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「学術情報センター紀要」第8号(1996年3月) 要旨

[last update: 1996.12.27]
1. ルース・ベネディクト「菊と刀」の再評価 : 情報源/テキスト/引用文献ほか [本文:英語]
井上 如 (学術情報センター)
要旨 ルース・ベネディクト(RFB)の「菊と刀」は、1946年に刊行されてからこんにちまで50年間、日本研究に関心を抱く内外の学者にとってさまざまな議論の対象となり続けてきた。日本語も知らなければ日本に来たこともない著者の書いた書物の影響力が、刊行後半世紀経ったこんにち再び高まってきているという現象は解明に値する。それは、日本の降伏からもちょうど半世紀が過ぎたという漠然とした理由よりも、国際日本文化研究センターのポーリン・ケントが、米国ニューヨーク州ポケプシーにあるヴァッサー・カレッジ所蔵のRFBコレクションをくまなく精査した結果を報告したことが直接のきっかけである。本稿では、ポーリン・ケントの発見が投げかけた新たな光が照らし出す「菊と刀」のこれからの研究方向を踏まえて、上記現象の説明材料を求めて、「菊と刀」の情報源と「菊と刀」を引用した文献を考察の対象とした。その結果、RFBは戦時情報局にありながらさまざまな情報と情報源に対して一定の距離を置く一方で、どんな情報が足りないかを常に頭に置きそれを求め続けた状況が明らかになった。そこで、RFBの情報処理能力を「菊と刀」再評価の手がかりとする試案を提出する。

2. 日本語のローマ字書き体系の理論と実状について [本文:英語]
竜岡 博 (日本のローマ字社), 山田 尚勇 (学術情報センター)
要旨 日本語のローマ字書きの国定の標準は1937年に布告され、現在の訓令式は1954年にそれを若干修訂したものである。その中から、当座許容されていたヘボン式つづりを削除したものが、国際標準化機構によって1989年に国際標準とされている。そうした国内的、国際的標準の存在にもかかわらず、現在もっともよく使われているのは、英語寄りのヘボン式つづりである。
 標準の遵守の、そのように不満足な状況は、明らかに、実施に対する政府機関の無為によるものである。しかしそうした消極的な態度の奥には、訓令式の言語学的基礎に対する理解不足がある。
 本稿の主目的は、標準の普及のために、幅広い人びとを対象として、使用の実状と照らし合わせつつ、訓令式つづりの理論的基礎のハイライトを提供するにある。

3. 大学紀要の電子化に関する著者の意識 : 鹿児島大学における調査 [本文:日本語]
益森 治巳 (鹿児島大学附属図書館), 高城 章代 (鹿児島大学附属図書館), 北村 明久 (鹿児島大学附属図書館), 内藤 衛亮 (学術情報センター)
要旨 学術情報の流通を促進する方策の一つとして、鹿児島大学において1995年前半に、大学紀要の電子入稿について調査した。1995年2月時点で当該年度の出版物として、11部局から29種類の紀要が刊行されており、254論文が掲載されていた。第一著者、複数の論文を執筆した場合は一論文のみの著者として154名が確認できた。全教官の15%に相当する。有効回答は133名(回収率86%)。電子的に執筆していたのは117名(全回答者の88%)。ハードウェア、ソフトウェアは多岐にわたった。入稿の態様は投稿規定に依存しているものの、37名(28%)の著者がプリントとフロッピーによって入稿した。流通に対する意識は未見の事態に対するものとして、過渡的であり、平行出版の必要性が指摘された。投稿規定・手順としての意見も未成熟であり、フォーマットの標準化についての意見は分かれている。投稿規定の整備が必要である。

4. インターネットに適応した全文データベース検索システムの拡張 : 文書画像データへのアクセス : 鹿児島大学教養部紀要を例として [本文:日本語]
鶴岡 弘 (学術情報センター), 大山 敬三 (学術情報センター), 内藤 衛亮 (学術情報センター)
要旨 本稿では、ネットワークによる研究成果流通−大学紀要の電子化−の一貫として、鹿児島大学教養部紀要の例を挙げ、SGMLデータ、ページ画像データの両方を持つ場合に全文検索結果からページ画像を表示する方法を論じた。

5. 認識特性に基づくテキスト構造の分析 : 日英新聞記事を例として [本文:日本語]
神門 典子 (学術情報センター)
要旨 多くの人が共通して認識できるテキスト構造は、情報検索の高度化やテキストからの情報抽出の枠組みとして用いることができる。本稿では、このような観点から、多くの人が共通に認識できるテキスト構造を明らかにするために、日本語と英語で書かれた新聞記事を対象とし、3種類の実験を行なった結果を報告している。テキストの機能的側面からとらえた「主記」「解説」「背景」「見通し」「意見」という構成要素は、いずれの実験でも80%以上の人が一致して認識できた。5W1Hを用いた文構造の分析は、「だれが」「いつ」「どこで」と「何をした」の主要な部分は被験者間で認識が一致したが、日本語の新聞記事についてはいくつか問題点が指摘された。分析の単位、分析の手がかりとなる言語パターンについても検討した。

6. 文献のブラウジングが研究過程に与える影響 [本文:日本語]
越塚 美加 (学術情報センター)
要旨 本稿では、「ブラウジング」について、「探索」との区別という観点から検討し、両者が「志向性」、「探索経路」、「情報がある場所」に関する知識の程度によって区別されることを示す。そして、ブラウジングに付随して生じる事象のうち、特に研究と深い関わりをもつ「掘り出し物的発見」(serendipity)の特徴について述べる。この掘り出し物的発見を含め、文献をはじめとする情報のブラウジングが研究過程に果たす役割を検討する。その結果、研究過程におけるブラウジングは、単に求める情報を探し、入手するための一手段として重要なのではなく、研究者は文献のブラウジングによって入手した情報を研究室という空間に秩序立て、それらとの相互作用によって研究を進めるという点で重要であることが示唆された。

7. テスト項目への反応パタンの特異性を示す指数について [本文:日本語]
孫 媛 (学術情報センター)
要旨 項目反応理論を始めとするテスト研究の進展とともに、被験者の項目反応パタンから得られる情報をもっと豊かに利用しようという関心が強まっている。そのために、モデルの仮定から逸脱する特異な反応パタンの研究が理論・応用の両面から必要である。本稿では、項目反応パタンの特異性を示す指数について、主に個人パラメータαと拡張注意係数ζの2つを取り上げ、それぞれの特徴・性質および両者の関係について論じる。

8. ヤクート語語彙研究 (1) 色彩名称 : サハ族英雄叙事詩オロンホを資料として [本文:日本語]
藤代 節 (学術情報センター)
要旨 東・中央シベリアを中心として、広い地域に分布するチュルク系言語ヤクート語の色彩に関連する語彙についての研究である。ヤクート語にはその主要な話者であるサハ(orヤクート)族が今日の分布域に至るまでに辿ってきた過程が、特に語彙において反映されており、そのことはチュルク諸語の中にあって、ヤクート語が特異な言語とされる所以でもある。本稿ではサハ(ヤクート)族に継承された口承文芸であるオロンホと呼ばれる英雄叙事詩にあらわれる語彙を主として扱う。語彙の中でセットとして扱えるものとして、色彩名称を選び、オロンホでのこれら色彩名称の生起を整理分析した。

9. 「リレーショナル・キャピタリスム」における情報関連インフラストラクチャー : 日本のケース [本文:英語]
ティエリー・リボー (学術情報センター)
要旨 本稿では、日本の経済システムと情報の問題に関してしばしばなされる文化的背景にもとづく分析について考察し、そうした方法とそれによる結論に対し、最近の経済学的成果にもどづく概念を用いた別の分析の可能性を示唆する。日本的関係に依拠する資本主義(リレーショナル・キャピタリズム)のあり方が、今後も不変的に存続しうるとはいえないのであり、情報に関するインフラストラクチャーは、他の地域でと同じように、日本においても社会的、政治的要因によって形成され、変化してゆくものなのである。

10. 空間分割とWalsh関数分析による依存性の抽出 [本文:日本語]
相澤 彰子 (学術情報センター)
要旨 2値変数を対象とする実数値関数の最適化問題の分析では、Walsh関数分析により内在する非線形性を数値で表現する方法が提案されている。しかし、この手法が適用可能なのは、問題のサイズが小さく全解探索が可能な場合である。本稿では解空間を、k個の変数により2^kに分割した場合に観察されるばらつき(分散)に注目し、この統計量とWalsh係数との間の関係を明らかにする。これにより、与えられた解のサンプル集合からWalsh係数の全体的な特徴を捉え、変数の間に内在する依存関係を推測する手法を考察する。

11. 電子図書館システムにおける情報管理手法の検討 [本文:日本語]
安達 淳 (学術情報センター)
要旨 広域分散した情報ネットワーク環境で、画像を含む大規模なマルチメディア文書情報のデータベースを構築する際には、対象となるオブジェクトの識別、検索、同定等が課題になる。本稿では、学術情報センターの電子図書館システムの実装に即して考案したURS(Uniform Resource Specification)について説明し、関連研究、URSの必然性、仕様原案、実装方法等を紹介している。また、今後の拡張についての基本方針を述べている。

12. 世界の電子図書館の研究動向について [本文: 日本語]
杉本 雅則 (学術情報センター), 片山 紀生 (学術情報センター), 越塚 美加 (学術情報センター), 神門 典子 (学術情報センター), 高須 淳宏 (学術情報センター), 安達 淳 (学術情報センター)
要旨 本稿では、世界の電子図書館の現状について解説する。最初に電子図書館について、(1) 蓄積されるデータ (2) 検索方法 (3) 閲覧方法の3つの軸で分類することにより、その特徴を明らかにする。次に、アメリカ、日本、ヨーロッパで研究開発されている主な電子図書館についての解説を行う。最後に現在の電子図書館の課題や今後の展望について述べる。

13. 既存網を考慮したパケット交換網のリンク容量割り当て設計法 : 凹のリンクコスト関数の場合 [本文:英語]
ルンキーラティクン スワン (学術情報センター), 趙 偉平 (学術情報センター), 浅野 正一郎 (学術情報センター)
要旨 通信網の設計・構築を行う際、一般に網の既存設備を有効利用することが重要である。筆者らは、パケット交換網におけるリンク容量割り当て問題(CA問題)について、既存網の概念を網設計問題に採り入れ、リンクコスト関数が凸関数の場合を検討した。凸のコスト関数が、既存設備の単位コストが新設設備のそれより小さい場合を表現し、短期網設計の設備コスト関数として用いられる。しかし、長期網設計などの場合では、一般に設備のコスト関数が凹関数である。本論文では、リンクコスト関数が凹関数の場合のパケット交換網におけるCA問題を検討し、問題に対する設計アルゴリズムを提案することを目的としている。
 本論文では、CA問題の定式化を行った後、問題の最適解の重要な性質を求める。この性質とは、問題の最適解において、既存のリンク容量に等しく設定されるリンクが存在しないことである。この性質により、ラグランジュの乗数法に基づく2つのヒューリスティック的な設計アルゴリズムが提案される。本論文で考慮されるCA問題は凸計画問題ではないため、大域最適解を求めることが困難であり、ヒューリスティック的な手法を用いて解を求める必要がある。しかし、数値結果より、解の最適性およびアルゴリズムの計算量の面では、提案されたアルゴリズムがCA問題を効率よく解くことができるとわかる。

14. 多段リンクを跨ぐエンド-エンドの転送QoSの分配方式 [本文:英語]
趙 偉平 (学術情報センター), 浅野 正一郎 (学術情報センター)
要旨 ATM-WANにおいて、複数リンクを跨ぐトラヒック制御は重要である。特に、QoS保証が要求される場合にはCAC時に各リンクに要求されたQoSを分配しセル棄却率やセル遅延などの計算を行う必要がある。そこで本論文では、まず、従来のQoS分配方式の問題点を説明し、次に、呼のエンド-エンド転送QoSを経路上の各リンクに動的に分配し、QoSを負荷の重いリンクに小さく、負荷の軽いリンクに多く割り当てる方式を提案する。本方式では、リンクの予約利用率を導入し、呼の受付の段階で新たな呼に対してリンクの保証できる転送QoSの計算を行う。三段リンクを持つネットワークモデルについて性能評価を呼損率と利用率を性能指標として数値解析及びシミュレーションにより行った。その結果、本提案方式は呼損率を押え、ネットワーク全体の資源利用率を向上できることが分かる。

15. 有限バッファを持つ高速網の交換ノードにおける帯域割当て [本文:日本語]
計 宇生 (学術情報センター)
要旨 高速な統合サービス網の交換ノードにおいて、待ち行列内のパケットの転送優先度の制御、すなわちサービス規律を適当に選ぶことがサービスの品質に対する様々な要求を保証する上で重要である。本論文では、筆者らによって提案された資源保証型サービス規律である仮想レートに基づく待ち行列制御方式(VRBQ)を、バッファの大きさが有限であるような交換ノードに適用した場合の性能について検討し、有効帯域(Effective Bandwidth)の概念を利用した、遅延と損失の品質パラメータを制限できるような帯域割当ての方法について述べる。

16. 広域ネットワーク環境におけるキャッシュリレーメカニズムの一検討 [本文:英語]
小口 正人 (学術情報センター)
要旨 World-Wide Web (WWW) に代表される広域分散ネットワーク上での情報検索・収集システムの利用は、爆発的な広がりをみせている。これらのシステムにおいて、アクセス性の向上などの面でキャッシュリレーは非常に大きな役割を持っている。
 本稿ではこのキャッシュリレーの新しい実現方式について検討する。まずキャッシュリレーの概念と仕組みを紹介した後、現行のキャッシュリレーの問題点を指摘する。次にこれらの問題点に対処する方法として、品質レベルのコントロールによるファイルサイズの変更をキャッシュリレーで行うこと、および近傍のキャッシュリレー間でクラスタを形成しハイパーリンク情報を用いて連携を行うことを提案する。そしてこれらの方針を組み合わせたキャッシュリレーメカニズムの実現方式を示す。

17. 自然法則データベースの研究 [本文:日本語]
小山 照夫 (学術情報センター), 田浦 俊春 (東京大学人工物工学研究センター), 川口 忠雄 (成蹊大学工学部)
要旨 人工物の設計を支援するインテリジェントCADにおいて、人工物の振る舞いに関する基本的情報となる自然法則と、自然法則を組み合わせた結果に関する情報を提示する機能は有用性が高いと考えられる。本研究では様々な自然法則を機械処理可能な形で蓄積するためのデータ表現と、オブジェクト指向データベースを用いた自然法則データベースの実装に関して述べる。

18. オブジェクトマネージメントにおける高性能マルチメディアDBMS [本文:英語]
フレデリック アンドレス (学術情報センター), 小野 欽司 (学術情報センター)
要旨 マルチメディアの応用では書籍、イメージ、ビデオおよび科学的データなどのような異なったタイプの情報へのオンラインアクセスが要求される。このようなサービスの礎石はマルチメディア蓄積サーバである。既存の商用サーバでは (1) 特定のデータモデルから独立しかつ他のものと協調する、(2) 新しいハードウエアのアーキケクチャーに用意に対応する、(3) 広範囲のマルチメディアオブジェクトを効率よくサポートする、(4) 関連オブジェクトとの一貫性を保証する、などで問題がある。
 本論文ではこれらの問題点を解決する並列、アプリケーションオリエントなDBMS(AODMS Application Oriented DBMS)であるChameleonを提案する。これは新しい情報システムの要求にあうように設計されており、新世代のアーキテクチャーにも対応する。Chameleonの特徴はアプリケーションオリエントなデータ蓄積サーバであり、内部的および外部的な並列性をダイナミックに最適化し、効率的な同時実行のためのマルチスレードまたはメモリーマッピングのようなオペレーティングシステムを利用している。現在のプロトタイプはSparc Station20/50 MHZ並列プロセサの上で動作する。Chameleonの応用として、学術情報センターでのオンライン画像処理システムへの適用を検討している。

19. 漢字の読みのパターンマッチング手法について [本文:日本語]
橋爪 宏達 (学術情報センター)
要旨 コンピュータを使って日本文(かな漢字混じり文)読みがなを振ることは、これまで多くの試みがあり、また商用ソフトウェアとしても販売されている。それらはすべて漢字辞書を内蔵しており、それを日本語文法解析パーサと組み合わせることで動作するものである。振られた読みの正確さは辞書とパーサの精密性に依存するが、高い正確度を要求する場合、特に辞書の完備度が問題になる。解析する文章の性質に合わせて異なった辞書を用意するなど、多くの準備が必要となり、また適応範囲の広い辞書を作成するのは困難な作業である。
一方かな漢字文とは独立にその読みくだし文も得られていて、読みと原文を一致させる処理要求も存在している。しかし読み下し文を使わずに一般の日本語読み下しソフトウェアを適応することでも、形式的には同様な解析結果が期待できるため、このような用途の解析アルゴリズムの研究はなされていない。
この論文では、かな漢字文と読みのマッチングをとるアルゴリズムを報告する。これは一般の読みを振る作業より簡単な問題であろうと期待され、辞書容量のコンパクト化、処理精度の向上などが期待できる。
本論文では事前には漢字辞書の存在を仮定せず、漢字の文字列と読みの文字列を形式的に対応させることを試みる。この操作から辞書に相当するデータ集合を作成し、それを使用して繰りかえし処理することにより精度の向上をはかる。

20. 仮想的な紙のビジュアルな変形操作とそれを用いた創造的な折り紙デザイン [本文:英語]
後藤田 洋伸 (学術情報センター)
要旨 近年のコンピュータ・グラフィックスの発達により、ゼリー、ゴム膜、石鹸膜など伸縮性のある柔らかい物体の振舞いを偏微分方程式を解きながら対話的に操作することが可能となってきた。しかしながら、伸縮性の全くない、あるいは伸縮性に乏しい物体については、硬い方程式が導出されることが多く、いまだに対話的な取り扱いを行なうことができないのが現状である。
 本論文では、紙の変形を、素早く対話的に処理することのできるモデルを提案する。このモデルでは、紙が伸び縮みしないことを利用して、紙の曲面のコンパクトな表現形式を採用している。このことは、VRMLなどを用いてネットワーク環境においてモデルを扱う際に(例えばWWW上に構築された仮想的な折り紙の世界を体験する時などに)特に利点となる。

21. 科学研究費の採択状況に見る法学分野の研究動向分析 [本文:日本語]
太田和 良幸 (学術情報センター)
要旨 人文・社会科学分野の計量的研究動向研究の方法論は、未だ確立されたものはないが、本稿では、研究成果を計量する Output指標に代えて、研究の資源投入指標(Input指標)である科学研究費の採択課題状況(採択金額及び採択課題数)について分析を加え、法学分野の計量的研究動向分析を試みた。
 この分析結果によると、政治学の研究動向は他の分野と特異であり大きく進展している。また、国際関係の緊密化・複雑化や技術革新の進展などを背景として、国際法学、知的所有権法といった新しい分野の研究が進展してきている。基礎法学、社会法学の分野は研究ポテンシャルが高いことがわかった。科学研究費による研究に限ってみると、我が国の法学の発展は、これらの分野の発展に依るところが大きいと言える。なお、人文・社会科学全体に占める法学全体の研究動向は、研究費総額としては最近もち直しの傾向も見られるが、採択課題数では長期的には幾分減少の傾向も見られる。

22. 中華人民共和国における学術研究体制と学術政策に関する研究 [本文:日本語]
太田和 良幸 (学術情報センター)
要旨 中国における学術研究体制は、中華人民共和国の成立後、中国科学院等の研究機関部門と大学等の高等教育部門に二分され、それぞれが独自の発展を遂げて来た。このうち、高等教育機関は、これまでその研究機能が殆ど評価されることがなかったが、最近になって組織的にも一応の体制が整ったこともあり、科学・技術振興体制の一環に組み込まれ、その研究機能を強化しつつある。
 近年の中国においては、国が研究基盤・研究体制の重点的整備を図るとともに各種の研究開発プログラムを実行するなど、積極的な研究開発振興政策を実施している。このため、中国の研究開発パワーも大きく発展している。また、科学技術進歩法(1993年)及びこれに基づく政府・党の決定(1995年)には、中国における科学・技術政策の基本的な考え方が示されており、最近の一連の中国政府・共産党の科学・技術振興に関する動きは注目に値する。

23. 英国CATプロジェクト最終報告 [本文:英語]
ブライアン ペリー (学術情報センター)
要旨 The history of the NACSIS-CAT project in the UK began in 1991, when NACSIS kindly offered to provide a free service of the NACSIS-CAT and NACSIS-IR files fora research project, to be overseen by the British Library Research & Development Department. The object of this project was to contribute to the compilation ofa union catalogue at Cambridge University of NACSIS-CAT records from the participants. The records would be of the holdings of modern printed Japanese languagematerial acquired by participating institutions. Those institutions were the University of Cambridge Library ; the Bodleian Japanese Library at the Universityof Oxford; the British Library Oriental and India Office Collections; the University of Stirling Library; the East Asian Studies Library at the University of Sheffield; the School of Oriental and African Studies Library at the University ofLondon; and the Joint Network Team. The mix of large and small libraries was extremely healthy for the project, and enabled discussion about a wide range of matters of interest to the participants.
 All the participants wish to record their gratitude to NACSIS for their generosity and technical support with the project this far. The UK sites look forwardto the operational stage where libraries will be able to provide a full union catalogue of Japanese language holdings both in the UK and abroad for their users. We are especially grateful to Dr. Hiroshi Inose (the Director General of NACSIS) who initiated the project and who identified the British Library Research & Development Department as the appropriate project manager and who gave his continuing support to this very important example of Anglo-Japanese cooperation.

24. 英国CATプロジェクトを終えて [本文:日本語]
宮澤 彰 (学術情報センター)
要旨 学術情報センターでは、英国図書館および英国の大学図書館日本部門と協同で、英国CATプロジェクトを進めてきた。学術情報センターの書誌ユティリティサービスNACSIS-CATを英国の図書館で利用して、英国内の日本語資料総合目録を構築するものである。本稿はこのプロジェクトの報告を補足する分析である。書誌ユティリティの国際的なサービスの目的について考察し、今回のプロジェクトの成功の要因について分析する。結論として、CATの国際サービスのためにはローカルシステムとリンクしたサポート体制を作ることが必要であるとし、その方策について述べる。


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