報センター)
要旨 本論文はデータベース管理システムのクエリー実行計画のコスト評価における既存の解析モデルに代る新しいアプローチを提案している。本アプローチはニューラルネットワークとconectionist conceptに基づいている。ニューラルネットワークはデータベースの一定条件環境下での論理的な代数操作やユーザ定義のメソッドの実行コストを算出することを学習するように訓練される。そしてこのネットワークが他のケースでの同様の操作のコストを評価するために使用される。このアプローチはニューラルネットワークが普遍的に適切であることが既に証明されているため、本アプローチの一番の利点は、ユーザがコスト評価しなくてもユーザ定義メソッドへの適用性が良いことである。他の利点は環境依存のパラメータを暗黙的にカバーすることである。

18. インターネットにおける実時間通信のQOS保証 [本文:日本語]
森野 博章 (東京大学工学系研究科), 相澤 彰子 (学術情報センター)
要旨 インターネットの需要はデータ通信から動画・音声通信へと広がっているが、TCP、UDPといった既存のトランスポートプロトコルは動画・音声に必要な実時間伝送の品質を十分に保証することができず、新たなプロトコルが求められている。本稿ではインターネットで実時間伝送に対する品質保証を可能にするプロトコルの研究を紹介する。プロトコルの中心的機能はネットワークの負荷に応じた動的レート制御とメディアスケーリングであり、提案された各プロトコルについてレート制御のアルゴリズムと、画像品質への影響を論じる。最後に各方式の性能比較を行うとともに、ネットワークインフラストラクチャの分野で品質保証を実現しようとする研究例を報告する。

19. Wellcome財団の助成活動と研究評価を支援するデータベースの役割 [本文:日本語]
山崎 茂明 (東京慈恵会医科大学医学情報センター)
要旨 Wellcome財団は、1936年に死去したSir Henry Wellcomeの意志で創設された。その目的は、生物医学と医学史の研究を支援することである。現在、世界最大の私立慈善助成財団となり、1994年の助成金支出は2.4億ポンドにのぼっている。その一部門であるPRISM (Unit for Policy Research in Science and Medicine)は、財団として取り組むべき重要なテーマの識別や申請の採択にあたり、その意思決定を支援している。さらに、研究資金によって助成された研究が、実際どのような成果を産みだしているかを分析するためにROD(Research Outputs Database)データベースを作成し、研究評価のための調査活動を行なっている。RODデータベースは、イギリスの生命科学研究から産み出された論文の書誌情報に助成機関の情報をリンクしたものであり、助成機関にとっては提供した資金の効果を判定することができる。また、Wellcome財団は、WISDOMシステムを開発し、人事募集、研究助成金、科学政策情報などの3つのユニークなデータベースを提供している。今後、わが国において効果的な研究助成方式を確立するためには、助成された研究活動の評価が重要になり、Wellcome財団の活動はそのモデルとなるだろう。

20. Medlineデータベースからみた臨床試験文献の分析:コクラン共同計画との連携 [本文:日本語]
山崎 茂明 (東京慈恵会医科大学医学情報センター)
要旨 本稿の目的は、臨床試験と無作為化比較試験に関する文献を対象に、論文数の成長、言語と発行国別にみた分布などを明らかにすることである。1966年から1995年のMedlineデータベースにもとづき、臨床試験と無作為化比較試験に関する文献を、1991年に新しく導入された出版タイプを識別キーにして検索した。その結果によれば、日本は世界の科学文献の生産において、高い占有率をしめているが、臨床試験と無作為化比較試験に関する文献のシェアは、その他の主要先進国と比較して小さい。今日、臨床試験や無作為化比較試験は、医療の有効性を評価するために利用されるようになっている。コクラン共同計画では、米国国立医学図書館と協力して、臨床試験や無作為化比較試験によって出版された論文を識別している。これにより、臨床家や医療従事者は、Medlineデータベースに収録された臨床試験文献から科学的な証拠を見いだすことができる。わが国においても、医学領域におけるデータベースを改良するために、JMEDICINEや医学中央雑誌は、臨床試験や無作為化比較試験についての十分な情報を索引する必要があろう。


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