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所長あいさつ

 
 

所長あいさつ

  国立情報学研究所(NII)は日本で唯一の情報学の学術総合研究所として、長期的な視点に立つ基礎研究から社会課題の解決を目指した実践的研究を推進しています。同時に、大学共同利用機関として、学術コミュニティー全体の研究・教育活動に必須となる最先端の学術情報基盤や学術コンテンツ、及び、サービスの提供といった事業を展開しています。

研究と事業を両輪として活動に取り組むNIIにとって、今年度は大きな節目の年となりました。平成28年4月から、全国の大学や研究所を結んでいる「学術情報ネットワーク(Science Information Network:SINET)」を「SINET5」へと移行し、100Gbps(ギガビット毎秒)のネットワークとして全国および日米間への展開を開始しました。

日本の学術基盤を支えるネットワークとして平成4年にスタートしたSINETは、平成19年に運用を始めたSINET3で世界に先駆けて通信速度を40Gbpsに引き上げ、平成23年に移行したSINET4では信頼性を高めて、同年の東日本大震災でもネットワークの堅牢性を証明しました。しかし、その間、欧米では学術ネットワークの100Gbps化が広く進み、色褪せていました。それだけに、今回、日本国内の都道府県すべてを100Gbpsでつなぎ、世界にみてパワフルなネットワークを構築出来ましたことは日本の学術コミュニティーにとって極めて意義深いと言えます。

ビッグデータという言葉が多用される今日において、膨大なデータを軽やかにやり取り可能な環境は先端を突き進むサイエンスに不可欠です。大量の実験データを扱い解析には膨大なコンピュータ資源が求められるビッグサイエンスでは、国境や地域を超えてデータをやり取りする国際連携が主流になっています。SINET5移行に向けては、一般社団法人 国立大学協会、一般社団法人 公立大学協会、日本私立大学団体連合会の三者から強いご支持、ご賛同を頂戴し、加えて日本学術会議からもご提言を賜りました。本年度からのSINETの100Gbps化実現は多くの方々からいただいたご支援の賜物であり、心より御礼申し上げます。

SINET5への移行は、大学のクラウド化にも大きく資することになります。クラウド化に伴ってオフサイトへのトラフィックが急増しますが、それを支えるのが100GbpsになったSINET5です。クラウド化による大学の計算機資源の集約は大きなコスト削減に結び付く可能性があるとともに、その削減はオープンサイエンスを加速する流れにも寄与することが期待されています。8Kを利用した医療における教材配信など新しい学術利用が期待されます。
このような新しい学術基盤としてのクラウド化を推進するため、NIIでは導入支援の取り組みを始めました。昨年度立ち上げた「学認クラウド」で大学や研究機関のニーズとクラウドサービスのマッチングをしています。学認クラウドは今後、大学や研究機関とクラウドをつなぐゲートウェイとしたいと考えています。

NIIは平成27年度に新たな研究施設として「クラウド基盤研究開発センター」を設置しました。米国では、クラウド資源をクラウドベンダーから譲り受けるだけではなくクラウドそのものの研究を大学で行うプロジェクトが始まっています。クラウド研究も新たなステージに入ったと言えます。NIIにおいても、一味も二味も違う次世代クラウド研究を推進したいと考えています。また、今年度からは「サイバーセキュリティ研究開発センター」も設けました。学術ネットワークの安全はNIIが守るという強い使命感のもと、大学・研究機関にサイバーセキュリティに関する技術サポートや情報を提供してまいります。将来的にはセキュリティ人材の育成基盤にも取り組んでいきたいと考えております。

SINET5移行を契機に、単なるネットワーク接続というレベルを超え、様々なサービスを実現するにあたり、多様な学術機関と「共考共創」(一緒に考え、皆で創る)の気持ちで一層努力していきます。

NIIでは産学連携の取り組みにも力を入れています。平成28年2月、「金融スマートデータ研究センター」を設置しました。金融という分野は従来、情報系の研究所が積極的に取り組んできた世界ではありませんでしたが、金融に関連するビッグデータを処理、分析して有益な知識である「金融スマートデータ」に転換することに挑戦いたします。複雑な経済・社会現象の解明に取り組むきっかけを得ました。本センターはNIIで初めて、運営・研究経費の民間負担により設置されました。また、日本の社会や産業界に変革をもたらすようなイノベーションを推進する「コグニティブ・イノベーションセンター」も新設しました。ディープラーニングを契機とする人工知能(AI)の新たなステージにおいて、企業とともに多様なソリューションの開発に取り組む所存です。

NIIはSINETのような事業と共に、情報学の基礎研究や社会の発展に貢献できるような社会実装を目指した実践的研究も同時に行う、世界的に見ても稀有な機関です。近年ITは「by IT」ばかりが強調されがちですが、「of IT」とのバランスをとりながら機動的な研究体制を強固なものとしていきたいと考えています。

第5期科学技術基本計画ではITの役割が強く取り上げられております。NIIはITの基礎研究のしっかりと進めるともに、「Society 5.0」に資する社会課題解決型ITに取り組む所存です。

最後に、教育もNIIにとって重要な分野の一つです。NIIは日本において『ITの教育を、ITを駆使して』実現し、より多くの学生にITの基礎を身に着けてもらう方策に取り組みたいと考えています。我が国においても英国と同様に小学生からプログラミング教育を開始することが検討され始めたことを、大変喜ばしく感じます。教育と人生の解明は究極のITのターゲットとも言えましょう。

NIIの研究と事業への取り組みをご高覧頂き、種々ご意見を頂戴いたしたく存じます。引き続きご支援のほどを何卒宜しくお願い申し上げます。

平成28年4月
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立情報学研究所長
喜連川 優