研究 / Research

情報学プリンシプル研究系

根本 香絵
NEMOTO Kae
情報学プリンシプル研究系 教授
学位:Ph. D. in Physics
専門分野:量子情報
研究内容:http://researchmap.jp/nemoto/
研究室WEB

サイエンスライターによる研究紹介

新しいアイデアで、量子コンピューターの可能性を開拓

20 世紀を通じ、ニュートン以来の物理学を塗り替えてきた量子力学。今世紀に入って量子の世界はいっそう解明が進み、これを活用した情報処理や通信などの新しい可能性を拓く「量子情報科学」が大きな発展をみせています。量子コンピューター研究は、この量子情報科学の課題の中でも最も難易度が高く、かつ長期的な課題だと言えるでしょう。

量子コンピューターのある未来

量子コンピューターは、現在全世界にあるすべてのコンピューターを、指に載る1枚のチップに収めるほどの潜在的パワーを持つと考えられています。では、どうしたら量子コンピューターが実現できるのでしょうか──。そこで私は、まず理論物理学の立場から、その理論的なアイデアを提案するという研究を行っています。
とは言うものの、量子コンピューターにはまだわからないことも多く、実現への道は決して平坦ではありません。そもそも量子情報科学とは化学・工学・コンピューターサイエンスなどさまざまな分野を包括する学際的かつ国際的な分野であり、幅広く意見を交換しながら基礎的な研究成果を目指す段階にあると言えるのです。そこで研究者たちが共通の「壁」に遭遇しているとき、1つの理論的なアイデアが示されると、たちまちブレイクスルーとなって実現への道を大きく拓くというドラマティックな展開が起こります。優れた理論的な成果はただちに実験チームへと引き継がれ、さらに量子技術などの応用分野にも
影響を与えていくのです。
そして量子技術は、私たちの暮らしの中にあるさまざまな技術に大変革をもたらすだろうと考えられます。例えば、原理的に絶対破られない「量子暗号」は実用化が始まりつつあり、身近な情報機器として"量子が入ったケータイ"などが登場する可能性も大いにあると言えます。セキュリティーが高いという量子の特質を生かして、銀行間通信からお財布代わりの電子マネー等まで、これまでと比べて飛躍的に安全性の高いさまざまな通信サービスも登場してくるのではないでしょうか。

突破口になる理論研究を目指して

具体的な研究成果として、2005 年、私は英国ヒューレットパッカード研究所との共同研究により、実用規模の光量子コンピューター開発につながる新方式を提案しました。この方法の優位点は、より大規模なシステムにも適用できる拡張性の高さにあり、量子情報処理にブレイクスルーをもたらす理論的成果として世界から大きな反響を得たのでした。
翌2006 年には、この成果を基に「キューバス量子コンピューター」を発表し、ふたたび注目を受けることとなりました。これは、量子通信網を介して量子ビットを相互作用させ、離れた2 量子ビット間での高速演算を実現するものです。より幅広い拡張性を備え、また量子情報処理システムの構築に具体的な指針を示したアイデアであることなどが特徴です。2007 年現在、キューバスの考えを生かした実証研究は、実際に日本・欧米・オセアニアにある大学や研究所で広く展開されています。
私自身もこのような世界の量子研究拠点へ赴いて、実証実験チームに役立つ理論的なバックボーンやヒントを提供したり、ディスカッションを通じて自分の中に新たなアイデアを求める研究を進めています。未来の量子コンピューターは、いったい何でできていて、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか──とてもエキサイティングな毎日です。

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取材・構成 池谷瑠絵

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