管理

雑誌出版の中核的な活動の他にも管理する必要がある経営上の活動が数多く存在します。これらの活動は雑誌の日々の作業には直接影響を及ぼすものではないと思われますが、あまりも長く担当者が不在になると必ず影響を及ぼすことになります。この章では右上の箱の中にリストされている活動について説明します。

5.1 雑誌の財務を管理する

この節では、雑誌を財政的に成功させ、経営上の取引を管理するための計画に関する検討事項を指摘して思い出してもらいます。それは、1.4 財務モデルを検討する1.5 予算を作成するで説明した事項に基づいています。扱う話題は、助成金の申請、金融取引の処理、予算の更新と会計報告です。

出版チームから財務担当を指名し、雑誌の財務を管理するすべての業務と活動を監督させると良いでしょう。


5.1.1 助成金申請を行う

雑誌の財務モデルとして助成機関の支援を含むモデルを選択した場合、この節はそのような機関に助成金を申請することを思い出させるものです。必要な助成金申請を準備する際、このガイドで既に説明した次のような文書が役に立つと思います。

助成が承認された場合、おそらく助成期間の終了時または助成金の更新請求時に雑誌の状況(財務および実績)に関する報告書の提出が求められます。この報告書を書く際には、次のような文書が役に立つと思われます。

一般に助成金の正式な申請者には編集長がなりますが、申請の準備に当たっては出版チームのメンバーが支援することになると思われます。


5.1.2 金融取引を行う

雑誌が収入(助成金、掲載料など)を集めたり、支払を(業者などに)行ったりする場合には、金融取引を行う体制を用意し、これを処理するためにチームの中から財務担当を指名する必要があります。取引に関する処理には、インボイスの発行、料金の徴収、業者への支払、支払滞納者への対応、インボイスと支払の記録と追跡などがあります。

インボイスに関連して、付加価値税が適用される場合は、あなたにはその徴収と支払の両方の責任があることを忘れないでください。

あなたの代わりに所属機関が請求と受領を管理してくれるかもしれません。管理してもらえない場合は、雑誌専用の銀行口座が必要かどうかを検討してください。多数の取引が発生する可能性がある場合は、あなたに代わってこれらの取引を行い会計全般を管理することができる簿記担当者の雇用を検討した方が良いかもしれません。

主な検討事項:

  • 予想される取引量はどれくらいですか?
  • 税務署は支払に関してどのように考えていますか?
  • 受領と支払に関して誰が責任を持ちますか?
  • 金融取引を行うにあたり雑誌または雑誌の運営団体の法人化が必要になりますか?(2.5.5.1 規約を作成するを参照)
  • 取引を行うのにどんな経費が発生しますか? その経費はどのような構造ですか(取引毎、1年毎など)?(1.5 予算を作成する5.1.3 予算の改定と報告を行うを参照)
  • インボイスの発行や掲載料の徴収、業者への支払など実際の取引は誰が責任を持ちますか?

一般に、金融取引を処理する体制の作成やその実行には、出版チームの中で細部に目が行き届く者を指名します。ただし、助言をしてもらうために所属機関の財務部門に相談した方が良いでしょう。簿記担当の外注を考える場合は、2.5.2 契約を行う2.6.3 パートナーを検討する5.2 パートナーとの関係を監視するも参照してください。


5.1.3 予算の改定と報告を行う

あなたは創刊から2年から5年分の予算を作成したかもしれませんが、雑誌の出版が始まればあなたの見積り通りに行くことはないでしょう。実際はおそらく絶対に無理でょう。したがって、継続的な予算の改定、すなわち、収支予測を行い、実際の収益と経費に比例させて支出を調整することを勧めます。収支予測は6ヵ月後か9日月後に年度当初からのその時点までの活動に基づいて行います。この収支予測は予算自体より年度末の結果をより良く予測し、次年度予算の作成にも役に立ちます。

年度末には、お金という観点から1年間(通常は暦年に従います)の結果を説明する会計報告を作成してください。通常、これは年度をしめた時点、すなわち、その年のすべてのインボイスを発行し、業者から受け取ったずべてのインボイスを確認した後に作成します。大きな食い違いがないか、当該年度の予算ならびに収支予測と最終的な会計結果を比較してください。食い違いが合った場合は報告書にその簡単な説明を含めてください。この分析は次年度予算の作成に役立ち、雑誌方針の見直しにつながるかもしれません。報告書は助成金を貰っている場合やパートナーがいる場合、あるいは次世代の出版チームにも役に立つでしょう。

下の図は、予算作成と会計報告のサイクルを示しています。

予算作成と会計報告のサイクル

雑誌予算の作成と管理および年度末報告書の作成は出版チームの誰かが責任を持つことになるでしょう。ただし、作業は他の出版チームのメンバーや外部の会計士や簿記担当者の意見を受けて行うことになると思います。

主な検討事項:

  • 帳簿に基づいて収支予測を行う場合、まだ支払っていない論文(DTP処理経費など)から収入(掲載料のど)を得ている場合があることを忘れないでください。
  • 予算と収支予測を行う基となる帳簿を誰が処理しますか?
  • 誰が会計報告書を作成しますか?
  • 会計報告を監査することは重要ですか? 重要な場合、その経費は予算に計上されていますか?
  • 傾向を明確かつ柔軟に示す図を得るために年間の予算、収支予測、結果を、たとえばExcelの1枚の表で示すようにしてください(追加情報源を参照)。
  • 創刊から2-3年経った後、実際の会計結果が当初の2-3年度予算と大きく異なることが判明した場合は、事業計画を再検討してください(計画を参照)。
  • 年度の始まりと終わりを決めてください。所属機関の年度に合わせるべきですか? 暦年に合わせるべきですか?
  • 雑誌は利益を目的としていますか、それとも均衡予算を目的としていますか?
  • 営業剰余金や現金準備は今後の投資に価値がありますか?


5.2 パートナーとの関係を監視する

パートナー(外部業者や大学の他の部局など)の協力を得ることを選択した場合、随時パートナーとの契約を見直し、改定が必要か否かを検討する必要があります。場合によって、契約の更新、終了、再交渉が必要になるでしょう。

ただし、両者の関係についてパートナーと議論するために契約の解除や再交渉をする機会を待つべきではありません。定期的に打ち合わせを行い、満足している点や変更したい点を伝えることは良い考えです。出版社は各自が個性を持ち、外部パートナーが良く理解しなければならないスタイルを持っています。あなたのニーズや好みをできる限り明確かつ具体的に伝えることにより良い関係を築くことができます。

ある種のパートナー(タイプセッターなど)は日々の仕事において非常に重要なので、業者の変更は混乱をもたらす可能性があります。そのため、通常は、関係を突然終了させるのではなく、既存のパートナーにあなたのニーズを満たしてもらえるように努めるのがベストです。合意に至ることができなかったり、これ以上我慢ができないような不幸な状況においては、出版が必要以上に遅れないように既存のパートナーとの契約を解除する前に必ず新しいパートナーを見つけておいてください。あなたの行う変更が著者や読者には見えないようにするべきです。関係を終了させる前に契約上の義務を再確認することを忘れないでください。

主な検討事項:

  • 各パートナーに期待することは何ですか?
  • パートナーは時間通りに作業を仕上げますか?
  • エラーはすぐに修正されますか?
  • パートナーが著者と直接連絡を取る場合、その方法に満足していますか?


5.3 ワークフローや事業計画を改定する

学術出版社も製品を生産してこれをユーザー市場に供給する一企業家です。企業家ですので、学術出版社も「日々の仕事に忙殺され」、「ビジネスについて考える」時間を見つけるのは難しいと思われます。しかし、雑誌の運営に必要な作業を管理する日々の中にあっても、少なくとも時には一歩退いて、雑誌を発展させる方法を考えたり、雑誌が正しい方向に向かっているかを確認して、必要に応じて調整を行う必要があります。

雑誌が成長し、あなたやあなたのチームの経験が増したら、大量の投稿に対応したり、より効率を高めるためにワークフローやルーチンワークを調整する必要が出てくると思われます。(パフォーマンスを測定するために作成する統計4.5.3 インパクトを追跡するを参照)はどこにボトルネックが存在するかを知るのに役に立つと思われます。)さらに、急速に進む出版技術の進歩において、一般的なトレンドを常に把握し、これを雑誌に採用するか否かを検討する必要があります(5.5 常に最新情報を得るを参照)。これは、ワークフローや日々のルーチンワークだけでなく予算にも影響を及ぼす可能性があります(5.1.3 予算の改定と報告を行う)。

日々の作業には直接関係しないが、雑誌の長期的成功には影響を及ぼすと思われる事項に目を光らせる者を出版チームの中から指名するべきです。これはおそらく編集長だと思われますが、編集助手や編集幹事でも良いかもしれません。

主な検討事項:

  • 制作工程の効率を改良できますか?
  • 査読審査工程の効率を改良できますか?
  • 著者はあなたが提供するサービスに満足していますか?
  • あなたの雑誌と同一分野の他の雑誌をどのように比較しますか?
  • 投稿数の増加をどのように管理しますか?
  • 投稿原稿の質や数が低下していませんか?
  • 必要なツールや技術の進歩を活用していますか?
  • 直ちに実装すべき変化は何ですか? 待つことができる変化は何ですか?
  • 現実の予算のなかでどのように活動を優先させますか?


5.4 問合せに回答する

編集局は、雑誌のメールアドレスや編集チームのメンバーに直接送付される問合せや情報などを定期的に受け取ることになります。チームを代表して一般的なメールや問合せを受付けて回答する者を編集チームの中から指名するべきです。これには編集助手か編集幹事がふさわしいと思われます。

主な検討事項:

  • 雑誌チームは問合せに直ちに回答することができますか?
  • そのような問合せを受け付けるinfo@THEJOURNAL.XXXのようなメールアドレスを作成しましたか?


5.5 常に最新情報を得る

出版環境は急速に変化しています。競争力を保つためには、オープンアクセス出版はもちろん、学術出版一般に影響を及ぼすトレンドや技術開発を常に把握しておく必要があります。技術開発があった場合は、これを取り入れ、あなたの雑誌やサービスをいつ、どのように再編成するかをあなたたち出版チームは検討する必要があるでしょう。

最新情報を得る良い方法はオープンアクセス出版に関するウェブサイトや組織、ブログをフォローすることです。フォローすべき候補は次の通りです(追加情報源にもリンクがあります)。

Open-Access.dk

DEFFがOAネットワークの協力を受けて運用しているデンマークのウェブサイトです。このサイトは、ニュース、他のオープンアクセスニュースソースからのフィード、オープンアクセスに関する一般的な(特にデンマークの)ブログや情報を含んでいます。

OpenAccess.se

スウェーデン国立図書館が提供するオープンアクセスプログラムの公式サイトです。このサイトはスウェーデンの学術コミュニケーションコミュニティや研究者に関連するニュースやイベント、プロジェクトを提供しています。スウェーデン国立図書館が支援するプロジェクトの情報や報告書も公開されています。主にスウェーデン語で書かれていますが、英語のコンテンツもあります。

OpenAccess.no

ノルウェーのオープンアクセスに関する公式Wikiです。このWikiは国際ニュース、様々なテーマ、活動、会議、イベントに加え、NORA(機関アーカイブの開発とオープンアクセス出版を全般的に支援する複数機関による活動)に関する詳細な情報も提供しています。

Finnoa.fi

フィンランドのオープンアクセスに関する公式サイトで、学術情報のオープンアクセスの促進に関心を持つ専門家グループにより運営されています。主にフィンランド語で書かれていますが、英語による要約もあります。

情報プラットフォームopen-access.net

ウェブサイトから引用: 「open-access.netプラットフォームは、オープンアクセス(OA)を主題とする情報に対する要求の高まりに答えることを目的としています。編集チームは多くのソースに散らばっている情報を集め、テーマ別にまとめて、様々な対象グループに提供します…」

このサイトは英語とドイツ語で書かれており、オープンアクセスに関する一般的な情報、様々な学問分野におけるOA、様々なユーザコミュニティ向けの有用な情報、ドイツの様々な協会や機関が提供しているOAに関する具体的な情報、活動や研究など様々な情報を提供しています。

オープンアクセス学術情報資料集 - OASIS

ウェブサイトから引用: 「OASIS(Open Access Scholar Information Sourcebook)はオープンアクセスに関する信頼できる「資料集」を提供することを目的としており、オープンアクセスの概念、原理、利点、アプローチ、実現方法をカバーしています。このサイトは世界中の技術開発やイニシアティブを取り上げ、幅広い情報源や事例研究に対するリンクを提供しています…」

このサイトには「出版社」というタブがあり、オープンアクセス出版の概要や出版社が興味を持つ話題を扱った論文の長大なリストを提供しています。

オープンアクセスディレクトリ - OAD

ウェブサイトから引用: 「オープンアクセスディレクトリ(Open Access Directory: OAD)は、科学や学問のオープンアクセス(OA)に関する事実をまとめた簡単なリストの一覧表で、OAコミュニティ全体で維持されています。OADは、数多くのOA関連のリストを一箇所にまとめることにより、誰もがリストを簡単にみつけて、参考資料として使用できるようにしています…。」

オープンアクセス活動に関する最新情報を得ることに関しては、このWikiには「オープンアクセスの支援組織」や「オープンアクセスに関する論文を頻繁に掲載している逐次刊行物」というリストがあります。

Peter SuberによるSPARCオープンアクセスニュースレター

この無料の電子ニュースレターは、オープンアクセス支援の主導者として知られているPeter Suber教授により書かれています。バックナンバーは「その他の情報源(Other Resources)」という名のリンクからアクセスできます。ニュースレターを購読するには、SPARC-OANews-feed@arl.orgにメールを送るだけです。

オープンアクセスニュース オープンアクセスムーブメントのニュース

Peter Suberと編集補佐のGavin Bakerにより編集されている重要なブログです。これは何年もの間オープンアクセスに関する代表的なニュースソースでした。

OA追跡プロジェクト - OATP

Wikiページから引用: 「OATP(OA Tracking Project)は、OAに関する新たな発展を包括的かつリアルタイムに捕捉するソーシャルタギングプロジェクトです。参加者はConnoteaを使って新たな発展をタグ付けします。作成されるフィードはオープンアクセスであり、自由に読んだり、他のフィードやオンラインサービスにマッシュアップすることができます…」

オープンアクセス学術出版社協会 - OASPA

オープンアクセス学術出版社協会(Open Access Scholarly Publishers Association: OASPA)は、あらゆる種類のオープンアクセス出版社のための会員制組織です。OASPAは出版社間のコミュニケーションを図るためのフォーラムの提供に加えて、オープンアクセス出版のための標準の策定や様々な業者からのサービス手数料の徴収、教育機会の提供、会議の開催などの形で会員の利益を生み出す活動を行っています。OASPAはLinkedInやFacebookにグループを持っており、Twitterにも参加しています。


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