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「学術情報センター紀要」第12号(2000年3月) 要旨

【2001/02/01】

巻頭言 「学術情報センター紀要」最終刊の発刊に際して [本文:日本語]
小野 欽司 (学術情報センター研究開発部長)

1. Reading, Writing and Abacus in the Age of Digital Contents [本文:英語]
Eisuke NAITO (National Center for Science Information Systems)
要旨 Mission is discussed together with emergence of digital contents, Japanese definition of information literacy for pursuing the universal elements of library and information services. Traditional skill such as "Reading, Writing and Calculus (Abacus)" is the basis of intellectual comprehension and assimilation in the age of digital contents. Social role or function of librarianship, in the light of the Global Information Society, is discussed to be still the same as the traditional function defined by S. R. Ranganathan.

2. 文法的制約を用いた複合語解析モデルの作成 [本文:日本語]
竹内 孔一 (学術情報センター), 内山 清子 (学術情報センター), 吉岡 真治 (学術情報センター), 影浦 峡 (学術情報センター), 小山 照夫 (学術情報センター)
要旨 複合語内の語構成を解析する手法として,従来より単語間の共起頻度を利用するモデルが提案されている.しかし,複合語内の語構成は文法的かつ意味的な制約が存在するために,単純な共起による解析モデルには限界がある.最近,形態論や統語論で語のレベル,項構造,語彙概念構造という文法的要素が提案されており,一定の成果が上がっている.本論文では,これらの文法的知識を利用することで,複合語の語構成における制約がどの程度記述できるかを明らかにする.解析の対象として,複合語はサ変名詞を主辞に含む2単語からなる情報処理用語を中心的に取り上げた.考察の結果から,1)2単語間の係関係は修飾かサ変名詞の項の2種の関係に整理できること,2)サ変名詞の項構造が係関係を決定すること,3)文脈により複合語の語構成が変化することが明らかとなった.これらの結果をもとに,複合語解析モデル作成のための考察を行なう.

3. 大規模テストコレクション構築のためのプーリングについて:NTCIR-1の分析 [本文:日本語]
栗山 和子 (学術情報センター), 神門 典子 (学術情報センター), 野末 俊比古 (学術情報センター), 江口 浩二 (学術情報センター)
要旨 本研究の目的は,(1)大規模テストコレクションを構築する手法としてのプーリングの有効性を検証し,(2)プーリング件数が検索システムの評価に関連があるかどうか調べ,(3)正解判定の際の判定のゆれがシステムの評価に関係してくるかどうかを明らかにすることである. (1),(2)のために,NTCIR-1 の訓練用正解セットを使用した予備テスト,および,評価用セットを使用した評価テストのそれぞれで提出された結果を用いてプーリング実験を行なった.その結果,プーリング法の有効性,すなわち,作成された正解リストの網羅性,および,プーリングによって作成された正解文書リストの評価に対する公平性が確かめられた. (3)のために,NTCIR-1の評価用セットを構築する際に行なった,異なる判定者による3種類の正解判定結果(判定者A,Bそれぞれによる判定, 両者の協議による最終判定)を用いて評価実験を行なった.結果として,検索精度の平均を用いた順位付けは,異なる正解判定結果間ではほとんど変化せず,順位付けによる相対的な評価においては,判定者間の判定のゆれはあまり問題にならないということがわかった.

4. クラスタにおけるコンテクスト依存な局所情報を用いたクエリ拡張 [本文:日本語]
江口 浩二 (学術情報センター)
要旨 大量の検索結果から所望の情報にアクセスするための有効な手段の一つに,クラスタに基づくブラウジング法がある.筆者は,ブラウジングにおけるシステム・ユーザ間のインタラクションを契機に,直ちにユーザの興味をクエリに取り込み,データベースに対して再検索を実行することで,ユーザの動的な情報要求に応えることを可能とする枠組について検討してきた.本論文では,ユーザが適合と判定したクラスタに基づくクエリ拡張の際に,コンテクストに応じてクラスタから選択された局所的な情報を用いる方式を新たに提案する.基礎的な実験を通じて,提案手法の有効性についての見通しを得た.

5. 次世代IPルータ技術の動向と課題 [本文:日本語]
浅野 正一郎 (学術情報センター), 魚瀬 尚郎 (学術情報センター), 漆谷 重雄 (学術情報センター)
要旨 次世代IPルータを用いた次世代インターネット構築の動きが活発化している.今後のIPトラヒックの急成長に柔軟に対応できるネットワークを実現するためには,そのコアシステムとなる次世代IPルータには,超高速インタフェースの収容,スイッチング容量の大容量化・スケーラブル化,コアシステムとしての信頼性向上,多様な通信品質制御への対応等が求められる.本稿では,これらの要求を満足するためのIPルータの最新技術に関して解説を行い,今後の展望について考察する.

6. 分散能動オブジェクトシステムのためのJavaライブラリーCape [本文:日本語]
丸山 勝巳 (学術情報センター)
要旨 分散システムにはC/S(Client-Server)型,P-to-P(Peer to peer)型などがある.C/S型分散処理システムはクライアント側とサーバー側が逐次的に動作するので,RPC(Remote Procedure Call)に基づいた方式で効果的に実現できる.Javaの分散システム構築ツールの殆んどはRPCに基づいている.一方,分散プロセス制御システム,通信制御システム,分散エージェントシステム等では,各分散オブジェクトが並行動作し,対等にメッセージを交信しあい,かつ相手の受理を待たずに自己の処理を継続しなければならない場合が多い.このようなP-to-PモデルにはRPCは不十分であり,非同期メッセージ等フレキシブルなメッセージ機構と能動オブジェクト機構の導入がが有効である.本報告では,分散能動オブジェクトを実現するためのJavaパッケージの実現技術を述べる.このパッケージを用いることによりpure Javaでフレキシブルな分散処理が実現できる.

7. The MISE Metadata Engine for Multimedia Information Retrieval [本文:英語]
Frederic ANDRES (National Center for Science Information Systems), Nicolas DESSAIGNE (National Center for Science Information Systems), Vanessa MILONE (IRESTE, University of Nantes, France), Kinji ONO (National Center for Science Information Systems)
要旨  With more and more information on the web, users, and moreover novice users, are quickly lost when they need to find relevant information. To face this problem, search engines include new technologies from different fields (e.g. artificial intelligence, natural language processing, data mining, user profiling.) But while textual information is well covered, a huge lack still exists when dealing with visual information. The MediaSys Image Search Engine (MISE) is developed to tackle these issues with images. It combines an image search-by-content engine, namely ¥n Find¥n IM ¥n age ¥n, with metadata capabilities via a meta-engine. In this paper, we present the metadata engine of MISE. Its main contribution is to use fuzzy logic to address problems of inaccuracy and uncertainty contained in natural language. Both discrete and continuous information are supported using the concept of fuzzy thesaurus. [Keywords]Image Search Engine, Multimedia Information Retrieval, Metadata Management, Fuzzy Logic, Thesaurus.

8. 分散環境におけるダイナミクメディア同期に関する研究 [本文:英語]
趙 偉平 (学術情報センター)
要旨 メディア内同期とメディア間同期は,マルチメディアの再生に不可欠であり,アプリケーションの品質に大きな影響を与える.特に,分散環境において,メディアのストリームがATM網などのパケット網で転送されたときに生じた遅延揺らぎは,メディアの同期及び再生品質を左右する.よって,遅延揺らぎによる影響を解明し,対策を研究する必要がある.そこで本論文では,まず,研究の背景を説明し,次に,ネットワークの動的な遅延状態を利用したメディア同期方法を提案する.本方法では,ある程度のデータ損失を許すメディアに対して,動的な遅延情報でメディアの最適な再生時間を算出するアルゴリズムを利用し,メディアの再生品質を向上する.ネットワークのランダム遅延とバースト遅延について,性能評価を標準偏差などを性能指標としてシミュレーションにより行なった.その結果,提案した同期方法はネットワークの遅延揺らぎの影響を抑えられることが分かる.

9. ポリゴンモデルを再構成するための多視点ステレオアルゴリズム [本文:英語]
後藤田 洋伸 (学術情報センター)
要旨 多視点ステレオ再構成法は,複数の画像から三次元構造を復元するための方法である.この方法は,二つの画像から奥行き情報を復元するという,伝統的なスレテオマッチング法の一種の拡張であると考えることができる.最近では,いわゆる「大規模ステレオアルゴリズム」が開発されており,多数の画像をもとにしながら,幾何学的あるいは光学的にみて,極めて複雑な形状をも復元できようになってきた.しかし,これまでに開発されてきた多視点ステレオ再構成アルゴリズムは,低レベルの三次元構造を復元するためのものでしかない.即ち,復元の結果として得られるものは,三次元空間上の点の集まりに過ぎない.従って,線や多角形といった,より高レベルの幾何学的な対象を得るためには,こうした復元の結果を,別の方法を用いて,さらに処理しなければならない.そこで,本稿では,多視点画像から,ポリゴンモデルを直接抽出するアルゴリズムを提案する.このアルゴリズムは,一定限度の歪みの範囲内で複数の画像をマップすることのできる多角形を,三次元空間中に構築するというものである.また,このアルゴリズムでは,三次元レンダリングハードウエアの持つ並列処理機構を効率的に活用することができるため,高速な実行が可能である.

10. 視覚化に適した制約階層の拡張法 [本文:日本語]
細部 博史 (学術情報センター)
要旨 制約は,推論,スケジューリング,設計,視覚化など,様々な問題のモデル化や解決に有用である.特に非単調な制約解消方式は,制約過多な実世界の問題を記述できるため,注目を集めてきた.本論文では,従来広く使われてきた非単調方式である制約階層を拡張することで構築した新しい方式として,複合制約階層を提案する.この新しい方式では,異なる種類の問題が 1 つの複合制約階層に統合され,多目的最適化問題と関連付けられる.この提案の後,本論文では,複合制約階層 を視覚化システムにおいて効果的に応用する手法を示す.複合制約階層は,特にグラフ配置と制約の統合に有効である.本論文ではまた,制約解消に遺伝的アルゴリズムを用いた試作システムについて概説し,その予備実験の結果を与える.

11. ΣGI/G/1の拡散近似末尾分布の高精度化 [本文:日本語]
阿部 俊二 (学術情報センター), 浅野 正一郎 (学術情報センター)
要旨 次世代を担うインターネットでは,計算機間のデータ通信のみならず,音声,音楽,動画像等のリアルタイム性品質を厳しく要求する通信をも統合的に扱う必要がある.このため,個々の通信が要求する品質を保証する通信の高品質化技術の研究開発が重要となる.このような技術の研究開発においては,ルータやスイッチにおけるキューイングバッファにおけるオーバーフロー確率や遅延等の品質を評価できる性能評価手法の確立が不可欠である.本論文では,品質の一つであるバッファシステム内に滞留するパケット数が或閾値mを越える確率P{Q >m}(末尾分布)を考え,複数のバーストパケットトラヒックが多重化されてバッファシステムに加わった時のP{Q >m}を,拡散近似手法を用いて近似する.拡散近似を用いると,P{Q >m}=ζe -c2mで近似できる.しかし,加わる負荷が小さくなるに連れ近似精度が悪くなる.そこで,近似精度を改善するため,新たに減衰頁e -c1mを考え,P{Q >m}=π1e -c1m + π2e -c2m,すなわち,末尾分布を2次の超指数分布の補分布で近似する手法を提案する.パラメタη1, π1, π2の決定方法を述べると共に,計算機シュミレーションとの比較により,提案手法の近似精度を評価し,その有効性を示す.

12. “SAIKAM”: インターネット上での協調的な対訳辞書構築環境の実現 [本文:日本語]
ウッティチャイ アムポーンアラムウェート (学術情報センター), 相澤 彰子 (学術情報センター), 大山 敬三 (学術情報センター), タサニー メーターピスィット (タマサート大学)
要旨 本稿ではインターネットに分散する多数の執筆者による協調的な日タイ対訳辞書構築を支援する環境「SAIKAM」の設計および実装について述べる.「SAIKAM」は多言語ウェブインターフェース,オンライン型の編集ツール,用例ナビゲーターを含む統合的な辞書環境で,インターネットを利用することで,時間や場所の制約を超えた執筆作業が可能にしている.本稿では「SAIKAM」の特徴的な機能として(1)既に公開されている日英及びタイ英辞書データを利用して執筆者の負担を軽減する辞書初期化機能,(2)新規登録および校正するべき語のリストをシステム側で選別し,執筆者に提示するための編集機能,(3)全文検索エンジンによる用例ナビゲーション機能について報告する.

13. オンラインジャーナル編集・出版システムの開発 [本文:日本語]
大山 敬三 (学術情報センター), 神門 典子 (学術情報センター), 佐藤 真一 (学術情報センター), 加藤 弘之 (学術情報センター), 日高 宗一郎 (学術情報センター)
要旨 学術情報センターで開発中のオンラインジャーナル編集・出版システムは,学協会や大学が刊行する学術雑誌の執筆・編集・出版のすべての工程を電子化・オンライン化し,学術研究成果の流通を効率化するものである.学協会が運用して編集に利用するインハウスシステムは多様な編集部体制や文書形式に対応できる設計となっている.学術情報センターが運用してオンライン出版に用いるシステムは強力な検索能力を持ち,多数の購読者支援機能を提供する.本稿では,このシステムについて,著者,編集担当者,購読者などの視点からの機能や利用方法を説明し,学協会における活用方法を紹介している.

14. 情報科学研究の分野分類に関する調査研究 [本文:日本語]
西澤 正己 (学術情報センター), 孫 媛 (学術情報センター), 矢野 正晴 (学術情報センター)
要旨 学術情報センターによって平成7年度に調査された「学術研究活動に関する調査」(研究者ディレクトリデータベース)を用いて,4年制大学の情報科学分野における研究者の詳細な研究分野分類を行なった.この結果より我が国の4年制大学における情報科学関連研究者の詳細な研究分野分布が示された.また,ここでは研究者ディレクトリに用いられた科学研究費補助金の"系・部・分科・細目表"における情報科学分科の3つの分科細目:「計算機科学」,「知能情報学」,「情報システム学」の分類の妥当性についても言及する.この研究は情報科学分野と他の分野間の関連や,ここで用いた詳細分類の相互関係の定量的分析へと発展する中間レポートである.

15. 社会教育機関としての公共図書館における情報利用支援の現状と課題 -情報リテラシーの育成をめぐる総合的検討に向けた予備的考察- [本文:日本語]
野末 俊比古 (学術情報センター)
要旨 社会教育における情報リテラシーの習得・向上についての関心が高まっている.本稿では,図書館における利用者の情報利用の支援をめぐる現状を分析し,今後の課題を検討した.

16. 産業技術競争力の決定要因分析 [本文:日本語]
矢野 正晴 (学術情報センター), 亀岡 秋男(科学技術と経済の会)
要旨 わが国の対米,対欧州,対アジアの産業技術競争力を分野別,技術項目別に評価するためのアンケート調査を行った.技術水準および市場競争力と,それらの決定要因についての回答の統計的分析により,要因は研究・技術力,商品化力およびマネジメント力の三つに大別できることが分かったほか,分野ごとのこれら3要因の強弱も明らかになった.なお,今後は調査票を改善し,さらにデータ収集・分析を行う予定である.

17. 大学部門における研究活動の成果と研究投資の関係に関する研究 [本文:日本語]
枝川 明敬 (学術情報センター)
要旨 21世紀を間近にして,我が国の科学技術振興のため,文部科学省の設置や総合科学技術会議の創設が行われているが,研究活動の振興のためには,その裏付けとなる研究投資と研究成果との関係を分析調査することが必要である.ところで,今までそのような研究は余り行われてこなかった.これは,投資の測定は比較的可能な反面,成果については研究者,行政担当者等共通の指標が存在しなかったからである.本研究では,科学技術庁調査や昨年行われた大学研究者へのアンケート調査を元にして,研究投資と成果との関係,すなわち研究活動生産関数とでもいうべき関係を提示する.なお,成果として論文数を用いたが,今後その質の問題にも言及せざるをえないだろう.

18. 情報の取引に関する法体系についての考察 -情報の法と経済学の構築に向けて- [本文:日本語]
福田 光宏 (学術情報センター)
要旨 民法は,物質の取引を中心にした法体系であり,知的財産法も生産者間での情報の取引を律するに過ぎない. つまり,現行法は,生産者と消費者の間での情報の取引をほとんど無視しているのである.このような法体系の問題点は,複製技術の未発達により情報が媒体である物質に閉じ込められていた時代には顕在化しなかったが,複製技術の発達により情報が媒体である物質から解放されることにより明らかとなりつつある.物質と情報の取引に関する統一的な法体系が求められているのである. また,知的財産権の強化は,独占化とギャンブル経済化につながるのものであり,その危険性を考慮に入れた情報の取引に関する法体系が望まれる.

19. 文末態度表現を用いた日本のWeb Pageの調査 [本文:日本語]
土井 晃一 ((株)富士通研究所(元学術情報センター客員助教授))
要旨 web pageの検索結果で,客観的な知識を得たいのに日記・体験談などの主観的なweb pageが提示されるのは,検索の問題の一つと考えられる.また,逆に,新製品の便利さ,有用性など使った人にしかわからない情報を得たいのに,客観的情報しか得られないのも問題である.既存の検索サービスは,いわゆるキーワードを主体とした検索を中心としている.普通,付属語(助詞・助動詞など)は不要語として使われていない.付属語は文末態度表現として,書き手の態度が現れる部分である.これは,主観的情報か客観的情報かを示す手がかりとなる.そこで,この二種類のweb pageの文末態度表現の使われ方の差異で,分離する方法を考える.我々は,このような方法を行うに当たって,まず,web pageの現状を調査することにした.そこで本論文では,文末記号を調査した.さらに,文末態度表現を抽出し,その文末態度表現とweb pageのジャンルについて議論した.次に,文末態度表現の使われ方を読点の多様性を考慮に入れて,基礎統計量と因子分析から,文末態度表現がある一定の傾向を示すことを知見として得た.最後に,日記など主観的情報の比率を測定した.

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